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ヤマト運輸が「クロネコマーク」を刷新!グラフィックデザイナーが解説する、
企業ロゴの話

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2021年3月、ヤマト運輸がロゴマークの刷新を発表しました。同社のロゴマークが変わるのは、なんと64年ぶり。その分インパクトも強く、SNSなどでも大きな話題となりました。

なぜ、たった一つのロゴが、これほど世間をにぎわすのか? その要因を探るべく、「ソフマップ」のロゴデザインなどで知られる、グラフィックデザイナーの佐藤浩二さんにお話を伺いました。

 

海外では「ロゴマーク」は通じない!? 「ロゴ」の定義とは?

「ロゴ」と聞いて、皆さんは何を思い浮かべますか? おそらく「マーク」や「絵柄」などの、抽象的なデザインを頭に浮かべた人が多いのはないでしょうか。

「マークや絵柄もあながち間違いではないのですが、正確に言うと“文字がデザインされているもの”がロゴとなります。

ロゴの語源を辿ると、活版印刷が印刷の主流だった時代にまで遡ります。当時は金属で作られた活字を並べて、文章を印刷していました。その際、社名など頻繁に使われる文字は都度組み直すのが面倒になり、必要な文字だけをひと塊にした合成活字を作ったそうなんです。この合成活字が『文字が連なった状態(ロゴ)の活字(タイプ)』ということになります。そしてその名残で、会社の名称を表すひと塊のデザインを『ロゴタイプ』と呼ぶようになりました。

つまり、『ロゴ』とは文字が入っているもの、文字がデザインされているものを指し、文字を含まないものはロゴとは呼びません。本来は“文字主体でデザインされたもの=ロゴ・ロゴタイプ”“図形や絵柄を象徴的にデザインしたもの=マーク・シンボル”と区別されるのです。加えて、マークとロゴタイプが組み合わされたものも『ロゴ』と呼ばれます。しかし徐々に、『ロゴマーク』という呼び方が日本国内で広がり、和製英語のように一般化していきました」(佐藤浩二さん、以下同)

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他社との差別化だけじゃない! 移り変わる企業ロゴの役割

私たちの周りには、たくさんのロゴで溢れています。ひと口にロゴと言ってもさまざまな種類がありますが、なかでも接点が多いのは「企業ロゴ」です。製品を買う時、サービスを受ける時、広告を見る時、そこには必ず企業ロゴがあります。

「消費者との接点が多いからこそ、企業がロゴに託す役割は非常に大きくなります。ただ、その役割は時代とともに変化しているんです」と佐藤さん。

ここでは、どのようにロゴの役割が変化していったのかを見ていきましょう。

1950年代

「『CI』とはコーポレートアイデンティティの略で、企業理念とそれをビジュアル化したシンボルやロゴ、アプリケーション開発、広告戦略など、すべてに一貫した企業イメージやメッセージを意図的に作り出す戦略です。CIの考え方はアメリカで生まれ、1956年にIBMがInternational Business Machineという社名が長くて読みにくいという理由から、略称をロゴとしてデザインし、展開の仕方もマニュアル化。管理運用によってビジネスを成功させ、注目を集めました」

1970~80年代

「高度経済成長期が終わり、海外進出を視野に入れる企業や、企業としての信頼と競合他社との差別化を考える企業が増えてきたこの時代。これまでは“作れば売れる”時代でしたが、機能性や利便性だけでは売れなくなっていきました。

そこで、アメリカの成功事例を参考に、日本でも大手数社がCIの考え方を取り入れ始めます。すると見事に成功をおさめ、他の企業もこぞってCIを導入するようになりました。長い日本語の社名を片仮名や英文字などに変更したり、有名なデザイナーを起用したり、斬新さとともに企業イメージの刷新をはかる企業が増えました」

2000年代~現在

「企業がCIを導入することが当たり前になると、見た目の差別化を試みたロゴが溢れかえり、デザインを刷新するだけでは目立たなくなってきます。単に見た目の奇抜さだけを追求した企業は、ビジネスまでも下向きになってしまいました。

すると企業は、これまでの視覚的な差別化から、社内の意識改革や理念、社会に対するメッセージ性などを重視した戦略へシフト。それらをロゴに内包できている企業は、長く生き続けていくこととなります。そして、こうした“企業の想いを伝える”というロゴの役割は、今もなお続いています」

CIブームの火付け役となったIBM。
CIブームの火付け役となったIBM。

 

ビジネス成功の鍵は、企業ロゴによる「社員の意識統一」と「消費者の感情の統一化」

では、一体なぜロゴに企業の想いを内包することで、ビジネスの成功に繋がっていくのでしょうか?

