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わずか10坪で1万3000本を醸造する都市型ワイナリー「ブックロード」が台東区から
発信する、日本ワインの魅力

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いくつになっても始めるのに遅いということはない

今年の仕込みで3年目。昨年の生産本数は、約1万3000本でした。限られたスペースでの作業ながら、数種類の異なるブドウ品種を扱い11種類ものワインを生産しています。あらゆる工夫を凝らしながら、数種のブドウの醸造過程すべてを取り仕切る須合さん。過去にもワイン醸造家としての経験が豊富かと思いきや、このブックロード創業を機に、知識、経験ともにゼロからのスタートだったそうです。

「オーナー企業が経営する飲食店でホールスタッフをしていて、ワイナリーを始めることになったとき、『ワインを造りたい人いますか?』と聞かれたんです。それに、『はい!』と手を挙げました」

成人を迎えた2人のお子さんを持つ須合さん。子育てもひと段落した頃の挑戦に、「今思えば無謀だったと思うのですが、不安よりも純粋に楽しそう!って、思ったのです。子供達には日頃から、いくつになっても始めるのに遅いはないよ。やろうと思った時に、その時から始めればいいじゃない。と言ってきたのに、自分がもうこの年齢だからやらないなんていう理由は変ですよね」

↑「『お母さん、これからワイン作るから』と家族に告げた時、特に頑張れという言葉はありませんでしたが、何も言われないということは幸せな応援なんだと感じています」と話す須合さんの顔は晴れ晴れとしている。
「『お母さん、これからワイン作るから』と家族に告げた時、特に頑張れという言葉はありませんでしたが、何も言われないということは幸せな応援なんだと感じています」と話す須合さんの顔は晴れ晴れとしている。

須合さんが醸造家を目指す決意を固めた2016年、物件探しがスタートしました。長年この台東区で飲食経営をしてきた愛着から、場所はもちろん台東区内で。飲食店スタッフ全員で、昼休みの合間を縫って自転車で貸家、貸店舗を探し回ったそうです。

2016年秋には場所も決まり、醸造免許の申請をする傍ら、須合さんは山梨県のワイナリーへ研修に入りました。家庭と開業準備があったために住み込みではなく、週に2〜3日、山梨まで日帰りで通っていたそうです。ただ9月10月の繁忙期ピークには1週間帰れないことも。そこで醸造の基礎を学びました。

「今もまだすべてのことが勉強です。基本には忠実に、でもここはこうした方が良いのではという自分なりの考えを持ちながら、ではなぜそうしたのか明確な理由を持ってワイン造りをしたいですね」

今では2tトラックを自ら運転する須合さんですが、つい最近までペーパードライバーだったそう。その純粋なチャレンジ精神と謙虚で真摯な姿勢は、ブックロードのすべてのワインの味わいに反映されているように思います。

 

グラスの上の“何か”に注目

ひときわ目を引くラベルデザインが、ブックロードの特徴のひとつ。どのワインも同じくワイングラスとその上に“何か”が乗っています。オーナー企業が飲食店経営だけあって、それは合わせて食べて欲しい“食材”や“料理”であることが多いのですが、ときには“音符”や“花火”であることも。

グラスの上に描かれるのは食べ物に限らない。音楽を聴きながらゆっくりと楽しんでもらいたい白ワイン「ナイアガラ」(販売終了)。
グラスの上に描かれるのは食べ物に限らない。音楽を聴きながらゆっくりと楽しんでもらいたい白ワイン「ナイアガラ」(販売終了)。

いったいどこからそのアイデアが?

「ワインができて瓶詰め直前くらいですね。これは帆立だ!とかお肉が食べたい! とか。にんにくが乗った赤ワインはペペロンチーノが浮かびました」

今夜のメニューに合うワインがひと目で分かる、ポップなラベル。むしろこのラベルを見て食欲をそそられて、今夜のメニューが決まるかも?
今夜のメニューに合うワインがひと目で分かる、ポップなラベル。むしろこのラベルを見て食欲をそそられて、今夜のメニューが決まるかも?

そのアイデアを飲食店スタッフに相談し、実際に料理人による料理とのペアリング試食、試飲会を行うそう。間違いなく合えば、それがデザインとして採用になります。

私たち消費者がワインを選ぶとき、必ず知りたい情報は「料理は何と合わせるか?」それが明確にラベルに描かれていることは大変分かりやすく、そのように料理と楽しんでもらいたいという、長年の飲食店経営からワイナリーを創業した想いがこのラベルデザインに詰まっています。

 

都市型ワイナリーのストーリーとは

ワインは土地が育むもの。もちろん原料であるブドウが表現する気候風土はそれぞれが唯一無二であり、それがワインの個性の大半であると言っても過言ではありません。それゆえに、畑を持たない都市型ワイナリーのワインは「ワインに背景が感じられない」「ストーリーがない」と言われることも。

しかし、ブックロードのように長年飲食店を営んだ台東区という地への愛着、海外からの観光客も多いこの地を訪れる人がさらに一人でも増えればという地域貢献の想い、また須合さんというひとりの女性の挑戦は果たしてストーリーとは呼べないものでしょうか?

また、畑を持つ日本各地の都市型でないワイナリーでもそれぞれ個性的な取り組みがされています。フランスやイタリアなどワインの伝統国のように、そもそもの土地の個性がワインの味わい自体に表現されているというよりも、やはりワイナリー個々の想いや醸造家の個性が際立つところも少なくありません。

ワイナリーにショップとテイスティングルームを併設することを示す表札。醸造所に行って気軽にワインをテイスティング、そんな都市型ならではのワインライフを楽しみたい。
ワイナリーにショップとテイスティングルームを併設することを示す表札。醸造所に行って気軽にワインをテイスティング、そんな都市型ならではのワインライフを楽しみたい。

訪れやすい。それも十分、都市型ワイナリーが持つ優位な個性のひとつです。さあ、御徒町を気軽に訪れてみましょう。

「3階はテイスティングルームになっています。どなたでもお気軽にお立ち寄りいただけますし、お買い物もできます。私、どういうわけかマイバックを持っていらっしゃるお客様のバッグにワインを入れるとき、うれしい反面ちょっとだけ寂しさが込み上げてくるのです。可愛がってもらってね、元気でね、って(笑)」

そんな純粋な愛を持ってワイン造りと向き合う醸造家、須合さんにもぜひ会いに行ってみてください。

Winery

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BookRoad(葡蔵人/ブックロード)

所在地:東京都台東区台東3-40-2 浜田ビル
電話番号:03-5846-8660
営業時間:11:00〜17:00
定休日:水曜
※納品などで不在の場合があるので、来店の際は一報を。

https://bookroad.thebase.in/

 

取材・文=山田マミ 撮影=真名子