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享保元年の創業から、変化しつづける“老舗ベンチャー”日本の暮らしの豆知識を伝える、
中川政七商店のものづくり

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この一年、家族と過ごす時間の大切さを実感する機会が多くなりました。慌ただしく過ぎていく日々のなかで一歩立ち止まり、一日一日を大切に過ごしたい……そんな暮らしを豊かにするコツや知恵にも注目されるようになりました。

全国で「中川政七商店」や「日本市」「遊 中川」など約60店舗を展開する、中川政七商店が編集・著者として出版した『中川政七商店が伝えたい、日本の暮らしの豆知識』には、暮らしを楽しむヒントがいろいろ。「読んでいるだけでも勉強になる」と愛読するブックセラピスト、元木忍さんが、日本工芸の楽しさとこれからのものづくりについて、同社に話を聞きました。

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『中川政七商店が伝えたい、日本の暮らしの豆知識』(PHP研究所)

創業三百年以上を誇る『中川政七商店』の暮らしを楽しむ“知恵”と、美しく機能的な道具の数々が濃縮された一冊。「日本の工芸を元気にする!」を企業ビジョンに掲げる同社らしく、ものづくりしている人、その道具を使う人のどちらもが元気になるアイテムが、1月~12月まで季節ごとに紹介されている。

 

日本の工芸は「守る」より、「使う」ことで広がる

元木忍さん(以下、元木):全国にたくさんの店舗を展開されている「中川政七商店」ですが、まずはその歴史から教えていただけますか?

木原芽生さん(以下、木原):享保元年(1716年)に、「奈良晒(ならさらし)」の商いを始めたところまで遡ります。江戸、明治、大正と卸業を中心に発展し、昭和60年(1985年)にオープンした「遊 中川」から麻小物の小売をスタートさせました。2000年を過ぎた頃から直営店の出店が加速し、会社名である「中川政七商店」をブランド名として店舗展開し始めたのは2010年のことです。現在では、本社、直営店やECサイト運営に関わる人を含めると500名以上のスタッフが働いています。

2頭の鹿が「七」の文字を囲む中川政七商店のロゴ。クリエイティブディレクターの水野学氏がデザインしたこのロゴは、2008年に敢行したリブランディングから採用されています。
2頭の鹿が「七」の文字を囲む中川政七商店のロゴ。クリエイティブディレクターの水野学氏がデザインしたこのロゴは、2008年に敢行したリブランディングから採用されています。

元木:老舗ですね。ここで働いている皆さんは、この300年の歴史をどのように捉えているのでしょうか?

木原:300年と聞くとお堅い老舗なイメージがあるかもしれませんが、とても変化に前向きな会社で、時代に合わせて変わっていく考え方を大切にしていると感じます。

羽田えりなさん(以下、羽田):中川政七商店 奈良本店(旧 遊中川 奈良本店)には、1925年のパリ万博に出展した“麻のハンカチーフ”が展示されているのですが、その展示を見た時には「これだけの歴史を重ねて、今に繋がっているのか」という実感を得られました。この会社で働き始めて12年ほどになりますが、常に新鮮で、古いものを扱っている老舗という感覚はほとんどありません。周りからも「老舗ベンチャー」なんて言われています(笑)

元木:老舗の看板を守るとか、歴史を守るというよりも、スクラップ&ビルドしながら300年という歴史を紡いできた会社なんですね。会社のモットーやビジョンについても教えていただけますか?

「暮らすように働く」をコンセプトに、町屋のようなデザインで設計された本社の外観。カラフルな色味も素敵で、奈良の街に溶け込むように建てられています。
「暮らすように働く」をコンセプトに、町屋のようなデザインで設計された本社の外観。カラフルな色味も素敵で、奈良の街に溶け込むように建てられています。

木原:私たちは「日本の工芸を元気にする!」をビジョンに掲げています。このビジョンがあることで、どの取り組みに対しても「これは日本の工芸を元気にできるかな?」とジャッジできるように感じます。工芸と聞くとガラスケースの中に入った展示品や、鍵をかけて慎重に守られているイメージを抱く方も多いかもしれませんが、私たちは「日常生活の中で使われる」ことで、工芸を残していきたいと考えています。

入社6年目の広報担当・木原芽生さん。店舗スタッフや生産管理担当を経て、現在は広報として活躍中。実家に60年ものの臼があるのを発見し、お正月に親戚が集まり「餅つき」をしたことで、行事の楽しさや大切さをあらためて実感したそう。

元木:最近では、ものづくりに対しても日本全体で関心が高くなっているように感じますが、実際に商品を企画する中で意識されていることはありますか?

