すっかり日が短くなり、まだ早い時間なのに外を見ると真っ暗で驚くことも。もう少しで昼の時間が一年でもっとも短くなる「冬至(とうじ)」がやってきます。
冬至といえば「ゆず湯(柚子湯)に浸かって、かぼちゃを食べる日」。でもそもそもなぜゆず湯に浸かり、かぼちゃを食べるのでしょうか? さらにかぼちゃをおいしく調理するコツとは? 和ごはん研究家の麻生怜菜さんに教えていただきました。
冬至とはどんな日?
冬至とは、一年のうちで太陽が出ている時間がもっとも短く、夜が長い日のこと。立春や夏至、秋分などと同様に、太陽の動きをもとに1年を24等分してつくられた二十四節気のひとつです。
「もともとは古代中国で『太陽が生まれ変わる日』とされてきた文化が遣唐使とともに日本にやってきて根付いたもの。昔は真っ暗な時間は黄泉の世界とつながっているという感覚があったので、一番夜が長いというのは一番悪い日。そしてこの日を境にどんどん良くなっていくということから、別名『一陽来復(いちようらいふく)』とも呼ばれています。その境である日に邪気払いをしたり、良い方向に向かうことをしたりしようというのが、冬至の風習です」(和ごはん研究家 麻生怜菜さん、以下同)
ちなみに、冬至とは昼がもっとも短い日であり、日の出がもっとも遅いのは1月上旬(例えば2022年度の東京では1月2日から13日の6時51分)、日の入りがもっとも早いのは(同 11月29日から12月13日の16時28分)で、地域によって異なります。
冬至の日は毎年変わる!
2023年は12月22日金曜日
「冬至は必ずしも毎年同じ日ではなく、地球と太陽の位置関係から決定されます。12月20日から23日の間であるとされていますが、2022年の冬至は12月22日。この日から春分(3月21日)までが冬とされています」
また、クリスマスと冬至には、意外にも深いつながりがあるのだそう。
「北欧ではキリスト教が伝わる前の時代から、『ユール』と呼ばれる冬至のお祭りを行っていました。もっとも夜が長く、太陽が再び力を取り戻す日として、神々へお供えなどをして祝ったそう。北欧の国々にはその頃の風習の名残があって、クリスマスツリーやブッシュドノエルなどはユールの祝祭に由来します」
冬至に行うべき風習とは?
1.「ゆず湯」で無病息災を願う
冬至といえばゆず湯。古くから「この日にゆず湯に浸かると一年間風邪をひかない」という言い伝えがあります。この風習はなぜ始まったのでしょうか?
「ゆずは寿命が長い木。それにあやかって、ゆず湯で長寿や無病息災を願ったといわれています。また昔の人は、水で自分のけがれを払うという儀式を事あるごとに行っていました。運を呼び込む前に邪気払いをするという意味で湯につかる。その湯にゆずを入れることで、邪気払いと無病息災という二つの願いが込められているのでしょう」
丸ごとか、輪切りか。ゆず湯の楽しみ方
ゆず湯といって思い浮かべるのは、丸ごとのゆずが湯船にいくつもプカプカと浮かんでいる様子。色も鮮やかで風情を感じます。自宅でお風呂に入れるときは、どのようにするといいのでしょうか?
「後処理がもっとも楽なのは、丸ごと入れる方法。ただし、そのままだとあまり香りが出ないので、爪楊枝で何か所も穴を開けたり、包丁で切り込みを入れるのがおすすめ。ゆずを選ぶときは、ハリがあって押したときに実が締まっているものにすると香りも良いですよ。一人暮らしなどで、いくつもゆずを買うのはちょっと……という方は、ゆず1個を輪切りにして使いましょう。ただ、湯の中で果肉や種が出てきてボロボロになってしまうので、ネットやお茶パックなどに入れるとお掃除が楽です」
冷凍でストックすれば簡単。
余ったゆずを普段の料理に取り入れるには
せっかく購入したゆずは、風呂に入れるだけでなく料理でも使いたいもの。
「我が家ではゆずを買ったらまずは搾って、お醤油や少しの出汁を入れて自家製ポン酢をつくります。皮は全部むいてわたの部分をそいだら、それを小分けにして、ラップに包んで冷凍庫へ。ゆず皮の冷凍ストックがあると、使う時に刻んでサラダの上にかけたり、炊き込みご飯の上に散らしたりと重宝します」
2.「かぼちゃ」を食べる
冬至が近づくとスーパーの目立つ位置にかぼちゃが置かれます。かぼちゃを食べる日というイメージは定着していますが、ではなぜ、かぼちゃを食べるのでしょうか?
