その後もオーディションを受け続けること1年ほど。ようやく決まったのは、関西で流れるテレビCMでした。「めちゃくちゃうれしかったです。やっと決まった〜! って」と笑います。
そこから、どんどん仕事がくると思いきや……。増えつつはあっても、ぽつんぽつんと入る程度。そんな流れが変わってきたのが、1年前ぐらい。不思議なことにどんどん仕事が決まっていったそう。
いったい何が変わったの?と聞いてみると……。
「今までは、ちょっと受け身というか……。『こういう仕事がしたい』とか『もっとこうなりたい』って思いながらも、なかなか行動に移すことができなかったんです。でも、年末から今年にかけてやりたいことを事細かくマネージャーさんに伝えたりするようになりました。歳を重ねて、いつまでこの状況でいるんだろう……と思うと、『もうウジウジ思っている暇はない』って思ったのかもしれません」と正直に教えてくれました。
具体的には「どうなりたい」と思ったのでしょう?
「たとえば、女優になりたいとか、舞台がやりたいとか、明確な『これになりたい』っていうのはないんです。でも、とにかく今自分の目の前にある仕事で、たとえば『和装のモデルがやってみたい』とか『あのお店とコラボしてみたい』とちょっとでも思ったら、すべてマネージャーさんに伝えるようになりました。今までは、人がやっているのを見て『ああ、いいなあ』『やってみたいなあ』で終わりになっていたんですが、とにかく口に出すようになったんです。マネージャーさんもいっぱい営業をかけてくれて。今、一緒に頑張っている気がして、すごく充実しています。とにかく今は、手当たり次第、いろんなことをやってみたいですね」
「やりがいのある仕事」とか「夢を描く」と聞くと、明確な目標を持って、そこへ向かって着々と歩いていく……というイメージがあります。でも、誰もが「女優になりたい」「歌手になりたい」といった具体的な絵を描くことができるわけではありません。
「今目の前にあること」だけでいい。そんな「頑張り方」もあるのだと、葉さんのしなやかな姿が教えてくれた気がします。
実は、2年前にモデルの仕事一本に絞ったときにまた、チアリーディングのチームに入ったそうです。今は水曜日と日曜日の夜に練習をしているそう。
「仕事でうまくいかないことがあっても、チアで練習をしていると頭が空っぽになってリフレッシュできますね。モデルの仕事だけだと、周りの人間関係もそれだけ、になっちゃうけれど、チアに行くと下は高校生から、ずっと年上の先輩までがいらして、いろんな意見も聴けるし」
私は、ライターとして食べていくだけで精一杯で、他のことに手を出す心のゆとりがまったくありませんでした。暮らすことも、旅することも、買い物の経験も、人づきあいも、すべてが仕事のため……。「他のことなんてしている暇なんてないし……」とずっと思ってきたのです。
でも、この年齢になって思います。私は、たった1本しか脚がなかったから、常に不安だったんだなあって。もし、仕事とはまったく別の世界を持っていたら、仕事でうまくいかないことがあっても、誰かに何かを言われて傷ついたとしても、「ここでダメなら、他で頑張ればいい」とひと回り大きな目で自分を見られたかも……。
「これしかない」と突き進むことは、最短距離に見えて、もろくて、崩れやすいのかなあと思います。
今年、27歳になる葉さん。
「若い時よりも今の自分の方が好きですね」と語ります。
「今まで、自分が着たい服や、自分ややりたいメークと、お仕事のニーズがちょっとずれていたかも? と感じていました。でも最近、求められるイメージと、ようやく自分がピタッとあってきた気がするんです。無理をしないで、ありのままの自分でいられるというか……。歳を重ねるとごに、その歳相応の美しさで、その時にあったお仕事で、モデルを続けていければいいなって思います」。
今、目の前にあるものに一生懸命向き合っていたら、いつかふっと風にのることができる……。大事なのは、運命を自分の力で変えようと焦るより、ここにあるものを両手で大事に拾い上げることなのかもしれません。
Column / 一田さんの暮らしの一手間
土鍋でご飯を炊くと言うと「え〜、そんな丁寧なことできないし……」と言われます。でも、実は炊飯器よりずっと早く炊けて、しかも簡単!
土鍋の種類にもよりますが、私が持っている廣川温(ひろかわあつ)さん作の鍋なら、お米3合に水3カップ強を強火にかけ、沸騰したら火をとめて、20分ほど蒸らせばできあがり! しかも、ご飯の粒がぴんと立っておいしいこと! 冷めてもおいしいのが、土鍋ご飯の魅力です。
土鍋を持っていなくても、鍋で一度ご飯を炊いてみることをおすすめします。普通の金属製の鍋なら、沸騰したら弱火にして10〜15分。火をとめて15分蒸らせばできあがり。キッチンで場所をとる炊飯器を置かなくてもいいのもいいところです。 鍋で炊いたご飯があれば、納豆と味噌汁だけでもご馳走に。ぜひ試してみてください。
Profile
編集者・ライター / 一田憲子
1964年京都府生まれ、兵庫県育ち。OLを経て編集プロダクションへ転職後、フリーランスとして女性誌、単行本の執筆などで活躍。企画から編集を手がける暮らしの情報誌『暮らしのおへそ』『大人になったら、着たい服』(ともに主婦と生活社刊)は、独自の切り口と温かみのあるインタビューで多くのファンを獲得。日々の気づきからビジネスピープルへのインタビューまで、生きるヒントを届ける自身のサイト「外の音、内の香(そとのね、うちのか)」も主宰。近著に『暮らしを変える 書く力』(KADOKAWA)
『外の音、内の香』https://ichidanoriko.com/
女優・モデル / 宮崎 葉
1994年生まれ、兵庫県出身。ナチュラル、スタイリッシュなイメージを得意とし、CMからグラフィックまで多数の広告に出演。シンプル・カジュアルを突き詰めた着こなしも評価が高く、ファッション媒体やブランドのビジュアルも数多く務めている。モデルの傍ら、チアリーディングにも精を出し、2015年には西日本大会、関西大会において優勝、日本選手権大会では決勝に進出した。
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撮影=真名子