CULTURE 人・本・カルチャー

シェア

沖縄でいよいよ開幕!バスケットボールW杯2023を
初心者が楽しむには?

TAG

【9月3日時点更新情報】
日本代表「AKATSUKI JAPAN」は1次ラウンドをフィンランドから金星を挙げて1勝2敗。W杯優勝へつながる2次ラウンドには進めなかったものの、順位決定戦でベネズエラに劇的な逆転勝利を飾ったのち、9月2日のカーボベルデ戦を勝ったことでアジア最高位の19位に。2024年開催のパリ五輪への出場権を48年ぶりに自力で獲得という、素晴らしい結果でW杯を終えています。

数あるスポーツの中でも圧倒的な人気を誇るバスケットボール。世界では競技人口が約4億5000万人にのぼり(FIBA調べ)、実はサッカーを大きく上回ります。日本でも映画が大ヒットとなった『スラムダンク』など人気コンテンツの影響も相まって、プレーしない人からの注目度も高まる中、8月25日から「FIBAバスケットボールワールドカップ2023」が日本で開催。今回のW杯の見どころや日本代表の注目選手、海外の一押しチームなどを知っておけば、さらに観戦が楽しくなるはず。そこで、元バスケットボールプレイヤーであり解説者としても活躍する佐々木クリスさんに取材し、バスケ初心者が気になる疑問に答えていただきました。

フランスとの強化試合中のスナップ。左が佐々木クリスさん。

Q1.もうすぐ開催されるバスケW杯はどういう大会ですか? サッカーW杯のように最高峰?

A.バスケW杯はオリンピックの前哨戦にあたる重要な大会です。

正式名称を「FIBA バスケットボールワールドカップ2023」といいます。FIBAとはバスケットボール国際連盟のことで、FIBAが行うワールドカップは、オリンピックへの出場切符をかけた重要な大会に位置付けられています。

日本が今大会で一番の目標に掲げているのも、2024年にパリで開催されるオリンピックの出場権を勝ち取ることです。それは、オーストラリアやニュージーランドを除いたアジアの国の中で、最高順位を獲得すること。そうなれば、このW杯の時点でオリンピックの出場権が確約されるわけです。また、サッカーと違ってバスケットボールの場合は、オリンピック出場への年齢制限を設けていないということもあり、国別ではオリンピックがトップの大会といえるでしょう。

ただし、オリンピックには12チームしか出場できない一方で、W杯は32カ国が出場できるので、より多彩な国々のプレーを存分に観戦できるという魅力もあります。

なお、プロリーグでは、アメリカのNBAチャンピオンが、世界ナンバーワンのトロフィーです。

Q2.優勝までの道のりについて、仕組みを教えてください。

A.優勝までには、2つのグループラウンドとトーナメントを勝ち上がっていく必要があります。

まずは、グループフェーズ1stラウンド。くじ引きで決められたグループごとに総当たり戦をします。AからHまで4チーム×8グループあり、例えば日本はEグループなので、E1〜4対F1〜4で3試合を行います。結果、各グループで成績の高い2チームが、グループフェーズ2ndラウンドに進めます。

グループフェーズ2nd ラウンドでは、グループA・Bの上位2チームはグループIへ、グループC・Dの上位2チームはグループJへ……というように進み、4つのグループ内で、第1ラウンドで対戦しなかったもうひとつのグループの2チームと戦います。つまり日本なら、グループKで、グループFの上位2チームと戦うのです。その結果で勝ち点が決まったら、各グループの上位2チームがトーナメントへ進み、8チームまで絞られることになるわけです。

次はいよいよファイナルフェーズ。ここからは、トーナメント方式です。一発勝負で、勝ったチームが次に進めるというシンプルな内容。

そして、最後には順位決定戦が行われます。ヨーロッパ、アメリカから上位2チーム、さらにアフリカ、アジア、オセアニアから上位1チームがオリンピックに進めるルールなので、最終順位をつけることがとても重要です。ですから、グループフェーズ2ndフェーズへ進めなかったチームも、例えば準準決勝で負けたチームでも、17~32位までの順位を決めるためにもう2回、試合をすることになります。

Q3.日本が属するグループは?