「まずは、社員の意識が統一化するという側面があります。自分たちのあるべき姿や目指すべき道を、ロゴという目につきやすい形で示すことで、社員に浸透しやすくなるんです。それはやがて、社員が生み出す製品やサービスにも反映され、消費者のもとへと届いていきます。

もう一つは、消費者の感情を統一化するという側面。消費者は、製品やサービスに対して『あの製品は良かった』『あの接客は素晴らしかった』などと、さまざまな感情を抱きます。そしてその感情は、知らず知らずのうちに企業ロゴに蓄積され、やがてその企業に対する印象へと変わっていきます。前向きな感情は『このロゴがついているから、良いに違いない』という信頼感に。逆に後ろ向きな感情は『このロゴがついているから、やめておこう』という不信感に繋がるのです。

つまり、社員に統一化された企業の想いは、製品やサービスに反映され、消費者の感情となり、最後には信頼という形で企業に帰ってくるということ。だからこそ、ロゴに企業の思いを内包することで、結果的にブランドイメージの構築に繋がったり、長期ビジョンが達成しやすくなったりするのです」

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佐藤さんが手掛けたソフマップの企業ロゴ。同社の製品やサービスはもちろん、街中の広告などにも使われており、多くの人の目に触れている。
佐藤さんが手掛けたソフマップの企業ロゴ。同社の製品やサービスはもちろん、街中の広告などにも使われており、多くの人の目に触れている。

 

ヤマト運輸、刷新成功の秘訣は“ストーリーの共有”
実例とともに振り返る、企業ロゴの変遷

企業ロゴというと、ヤマト運輸のように“何十年も使い続けるもの”というイメージが強いかもしれません。しかし、実は数十年スパンでトレンドが変化してきているのです。ここでは企業ロゴのトレンドを、実例と共に振り返っていきましょう。

1970~80年代

「CIブーム真っ只中。日本でいち早くCIの考え方を取り入れた会社には『マツダ』『セキスイハイム』『イトーヨーカ堂』などが挙げられます。目立つことが最優先だったこの時代は、ビビットで奇抜な企業ロゴがトレンドでした。大文字主体で文字間が詰まっており、力強いものが多かった印象です」

日本でのCI導入で注目されたマツダのロゴ。
日本でのCI導入で注目されたマツダのロゴ。

2000年~2010年頃

「企業の思いがロゴに内包されるようになり、より消費者がメッセージを受け取りやすくなるような、情緒に訴える優しさを感じるデザインが主流となっていきました。具体的には、小文字主体でふっくら丸みを帯びており、どことなく思いやりや優しさが感じられるデザインです」

2004年に刷新されたサントリーのロゴ。
2004年に刷新されたサントリーのロゴ。

2010年頃~現在

「ここ10年は、無駄をそぎ落としたシンプルなデザインが増えてきました。線が細くて頼りなさそうな印象を受けるかもしれませんが、私はこの先、企業ロゴのトレンドとして確立するデザインではないかと感じています。そして、このトレンドをおさえてブラッシュアップされた例こそ、ヤマト運輸の新ロゴマークです。従来のイメージは残しつつも、シンプルでスタイリッシュな印象へと変化しました」

ヤマト運輸のロゴマーク。これが従来のもの。
ヤマト運輸のロゴマーク。これが従来のもの。
そして、こちらが新たに採用されたもの。より洗練された、都会的な形へと変化している。
そして、こちらが新たに採用されたもの。より洗練された、都会的な形へと変化している。

「ただ、同社の刷新が話題となった理由は、トレンドを反映していたという点だけではありません。ロゴが変わると誰もが少なからず違和感を覚えると思うのですが、そこに対するフォローがとても丁寧だったんです。特設サイト内で経緯や変遷が細かく説明されており、刷新に対する納得感を得ることができました。

また、ロゴマークと一緒に発表されたアドバンスマークも同様です。一見『なんだこれ?』とびっくりするような見た目ですが、『新しい取り組みをする際に使用するマーク』との説明を読んで納得。『よりとんがった事業に使うから、これだけインパクトがあるマークなんだな』と理解することができました。

『新しいロゴはこれです』と一方的なメッセージで済ませるのではなく、理解度が増すようストーリーまでをも共有する。それこそが、ヤマト運輸が消費者を置いてけぼりにすることなく、刷新を成功させた大きな要因だと思います」

ヤマト運輸のアドバンスマーク。同社が掲げる「既成概念にとらわれず、果敢に挑戦する姿勢とビジョン」の象徴として新設された。
ヤマト運輸のアドバンスマーク。同社が掲げる「既成概念にとらわれず、果敢に挑戦する姿勢とビジョン」の象徴として新設された。

