春めいてくると、山ではさまざまな植物がいっせいに芽吹きます。ふきのとうや花わさびから始まり、タラの芽、こごみ、うど、蕨(わらび)などが、順々に摘まれ出荷されていく旬の山菜。天ぷらやお浸しにして食べるとおいしい、ということはわかっていても、実のところ下処理の仕方に悩んでいる人は多いはず。
今回、山菜のことを教えてくれるのは、アウトドアのフードコーディネーターとしても活躍し、たびたび長野県下水内郡にある栄村へ山菜採りに出かける、料理家の蓮池陽子さん。天然物ならではのアクを上手に抜き、おいしく食べられる山菜のレシピを紹介していただきます。
覚えておきたい!「山菜」の主要メンバー
山菜は、山に行くと採りきれないほどさまざまな種類がありますが、一般的なスーパーで見かけるのはおよそ10〜15種類です。なかでも有名なのは、山菜の旬の始まりに見かけるふきのとう。苦味と強い香りがあり、春の訪れを告げる山菜のひとつです。タラの芽やこしあぶら、うるい、公園でも見かけるつくしやヨモギも、旬の先駆けとなる山菜です。
続いて登場するのは、セリや根みつば、花わさび。たけのこやクレソンも実は山菜の仲間です。そして暖かくなってきたころに出回るのが、ぜんまいやこごみ、わらび。
多くの山菜はアクが強いので下処理が必要になりますが、実は天ぷらにするときだけは、だいたいの山菜がそのままの状態で揚げられます。高温で揚げることによってアクが抜け、苦味やえぐみが取れて、香りがしっかりあがってくるので、もっとも人気の調理法です。
山菜採りの注意点
山菜採りはさまざまな地域でできますが、何よりも大切なのは「山を荒らさないこと」と、蓮池さんが教えてくれました。
「とくに雪国の人たちにとっては、山菜は現代でも貴重な保存食です。春に採ったものを塩漬けにして一年かけて食べるくらい、大切にしているものですから、その土地のルールを守り、持続可能な自然を保てるよう意識して山に入りましょう。地元の人たちの食生活はその土地の植物と強く結びついていて、郷土料理やその土地ならではの生活の知恵などにもつながっています。知らない土地の場合は、山案内のコーディネーターとともに山菜採りをしてみるといいでしょう。来年もまた同じように楽しめる自然を残していきたいですね」(料理家・蓮池陽子さん、以下同)
今回、蓮池さんに具体的に扱い方やレシピを教わるのは、春の山菜の定番「わらび」「こごみ」「うど」「花わさび」。おいしく食べる方法を解説していただきます。
【わらび】
まず下処理はどうする?
それでは、まずはわらびの下処理を教えていただきましょう。わらびはそのまま食べると苦味とえぐみがとても強いので、一晩かけてアク抜きをします。
「一般家庭でも用意しやすい重曹を使うのが楽だと思いますが、重曹でアク抜きをすると、残しておきたい香りや苦味も消えやすいのが特徴です。アクはおいしさでもありますから、途中で味見をしながら、どのくらいの味に仕上げたいか考えてみましょう。地元の方は、木灰やワラ灰でアク抜きすることが多いです。灰を使うと、苦味や香りも残しつつアク抜きができますから、キャンプなどに行く方は、灰を残しておくと使えますよ。ほかに小麦粉を使う方法がありますが、こちらは反対にアクが抜けにくいので、好みの味になるまでに時間がかかるかもしれません」
【下処理の材料】
・わらび……150g
・重曹……大さじ1/2
【下処理の手順】
1. わらびを軽く洗ってバットに入れ、重曹を振りかけて熱湯を注ぐ。
「重曹はお湯に溶ければいいので、パパッとかけておけば大丈夫です」
2. 冷めたらそのまま4時間ほど寝かせる。
「わらびが浮かないように、お皿やバットをのせておくといいでしょう。この状態で4~5時間ほどおき、アクが抜けていることを確認しさっと水洗いして使います。アクが抜けきれていない場合は、様子を見ながらもう少し浸けておいてください」
香りのよい昔ながらのお惣菜「わらびと生姜のお浸し」
下処理したわらびで作るのは、昔ながらの生姜と合わせたお浸し。もっともオーソドックスな食べ方です。皮つきのまま細く千切りにした生姜の辛みとわらびの香りで、ごはんにもお酒にも合う一品です。
「わらびは山菜の中でも旬が遅いので、5月上旬あたりまで楽しめます。アク抜きに時間がかかるのですが、ただ重曹とお湯をかけて放置しておけばいいだけなので、手間はかかりません。お浸しは、それをすぐに切って調味料と和えるだけですし、手軽ですよね。もっとわらびの香りを強く出したいときは、ソテーなどの温かいお惣菜もおすすめです。たくさん採れたときは塩漬けにしておきます」
【材料(2人分)】
・わらび……150g
・生姜……ひとかけ
・塩……小さじ1/3
・しょう油……適量
【作り方】
1. 下処理が終わったわらびをよく洗い、頭の部分や茎の筋張ったところ、黒い部分は切る。
「気にならなければカットしなくてもいいのですが、アスパラガスの下のような筋っぽいところがあるので、そこだけ取り除きます」
2. 生姜は皮ごと細く千切りにする。
「生姜は、皮ごと使うと香りと辛みが豊かなので、皮は剥きません。時期によっては新生姜もおすすめです」
3. 塩を振って馴染ませたら、しょう油と和える。
「さっと和えただけでもしっかり風味が立ち、山菜のおいしさが引き立ちます。わらびは、ぬめりがありつるっとした食感なので、山菜が苦手な方にも食べやすい味ですよ」
次のページでは「うど」「こごみ」、そして「花わさび」の取り扱いと、この3種を使ったレシピを教えていただきます。