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海外からスタージュニアを招聘できなくても。「U-12ジュニアサッカーワールドチャレンジ2021」を
コロナ禍でも開催し続ける意味

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1月3日から6日にかけ、「U-12ジュニアサッカーワールドチャレンジ2021」が開催されました。大阪を舞台とした今大会は、新型コロナウイルス感染拡大の影響によって、その大会の目玉というべき、バルセロナをはじめとする海外強豪チームの招聘は叶わず、2大会連続で参加は国内チームのみ。ところがそこで繰り広げられた光景は、いくつもの意義と時代性を感じさせるものでした。

 

昨年以上に届いた「サッカーがしたい」という声

「U-12ジュニアサッカーワールドチャレンジ」は、初開催の2013年大会から、FCバルセロナのジュニアチームを筆頭にACミラン、リパプール、バイエルン・ミュンヘン、アーセナルなど世界のトップクラスのチームを招くことで注目を集めてきた大会です。第1回大会では、現日本代表の久保建英(たけふさ)選手がバルセロナチームの一員として参加し優勝を成し遂げました。以来、国内チームは「打倒・バルセロナ」を目標に掲げ、大会に臨んできました。

世界トップクラスの子どもたちと対戦することで、サッカーレベルの底上げを図りたい――。大会目的を実現するために、U-12ジュニアサッカーワールドチャレンジ2021実行委員長の浜田満さんは最後まで海外チームの招聘に動いたと言います。

「“元の形に戻したい”という思いでオーガナイズしてきました。本来は2021年の夏の開催を予定していましたが、海外チームの招聘を最後まで模索していたので、年明けまでスケジュールがずれ込んでしまったのです」

新型コロナウイルスの感染拡大によって、国内外でサッカーをする環境が制限される動きがあります。ジュニア世代においても、いくつかの公式大会が中止を余儀なくされています。ところが、大会責任者である浜田さんには、はなから「中止」という選択肢がありませんでした。

「昨年以上に、今年度は出場したチームの選手やコーチから『ぜひ開催してほしい』という声をたくさんいただきました。ああ、みんなサッカーがやりたいんだなって。コロナに負けたくないんだって。去年開催して感じたことでもありますが、コロナ禍だからこそ、リアルな声や強い思いを感じることができました。実際、大会にエントリーしていただいたチームは過去最大の数に達しています」

大会名である“ワールドチャレンジ“こそ今年も実現できなかったものの、選手やコーチたちの「絶対にサッカーを止めない」という強い思いが後押しとなり、こうして無事に大会開催にいたったのです。

【関連記事】久保建英選手も輩出!「U-12ジュニアサッカーワールドチャレンジ2020」が
コロナ禍に実現した理由

 

大人顔負け、“個性”のぶつかり合い! 大会は「センアーノ神戸ジュニア」の初優勝で幕を閉じた

センアーノ神戸ジュニアは決勝戦で自慢の攻撃が爆発! FCトリプレッタ渋谷ジュニアの強烈なハイプレスをかわして見事初優勝を飾りました。
センアーノ神戸ジュニアは決勝戦で自慢の攻撃が爆発! FCトリプレッタ渋谷ジュニアの強烈なハイプレスをかわして見事初優勝を飾りました。

こうして1月3日から始まった「U-12ジュニアサッカーワールドチャレンジ2021」。最終学年の選手にとっては、ジュニア世代の最後の大会になります。32にのぼった参加チームの大会にかける思いは強く、初日から白熱した熱戦を繰り広げました。

グループステージと準々決勝までは「OFA万博フットボールセンター」、最終日となる1月6日の準決勝以降は「パナソニックスタジアム吹田」で行われました。パナソニックスタジアム吹田はガンバ大阪のホームスタジアムとして知られていますが、サッカーの本場・イングランドやドイツなどのスタジアムと同じく、国内で数少ないサッカー専用スタジアムです。ピッチからスタンドとの距離はわずか7m! Jリーグでプレーするプロのサッカー選手たちも絶賛しています。

