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「自分がいるところから、愛しいものを探したい」絵本作家・おーなり由子さんが歳時記に描く
“気まま”な366日

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日本人であることを「気に入っている」

元木:好きな季節ってあるんですか?

おーなり:どの季節も好きなのですが、特に季節の変わり目が好きです。ちょっと涼しくなったり、風や匂いが変わっていくときの新鮮な気持ち、なんとも言えない気持ちになります。

元木:けっして華やかではないけれど、日本人なりの豊かな生き方とか、当たり前にあるものの尊さっていうのを、私はこの本からすごく学んだ気がしています。おーなりさんはそもそも、日本人であることとか、日本の文化といったものを普段から意識しているタイプですか?

おーなり:特別に意識しているわけではないですが、これは、日本独特の感性なんだな、と思うことはよくあります。育ったのが、大阪の郊外で、田んぼがあったり、森があったり。北摂というエリアなのですが、子どもの頃、住んでいた家が、神社のある山のふもとにあって、鳥居をくぐってから家に帰るような面白い場所でした。目に見えないちいさい神さまが、そばにいるような感覚とか、お祭りのニュースや太鼓のひびきにわくわくしてしまうのは、そのあたりが影響しているかもしれません。

元木:じゃあ、地方のお祭りなんかは良く出かけるのですか?

おーなり:有名なお祭りにわざわざ行くことは少なくて、出かけるのは身近なところ。近くの神社の「茅の輪くぐり」とか「朝顔市」とか……楽しいです。こんなお祭りしてたんだ! と発見するのも楽しいし、自分の住んでいる場所が好きになります。

元木:でも、日本人であるというルーツをとても大切にされている感じがします。

おーなり:日本人に生まれたことは、気に入っています。よかったなあ、と思う。四季があるって、ほんとに、幸せやなあ、と思います。田んぼのお祭りが神さまへの祈りや感謝につながってたり、「いただきます」といって、ごはんを食べることとか。でも、見えるものと見えないものが重なっている感覚って、日本人は生活の中に染みこんでいて、言葉にしなくても、普通に持っている気がします。

エッセイにはおーなりさんの記憶や体験に基づいた個人的なことも書かれていますが、自分の思い出や体験とシンクロしてグッときてしまうことも……。添えてある優しい絵柄にも心が癒されます。この絵のモデルになったのは、実際にキッチンで愛用している北欧デザインの赤いポット。
エッセイにはおーなりさんの記憶や体験に基づいた個人的なことも書かれていますが、自分の思い出や体験とシンクロしてグッときてしまうことも……。添えてある優しい絵柄にも心が癒されます。この絵のモデルになったのは、実際にキッチンで愛用している北欧デザインの赤いポット。
こちらもキッチンに。ひとつひとつ表情が違う味わい深いフォルムのガラス瓶。小物や雑貨のひとつひとつが、大切にチョイスされていることが伝わってきます。
こちらもキッチンに。ひとつひとつ表情が違う味わい深いフォルムのガラス瓶。小物や雑貨のひとつひとつが、大切にチョイスされていることが伝わってきます。

日々を幸せに生きるコツは、「できない」を受け入れること

元木:おーなりさんはそもそも漫画家としてデビューされた経歴をお持ちですよね。

おーなり:はい。高校生の時に『りぼん』でデビューしました。メジャーな作品の横で、童話のような短編を描いていました。雑誌の中では、ちょっと浮いてましたが、ありがたいことに、それをずっと読んでくださっている方々がいて。

元木:こういった「絵と文」を描くようになったきっかけは?

おーなり:最初は、漫画を読んだ大和書房の編集の方が「エッセイを書いてみませんか」と、声をかけてくださって。私の文章を「味があっていいね」と面白がってくれたので、書くのが楽しくなりました。それから絵本などの仕事につながっていったんです。

元木:漫画の形にこだわりはなかったのですか?

おーなり:絵を描くのが好きなので、絵本はずっと描いてみたかったんです。いろんな本を作りますが、漫画でページの作り方を学んだので、自分では、形が変わってもそれがベースになっているな、思っています。

元木:おーなりさんの絵って、線がちょっとゆるかったり、丸もきれいな形ではなくいびつだったり、そういう「キチッとしていない感じ」が、すごく自然で素敵だと思っています。自分が好きなことをしながら、日常の中にある豊かさを味わって生きているおーなりさんの生き方に憧れを感じるのですが、そんな風に日々を生きていくためのコツって何かありますか?

おーなり:コツとは言えないかもしれませんが、無理できない性分なんです。ただ、できないからしないだけですが(笑)。暮らすことも、描くことも大事だから、心のどこかにぽかんとした場所があるようにしておきたい、と思っています。

元木:「できないことはしない」という線引きがしっかりできるからこそ、目の前にある季節の移ろいや、日常の中の豊かさ、楽しさに意識を留めることができるのかもしれませんね。

おーなり:自分がいるところから、愛しいものを探したいです。現実には、悲しい出来事も多いから、ちょっとしたことに、幸福を感じることが、わたしにとっては大切なんだと思います。

Profile

絵本作家・漫画家 / おーなり由子

1965年大阪生まれ。絵本作家、漫画家。夫は絵本作家のはたこうしろう氏。1982年に少女漫画雑誌で漫画家としてデビューし、その後は絵本作家としても活躍。近著として「こどもスケッチ」(白泉社)、「あかちゃんがわらうから」(ブロンズ新社)、「ことばのかたち」(講談社)などがある。ペンネームの「おーなり由子」は、漫画雑誌に投稿していたとき何となく付けた名前を編集者に気に入られ、そのまま使っているそう。2022年夏に偕成社より、ワニと女の子の童話絵本を出版予定。
http://www10.plala.or.jp/Blanco/

ブックセラピスト / 元木 忍

学研ホールディングス、楽天ブックス、カルチュア・コンビニエンス・クラブに在籍し、常に本と向き合ってきたが、2011年3月11日の東日本大震災を契機に「ココロとカラダを整えることが今の自分がやりたいことだ」と一念発起。退社してLIBRERIA(リブレリア)代表となり、企業コンサルティングやブックセラピストとしてのほか、食やマインドに関するアドバイスなども届けている。本の選書は主に、ココロに訊く本や知の基盤になる本がモットー。

文=小堀真子 撮影=真名子