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教養書の“革命児”は読んだら実践したくなる!大人の知識欲をくすぐる
NHK出版『学びのきほん』

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一人の編集がシリーズ全体のつながりを生む

元木:『学びのきほん』シリーズは、何名で編集されているんですか?

白川:編集は私だけです。

元木:え、白川さんおひとりで、この1年で8冊も刊行されているんですか? それは大変ですね、驚きです!

白川:そうですね。でも「教養の入り口は絶対に必要」という思いは強いので、けっして苦ではないですね。

元木:複数で取り組む良さもありますが、白川さんが一人でやっているので、テーマは違っても、シリーズとしてのつながりを深く実感できるのかもしれませんね。方向性もブレずに、企画はスムーズに通ったのですか?

白川:当社の出版物には、“基本”をテーマにした本が多いんです。『きょうの料理』は料理の基本ですし、『趣味の園芸』も園芸の基本。“基本”から教養の扉を開いていくという試みが、理解されやすかったとは思いますね。これは戦略ですが、『100分de名著』の次に読む、2冊目の教養書として手に取っていただけるという読みもありました。

元木:『学びのきほん』シリーズは、書籍ではなく雑誌になっていますが、何か意図があるんですか?

白川:私は大学の4年間ずっと、書店でバイトをしていたんですが、雑誌と書籍では流通の仕方が別になっているんです。雑誌で出せば必ず、NHK出版のテキストコーナーで『100分de名著』の隣に並べられると思ったので、基礎部数は売れると考えました。戦略的な話ばかりで恐縮ですが(笑)。

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元木:書店さんでのバイト経験は、本作りをする人には現場を知ることができるので、良い経験でしたね。だから、その戦略が生まれたのですね(笑)。でも、このメジャーな著者ばかりをよく集められましたね。一体どんなアプローチをしているんですか?

白川:自分が好きな著者さんであることは共通していますね。万年筆で手書きのお手紙を書いて、なぜ依頼するかの想いをしっかり伝え、できれば直接会いに行きます。特別なことをしているわけじゃないです。

元木:万年筆のお手紙は、普通じゃないと思いますよ(笑)。誠実さを感じていただけたんじゃないでしょうか。

白川:シリーズのチカラもありますね。教養のABCではなくて、本当の教養や、生活に根付いた教養の必要性を感じている方々が、このシリーズに共感してくれたことがけっこう大きいと思っています。

元木:ここは苦労した、というエピソードはありますか?

白川:苦労というか、編集の仕方を絡めていうと、一照さんは衝撃でした。依頼する場合、企画の素案を著者にぶつけるのが一般的ですが、一照さんにはお手紙で「『学びのきほん』で書いてください」とだけ伝えて、執筆いただいているんです。本の構成案は作りましたが、あまり気にされない方なので。私はこれを“オーガニック編集”と名づけました(笑)。何が起こるかわからない過程の中で、著者の考えていることに寄り添いながら、シリーズに合った本作りをしていく編集スタイルを学びました。
松村圭一郎さんの『はみだしの人類学 ともに生きる方法』も、オーガニック編集に近いものがありました。取材の一番初めに、松村さんに「一番伝えたいことはなんですか?」と聞いたところ「それはこれから話してみないとわかりません」といわれ、取材をしながら結論へ導くというスタイルになりました。

元木:著者と意思疎通ができていて、信頼があってこそできる編集スタイルですよね。オーガニックという流れで、自然にこの本が生まれた本のように感じます。

白川:オーガニックというと聞こえはいいですが、行き当たりばったりです(笑)。今までになかったものができる可能性が出てくる点は面白いと思いますけどね。

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読書をもっと楽しくする“ブックガイド”付き

元木:本の内容では、関連するブックガイドが付いているのは親切でとても参考になりますね。これも白川さんのアイデアですか?

白川:1冊を読み終わったあと、そのテーマをもう少し深めたいと思ったら、ブックガイドを参考に書店で本を買ってもらいたくて用意しました。自分なりの読書の方法が深まるだけではなく、読書の入り口に立ってもらえます。何を読んでいいかわからないという方がかなり多いので、文庫や新書など値段も安く手に取りやすいものを選んでいます。テーマは私が決めていますが、タイトルはすべて著者の血が通った本を選んでいただいています。

また、書店でもフェアでどういう本を置いていいかわからないという状況が出てきているので、この本のフェアをしていただく時には、このブックガイドを参考にしてもらおうという狙いもあります。

シリーズすべてに付いているブックガイド。各テーマについて深く知りたい時の指針として、さらに読書を楽しむ入り口としても役立ちます。
シリーズすべてに付いているブックガイド。各テーマについて深く知りたい時の指針として、さらに読書を楽しむ入り口としても役立ちます。

元木:この本の価格やスタイルですと、若い読者も増えたんじゃないでしょうか?

白川:2月に渋谷パルコで開催されたイベント「本屋さん、集まる。」に、「100分de名著&学びのきほん」で参加したのですが、買っていただいた方のほとんどが30代、40代の女性でした。例えば「子どもの習い事の待ち時間に読んでいます」という反響もいただいているので、若い世代の女性に読まれている傾向はあるのかもしれません。

若い世代が気軽に手にとれるように、表紙のデザインや色使いにもこだわっています。元木さんは書棚に並べたときの美しさも気に入っているのだとか。
若い世代が気軽に手にとれるように、表紙のデザインや色使いにもこだわっています。元木さんは書棚に並べたときの美しさも気に入っているのだとか。

元木:自分で悩みや苦しみを乗り越えて生きていくヒントを与えてくれますよね。本を読んで、自分が受けた感情を素直に表現しなさいと教わった気がします。白川さんは、素敵なお仕事をされているなぁとあらためて思いました。

白川:人生の中で「さあ行け!」と言われた時、すべて失って何もなくなった時、たとえ小さな灯りでも『学びのきほん』で書いてあった言葉を思い出して、道しるべになってくれたらうれしいですね。

Profile

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編集者 / 白川貴浩

もともと教職志望であったが、大学時代、4年間にわたって書店アルバイトの経験を経て、編集者としての道を選ぶ。2012年、NHK出版に入社。現在『学びのきほん』シリーズの編集を担当している。

ブックセラピスト / 元木 忍

学研ホールディングス、楽天ブックス、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)に在籍し、常に本と向き合ってきたが、2011年3月11日の東日本大震災を契機に「ココロとカラダを整えることが今の自分がやりたいことだ」と一念発起。退社してLIBRERIA(リブレリア)代表となり、企業コンサルティングやブックセラピストとしてのほか、食やマインドに関するアドバイスなども届けている。本の選書は主に、ココロに訊く本や知の基盤になる本がモットー。

 

取材・文=安藤政弘 撮影=真名子