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自分の健康は、自分で整える。漢方で手に入れる
“人間らしい生活”

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健康に対する意識は常に高くもちたいものですが、ハードワークや食生活の乱れ、不規則な生活が続くことで、なかなか良い健康状態をキープしにくいこともあります。とはいえ、化学的なサプリメントに栄養補給を頼ったり、あまり手間をかけたりせずに、心と体を健やかにしたい。そんな気持ちは、誰にでもあるのではないでしょうか。

そこで、毎日の生活に取り入れたいのが、昨今注目されている「漢方」。体に良いものを食べ、季節ごとの養生を欠かさず自然と調和して生きていく━━。

そんな毎日を健やかに過ごせるヒントを教えてくれるのは、全国に漢方専門店を展開し、オリジナル商品の開発も行う「薬日本堂」で、社員教育やスクール講師を務め、実用書『女性のための漢方生活レッスン』を監修した齋藤友香理さん。本サイトでおなじみのブックセラピスト・元木 忍さんが聞き手となって、漢方の基礎から驚きのちからまで、『女性のための漢方生活レッスン』をテキストにしながら、その魅力に迫ります。

 

薬学部を卒業してから漢方の本に関わるまで

元木 忍さん(以下、元木):まず最初に、この本の内容通り“漢方生活”をされていそうな齋藤さんのことを教えてください。どういった経緯で、今のお仕事に就かれたのでしょうか?

齋藤友香理さん(以下、齋藤):21年前に薬学部を卒業して、薬剤師として薬日本堂に入社以来、ニホンドウ漢方ブティックなどの店舗でずっと漢方の相談員をしていました。

元木:薬学部を卒業されて、なぜこちらの会社に入られたのですか?

齋藤:そうなんですよね(笑)。薬学部といえば薬に携わるのは当たり前なんですけれども、医薬品より“人”に興味があったんです。細分化された医薬品の成分や効果の現れ方を見るよりも、人の全体を見る、自然とのつながりをよく見る「漢方」の考え方が、自分には合っていたのでしょう。ちょうど4年次に漢方研究室に所属して、良い先生に巡り会って漢方の世界に入りました。

元木:薬剤とと漢方って、近いようでまったく違う分野だと思うんですが、漢方のほうがご自身には合っていると、漢方のちからを伝えるお仕事を選ばれたんですね。その思いから、この本が生まれたということでしょうか。齋藤さんが監修されている『女性のための漢方生活レッスン』、とても読みやすい本ですね。

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『女性のための漢方生活レッスン』
1404円(主婦の友社)
体と心に起きている不調をやわらげ、生きものに備わっている「治そうとする力」を働かせる。漢方の養生法の基礎をわかりやすく、女性の不調に焦点をあてて解説した一冊。

齋藤:出版社の主婦の友社さんが提案くださり、出版までこぎつけました。私の授業を聞いてくださって「これを本にしない手はない」と考えてくださって。漢方って、すごく難しいイメージがあるのだけど、「こんなにわかりやすく身近なんだな」ということを、もっと多くの人に知っていただきたいという思いで作りました。漢方の考え方のひとつで今話題の「薬膳」としてしまうと、食事を作るのが苦手な方は興味をもてないんです。なのでタイトルも「漢方生活レッスン」とつけ、“普段の生活の中に生かせる知恵”ということを意識しました。

元木:そのおかげで、漢方がとても身近に感じられました。最近は、漢方を本格的に学び、仕事にしようという方も多くいらっしゃると思いますが、一方でお茶を飲むとか、薬膳料理を食べるだけというライトなニーズも、ここ何年かで高まっている気がします。実際、漢方を使ってケアをする人口は、増えてきているのでしょうか?

齋藤:漢方薬市場は伸びていますね。漢方製薬メーカー自体が、かなり努力をしています。ドラッグストアに行くと、棚に漢方薬がずらっと並んでるんです。それって5年前にはなかった光景だと思います。ですので、ここ3年から5年の中で医療向けではなく、より一般の方に向けた漢方の扉というのが大きく開いてきているな、というのは感じます。それと、漢方といっても薬を飲むだけではありません。日々の生活で漢方の知恵を活かす方法もたくさんあるということも、徐々に知っていただけるようになったと思います。

書籍『女性のための漢方生活レッスン』を監修した、薬日本堂の齋藤友香理さん。
書籍『女性のための漢方生活レッスン』を監修した、薬日本堂の齋藤友香理さん。

漢方の基礎的な考え方と効能とは?