ガンバ大阪のホームスタジアムでもある。パナソニックスタジアム吹田。
ガンバ大阪のホームスタジアムでもある。パナソニックスタジアム吹田。

そんな世界レベルのスタジアムでプレーできる権利を得たのは、「YF NARATESORO」「センアーノ神戸ジュニア」「ディアブロッサ高田FC U-12 」「FCトリプレッタ渋谷ジュニア」。準決勝に勝ち残ったこの4チームはいずれも街クラブですが、優勝候補のガンバ大阪ジュニア、湘南ベルマーレアカデミー選抜などのJリーグ下部組織チームを倒してきたことになります。その強さもさることながら、特筆すべきはそれぞれに、オリジナリティに溢れたチームスタイルを持っていること。

決勝に勝ち上がったセンアーノ神戸ジュニアとFCトリプレッタ渋谷ジュニアの戦いは、まさに「個性」と「個性」のぶつかり合いとなりました。元日本代表の香川真司選手の出身チームであるセンアーノ神戸ジュニアは、香川選手さながらの卓越したテクニックを持った選手が多くそろい、「ボールを大事する」サッカーを展開します。いわゆるポゼッションサッカーが持ち味のセンアーノ神戸ジュニアに対して、FCトリプレッタ渋谷ジュニアは、前線から積極的にディフェンスをして相手にプレッシャーをかけていく、リアクションサッカーで対抗していきました。

そんな大人顔負けの駆け引きが随所に展開されたのち、相反するスタイルとの戦いは、センアーノ神戸ジュニアが6ゴールを奪って勝利。“ワーチャレ”初優勝を飾りました。結果はセンアーノ神戸ジュニアの勝利に終わりましたが、ジュニア世代にして、チームとして確固たるスタイルを身につけ、選手たちがそれぞれの個性を存分に発揮していたことに驚きを隠せません。そんな彼らの姿を見て、あらためて日本サッカーのレベルの高さをうかがい知ることができました。

後半8分、センアーノ神戸ジュニアの久保祐貴選手(左から2人目)がカウンターから得意のドリブルを開始。左サイドを突破してこの試合自身2点目となるゴールをゲット!
後半8分、センアーノ神戸ジュニアの久保祐貴選手(左から2人目)がカウンターから得意のドリブルを開始。左サイドを突破してこの試合自身2点目となるゴールをゲット!
大会通じてセンアーノ神戸ジュニアの攻撃を牽引した片山祥汰選手。準決勝で1ゴール、決勝戦で2ゴールを奪うなど、まさにエースに相応しい活躍ぶりでした。
大会通じてセンアーノ神戸ジュニアの攻撃を牽引した片山祥汰選手。準決勝で1ゴール、決勝戦で2ゴールを奪うなど、まさにエースに相応しい活躍ぶりでした。
ラスト1プレーの場面では、GK谷口剛丸選手がセットプレーのキッカー役に。FCトリプレッタ渋谷ジュニアの選手たちは最後まで勝利への執念を見せました。
ラスト1プレーの場面では、GK谷口剛丸選手がセットプレーのキッカー役に。FCトリプレッタ渋谷ジュニアの選手たちは最後まで勝利への執念を見せました。

決勝でもっとも個性を発揮した選手の一人が、センアーノ神戸ジュニアの片山祥汰選手です。チームでもっとも小柄な選手ですが、憧れだというディエゴ・マラドーナのように、小さな体を活かした軽やかなステップとドリブルで相手マークをかわしては2ゴールを決め、大会MVPに選ばれています。2022年春には、かつて香川真司選手がプレーしたセレッソ大阪のJr.ユース入団が決定しています。“第二の香川真司選手”となることを願ってやみません。

大会MVPを獲得したセンアーノ神戸ジュニアの片山祥汰選手。大会を通じて攻撃陣をリードし、決勝では2ゴールを奪って初優勝に貢献!
大会MVPを獲得したセンアーノ神戸ジュニアの片山祥汰選手。大会を通じて攻撃陣をリードし、決勝では2ゴールを奪って初優勝に貢献!

