日本酒の魅力を独自の視点で伝える人たちを訪ねる企画。今回は、菌に注目して発酵や熟成のおもしろさを探求しているお店、渋谷「Umebachee!」を取材してきました。全国の蔵元や生産者を訪ね、そこで出会った酒、食材、料理、器を提供。「今、女性に提案したい日本酒の楽しみ方(https://at-living.press/food/1420)」の記事で、日本酒ナビゲーターの浅井直子さんも推薦していたお店です。
朝締め鶏と旬菜旬魚
蔵元も贔屓に通う和酒の店
朝締め鶏と和酒の店としてオープンし、三軒茶屋から渋谷に移転して2年目の夏を迎える「Umebachee!」。店主であり酒番頭として店に立つ梅澤豪さんは、日本全国の蔵元や生産者を訪ね歩くことをライフワークにしていて、行く先々で出会った“おいしい”をUmebachee!でアウトプットしています。
定番の朝締め鶏はもちろん、能登や秋田から届く無農薬の新鮮野菜、魚の目利きが港や市場から直送する旬の魚、さらに厳選された日本酒や焼酎、国産のビールや自然派ワインでお客さんを喜ばせています。お酒の中で最も種類が多い日本酒は適温で管理され、飲み頃を見計らって味乗りした状態で提供。「エイジング・フェチ」を自称する梅澤さんの型にはまらない熟成も、日本酒好きを唸らせています。
そのツボを突いたラインナップ、冷酒・常温・熱燗といった絶妙な温度帯での提供、熟成を含めたUmebachee!ならではのサービスで、まだ知らなかった日本酒の魅力に気づかされた人も多いそう。カウンター越しにその日のおすすめを聞いたり、食材やお酒のことを気軽に尋ねられるアットホームな雰囲気も、この店が愛される理由のひとつです。
“速醸”と“生酛・山廃”で
日本酒メニューを分類しているワケ
Umebachee!の日本酒メニューを見ると、“速醸”と“生酛・山廃”という、ちょっと珍しいカテゴリー分けがされています。
“速醸”とは酒母造りの過程で醸造乳酸を加える方法で、“生酛・山廃”は菌の力によって自然に乳酸を生み出す醸造方法。日本酒の銘柄を産地や味わいで分けるのではなく、醸造方法の違いで分類している理由を、梅澤さんに聞きました。
「日本酒造りには、菌が非常に重要な役割を果たしています。人間の目には見えない微生物の活動によってお酒が出来上がるのは、とても神秘的なこと。日本酒に限らず、Umebachee!で扱っているワインの醸造家や醤油蔵さんも、みなさん菌を扱うスペシャリストなんですね。菌と向き合うと、発酵文化の素晴らしさに気づきます。そんな視点を、日本酒のメニューでも提案できたらなというのが、“速醸”と“生酛・山廃”でカテゴリー分けしている理由です」
Umebachee!の菌にまつわるネタをもうひとつ。店内は完全禁煙(店外に喫煙スペースあり)ながらも、消臭剤の代わりにバチルス菌を撒いているそう。バチルス菌とは、納豆菌を含む数種の菌の総称で、消臭・防カビ効果があると言われています。菌の力が働くクリーンな店内に漂うのは、調味料やダシ、そして燗酒の香り。菌のお陰で、料理やお酒の香りをしっかり楽しむことができるのです。
Umebachee!が扱う旬
産地から届けられる野菜と魚
旬を扱うということ――。例えば枝豆。秋田の農家から届くUmebachee!の枝豆は、9月頃からメニューに載ります。一般的な枝豆の旬は夏なので、ちょっと時期が遅い。「品種や産地によって、旬が違うということですね。例えば秋田の白神山地から届いた山菜は、ちょうど今(5月中旬)が今年の旬。雪が溶け、ようやく地上に芽を出した山菜だからこの時期なんです。同じ産地、同じ生産者の野菜でも、旬や味は毎年違います。だから、去年はこうだったけど今年はこうだねとか、今年はこんな味付けにしてみようとか、そんなことを料理長と話しながら生産者から届けられる旬を僕自身も楽しんでいます」と梅澤さん。そんな旬の食材の魅力を引き出すのが、料理長の岩崎崇史さん。「今日はいいのがありますよ」と笑顔で見せてくれたのが、佐賀の有明海で獲れたマジャクと島根の境港から届いた岩もずく(通称「ぼうず殺し」!)。どちらも非常に珍しい食材です。Umebachee!では、海の幸でも産地にこだわった季節の美味を提供しています。野菜、魚、鶏、そして〆のメニューまで、作家ものの器に盛り付けられた旬の恵みを、豊富に揃う和酒と一緒にたっぷり味わってみてください。
進化を続ける和酒ラボラトリー
Umebachee!の新たな楽しみ方
梅澤さんは10年以上前から「オール国産」をテーマに掲げ、自身のお店だけでなく様々な飲食店のメニュー開発を手がけてきました。もちろんUmebachee!も国産の厳選食材をウリにしてきたお店です。でも、最近はそのスタンスに少し変化が見られるようになりました。
自然派ワインのメニューには、フランスやイタリア、オーストラリアのワイナリーもオンリスト。お茶のメニューには、奥八女(福岡)の煎茶や五ヶ瀬(宮崎)の烏龍茶など従来のラインナップに加え、ダージリン地方(インド)にあるサマビオン農園やサングマ農園の茶葉も。
国産に限定せず、海外の“いいもの”も扱うようになった理由を、梅澤さんはこう話します。「舶来品を扱うと言っても、8割~9割は今まで通り国産です。例えばイタリアのチーズには、国産チーズには出せない濃厚さがありますよね。それを日本酒に合わせると、また新たな楽しみや味わいが提案できます。日本の歴史を振り返ってみても、鎖国の後に文明開化があって、文化が発展したわけですよね。国産にこだわってきたUmebachee!に、海外のエッセンスが少し入ることで、また新たな提案を楽しんでいただけると思うんです」。
目指すのは、可能性の追求。今まで通り“旬”のおいしさと“菌”へのこだわりは継続しながら、スピリッツとしての焼酎の再評価など、まだまだ提案しきれていない和酒の魅力を探っていきたいと梅澤さんは言います。アルコール度数44度の焼酎で作るカクテルや日本酒と国産ジンで作るカクテルなど、タイミングが良ければメニューにないお酒を作ってくれるかも……。そうここは、おいしい!の新発見を楽しむ和酒ラボラトリー。Umebachee!の楽しみ方は、これからもどんどん増えていきそうです。ちなみにこのお店、外看板も電話番号もなく、平日でも満席なことが多いので、来店前にメール(umebachee@gmail.com)で予約を入れておくと確実です。
Shop Data
Umebachee!(ウメバチ)
住所/東京都渋谷区渋谷3-22サンクスプライムビル3階
営業時間/18:00~0:00
定休日/日曜日、月曜日
予約メール/umebachee@gmail.com
https://www.facebook.com/Umebachee-643080119122930/
取材・文=馬渕信彦 撮影=本宮誠