A.“死の組”といわれ熾烈を極めるグループEです。

グループフェーズ1stラウンドの構造を示した図。日本はグループE。

今回日本が選ばれたEグループは、いずれも世界ランキングが日本より上位のドイツ、フィンランド、オーストラリアが入る“死の組”といわれる熾烈を極めるグループです。現時点ではオリンピックでもW杯でも、アジアのチームがアメリカやヨーロッパに勝つことができていない状況ですが、もし勝てれば、2019年のラグビーのW杯で南アフリカに勝利したことに匹敵する偉業だと思います。

Q4.今大会が日本(沖縄)、フィリピン、インドネシアの3カ国で開催されるのはなぜですか?

A.アジア圏でバスケ熱を盛り上げるためだと思います。

2019年の前大会は、中国・北京で開催されたので、2大会連続のアジア圏での開催となりました。このことからも、FIBAがアジアに力を入れているのがわかると思います。「アジアでのバスケ熱を盛り上げるため」の選定とも言えるかもしれません。

フィリピンはバスケットが国技の一つで、国民の60%が「バスケットボールに興味がある」と回答するぐらいの人気。しかも、SNSをアクティブに使用する人が世界でも類を見ないぐらい多いので、盛り上げやすいという側面はあるかもしれません。この“SNSの活用”は、スポーツの盛り上がりに欠かせないものになっています。インドネシアは国民の半数にあたる1億人以上が30歳以下と若い。SNSに日常的に触れている年齢層ですから、バスケットの話題が世界に拡散されやすいでしょう。

一方、日本に関しては、Bリーグ(日本のプロバスケットボールリーグ)が2015年に誕生するまでは、国内でバスケットが盛り上がっているとはまだまだ言えない状況でした。それが2019年には、日本が自力でW杯に出場したことで盛り上がりをみせています。FIBAとしてもさらに追い風を送るべく、2021年の東京オリンピックには開催国枠として出場を認めたという経緯があります。今回の開催地に日本が選ばれたのも「バスケ熱をさらに加速させていこう」という気勢があるはずです。

Q5.日本代表チームの注目選手を教えてください。

A.渡邊雄太選手に注目!

今大会に八村塁選手は出場しませんが、そのほかにもたくさんの逸材がいます。渡邊選手は、日本のハートアンドソウルだと思いますし、NBAの平均キャリアは4〜5年と言われている中で5年の経験をもつ素晴らしい選手です。けっして注目されている選手ではなかったので、ドラフトされずに常に崖っぷちながら、サマーリーグやトレーニングキャンプといった“トライアウト”を生き残って、足かけ5年もプレーしています。この精神力も含めて、日本代表には欠かせない選手のひとりと言えるでしょう。

アメリカ、ヨーロッパ勢が強いバスケ界において、日本代表のW杯での戦いは、ある意味“下剋上”だし、チャレンジ。渡邊選手を筆頭に、いかに団結して戦っていけるかが重要だと思います。

Q6.今大会の“台風の目”になりそうな海外チームは?

A.やはり、アメリカチーム!

世界のバスケットの人気がこれだけ広まったのも、1992年にマイケルジョーダンを筆頭に結成された「ドリームチーム」と呼ばれるNBAのオールスター軍団が、そのままバルセロナオリンピックに乗り込んだのがきっかけ。そこからバスケットボール界の発展と国際化が急速に進んだという背景があるので、アメリカチームが今大会でどういった戦いをするのかには要注目です。

また、アメリカでもオリンピックが最上位にあるので、選手の中でも1軍、2軍クラスはW杯には出場しない場合も多いです。一方で、将来はNBAの顔になるだろうけど、今はまだ3軍、4軍クラスにいる20代前半ぐらいの選手たちがチームの主体になります。このW杯をきっかけに、NBAのスターダムをさらにかけのぼっていく選手を見つける楽しさも味わえます。

とはいえ、NBAを目指し、あるいはこれからも活躍しようとしている選手としては、W杯に出場することで、選手生命にかかわる大きな怪我を負う可能性も心配でしょう。そんな中で、今回のW杯を辞退する選手がいることは事実としてあります。

Q7.注目の海外チームの選手を教えてください。

A.アンソニー・エドワーズ選手、ルカ・ドンチッチ選手、ジョシュ・ギディー選手。

スロベニア代表のルカ・ドンチッチ選手。

まずはアメリカのアンソニー・エドワーズ選手。普段はNBAのミネソタ・ティンバーウルブズでプレイしている選手で、まだ21歳なのに、もう2023年2月20日に行われたオールスターゲームに出場しています。オールスターゲームとは、NBAで毎年2月に開催されるエキシビションゲームのこと。出場選手はファン投票とヘッドコーチの推薦で決まりますから、これに選ばれるのは実力がある証拠です。