 

ただひとりの女子選手が躍動! 奈良県勢対決はYF NARATESOROに軍配が

長い髪をなびかせながら巧みなステップで敵をかわすYF NARATESOROの大田ありす選手。「イニエスタのような選手になりたい」と、次なるステージでの活躍を誓っていました。
長い髪をなびかせながら巧みなステップで敵をかわすYF NARATESOROの大田ありす選手。「イニエスタのような選手になりたい」と、次なるステージでの活躍を誓っていました。

決勝戦に先がけて行われたYF NARATESOROとディアブロッサ高田FC U-12の3位決定戦では、一人異彩を放つプレーヤーがピッチ上で躍動していました。奈良県勢対決となったこの試合を制したYF NARATESOROの司令塔としてプレーした、大田ありす選手です。チーム唯一の女子プレーヤーで、男子プレーヤー相手にも臆する様子は皆無。むしろ、そのテクニックとパスセンスは、この試合でもっとも輝いていました。そのプレーススタイルは、かつてなでしこジャパンを女子ワールドカップ優勝に導いた、日本女子サッカー界のレジェンド・澤穂希さんを彷彿とさせます。

大田ありす選手をチームの中心に起用している理由について、YF NARATESOROの杉野航監督は、「指導者としてフラットに判断しての結果です。男子だから女子だからで判断しません。一人の選手としてシンプル、そのポジションが彼女に合っているからです」と教えてくれました。

ジェンダーによって活躍の場を奪うことは、何の価値ももたらしません。それはスポーツの世界も同様。「チームのなかで、彼女が一番ボランチの適正に優れているから起用している」と当たり前のように話してくれた杉野監督のフラットな姿勢に感銘を受けながら、その期待にしっかり応えて堂々とプレーする大田ありす選手の姿が、実に頼もしく感じました。世の中は多様化が進んでいます。時代を象徴する、まさに社会の縮図のようなチームといえるでしょう。また、男女混合でのプレーを見るチャンスがあるのもU-12の醍醐味といえます。

試合後、大田ありす選手は「全少(全日本U-12サッカー選手権)で目標に掲げていたベスト4入りを、この大会で成し遂げることができてよかった」と、笑顔を見せていました。ちなみに、卒業後は、澤穂希さんが所属していたINAC神戸のJr.ユースに入団予定です。

大田ありす選手。

敗れたディアブロッサ高田FC U-12の乾良祐監督は「自由に攻撃をするために、技術と発想力を持ってボールを大事にしたサッカーをしよう」と、つねに選手たちを指導しているそう。エースの永添功樹選手をはじめ、自由な発想力とダイナミックな攻撃で、最後までYF NARATESOROを苦しめました。エースの永添功樹選手がセレッソ大阪Jr.ユースに進む予定です。

選手の個性はイコール指導力。ベスト4に進んだチームが個性に溢れていたのは、言い換えれば、指導者の努力の賜物でもあります。ワーチャレを機に、これからも未来の日本代表がどんどん生まれることでしょう。

ディアブロッサ高田FC U-12の反撃に、ゴールキーパーが飛び出して必死に食い止める。3位決定戦は最後まで勝利がどちらに転ぶわからない好ゲームとなりました。
ディアブロッサ高田FC U-12の反撃に、ゴールキーパーが飛び出して必死に食い止める。3位決定戦は最後まで勝利がどちらに転ぶわからない好ゲームとなりました。
優勝はセンアーノ神戸ジュニア(兵庫)、準優勝はFCトリプレッタ渋谷ジュニア(東京)、3位はYF NARATESORO(奈良)、4位はディアブロッサ高田FC U-12 YF NARATESORO(奈良)。いずれも個性あふれるスタイルを持った好チームでした。
優勝はセンアーノ神戸ジュニア(兵庫)、準優勝はFCトリプレッタ渋谷ジュニア(東京)、3位はYF NARATESORO(奈良)、4位はディアブロッサ高田FC U-12 YF NARATESORO(奈良)。いずれも個性あふれるスタイルを持った好チームでした。

 

普段戦えないチームと対戦することで成長していく

「フィジカル vs テクニック」という構図となった決勝戦は、両チームの選手たちにとって大きな経験となったことでしょう。
「フィジカル vs テクニック」という構図となった決勝戦は、両チームの選手たちにとって大きな経験となったことでしょう。

