和食の基本要素である「ごはん」と「汁物」の組み合わせを表現する、一汁一飯(いちじゅういっぱん)。忙しい日々でも、ほかほかのごはんと汁物があるだけで、ほっと一息つけるもの。ところが、和食は出汁(だし)をとったりと準備が大変そうな上、味つけも繊細でむずかしそう……。そう敷居の高さを感じる人は、少なくないのではないでしょうか。
「そもそも和食は、私たち日本人にとって一番身近な料理です。もっと肩の力を抜いて、おおらかな気持ちでつくればそれだけでおいしくなりますよ」
そう話すのは、恵比寿で日本料理店「賛否両論」を営む、ご存じ、料理人の笠原将弘さん。2023年10月に上梓したレシピ本『汁とめし』では、“和食屋”として“旨すぎる一汁一飯”を惜しげもなく披露し、すでに4版を重ねるヒットとなっています。
お気に入りのレシピから、料理を誰もがおいしく楽しんでつくれる極意まで、笠原さんがこの本に込めたものとは? 聞き手はブックセラピストの元木忍さんです。
笠原将弘『和食屋が教える、旨すぎる一汁一飯 汁とめし』(主婦の友社)
冷蔵庫の残り物で作れ、シンプルなのに満足できる___頑張らないでもしみじみとおいしい、笠原流・究極2品献立という提案の書。予約の取れない日本料理店「賛否両論」店主が、いま提案する献立こそ「汁とめし」なのです。食材の組み合わせや作りやすさを極めた、汁物とごはん物の厳選レシピ、計84品を収録。
シンプルなのに栄養満点な
“汁とめし”の魅力
元木忍さん(以下、元木):日本料理店の店主であり料理人でもある笠原さんですが、汁とめし、つまりミニマムな一汁一飯の食事について、いつ頃から良さを感じるようになったのですか?
笠原将弘さん(以下、笠原):若い頃は、ちょっと凝った料理やいろいろなものが並ぶ食卓がいいなぁ、なんて思うこともありました。ところがだんだん歳を重ねるにつれて、くつろぐ場所である自宅でつくる料理なんだから、使う食材も調理方法もシンプルな方がいい。そう思うようになってきたんです。
元木:やはり、シンプルで毎日の食卓に取り入れやすいところが一番の魅力でしょうか?
笠原:そうですね。汁物なんて普段料理をしない人がつくったとしても、なんとなくあるものを煮て味噌を溶けば、それなりの味になるものです。具がたくさん入っている汁物なら、茶碗一杯分飲むだけでたくさんの栄養もとれます。おかず代わりにも、晩酌をする人ならつまみにもなる。ごはんにしても白飯に好きな具材をのせたら、それだけでちょっとしたごちそうですよ!
元木:食材や調理の仕方はシンプルなのに、おいしくて栄養たっぷりな食事。それが汁とめしなんですね。
笠原:そうです。忙しい人でも毎日の食事に取り入れやすいと思いますね。
あるものですぐにつくれる、
懐かしくておいしいレシピの数々
元木:私も実際に、この本に載っているレシピをいろいろとつくってみたんです。本当に簡単につくれておいしいものばかりですよね。「トマト、にら、しょうが」の味噌汁は冷蔵庫にある食材ですぐできちゃうし、食べてみたら、これがまたとてもおいしかった! 意外と、トマトと味噌って合うんですね。
笠原:そう言ってもらえてよかったです。誰でも気軽につくれるように、冷蔵庫にあるものか近所のスーパーで手に入る食材でちゃちゃっとできるレシピを選んでいるんですよ。
元木:レシピを見た瞬間、これならできる! って思えるから、無性につくりたくなって。「たこしば漬け焼きめし」もおいしかった。スーパーで売っていたタコに、たまたま冷蔵庫にあったしば漬けを取り出してつくりました。さっぱりしていて、いくらでも食べられちゃう。
笠原:タコとしば漬けをただあえて、おつまみのようにしただけですけど、レシピができたときには「これは絶対おいしい!」という自信はありましたね。タコって炊き込むとけっこう固くなっちゃうので、チャーハンみたいに炒めたほうが失敗もなくて簡単。ちょっとしたことですが、料理人としての経験や勘どころを、レシピに反映しています。
元木:笠原さんご自身は、どのレシピがお気に入りですか?
笠原:そうですね、タマネギと豆腐と豚肉でつくる「くたくた玉ねぎと豆腐の豚汁」でしょうか。食材としてはシンプルだけど、味のバランスが絶妙で好きです。
元木:たしかに豚汁と白飯があったら、それだけで満足ですよね。どのレシピも見慣れた食材でつくれるから安心感もあるし、こどもの頃に家族につくってもらったあの味、みたいにどこか懐かしさも感じました。
次のページでは、顆粒だしのような便利なアイテムがある現代に、なぜあえて手間も時間もかかる方法を選ぶのか? 笠原さんの思いをうかがいます。