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こんなにズボラでいいの……?米と食材を投入するだけ!
炊飯器ひとつでできる『同時メシ』とは?

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消費者と農家さんの間に立ち、どちらの声も聞ける“日本一の米屋”を目指して

元木:澁谷さんは、たくさん資格をお持ちなので、講習をされたりレシピを開発や本を執筆されたり、お忙しい日々を過ごされていると思うんですが、お米屋さんとしてのお仕事もされているんですよね。

澁谷:週に1~2日は時間を見つけて、都内にもいくつか店舗がある私のお店「米処 結米屋(ゆめや)」に立つようにしています。お店にいると直接お客さまの声が聞けるし、私も田植えや稲刈りのお手伝いにも行くので、どんな環境で育ったお米なのかを直接お伝えすることができるんです。消費者さんと農家さんを橋渡しするのが、私の役目だと思っています。

炊飯器で同時メシが出来上がるのを待ちながら、話は澁谷さんを駆り立てるきっかけとなった、とある出会いに及びます。
炊飯器で同時メシが出来上がるのを待ちながら、話は澁谷さんを駆り立てるきっかけとなった、とある出会いに及びます。

元木:澁谷さんは、農家さんの思いと消費者さんのリクエストを、熱い気持ちで繋げている人なのですね。このお仕事をする前は、どんなお仕事をされてきたのですか?

澁谷:元々は、IT企業でSEとして勤務していたんです。でも、2代目である父が体調を崩したことをきっかけに、米屋を継ぐことにしました。当時は「経営なんて簡単よ!」くらいに思っていたんですけど、お客さまからも農家さんからも認めてもらうまでの道のりは、そう簡単ではなくて(笑)、ガムシャラでしたね。資格も穀物に関連するものはこれ以上ないんじゃないかな? っていうくらい取得したんですが、すべてはやっぱり、お客さまに安心して買えるおいしいお米を届けたいという思いがあったからです。今となっては毎日、穀物漬けですよ!

元木:お父様から事業を受け継がれて、ご苦労があったと思いますが、2017年に発売された『世界でいちばんおいしいお米とごはんの本』には、澁谷さんがご苦労されて学ばれた知識と経験がたっぷりと詰まっていましたね。

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『世界でいちばんおいしいお米とごはんの本』
澁谷梨絵 / ワニブックス
お米のとぎ方、炊き方、保存の仕方から古いお米をおいしくする裏技まで、澁谷さんの知識がたっぷり詰まった一冊。毎日何気なく食べていたお米をもっと好きになりたい方におすすめ。

 

澁谷:ありがとうございます。どんな形でもいいので、お米を食べる機会を増やしたいんです。一度に5キロとか買うからお米は高いって思われがちですが、一食で食べるお米って一杯数十円ですから。

元木:そうですよね。コスパで言ったら、お米が最高ですよね! 本当にお米は、腹持ちもいいし値段も安いし、栄養もちゃんとありますから。もっと注目されるべき穀物なんですよね。

澁谷:実は私、ある農家さんと「私は日本一の米屋になるから」って約束をしたんです。

もう何度も喧嘩したような頑固な農家さんだったんですけど、その人が「日本一の米農家になる」ってずっと言っていて。「じゃあ私は日本一の米屋になる!」って約束しちゃったんです。その農家さんとやりとりしていく中で、ある年のお米が日本一ってくらいおいしかったんですけど、そのご主人がちょうど病気で伏せっていたので、「ここで日本一美味しい」なんて言ったら元気なくなっちゃうと思って「今年も美味しいね〜」なんて伝えたら、「これが俺が作れる最高だ」なんて言うんですよ。そして、その次の春に亡くなってしまって。「日本一の米屋になる」って約束をまだ果たせていないのがずっと心残りだったんです。とにかくお米を食べてもらう機会をいっぱい作って、日本一の米屋になるためにも、私はもっと頑張らないといけないんですよ。

元木:素敵なお話です。その約束を果たさないと、ですね!

澁谷:いくら農家さんが努力しても、食べてくれる人がいなければ始まらないので。食べる人に届けるために、米屋が売る努力をしなければいけないと思っています。同時メシも白米ではないですが、お米を食べることにはつながるじゃないですか。「面倒だなー」って思ってお米から離れてしまうのではなく、こんなに簡単にしかもおいしいごはんが食べられるなら同時メシもありだね! っていう感覚が広がって欲しいなぁと思います。

元木:本当に、その通りですね。同時メシは、おかずを作るのが大変という人にも、ぜひともおすすめしたいですよね。

あ、「シンガポールライス」が出来上がりましたよ!

ふっくらとした鶏肉と、うまみを吸い込んだごはんが出来上がり! インタビュー中も、にんにくとしょうがと鶏肉の脂が混じり合った、なんとも言えないいい香りがあたりに漂っていました。
鶏肉を切って、野菜とともにごはんの上に盛り付け、マヨネーズと豆板醤を混ぜたソースを添えたら完成!

元木:鶏肉はもちろん、旨味を吸って炊き上がったごはんが絶品! ちょっと野菜をそえたら、完璧ですね。

こんなに簡単に、そして時短でおいしいごはんが食べられるなんて、もっと同時メシが広がっていって欲しいですね。最後に、澁谷さんのこれからについて教えてください。

澁谷:先ほどお伝えした「日本一の米屋になる」というのは目標としてあります。またコロナの影響で、厳しい状況におかれている飲食店が増えてきていて、その飲食店に食材を納めている生産者さんも食材が余ってしまっていて厳しい状況だ、という声を聞くようになりました。まだ企画段階なのですが、飲食店さん・生産者さんを応援できるプロジェクトを計画中です。また決まったらお知らせさせてください。

元木:ぜひ! 澁谷さんと一緒にお話ししているだけで、たくさん元気をいただけました。お米パワーですね(笑)。新しい企画が動き出したら、またお話を聞かせてください!

Profile

5ツ星お米マイスター / 澁谷梨絵

5ツ星お米マイスター、株式会社シブヤ代表。日本で唯一、穀物の6大プロフェッショナル資格を持つ精米店店主。全国 200か所以上の田んぼに通い詰め、「米処 結米屋(ゆめや)」で販売している。米・雑穀の栄養を伝えるため、保育園や幼稚園の給食にレシピ提案をする食育や、幅広い世代に向けて講演活動も行っている。テレビやラジオ出演、雑誌などの取材も多数。これまで食べてきた米は300種類以上、米の魅力を伝えた人は1万人以上。雑穀エキスパート/ごはんソムリエ/薬膳インストラクター/雑穀マイスター/発酵食スぺシャリストの資格を持つ。
https://ameblo.jp/rie-shibuya/

ブックセラピスト / 元木 忍

学研ホールディングス、楽天ブックス、カルチュア・コンビニエンス・クラブに在籍し、常に本と向き合ってきたが、2011年3月11日の東日本大震災を契機に「ココロとカラダを整えることが今の自分がやりたいことだ」と一念発起。退社してLIBRERIA(リブレリア)代表となり、企業コンサルティングやブックセラピストとしてのほか、食やマインドに関するアドバイスなども届けている。本の選書は主に、ココロに訊く本や知の基盤になる本がモットー。

取材・文=つるたちかこ 撮影=真名子