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斜陽の水産業界に起きた奇跡の理由サバ缶ブームは
なぜ終わらないのか?

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サバ缶が大ブーム。魚の缶詰というと、これまでマグロ缶が不動の売上トップでした。ところが、2017年10月~18年3月でサバ缶のシェアは2〜3割伸び、マグロ缶を追い越したのです。

ブームのきっかけは、2013年のテレビ番組で「サバ缶を食べるとやせる」と紹介されたことだと言われています。「サバ缶ダイエット」ブームが起こり、スーパーからサバ缶が消えたのもこの頃です。

 

“一過性”で終わらないブーム

サバ缶には、身体にいいと言われるEPAやDHAが豊富に含まれています。「生のサバよりも栄養価が高い」との話も。保存も利くし、まとめ買いも可能で、使い勝手良し。とはいえ、EPAやDHAはほかの魚にも含まれているものです。なぜサバ缶ブームは、一過性に終わらなかったのでしょうか?

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まず、サバ缶業界の分析をしてみましょう。定番の分析手法があります。「競争戦略」を提唱した経営学者マイケル・ポーターが考えた、「5つの力」です。

業界関係者を「買い手」「同業者」「売り手」「代替品」「新規参入」の5つに分けて、互いの競争状況を把握し、その業界が魅力的かどうかを分析するというもの。この「5つの力」で分析すると、サバ缶業界はズバリ魅力的な業界であることがわかるのです。

 

なぜサバ缶は“儲かる”のか?

「買い手」の7割は「健康第一で若々しくありたい」と考える50代以上のシニア世代。彼らにとってサバ缶は理想的な食材です。EPAは中性脂肪を減らし、動脈硬化を防ぐ。さらに血流を改善し、肌の新陳代謝も活発化させる———成人病のリスクにさらされ、お肌の老化を気にするシニアが飛びつくのも無理はありません。実際、100グラム当たりのEPA含有量を比べると、サバはイワシやマグロの1.5倍。健康への関心が強いシニア世代が、ブームを根強く支えているのです。

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水産加工業界、つまり「同業者」はマルハニチロ、日本水産、極洋、国分などの大手水産加工会社と、圧倒的に多くの中小企業で構成されており、各社、バリエーションに富んだ商品を送り出しています。

日本水産は、フタを開けやすくした「スルッとふた SABA」シリーズ。マルハチニチロは、ノルウェー産のサバフィレをエキストラバージンオリーブオイルに漬けた「ラ・カンティーヌ」。国分グループは、サバのみそ煮をトマトソースと合わせた「K&K缶つま サバ味噌イタリアン」を発売しました。極洋もトマトやカレー風味など、洋風のサバ缶を開発。商品の多様性もさることながら、大事なポイントは価格競争に陥っていないということなのです。

消費者へのアピールポイントを各社明確にし、それぞれ特色を出そうとしている、これは健全な状態と言えます。

 

「売り手」、ここでは漁業関係者の現状を見てみましょう。日本の漁獲量は長期的に減り続けています。とはいえ、不漁のサンマやサケとは違い、サバはこの20年間漁獲量、価格ともに安定しています。だから水産加工会社は、サバ缶を安定供給できるのです。

 

一方、「代替品」の缶詰はどれもサバ缶と勝負できそうにありません。EPAの含有量はサバより少ないうえ、漁獲量も不安定。サプリで補う手もあるものの、そもそもサプリは日常食になりません。だからサバ缶は代替品の脅威から守られているのです。

 

今、中小の水産加工業者がサバ缶製造に相次ぎ、「新規参入」しています。農林水産省の「2013年度漁業センサス」によると、国内の缶詰め加工業者は08年から13年にかけて20%減りました。そんな中、中小水産加工会社は数少ない活路を求め、地元水揚げのサバでサバ缶を作りはじめているのです。新規参入が加速し、競争が活発化している———以上のように、サバ缶業界は「儲かる構造」となっているのです。

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それでも日本の水産業界は斜陽産業

とはいえ、ブームの先に「魚を食べない日本人」という深刻な問題も横たわっています。2003年には一人あたり年間37.6キロもの魚介類を食べていたのが、2016年には24.6キロへ大幅に減少。つまり日本の水産業界は「衰退産業」なのです。サバ缶ブームはたしかに明るい材料ですが、サバ缶だけに頼っていては「ジリ貧」になってしまうでしょう。

そこへ、海外に目を転じると希望も見えてきます。世界の魚介類消費量は01年の9800万トンから13年には1億3000万トンに拡大。とくに中国、インド、インドネシアで著しい伸びを見せています。

日本の水産加工業界は、サバ缶ブームで蓄えた技術やマーケティング的なノウハウを活かし、海外に打って出てほしいところです。

 

Profile

マーケティング戦略コンサルタント / 永井孝尚

マーケティング戦略のプロとして、多くの企業・団体に、新規事業開発支援、講演・研修を提供。主な著書に、シリーズ60万部の『100円のコーラを1000円で売る方法』シリーズ(KADOKAWA)、10万部の『これ、いったいどうやったら売れるんですか?』(SB新書)ほか、多数。

永井孝尚オフィシャルサイト http://takahisanagai.com/

 

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