センアーノ神戸ジュニアの初優勝で幕を閉じたU-12ジュニアサッカーワールドチャレンジ2021。大会実行委員長の浜田満さんはコロナ禍での大会を無事に終えることができて、まずは安堵の表情を浮かべながら、「今大会を通して選手たちの成長を実感しました」と言います。

「普段戦うことのできないチームと“本気”の試合ができたのは、選手たちにとってよかったのではないでしょうか。大会のレベルは正直、海外チームが参加しているときより低いかもしれませんが、それによって大会の価値が決して失われるわけではありません」

浜田さんの言葉どおり、実際、普段戦うことのできないチームと試合をして“新たな刺激があった”とコーチや選手たちは口をそろえます。

「ベスト4には関西のチームが多く勝ち進みました。彼らはとてもテクニックがあるチームです。普段、我々のようにフィジカルを前面に出して戦うチームと対戦したことはあまりないでしょう。準優勝に終わりましたが、選手たちにとっても大きな経験になりました」(FCトリプレッタ渋谷ジュニア代表・米原隆幸さん)

また、「とてもいい経験をさせてもらいました」と決勝戦を振り返ったのは、優勝したセンアーノ神戸ジュニアU-12の大木宏之監督です。大木監督はFCトリプレッタ渋谷ジュニアの準決勝の試合を見て、チームの戦術を変更したそうです。「無理にボールを回さないで、人と人との間でボールをもらって敵のプレッシャーをかわせたのが勝利につながりました」と勝因を語っています。

大会MVPを獲得したセンアーノ神戸ジュニアの片山祥汰選手は「大会を通して、いろんな個性のあるチームと戦えてチームとしても成長できましたし、個人的にも成長できました」と話し、YF NARATESOROの大田ありす選手は「得点も取れるボランチになりたいと思っていて、コーチからもずっと得点のことは言われていました。ようやく今大会でゴールを決めることができて、選手として成長できたのがよかったです」と笑顔で語ってくれました。

準優勝のFCトリプレッタ渋谷ジュニア。テクニックを重視する関西勢に対し、フィジカルを前面に押し出すサッカーで対抗しました。
準優勝のFCトリプレッタ渋谷ジュニア。テクニックを重視する関西勢に対し、フィジカルを前面に押し出すサッカーで対抗しました。

 

みんなが楽しみにしている限り、ワーチャレは続く

メインスポンサーの大和ハウスグループのもと、2013年からスタートした「U-12ジュニアサッカーワールドチャレンジ」もすでに9回目。プロとして活躍する選手たちも輩出する大会に育っています。
メインスポンサーの大和ハウスグループのもと、2013年からスタートした「U-12ジュニアサッカーワールドチャレンジ」もすでに9回目。プロとして活躍する選手たちも輩出する大会に育っています。

U-12ジュニアサッカーワールドチャレンジは、普段戦うことのできないチームと“本気”の試合ができる舞台です。サッカー少年・少女にとってとても貴重な体験ができます。今大会はコロナ禍の影響によって2年連続で国内チームのみの大会となりました。その後の変異株による“第6波”襲来の状況を考えると、もう少し時期が遅れていたら開催できなかったかもしれません。大会実行委員長の浜田満さんは、「これからもワールドチャレンジは続けます」と言い切ります。

「子どもたちが成長できる場所をなくしたくない。コロナで大変な時期が続いていますが、みんな楽しみにしています。だから、これからも絶対にサッカーを止めません。次こそは海外のチームを呼んで、華やかな大会にしたいと思います!」

次回の2022年大会では、再び世界の子どもたちと“本気”の試合ができることを願うばかりです。

「ワールドチャレンジは今後も続きます。今年の夏は海外のチームを呼んで華やかな大会にしていきたい」と抱負を語る大会実行委員長の浜田満さん。
「ワールドチャレンジは今後も続きます。今年の夏は海外のチームを呼んで華やかな大会にしていきたい」と抱負を語る大会実行委員長の浜田満さん。

 

取材・文=小須田泰二 撮影=真名子、@Living編集部