羽田:私は商品企画・デザイナーとして、加工先から卸値の交渉、デザインまでのすべてを担当しています。年々、世の中の商品に対して格好良さや機能だけではなく、そこに込められた思いや製造背景、ストーリーにまで着目してくださる方が増えてきているように感じますね。企画する際には、そんな背景も含めて“長く愛されること”を意識しながら、質にこだわり、経年変化も楽しんでいただける商品づくりを心がけています。

実際に自分が企画し、デザインした商品が店頭に並び、その商品を手にとってくれたお客様がいると、後ろから拝みたくなっちゃいます(笑)。私たちは職人さんたちと直接つながりがあるので、「この前の商品がとても人気ですよー!」とか「次はこんな商品をお願いできますか?」と、ダイレクトに商品のお話をお伝えできるのも、働いていて楽しく感じる部分です。

商品企画・デザイナーの羽田えりなさん。新卒からデザイナーとして入社し、お子さんが生まれたことで新しい視点を商品企画に取り入れられるようになったそう。昨年リリースされた親子で楽しむ歳時記体験キット「季節のしつらい便」にも、彼女のアイデアが詰まっています。
商品企画・デザイナーの羽田えりなさん。新卒からデザイナーとして入社し、お子さんが生まれたことで新しい視点を商品企画に取り入れられるようになったそう。昨年リリースされた親子で楽しむ歳時記体験キット「季節のしつらい便」にも、彼女のアイデアが詰まっています。

 

全国800以上の職人さんたちと二人三脚でものづくりに取り組む

元木:とてもやりがいのあるお仕事ですよね。どれくらいの職人さんと一緒にものづくりされているのでしょうか?

羽田:お付き合いしている職人さんの数で言うと、全国に800以上いらっしゃいます。

元木:すごく多いですね! すべて、ゼロから開拓されたのですか?

羽田:発掘するのは商品開発担当の仕事なので、自分たちからアプローチをかけていきます。商材によってはご紹介いただくこともありますし、本やホームページを見て惚れ込んでご連絡させていただくこともあります。中にはホームページがない! メールアドレスがない! となかなか連絡を取るのが難しい工房もあるので、お手紙を送ってお返事を待つ……なんてこともありますよ。

元木:けっこうアナログな方法ですね。最近ではテレビなどでも若い職人さんが取り上げられ、ものづくり業界が若返っているようにも思うのですが、羽田さんから見て近年の職人さんに変化を感じる部分はありますか?

本に何か所も付箋をして取材していた、ブックセラピストの元木忍さん。この1年で大きく変化した暮らし方の中でも「変わらない部分」がこの本には詰まっていると語ります。
本に何か所も付箋をして取材していた、ブックセラピストの元木忍さん。この1年で大きく変化した暮らし方の中でも「変わらない部分」がこの本には詰まっていると語ります。

羽田:若い人がものすごく増えているという感覚は、そこまでないかもしれませんね。たしかに「息子が継ぎました」とお知らせいただく方がいる一方で、「自分の代でたたみます」というお知らせも、残念ながらあります。ですが、一緒にお仕事させていただくなかで、職人のみなさんそれぞれの環境で、熱意をもってお仕事されていることは伝わってきます。

新規でお取引させていただく職人さんには、弊社の歴史や取り組み、志についてもお話しさせていただき、関係性を深めていきながら、お付き合いさせてもらっています。

元木:私が職人さんだったら「待ってました!」って言いたくなるくらいうれしいかも(笑)。ちなみに『中川政七商店が伝えたい、日本の暮らしの豆知識』の中では3つの工房を訪れていますが、作っている現場を知ることで商品への愛着も深まりますよね。

木原:そうですね。ものづくりの背景を知っていただくことで、何かしらの“気づき”は得られると思っています。『中川政七商店が伝えたい、日本の暮らしの豆知識』は、季節ごとの道具や工芸品を紹介するだけの本ではなく、ものづくりの歴史や背景、豆知識など私たちが持っている思いも一緒に伝えたいと企画、出版させていただいた一冊です。「○月には、絶対にこの行事をしてください」と指南する本ではないので、読んでいただいた中で、「面白そうだな〜」とか「作ってみたいな〜」と、気になったものからお試しいただければうれしいです。

元木:私が一番作ってみたいと思ったのは、「ソックモンキー」です! クリスマスに関わることだけど、今すぐ作りたいくらい(笑)