元木:漢方では、「心と体」というテーマをどのように捉えているのでしょうか?

齋藤:例えば病気になった場合、漢方では「その症状が起きているのは、その人自身」と考えます。その人は肉体だけで作られてなくて、心があって普段の生活があって体がある。“全体を整える”ことが大切で、それが得意なのが漢方なんです。「心身一如」という言い方がありますが、「心と体は一体だ」という考えです。

元木:実際に漢方薬を使うことによって、症状が良くなっていかれる方を今までたくさん見てらっしゃいますよね?

齋藤:もちろんです。漢方相談を受けていると、「体に不調がある」という方がいらっしゃいます。例えば肌あれや婦人科の不調でも、多くの場合イラつきや落ち込みなど、同時に心の部分の不調が出てくるんですね。それが、体が良くなってくると表情が明るくなり、「新たにこんなことに挑戦してみたんです!」「こんなことができるようになったんです!」とおっしゃって。性格まで変わったんじゃないかと思うくらい(笑)。つくづく、心と体は表裏一体だなぁと実感します。

元木:漢方の効果は、どのくらいで実感できるものなんでしょうか?

齋藤:早い人だと飲んだ瞬間から「あー、いい感じ!」となります。ここからスタートです。

元木:飲んだ瞬間から感じることができるのですね! それはぜひとも漢方茶から試してみたいですね。

齋藤:ええ。ただ、根本から改善させるためには、それなりの時間が必要になります。その人がその症状をどのぐらい引きずって来たか、という期間にもよりますね。

 

季節に合わせて生きる、漢方の自然な生き方

元木:漢方にはたくさんの種類があるので、分かりやすく分類できたらと思うんですが、例えば季節によって、注意するポイントはありますか?

齋藤:漢方には、自然の中でどのように生活すれば過ごしやすいか、知恵が詰まっています。そこで「五行」という考え方があります。これは、自然界のルールを示したもので、季節や体など、あらゆるものは5つの要素に分類され、それぞれが影響しあって存在している、という考え方です。例えば季節で言うと、春、夏、梅雨どき、秋、冬と分かれます。その季節ごとに、自然界の動きも異なるのです。

心と体、体と自分を取り巻く環境など、すべてのバランスを考えるのが漢方。そこで基本となるのが「陰陽五行説」で、陰と陽、そして万物を構成する5元素の関係を重要視する。
心と体、体と自分を取り巻く環境など、すべてのバランスを考えるのが漢方。そこで基本となるのが「陰陽五行説」で、陰と陽、そして万物を構成する5元素の関係を重要視する。
自然界のすべては「木火土金水」の5元素で成り立っているという考え。
自然界のすべては「木火土金水」の5元素で成り立っているという考え。
それぞれに特徴があり、相互に助け合ったり、抑制し合ったりしてバランスを保つ。
それぞれに特徴があり、相互に助け合ったり、抑制し合ったりしてバランスを保つ。

元木:「陰陽五行説」ですね。その自然界の法則をバランスよく取り入れるには、その法則に私たち人間が合わせるということでしょうか?

齋藤:はい。四字熟語で「天人合一」というように、人は自然の中の一部なんです。ですから、自然のリズムに合わせることが、まず大前提と捉えましょう。その季節がどういう特徴を持っているのか、まず知ってください。例えば春は風がよく吹くので、“揺れる”症状があらわれやすい、とか。

元木:春、風、揺れる……?

齋藤:そうです。だからめまいやふらつきなどの症状のある、自律神経失調にもなりやすいんです。

元木:え! 本当ですか?