「昔の人の知恵でしょうね。夏に収穫して冬まで備蓄できる食べ物は少なかった。その中でかぼちゃは長期保存できて栄養価も高い。冬を乗り切るための食べ物として重宝されていたんだと思います」
βカロテンが多く含まれていて、カリウムも豊富なかぼちゃ。鉄分や食物繊維も多いので、とくに女性にとっては今の時期に食べるのにもぴったりの野菜だそう。
かぼちゃのほかにも「ん」がつく食べ物で運気アップ!
「名前に『ん』がつくものを食べて運気を盛る『運盛り』という考え方があります。かぼちゃはもともと南京(なんきん)と呼ばれていたので、『ん』がつきます。『ん』が二つついてたくさんの運気を呼び込むことができるとされているのが、南京、れんこん、にんじん、銀杏(ぎんなん)、金柑(きんかん)、寒天(かんてん)、うどん。これらは『冬至の七種(とうじのななくさ)』と呼ばれています。このあたりの食材をかぼちゃに追加で食べるのもおすすめですよ」
冬至に作りたい、かぼちゃの「いとこ煮」
冬至にかぼちゃを食べるなら、邪気払いによく使われる小豆と一緒に煮る「いとこ煮」がおすすめ。小豆で邪気を払い、かぼちゃで運を上げる、冬至に作りたい料理の筆頭です。かぼちゃと小豆でなぜ「いとこ煮」というのかというと、これには諸説あるそう。
「小豆は煮るのに1時間ほどかかります。小豆が煮えたところに追ってかぼちゃを入れるとおいしくなるため、“追々”煮るからそれを“甥と甥”にかけたという説。それから、小豆とかぼちゃを同時ではなく、めいめいに煮るから“姪々”とかけたという節もあります」
かぼちゃの煮物をおいしく仕上げるひと手間とは?
「かぼちゃは一口大に切りますが、このとき包丁で角を浅く削る『面取り(めんとり)』をするのがおすすめ。これをすることで角がなくなり、まんべんなく火が通ります。また、かぼちゃ同士がぶつかった際に煮崩れするのを防ぐので、きれいに仕上がるという効果も」
いとこ煮は、かぼちゃが煮えたら別でゆでておいた小豆と醤油を加えて煮るというシンプルな料理。美味しく仕上げるには煮あがったあとが重要だそう。
「煮汁がほとんどなくなったときに火を止めてすぐに食べるのではなく、少し時間を置くことを『鍋止め(なべどめ)』といいます。これをすると味がしみて、ぐっと深まりますよ。それから、火をとめる直前にみりんとお醤油を入れると照りが出て、香りも残ります。下味とは別に、最後に追加でパッと入れて火を止めるのがポイントです」
慌ただしい時期だからこそ、ちょっと立ち止まって
年の瀬も押し迫り、何かとせわしない時期。だからこそ、冬至の日くらいはちょっと立ち止まり、ゆず湯にゆっくり浸かったり、かぼちゃを食べたりして季節に目を向けたいですね。
「今はスーパーがあるので、年中いろいろな食材が手に入ります。でも、その時期ならではの旬のものを食べて四季の移り変わりを感じるというのは、大切なこと。季節の行事とそれに関連した旬の食材は何かという知識は、身につけておいて損はありません」
あまり難しく考えず、できる範囲で気軽に取り入れてほしい、と麻生さん。
「今日は冬至だからゆずの香りの入浴剤を入れてみよう、かぼちゃのサラダを買ってみよう、くらいでもいいんです。ふと思い出して、そのとき自分のできることをちょっとやってみるだけで、暮らしが豊かになります。慌ただしく過ぎていく毎日だからこそ、少し立ち止まって季節のめぐりを感じてみてください」
Profile
和ごはん研究家 / 麻生怜菜
全国を転々とした幼少時代を過ごし、旅行好きの両親の影響もあり47都道府県すべての地域食材、郷土料理を食べて成長する。結婚後、夫の実家がお寺であったことをきっかけに、お寺の行事食に関わり、伝統的な和食(特に精進料理)に興味を持つ。日本食文化史に精通し、日本の伝統食、特に精進料理の考え方や調理法、食材を若い世代や子どもたちに継承していくことを決意。伝統的な調理法や食材を現代のトレンドと融合した食文化の発信する場として、2011年より「あそれい精進料理教室」主宰。生徒数はのべ2600人。今まで考案したレシピ数は5000を超える。食品のランキングや比較も得意とする。著書に『寺嫁ごはん 心と体がホッとする“ゆる精進料理”』(幻冬舎)、『おからパウダーでスッキリ腸活レシピ』(主婦の友社)などがある。
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取材・文=長谷川真弓 編集協力=Neem Tree