 

美しいロゴには、“違和感”の排除が必要不可欠

グラフィックデザイナーとして、普段から企業ロゴの制作を行っている佐藤さん。実は企業ロゴには、デザイナーだからこそ気が付ける秘密があるのだとか。ここでは、そんな企業ロゴに隠された秘密について教えてもらいました。

「皆さんが普段、さまざまな場所で目にする企業ロゴ。均一な同じ太さに見えるロゴタイプがあったとして、実は目がそう錯覚しているだけなんです。

例えば、製品パッケージと屋外看板では、微妙に線の太さを変えている企業があります。小さなロゴを手元で見る時と、大きなロゴを遠くから見る時では、視認性(目でデザインを見た時の、認識のしやすさ)が異なるため、ただ拡大・縮小しただけではなく、微細な修正を加えることがあるんですね。

また、ほんのわずかな線の太さや配置の違いは、見た目の美しさにも大きく影響してきます。私がこの秘密に気が付いたのは、ちょうどソフマップのロゴ制作を行っていた時のこと。当時『どうしたら固すぎず、やわらかすぎず、信頼感のあるロゴが作れるのだろう』と悩んでいたんです。NECのロゴがまさにその理想形で、『なぜただの頭文字の羅列がこんなにも美しく見えるのか』と考えていました」

「NECのロゴは、大企業らしい堂々としたたたずまいと、人間味を感じる優しい雰囲気が共存しています。なおかつ、グローバル展開や時代の移り変わりにも対応できる普遍性も持ち合わせており、そう簡単には再現できません」
「NECのロゴは、大企業らしい堂々としたたたずまいと、人間味を感じる優しい雰囲気が共存しています。なおかつ、グローバル展開や時代の移り変わりにも対応できる普遍性も持ち合わせており、そう簡単には再現できません」

「研究を重ねていくうちに、NECをはじめとする美しいロゴには、徹底した錯視調整がなされていると気が付きました。錯視とは、目の錯覚によって、本来の太さや色とは異なった形に見えてしまう現象をいいます。そんな目の違和感を洗い出し、微調整を重ねることで、美しいロゴが生み出せると分かりました。

早速、そのテクニックをソフマップのロゴ制作にも応用。錯視調整を繰り返し、見た目の違和感を完全に取り除いたロゴを作りました」

文字のボリュームが同じに見えるよう、「ソ・マ」は「フ」よりも、幅が広くなっている。
文字のボリュームが同じに見えるよう、「ソ・マ」は「フ」よりも、幅が広くなっている。
錯視調整を経て完成したロゴ。
錯視調整を経て完成したロゴ。

 

ロゴ=2Dの時代はもうおしまい!? 企業ロゴの未来

役割もデザインも、時代と共に変化し続ける企業ロゴ。この先の動向について、佐藤さんは「企業ロゴの新しい概念が生まれるかもしれない」といいます。

「デジタルサイネージなど、企業ロゴが使われるシーンが増えた今、見せ方の幅も大きく広がっていると感じます。例えば、近年注目を浴び始めているのが“ダイナミックアイデンティティ”。従来ロゴの形や色を変えて使用することはNGだったところを、ある一定の法則さえ守れば色や形を変えても良いとするロゴデザインの考え方です。こういった動的なロゴが、一般的に求められるようになる時代はそう遠くないとふんでいます。私たちデザイナーも、対応できる範囲を広げる必要があると感じますね」

 

普段何気なく見ている企業ロゴが、これまでどういった変遷をたどってきたのか? そしてこれからどう変化していくのか? 各企業の在り方と共に観察してみると、企業ロゴの見え方が少し変わってくるかもしれません。この機会に、ヤマト運輸はもちろん、各企業のロゴをじっくりと観察してみてはいかがでしょうか。

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Profile

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グラフィックデザイナー / 佐藤 浩二

宝塚造形芸術大学(現:宝塚大学)ビジュアルデザインコース卒業後、広告代理店にて約6年間デザイン・ディレクション業務を経験。2001年に独立し、後に株式会社コージィデザインとして法人化。企業のCI、VI、商品ブランドのロゴなど、ブランディングに関わるデザインを専門とする。主な実績は「ソフマップ」VI、「滋賀医科大学」VI、クボタ「KSAS」ブランドロゴ、「オリコン」VI、「オリコン顧客満足度」エンブレムロゴ、「大阪産業局」VIなど。

https://cosydesign.com/

 

取材・文=横塚瑞貴(Playce) 協力=マツダ、サントリーホールディングス、ヤマトホールディングス