ワインアロマセラピーを体験してみよう
それでは実際に、ワインアロマセラピーの手順に従って、ワインをテイスティングしてみましょう。
まずは2~3回深呼吸。さらに手を組んで上に伸びるなど、好きなリラックスポーズをしながら心の声に耳を傾ける準備を整えます。
そしてワイングラスを手に取り、色を見て香りを嗅ぎます。この時、とても重要なことは「意識を外に向けないこと」。つまり、このワインの色は何色で、香りにはどんな要素があるかなど“外的要素”を捉えようとしてはいけません。なんの品種でどこの産地のワインかを当てることなど論外(!)。その香りで自分が何を感じるか、どんな情景が浮かぶか、それが好きか嫌いかという“内面の声”だけを捉えます。
例えば、それが上記のカテゴリーでNo.7に属するワインで、香りを嗅いだ時に土のような香りを感じたとします。それによって浮かぶ情景はなんでしょう? 静かな山奥にあるお寺でしょうか、子供のころに遊んだ賑やかなキャンプ場でしょうか? その情景が落ち着くと感じるでしょうか、そこには行きたくないと感じるでしょうか?
それによって、今自分が求めている感情を認識します。心地よければいま求めているのは心の落ち着き、違和感があるようならエネルギー溢れる活力を求めているのかもしれません。
まるで誰かのカウンセリングを受けているかのように、12のカテゴリーを手がかりにワインから、今の自分を教えてもらう。マインドフルネスや瞑想のように、現代人に必要と言われる内観の時間を、ワインとともに過ごすのがワインアロマセラピーです。
気分に合うワインを、心のままに選んで楽しむ
ワインのテイスティングには、それぞれの立場による最適なテイスティング方法があります。ワイン流通における立場とは、大きく分けて「生産者」「小売店」「レストラン」そして「消費者」など。生産者は、できたワインの質や欠点を見極め、向上・改善するために細かく分析しながらテイスティングをします。小売店は、お客様へ正しくそのワインの情報を伝え、適正価格で販売するために、商品特性を見極めるテイスティングが必要です。レストランに従事する人は、そのワインと料理との絶妙な相性を見極め、温度や抜栓時間など最適なコンディションで提供するためのテイスティングが必要です。
では一般消費者は? これまでに挙げた「ワインのプロ」たちが行うような立場での細かなテイスティングは、果たして必要でしょうか? その日の気分に合うワインを、自分の心に聞いて自由に楽しむ、ワインアロマセラピー的なテイスティング方法は、消費者にとって純粋なワインの楽しみ方の本質と言えるでしょう。
「ワインアロマセラピーのようにじっくりとワインを味わうことは、ワイン自体に対しても理解を深めますので、“後回し”とはいえ、知識が身につく効果ももちろん期待できます。また、飲みすぎてしまう習慣の改善にも。ブドウ品種や銘柄で認識していた好みが、その日の気分によって変化し広がるので、結果的にワインライフクオリティーそのものが向上するとも言えます」(蜂須賀さん)
ワインを取り巻くさまざまな人の思いも、受け止めてくれる懐の深さをもっているようです。さぁ、今日のワインが教えてくれるあなたの心の声に、耳を傾けてみましょう。
テイスティングしたワインリスト
ブノワ ショヴォー「コトー デュ ジェノワ ブラン シレックス 2018」
フランス・ロワール地のソーヴィニヨン・ブラン。白い花や白桃の豊かなアロマ、草原を思わせるハーブのニュアンスも爽快に香ります。ワインアロマセラピーカテゴリーでは1番。
ヴァンサン ジラルダン「ブルゴーニュ ルージュ キュヴェ サン ヴァンサン 2016」
フランス・ブルゴーニュ産のピノ・ノワール。小さな赤果実や梅のようなニュアンス。チャーミングな味わいながら上品な酸味とバランスが特徴です。ワインアロマセラピーカテゴリーでは5番。
シャトー オート ド プレザンス「シャトー オート ド プレザンス 2012」
フランス・ボルドー地方のやや熟成した赤ワイン。芳醇な熟成香は、土や葉巻などを思わせる荘厳な印象。ゆっくりと身体に染み入るような落ち着いた味わいです。ワインアロマセラピーカテゴリーでは7番。
取材・文=山田マミ 撮影=真名子