齋藤:鼻も皮膚も“揺らされる”ので、鼻水が出たりかゆみが出たりする。

元木:……心も揺れる。

齋藤:だから“五月病”があるんですね。

「例えば春は風が強いので、心も体も揺す振られる。そこで揺れてもしなやかに動けるように、木々のように伸びやかに過ごす。これが1番だと思います」
「例えば春は風が強いので、心も体も揺す振られる。そこで揺れてもしなやかに動けるように、木々のように伸びやかに過ごす。これが1番だと思います」と齋藤さん。

元木:なるほど。では逆に、春にしか得られないプラス要素もあるのですか?

齋藤:あります。春はいろいろなものが芽吹く時期、ということは体の中でも新しいエネルギーが芽吹いてくるんです。エネルギーも増えていきます。例えば、一般的に通信講座は、春先に新しいラインナップをバーンと増やす傾向がありますよね、やる気が起きるからなんです。

元木:春は、心は揺れやすいけど、エネルギーが放出されやる気は出る、ということですね。

齋藤:そうなんです。冬の間は寒いので殻に閉じこもって蓄える時期です。蓄えたものは古くなるので、それを脱ぎ捨てる時期でもあります。それを高めるのが春先というわけです。

 

診断方法はいろいろ。ポピュラーな「舌診」とは?

元木:生活のなかで、漢方によるワンポイントアドバイスをしてくださるとしたら?

齋藤:春先は、元気の源である“気の巡り”がポイントです。そういうときに使いやすいのが、“香りのよいもの”です。よく漢方では陳皮(「ちんぴ」という生薬名)、つまりみかんの皮を使います。あとは薄荷(ハッカ)も。ハーブなら、レモングラスとかペパーミント。こういったものを普段の生活の中に取り入れるんです。例えばお茶に入れるとか。

例えば春に多くの人を悩ませる花粉症……これが、私のお助けグッズです。このハッカオイルを指先にちょっとつけて、指で合わせて目尻から少し離れたくぼんだ所や首筋、後は鼻にちょこんと塗ってみてください。

元木:……あ、鼻が通りましたよ! こんなに即効的があるとは驚きです。

齋藤:ハッカはしかも熱を冷ますんです。お忙しい方や頑張り屋さんほど、この春先に気分が詰まったり、胸やお腹が張ったり、喉が詰まる、肩こりや頭痛などの痛みを伴う方が多いんですね。そういった方ほど、いい香りをときどき入れてあげると、少し楽になると思います。

元木:特効薬を発見した気分です。それにしても、意外と身近にある食材が体の症状によって効果があるんですね。

齋藤:漢方が面白いのは、自然がベースになるので、食べ物 にも体に対して働きがあると考えるところです。「薬食同源」という言い方をします。そういったことをしっかりお伝えしたいので、この本ではレシピも載せているんですよ。

「薬食同源」という考えを持つ漢方だからこそ、薬だけでなく食事も体質改善方法のひとつとして取り入れられる。
「薬食同源」という考えを持つ漢方だからこそ、薬だけでなく食事も体質改善方法のひとつとして取り入れられる。

元木:自分の体調が良い状態なのか、悪いのか、から知りたい方もいると思うんです。どのようにすればその状態を知ることができるのですか?

齋藤:ポピュラーなのは「舌診」です。クラスの中にも舌診クラスというのがあって、舌の形を見ます。口角からはみ出さずにまっすぐ出して見たときに、人によって色味が違うのがわかりますか? 赤みが強い、ちょっと白っぽい、少し青みがかっているなど、体調で色が変化するんです。

元木:舌の色ですか! 肌の色が皆さん違うと思うんですが、それは舌の色には関係ないんですか?

齋藤:もちろん関係があります。例えば貧血気味の人って、色白の方が多いですね。これは血が足りないから白いんです。漢方で言うと「血(けつ)が足りない」状態。栄養や潤いが足りないタイプというのが、見た瞬間に分かるんです。

元木:それは舌を見た瞬間。

斎藤:違います。顔色から。

元木:そうやって対峙した時点で、いろいろなことが情報として入っちゃうんですね

齋藤:先ほど青みがかったという話をしたのは、花粉症もおありということだったんですけど、忙しくされているので血行不良ありだなと思ったんですね。肩こりとか腰痛とか少し辛くなったりしませんか? それが舌に現れているんですよ。

