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わずか10坪で1万3000本を醸造する都市型ワイナリー「ブックロード」が台東区から
発信する、日本ワインの魅力

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東京都台東区、JR御徒町駅から徒歩5分。住宅や昔ながらの問屋が軒を連ねる道を歩くと、うっかり目の前を通りすぎてしまうほどつつましく佇む3階建てのワイナリー、BookRoad(葡蔵人/ブックロード)があります。東京都のなかでは第4番目となるワイナリーとして、2017年に誕生しました。

「ここでワインを造っているんですか?」ワイナリーを訪れる人は誰もが、驚きをもってそんな感想を抱くであろう狭小空間で、一体どんなワイン造りが行われているのでしょうか。日本ワイン人気が続く近年、次世代が志すビジネスモデルとしても興味深い“都市型ワイナリー”を訪ねました。

 

女性醸造家、ひとり作業

「階段スペースまで入れると土地面積は10坪ですが、実際の稼働スペースは8坪くらいだと思います」と話してくれたのは、女性醸造家の須合美智子さん。

オーナー企業は長年台東区で飲食店を経営する会社で、須合さんもワイナリーオープンまでの8年間、そのうちの1店舗のホールスタッフでした。もちろんワイナリー繁忙期には、飲食部門のスタッフが手伝いにも訪れますが、実際このワイナリーでの日々の作業のほとんどは須合さんがひとりで行っているそう。8坪の稼働スペースには1000リットルの発酵タンクが4基設置されており、他にも除梗破砕機、プレス機などが所狭しと並び、その合間をテキパキと動き回るにはひとり作業が適しているのかもしれませんが、ワイン造りの大半は力仕事。どのように作業を進めているのか、詳しく伺いました。

大型のステンレス発酵タンクと樹脂製の小型タンクなどが並ぶ醸造スペース。大型のタンクに入り切らなかった果汁を小型に入れるなど、組み合わせを工夫しながら作業を進める。
大型のステンレス発酵タンクと樹脂製の小型タンクなどが並ぶ醸造スペース。大型のタンクに入り切らなかった果汁を小型に入れるなど、組み合わせを工夫しながら作業を進める。

「私たちは醸造所をここ台東区に持っているだけで、自社畑は今のところ持っていません。ですから、すべての原料ブドウは日本各地の農家さんから買い付けています」(須合さん、以下同)

そのブドウの買い付けも、2トントラックを自ら運転して直接農家さんへ引き取りに行くこともあるという須合さん。助手席に1名スタッフを乗せて、交代で運転するのだと言います。そしてワイナリー近くまで到着するとトラックは大通りに一旦停め、車内にドライバーを残したまま1個10kgのブドウが入ったプラスチックケースを200個近く、数個重ねて台車で小分けにワイナリーまで運び込むのだそうです。「何往復しているでしょうね? 良い運動です(笑)」

ワイナリー内にブドウを運び入れるのも、まずここに何ケース重ねて、そこからこの機械にブドウを移して空のケースはここに積んで……など、事前に入念な配置シミュレーションしてから運び入れないと、そのあとの動線の確保が大変。2tのブドウを一気に入れると、お腹を引っ込めて横歩きをしないと移動できないほど、1階部分の床はほぼブドウのケースだけで埋め尽されます。

醸造所で作業をする須合さん。例えば除梗破砕機はイタリア製の小型のものを使用するなど、道具は女性の須合さんでも使いやすいものを選んでいる。
醸造所で作業をする須合さん。例えば除梗破砕機はイタリア製の小型のものを使用するなど、道具は女性の須合さんでも使いやすいものを選んでいる。

一連の作業のあとは、ブドウの入っていたプラスチックケース、ホースなど備品の洗浄も行いますが、洗浄ももちろん近隣への配慮から建物外ではなくその8坪スペース内で。排水口へ向けて床に若干の傾斜がありますが、その角度も発酵タンクを安定的に設置することも考えて緩やかになっているため、床に水が溢れないよう、洗浄作業もペースを考えながら進めると言います。

聞けば聞くほど、限られたスペースを有効活用する工夫に満ちた都市型ワイナリーならではという作業過程。さらに醸造と瓶詰め、打栓、ラベル貼りなどの作業が行われる2階へも案内してもらいました。

下のタンクと上のタンクをホースで繋ぐ際に使用する、1階天井部に空いた穴。ワイナリー開設の際に、そのような作業を想定し設備会社に設置を依頼したという。
下のタンクと上のタンクをホースで繋ぐ際に使用する、1階天井部に空いた穴。ワイナリー開設の際に、そのような作業を想定し設備会社に設置を依頼したという。

「1階で絞ったブドウの果汁、またはできたワインを2階まで上げるには1階の天井に穴がひとつあって、そこからホースを繋いで上げます。ひとりの時は、途中で液体が漏れていないか、上のタンクが溢れていないかなど、階段で1階と2階を全速力で行ったり来たりして確認しながら進めます。本当は上と下に人がいて、『おーい、入ってる? うん大丈夫、入っているよ!』って、会話できたらいいんですけどね(笑)」

ひとり作業の様子を、常に笑いを交えて話してくれる須合さんですが、その日々の現場作業の過酷さは想像するに余りあります。都市型ワイナリーや須合さんに限らず、畑と醸造所での力仕事や醸造家さんの精神的なプレッシャーを想像する時、あらためてワインという液体が愛おしく、さらりと喉の奥に落としてはいけないもののようにも感じます。

ブックロードのワインリスト

20190719_bookroad_005
カベルネ(兵庫県神戸市産)
2800円


シャルドネ(長野県安曇野市産・兵庫県神戸市産)
2700円

20190719_bookroad_004
デラウェアスパークリング(山形県南陽市産)2018
2500円

20190719_bookroad_006
左:メルロー(山梨県韮崎市・南アルプス市・兵庫県神戸市産)
3200円
右:アジロン(山梨県甲州市勝沼町)
2700円 ※完売

20190719_bookroad_007
シードル(長野県安曇野市産シナノゴールド)100%
1700円

ほかに、「ベリーAスパークリング」や「サンジョヴェーゼ」などもラインナップしています。

 

10坪に満たない狭小空間から、これほど多彩なワインが生まれるとは。そんな驚きに満ちたこのワイナリーが生まれ、ここまで漕ぎ着けた道のりを少し、覗いてみましょう。