世界恐慌下のアメリカで生まれた「ソックモンキー」は、孫にクリスマスプレゼントを買えないおばあさんが、炭鉱で働く夫の古い靴下を使って作ったことが始まりなんだとか。『中川政七商店が伝えたい、日本の暮らしの豆知識』では、「ソックモンキー協会」主宰の武井健次さんが作り方を紹介しています。
世界恐慌下のアメリカで生まれた「ソックモンキー」は、孫にクリスマスプレゼントを買えないおばあさんが、炭鉱で働く夫の古い靴下を使って作ったことが始まりなんだとか。『中川政七商店が伝えたい、日本の暮らしの豆知識』では、「ソックモンキー協会」主宰の武井健次さんが作り方を紹介しています。

木原:ありがとうございます(笑)。ここで紹介しているしましまの靴下は、弊社の靴下ブランド「2&9」のものを使用しています。靴下一足からこの「ソックモンキー」が作れるので、おうちにある履き古した靴下を使って作るのもおすすめですよ。

元木:早速「2&9」の靴下で作りたいと思います! あとお正月や節句など季節のイベントについての知識だけでなく、「包丁の研ぎ方」や「ハンカチの活用方法」など、暮らしのアイデアが詰まっていて、普段の生活に役立つ“豆知識”が一緒に掲載されているのは、ちょっぴり得した気分になれました。「そういえば!」とか「なるほど!」と思えるところがたくさんありましたから。

『中川政七商店が伝えたい、日本の暮らしの豆知識』には、知っているようで知らなかった暮らしの知恵が満載。機能性の高い雑貨や工芸品を紹介するだけでなく、それらを実際に活用する方法も丁寧に解説されています。
『中川政七商店が伝えたい、日本の暮らしの豆知識』には、知っているようで知らなかった暮らしの知恵が満載。機能性の高い雑貨や工芸品を紹介するだけでなく、それらを実際に活用する方法も丁寧に解説されています。

木原:忘れていたことを思い出したり、新たな知識を増やすことで、暮らしを楽しむ余裕や機会が増えたら、なんだか心まで豊かになれる気がしますよね。日本に昔からある風習の歴史や、ものづくりの背景を知ってもらいながら、実際に工芸品を「使って」いただけるきっかけになれば、私たちもうれしいです。

 

好きなものを好きなだけ、好きなように楽しむ暮らしを

元木:昨年になりますが、親子で楽しむ歳時記体験キット「季節のしつらい便」が発売されましたよね。これまでに7つのアイテムが販売されていますが、こちらを制作した経緯を教えてください。

羽田:昨年からこれまでに、お月見・クリスマス・お正月・節分・桃の節句・端午の節句・七夕の、7つの商品を展開してきました。これらの年中行事について子どもから「どうしてこの行事をするの?」と由来を聞かれても、なんとなくでしか答えられなかった経験がありまして(笑)。親子で一緒に楽しく学ぶ体験を通じて、年中行事の由来や意味を知ることができるキットがあればいいなと思い、企画しました。

中川政七商店「季節のしつらい便 七夕」(3850円・税込)は、「つくる」「しつらう」「つながる」体験を通じて、自然と歳時記や文化を学ぶことができるキットになっています。

元木:たしかに、七夕の由来を聞かれても、子どもにも理解できるように説明するって難しいかもしれませんね。こちらに「七夕」のしつらい便がありますが、どのような内容か教えていただけますか?

羽田:箱を開けていただくと、笹の絵柄を染めたタペストリーと、さまざまな色と形の七夕飾りを作れる和紙、行事の意味や飾るものの解説をするしおりが入っています。七夕ってなんでもお願い事を書いてもいいと思われているかもしれないのですが、実はもともと、技芸の上達を願うことが慣わしなんですよ。

元木:知りませんでした! 「きれいな文字を書けるようになりたい」とか上達の願いを込める行事だったんですね。

羽田:意外と知らない部分ですよね。七夕で使う笹をご家庭で準備するのって大変だと思うのですが、この「季節のしつらい便」は、タペストリーの笹の葉部分に12か所、飾りや短冊をつけたこよりが結べるループをつけています。毎年繰り返し使っていただけますし、短冊ごと取っておけば、「去年はこんな願いを書いたね」と振り返ることもできるので、毎年の行事としてご家族みんなで楽しんでいただけると思います。

色とりどりの短冊がかわいくて、ついつい欲張ってたくさんの願い事を書いてしまいそう。タペストリーは小さくたためるので、使わない時はコンパクトにしまっておけるのもうれしいですね。
色とりどりの短冊がかわいくて、ついつい欲張ってたくさんの願い事を書いてしまいそう。タペストリーは小さくたためるので、使わない時はコンパクトにしまっておけるのもうれしいですね。
江戸時代から親しまれている切り紙の作り方や、立体的な七夕飾りの「でんぐりシート」もついています。
江戸時代から親しまれている切り紙の作り方や、立体的な七夕飾りの「でんぐりシート」もついています。

