氷見を「立ち寄る場所」から「滞在する場所」へ
氷見と言えば寒ブリ。そのほかにも新鮮な魚料理が豊富な土地ですが、ゆっくり滞在して見学するような観光スポットは多くありません。「美味しいものを食べに立ち寄るだけでなく、この土地にゆっくり滞在して、氷見を好きになってもらいたいんです。そのためにレストランと宿を併設しています」(田向さん)
レストランのメニューには、目の前の野菜ガーデンで採れた、新鮮で彩り豊かな食材がふんだんに使われています。コーケコッコー! とブドウ畑の横で元気に鳴いているニワトリたちが産んだ卵も、お皿の上に並びます。ワインだけでなく、「この土地の育むもの」を大切に、そしてシンプルに表現しているのです。
氷見の食材に合わせたワイン造りをしているのですか? という問いに、醸造家である田向さんらしい回答が返ってきました。
「実はワインの味わいを氷見の食材に合うように、という意識はあまりもっていません。なぜなら氷見では、今までワインがないなかで、すでに素晴らしい食文化が発展してきたから。新鮮な魚があって、それに合う日本酒という存在がすでにあって。だから、僕らはただこの土地を表現するワインをしっかり造って、そこに氷見の食材を使った新たな料理の発想や工夫が生まれて、それによって氷見らしい食文化をさらに豊かにしていきたい。既存のものに寄り添うというより、ワインが加わることによってもっと豊かになっていけばいいなと思っています」(田向さん)
“僕らはただしっかりとワインを造るだけ”。自然と真摯に向き合いながらワインを造ることだけに注力する、醸造家の思いが強く感じられます。氷見のワインと食材で作られる新しい食文化の基準、ぜひ今後注目していきたいと思わされます。