元木:占い師みたい(笑)。当たってます。

齋藤:血行不良があるということは、基本的に紫色の症状が出やすいんですよ。シミとかアザとか……黒もそうです。それが色として出てきているんです。

元木:舌の状態を見たり形を見たり色だけでも、いろいろなことがわかりますね。

 

・紫色の舌
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舌の色が、全体的に青みを帯びている。血行不良を示すという。

・白っぽい舌
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舌の色がピンク色で薄め。貧血気味を示している。

・赤っぽい舌
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舌の色が赤っぽい。消化器や肌などに炎症が見られる。

・歯型が残った舌
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左右に歯型が残っている舌。消化器系の機能低下やエネルギー不足を示している。

 

気・血・水の充実を!“巡り”が健康の秘訣

元木:では最後に、手軽に取り入れられる漢方を教えてください。

齋藤:人の体は「気血水」でできていると漢方では考えます。本の中にも書かれていますが、やっぱり元気を補うこと、血を補い巡らせること、水を巡らせていくことってとても大事です。

まず、「気」を補うには「お米」。元気が出ない、気分が落ち込んでいるといった方は、朝ご飯を食べるところからスタートして、元気を補ってください。元気の「気」とは旧字体で書くと「氣」、つまり「米」なんですね。だから元気を養うには、穀類を食べるというのが重要なんです。さらに、みかんの皮とかハッカなど香りのよいものを使って、その元気をうまく巡らせておきましょう。

元木:なるほど。「氣」をアップさせるにはお米ですね。では、血(けつ)はなんですか?

斎藤:例えばお肌の調子が悪いなぁとか、視力が落ちてるとかいう方は、「クコの実」がオススメです。血を養うんですね。クコの実を、まずは1日3粒から5粒くらいでいいので、お茶に入れたりお味噌汁に入れたりしてください。そのまま食べてもいいです。

元木:水はどうでしょうか?

齋藤:むくみがある方って多いと思います。オススメの水分の取り方は、温かいものをこまめに飲むこと。朝起きたときに50 ㏄くらいでもいいので、白湯を飲みましょう。いい水を体に入れないと、古い水が出ていかないんですね。

仕事のストレスなどで、気・血・水に乱れが生じると心身に不調が起きる。まず自分がどんなタイプなのかを知り、食事や運動によってケアする方法が本書には書かれている。
仕事のストレスなどで、気・血・水に乱れが生じると心身に不調が起きる。まず自分がどんなタイプなのかを知り、食事や運動によってケアする方法が本書には書かれている。

元木:実践してみると「私、これ好き」っていう方法に出会えそうですね。

齋藤:“好き”と思うものは、実は体自体が欲していることが多いんです。何でもバランスなんですね。ただ、不調も重症化してしまうと、なかなか変化が出ない方はいらっしゃいます。なるべく早いうちに漢方と出合っておいて、今は実践しなくても将来「あの時に覚えた方法が今こそ使える」、というふうに思い出して労っていただけたらいいなと思います。

 

Profile

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薬日本堂 学術教育部 学術・講師担当 / 齋藤友香理

東京理科大学薬学部卒業後、薬日本堂入社。10年以上臨床を経験し、平成20年4月までニホンドウ漢方ブティック青山で店長を務め、多くの女性と悩みを共有した実績を持つ。講師となった現在、薬日本堂漢方スクールで教壇に立つかたわら外部セミナーも担当し、漢方を学ぶ楽しさを広めている。また社員教育にも携わり、「養生を指導できる人材」の育成に励んでいる。

薬日本堂 https://www.nihondo.co.jp/
薬日本堂漢方スクール(品川・大阪・仙台) https://www.kampo-school.com/

ブックセラピスト / 元木 忍

学研ホールディングス、楽天ブックス、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)に在籍したのち、独立。本・食・ボディに関する複合サロンを経営し、ブックセラピストとしてのほか、食やマインドに関するアドバイスなども届けている。本の選書は主に、ココロに訊く本や知の基盤になる本がモットー。

 

文=三宅 隆 撮影=我妻慶一 取材=@Living編集部