とはいえ、いまはまだNBAの顔として定着するかどうかの分岐点にあるので、W杯を通して一気に花開けば、ますますNBAにおけるスター同士の熾烈な戦いが加速して見物になるのではと期待しています。何と言ってもアンソニー・エドワーズ選手は、運動能力が圧倒的だしダンクシュートも格好良いしで、見ごたえ抜群。

ちなみに、2021年2月20日に行われたミネソタ・ティンバーウルブズ戦の第3クォーター残り10秒で、渡邊選手が彼にダンクを決められて、両者のプレーに世界の注目が集まったことも記憶に鮮明です。ゲーム後「あんなに跳躍力のある選手なんかそもそも止められるはずがないのになんでブロックしにいったんだ」と質問されたのに対して、「100回のうち99回ダンクを決められても1回ブロックできるのなら、僕は必ずブロックに飛びます」と答えた渡邊選手がかっこよかった! スーパープレイを食らったのにもかかわらず、渡邊選手の株が上がった瞬間でした。

続いて、スロベニアのルカ・ドンチッチ選手。この選手は、グループフェーズで沖縄に来ます。とにかくプレーがカッコイイ。もうすでにNBAの中でもMVPクラスの選手です。スロベニアがルカ・ドンチッチに率いられて優勝という可能性も現実味がある話です。

優勝候補の一角、オーストラリアのジョシュ・ギディー選手も注目。まだ20歳ながら、パスさばきからして天才的なセンスを持っています。この選手もルカ・ドンチッチ選手同様に来日しますよ。難しいルールを知らなくても、プレーが芸術的なので、ただ見ているだけでもバスケットボールのアーティスティックな部分を楽しめると思います。

例えばこれらの選手のプレーを集中的にチェックして、いかにして彼らが一瞬のうちに想像力を働かせたプレーをするのか……みたいな部分を見るだけでも十分面白いはず。

Q8.ズバリ、クリスさんが予想する今大会の優勝チームは?

A.アメリカとフランスチームに注目しています。

辞退する選手も増えていく中で、優勝候補を予想するのはなかなか難しいですね……。フランス、アメリカ、スロベニア、スペイン、オーストラリア、このあたりが優勝候補に挙げられていますが、カナダにもNBAプレーヤーがすごくたくさんいますし……。早い段階でフランスとスロベニアが当たる可能性もあって、そうすると前述したルカ・ドンチッチ選手とオリンピックで銀メダルだったフランスがぶつかる、なんてことも。この大会では番狂わせも演じられるのかなと思いますので、優勝候補を一つに絞るのは難しいです!

Q9.超初心者でもこれだけは知っておきたいルールやプレーがあれば教えてください。

A.「ペイントエリア」と「ショットクロック」を知っておきましょう。

試合の流れをガラッと変えるプレーというのはたくさんあるものの、バスケットボールをほとんど観戦したことがない方が技術的なことを見分けるのは難しいかもしれません。

まずは、あまり力を入れすぎずに、せっかく見るなら楽しんで見てください。観戦に没頭すれば、会場が盛り上がる様子でも今のプレーはすごかったんだ! と感じられるのではないでしょうか。バスケットボールの試合はとにかくスピーディーなので、ジェットコースターに乗った気分で楽しむのがコツ。

「全プレーがハイライト」なんです。ディフェンスで頑張るのもハイライトだし、ルーズボールといって誰のボールかわからなくなっているボールを取りに行くのもハイライトです。両チームが80点以上取るようなスポーツなので、あとから全体を俯瞰してみたときに、実は試合を決めたのはあのルーズボールだった……みたいなこともあり得ます。それを踏まえた上で、知っておくとグッと楽しくなる2つのポイントを紹介しましょう。

・ペイントエリア

バスケットボールコートの中のゴール近くの小さい長方形に囲まれたエリアのこと。ここにボールを運ぶまでのプロセスが結構重要なのです。

このエリアにボールを入れればオフェンスの仕事の半分以上が達成されたといっても過言ではないほど。シュートが入っても入らなくても、たとえばここにボールが入ると、相手のディフェンスもゴール周辺に集まってくるかもしれない。するとスリーポイント地点のスペースが空いてシュートを打てるかもしれない……というような感じでドミノ倒しのようにゲームが劇的に進んでいくのです。