元木:知れば知るほど素敵なキットですね。親子はもちろんですが、会社の行事などでもコミュニケーションのきっかけになりそうですね。

羽田:うれしいです! 年中行事って、義務的にやることではないと思うんですよね。用意するのが大変だったり、片付けるのが面倒だったり、行事をやるコトが目的になって気持ちが窮屈になってしまっては、楽しくない、残念な思い出になってしまうかもしれません。大切なのは、昔と同じ方法でやることではなく、行事の本来の意味を理解しながら、今の暮らしに合った形で無理なく楽しく続けていくことなのではないかなと思います。

元木:本当にその通りですね。最後になりますが、『中川政七商店が伝えたい、日本の暮らしの豆知識』では紹介されていない、おふたりがおすすめする中川政七商店の商品をひとつずつ教えていただけますか?

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木原:わー、難しいですね(笑)。これからの時期のおすすめで言うと、私も愛用しているのですが「もんぺパンツ」を紹介したいですね。これは、その名の通り農作業の時などに履かれていた「もんぺ」のデザインをもとに作られたパンツなのですが、足首の部分がゴムでキュッと締まっているので、雨の時期でも裾が濡れなくて快適です。あと裏地にガーゼ素材を使っているので、夏でも吸水性が良く涼しくて、カジュアルな服装から少しおしゃれなお出かけ着とも相性抜群です。

元木:自転車乗る人もズボンの裾が引っ掛からなくて良さそうですよね。羽田さんはいかがですか?

羽田:「季節のしつらい便」もおすすめしたいのですが、自分が心の底から本当に欲しい! と思う形で商品化されたもので言うと、「二重軍手の鍋つかみ」です。私、夜中にシフォンケーキをよく焼くんですよ(笑)。この商品が出る前の話なのですが、いつものようにシフォンケーキを作っていたら、私の家には片手の鍋つかみしかなかったので、うまくひっくり返すことができずに、せっかく焼いたシフォンケーキを流し台にドバーッと……。

元木:わかります! 鍋つかみって片手分しかないのがほとんどですし、もう片方をタオルとかでやろうとすると上手にできないですよね。

羽田:そうなんですよ。これは両手で手袋のように使えるものが必要だ! とその日からずっと思っていまして(笑)。二重軍手の鍋つかみの企画担当は私ではなく別の人だったのですが、この商品の企画会議で「片手でもいいんじゃない?」という意見が出た際には、「絶対、両手セットがいいです!」と思わずユーザー目線で、担当者以上に猛プッシュしてしまいました(笑)。結果的に、両手の商品として販売されるようになり、うれしかったですね。

元木:熱い思いが伝わってきます(笑)。『中川政七商店が伝えたい、日本の暮らしの豆知識』に掲載されている商品はもちろん、おふたりに紹介していただいた商品も注目ですね。本日はどうもありがとうございました!

Profile

中川政七商店 ブランドマネジメント室・広報 / 木原 芽生(左)
中川政七商店 商品三課・デザイナー / 羽田えりな(中)

1716 年(享保元年)に創業し、高級麻織物「奈良晒(ならさらし)」を代々扱ってきた奈良の老舗。時代の変化とともに麻生地を中心とした雑貨の企画製造・販売を始め、「日本の工芸を元気にする!」というビジョンを掲げ、工芸業界初のSPA(製造小売り)業態を確立。「中川政七商店」「遊 中川」「日本市」などのブランドで、全国に60の直営店を展開するほか、業界特化型の経営コンサルティング・教育事業など多岐に渡り拡大。2016年からは産業革命と産業観光をキーワードに、産地単位での地域振興にも取り組む。

中川政七商店 https://nakagawa-masashichi.jp/

ブックセラピスト / 元木 忍

学研ホールディングス、楽天ブックス、カルチュア・コンビニエンス・クラブに在籍し、常に本と向き合ってきたが、2011年3月11日の東日本大震災を契機に「ココロとカラダを整えることが今の自分がやりたいことだ」と一念発起。退社してLIBRERIA(リブレリア)代表となり、企業コンサルティングやブックセラピストとしてのほか、食やマインドに関するアドバイスなども届けている。本の選書は主に、ココロに訊く本や知の基盤になる本がモットー。

 

文=つるたちかこ 撮影=増田えみ