CULTURE 人・本・カルチャー

シェア

“汁とめし”さえあればいい。料理人 笠原将弘が説く、
日常の和食「一汁一飯」

TAG

小難しく考えないこと。
おおらかな感覚でつくれば、必ずおいしくなる

元木:レシピのほかにも、お米の炊き方やお吸い物のだしの取り方など、丁寧に説明されたページがあって、とても勉強になりました。

笠原:ありがとうございます。顆粒だしのような便利なアイテムがある現代に、なぜあえて手間も時間もかかる方法を選ぶの? と思うかもしれませんが、日本人として一度は正しい手順で取っただしの味というものを知っておくのは大事だと思うんです。

元木:毎日は無理でも時間があるときにはぜひ、やりたいですね。やっぱりひと手間かけた料理っておいしいから。

笠原:そんなに気負わなくてもおいしい料理はできると思いますよ。テレビや雑誌、ネットなどで、見た目は華やかだけど一般家庭でつくるにはちょっと大変そうな料理がたくさん出回ったことで、最近では「料理をすること自体、難しいものだ」と思いこんでしまう傾向があります。でも家庭料理といえば、昔はおじいちゃんもおばあちゃんもみんながやる、なにげないことでしたよね。

元木:それこそ、日常の料理ですね。

「たとえば4人前をつくりたかったら、うちのおばあちゃんは味噌汁のお椀に水を4杯すくって鍋に入れてましたよ。理にかなっているでしょう?」と笠原さん。

笠原:計量スプーンやカップなんて昔はなかっただろうし。何かつくる時も、しょうゆは愛用のおたまに一杯くらい、みたいな感覚でよかったんです。それがいまでは、砂糖は小さじ1杯半で、みりんは何ccまで、しょうゆは薄口だの濃口だのって細かくレシピに書いてあるから、みんな料理が嫌になっちゃったんじゃないですか?(笑)

元木:料理は正確に計らなくても、これぐらいかなーって感じでちょうどいいのかもしれませんね(笑)。

笠原:そう思います。小難しく考えず、おおらかな気持ちでやれば、おいしくつくれますよ。

一般的な金銭感覚を持った人にこそ
おいしい日本食を食べてほしい

元木:きょうは笠原さんが店主を務める「賛否両論」の店内でお話をうかがいましたが、次はプライベートで訪れたいです。それにしても、きちんとした日本料理にもかかわらず、コース料金が思いのほかお手頃な価格で驚きました。

笠原:日本料理というと、“高い”イメージがありますよね。でも、そもそも自国の料理なのに、高くて食べに行けないなんておかしな話だと思いませんか? せめて自分の店くらいは一般的な金銭感覚をもった普通の人や若い子でも、おいしい日本食を食べられるような店にしたい。そう思って価格設定しています。

元木:その考えは、日本の食文化の発展へつながることだと感じます。日本食を気軽に食べられるってことは、日本食を大事にする人たちの幅を広げることになりますね。今後、チャレンジしていきたいことはありますか?

笠原:いつか、昔ながらの定食屋や味噌汁屋、立ち飲み屋なんてやってみたいですね。気軽に一品2〜300円で食べたり呑んだりできる店、最高じゃないですか。

元木:気取らないけど味はたしか、というお店ですね。笠原さんのお話で、日本食や和食がぐっと身近な存在になりました。ありがとうございました。

Profile

料理人 / 笠原将弘

1972年、東京都生まれ。高校卒業後「正月屋吉兆」で9年間修業したのち、父の死をきっかけに武蔵小山にある実家の焼き鳥店「とり将」を継ぐ。2004年、東京・恵比寿に「賛否両論」をオープンし、予約のとれない人気店として話題になる。2013年には名古屋に直営店をオープン。テレビ番組のレギュラー出演をはじめ、雑誌連載、料理教室など幅広く活躍する。2023年6月にはYouTubeチャンネル『【賛否両論】笠原将弘の料理のほそ道』を開設。流暢な語り口で調理のコツを惜しみなく解説し、チャンネル登録者数は50万人に迫る(※2024年1月5日時点)。
「賛否両論」HP
YouTube

ブックセラピスト / 元木 忍

学研ホールディングス、楽天ブックス、カルチュア・コンビニエンス・クラブに在籍し、常に本と向き合ってきたが、2011年3月11日の東日本大震災を契機に「ココロとカラダを整えることが今の自分がやりたいことだ」と一念発起。退社してLIBRERIA(リブレリア)代表となり、企業コンサルティングやブックセラピストとしてのほか、食やマインドに関するアドバイスなども届けている。本の選書は主に、ココロに訊く本や知の基盤になる本がモットー。

文=染谷遥 撮影=鈴木謙介