どちらのチームが主にゲームを支配しているかが分からないなら、ペイントエリアにどのぐらいボールを入れているのかを判断材料にしてもいいでしょう。

・ショットクロック

次に、「ショットクロック」について説明します。バスケットボールには、ボールを持っているチームは24秒に1回シュートを放って、リングにボールをぶつけなきゃいけないというルールがあります。

計40分の試合を4回に分けて戦うため、1クォーター10分をカウントダウンする時計(ゲームクロック)と、24秒をカウントダウンする時計、つまりショットクロックがあり、試合中はずっと動いているのです。

この“24秒”というのは、選手によってはプレッシャーに感じることも。時間が少なくなって焦ると、目に見えて選手のボール運びに影響を及ぼします。なぜシュートを打ったのかわからないプレーでも、ショットクロックの概念を知っておくと、理解できる行動も多いです。

まだ8秒しか経ってないのにもうシュートを打つんだ、なるほど不意打ちか!とか、このチームは大エースがいるから24秒ギリギリでも焦っていないのか、などと分析できるようになれば、観戦がもっと面白いものになります。

Q10.過去のW杯で、クリスさんの記憶に残るシーンはありますか?

A.日本で開催された2006年大会での試合です

まさに今日まで20年間NBAの顔であり続けている若かりし頃のレブロン・ジェームズ選手のようなスターたちがアメリカ代表にそろっていて、そんな選手たちが来日するということで注目が集まっていました。ところが、ふたを開けてみたら、アメリカ代表チームはギリシャ代表チームに敗れてしまったんです。負け方も“コテンパン”という表現がしっくりくるほどの内容。ギリシャのボール回しに右往左往しているアメリカチームのプレーヤーたちを見て、何だこれは! と衝撃を受けました。

思い起こせば、1992年バルセロナオリンピックでアメリカのスターたちが出場した時には、どの試合も40点差ぐらいで勝っていたんです。そこからヨーロッパチームは、とにかくアメリカに追いつけ! という気運が高まったんですね。成果が現れはじめたのは、2002年の世界選手権(※)でユーゴスラビアが優勝したところから始まっていて、2004年のアテネオリンピックではアルゼンチンが優勝。そんな中でアメリカは2006年もギリシャに負けて優勝を逃しているので、もはやアメリカの威信は失墜したという感じでした。

ただ2008年からは、アメリカもことオリンピックに関しては国の威信をかけてもう一回チームを作り直したりして今に至るわけですが、歴史のターニングポイントを見られたというのは記憶に残っています。そんなことがあって、NBAの中でもバスケットボールの国際化が進んでいて、今では全選手の1/4近くにあたる100人以上が、アメリカ国外出身のプレーヤーになっています。そのくらいボーダーレスになってきているので、W杯をグローバルなイベントとして楽しんでみてもいいでしょう。

今度は、アジアの国がヨーロッパやアメリカに勝利という形で土を付けられると面白くなってくるんじゃないかなと思います。

※ワールドカップの名のもとに開催される前の名称

Q11.W杯を楽しむためにチェックすべきツールがあれば教えてください!

A.大会の公式サイトをチェックしつつ、興味のおもむくままに情報を収集するのがおすすめ。

大会本部が運営している公式サイトは、正確な情報がキャッチできるのでおすすめ。あとは、興味のおもむくままに、好奇心が湧くものをチェックして見るのが一番です。各国、ヴィジュアルやハイライトにも力を入れて発信しているので、好きなチームを見つけたらすぐSNSでフォローするのも良いと思います! けっして勉強ではないので、気ままに楽しみながらワクワクを感じてください!

FIBA バスケットボール ワールドカップ 2023 公式サイト
日本代表チーム公式Twitter

 

Profile

バスケットボールアナリスト / 佐々木クリス

ニューヨーク生まれ、東京育ち。青山学院大学在籍時に大学日本一を経験。千葉ジェッツ、東京サンレーヴスでプロ選手として活動したのち、2013年よりNBAアナリストとしてNBAの中継解説をスタートさせる。2017年より国内Bリーグの公認アナリストとしてNHK、民放各局などでもBリーグ中継解説を務める傍ら子供達を指導する『えいごdeバスケ』を主宰。日本バスケットボール協会C級コーチライセンスを保有。著書に「NBAバスケ超分析~語りたくなる50の新常識~」がある。
X(Twitter)
YouTube

取材・文=@Living編集部 写真提供=日本バスケットボール協会