自分で育てたハーブを摘んで、その日の料理に使う。そんな暮らしに憧れたことはありませんか? 家にいる時間が長くなるこれからの季節はなおさら、料理にもこだわりたいところ。でも、室内での植物栽培は光や水の加減が難しく、なかなかうまくいかないことも多いのです。
今回は、そんなキッチンハーブの上手な育て方と、冬に向かうこれからの季節でも種を撒けるハーブの種について、グリーンフィールドプロジェクトの代表・松崎英さんに教えていただきました。
秋冬に撒くハーブはベビーリーフとして活用する
一般的に植物は、春夏に芽を増やしてぐんぐんと生育していくもの。気温が下がる秋冬は、どんな植物でも成長スピードが遅く、ハーブ栽培にもコツが必要です。
「春夏に芽を出すものであれば、数個の種を撒いて元気に伸びた一株を大事に大きく育てていきます。一株だけ育てても、成長にスピードがあるので、収穫して食べたらすぐにまた次の葉が生えてくる……というサイクルがうまくいくんですよね。
一方、秋冬はどうしても温度(気温)と光(日光)が足りなくなるので、成長が緩やかになり、うまく育てられなかったりします。ただ、9月から10月の初旬にかけての、まだ20度ほどの暖かい日が続く時期であれば、寒くなっても耐えられるくらいの大きさに成長させることができるでしょう。10月中旬以降で寒さが感じられるようになってからは、発芽しても成長が遅いために耐寒性が弱い品種の場合は育たずに終わってしまう可能性がありますが、そのような環境の中でもハーブをベビーリーフとして収穫する方法であれば育てやすく、食べる楽しみも味わえます」(グリーンフィールドプロジクト代表・松崎英さん、以下同)
・ベビーリーフとは……
芽が出てから10〜30日ほどの、まさに“葉っぱの赤ちゃん”のこと。やわらかく栄養価も高いとされ、葉物野菜ではルッコラ、ホウレンソウ、ミズナなどが多く出回り、サラダにもよく使われます。
ベビーリーフとして楽しめるハーブはさまざま。松崎さんが販売しているオーガニックシードを見せていただきました。
「いろいろありますが、イタリアンパセリ、レモンバーム、コリアンダー(パクチー)などが、ベビーリーフとして収穫し楽しめるハーブです。バジルもおすすめですね。まだ若くて柔らかい葉を収穫し、サラダに入れたりスープに散らしたり、レモンバームはハーブティーとして楽しむこともできます。ビオラやカレンジュラは食用花として活用できるので、サラダにのせたり、ゼリーやケーキなどの飾りにしたりしても華やかです。芽が出るまでは日陰で育て、芽が出たら、窓際など光が入ってくる暖房の風があまり当たらないところで育ててください」
秋に撒くハーブの種
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「ウィンターサボリーやタイムなどは、ローズマリーのようにしっかり育つと茎が細枝のようになっていき、とても丈夫で育てやすいハーブです。ウィンターサボリーは聞き馴染みがない植物かもしれませんが、煮込み料理ととても相性がよく、使い勝手のいい植物です。酢やオイルに漬け込んでおき、ドレッシングにするのもおすすめ。この2種類なら秋に撒いても比較的元気に育ちやすいと思います」
小さなポットにハーブの種を撒く方法
実際に、ポットにハーブの種を植えるところを見せていただきましょう。
「準備するのは、3.5号のポットとハーブ用の土です。ポットは、大きいほど植物がのびのびと育つことができるので、本来は置き場の許す限り大きなポットやプランターに撒いてほしいのですが、キッチンに置けるサイズとなると、現実的にはこのくらいの大きさでしょうか。土は、安価なものも売っていますが、やはり生育状態には違いが出る可能性があります。園芸センターなどで『ハーブ用』と書かれた土を買いましょう。粘土質でないフワフワした土なので、水はけがよく、根腐れする心配がありません」
今回使った種は、コリアンダー(パクチー)です。一般的にコリアンダーの種は、芽が出るまでに1週間から10日ほどかかり、けっして発芽が早い品種ではありません。しかし、グリーンフィールドプロジェクトのベビーリーフ用のコリアンダーの種は、5~6日で芽が出るように種の一部を半分に割って(スプリット)販売しています。
「種を買ってみて丸いままのものだったら、ちょっと割ってみてから植えたり、ひと晩水に漬けておいて、殻を柔らかくしてから植えるという方法もあります」
1. ポットに土を入れる
まずはポットの8割くらいを目安に、土を入れていきます。「このとき、土をぎゅうぎゅう押して詰めてしまうと、せっかくフワフワだった土が硬くなり、水や風の通りを悪くしてしまうんです。でも、あまりにスカスカになってしまうのもよくないので、手で軽く押さえていきます」
2. 表面を平らにならす
土が入ったら、表面を軽く撫でて土を平らにならしていきます。「このときも押しつけてしまわないように行いましょう。土に根がするすると伸びていきやすいように、適度な密度にしていきます」
3. 水を入れる
ここで一度水を入れて土全体を湿らせます。「ポットの下から水が滴るので、水を入れたらいったん鉢を持ち上げてしっかり水を切ります。土が乾燥していると水を弾いてしまい、少し水をあげたくらいでは全体に行き渡らないこともあります。下から水が抜けるのをきちんと確認できるまで、水をあげましょう。また、このまま受け皿に置いてしまうと、お皿の中に水が溜まってしまうので、きちんと水切りしてから置きます」
4. 種を撒く
土の上に、種を撒いていきましょう。指の腹にいくつか持って、指をひねるようにして種を置いていきます。「このポットのサイズなら20〜30粒くらいは撒くことができます。密集しないよう、広げて撒いていきます」
5. 種に土をかぶせる
種の上から土をかぶせていきます。深さはあまりなく、種が見えなくなればOK。「土に指で穴を開けて種を入れていく方法もあるのですが、種の数が多いときにはこちらの方法の方が、上手に撒くことができます。土をかぶせたらまたそっと平らにならし、もう一度表土を湿らせる程度に水をかけておきます」
発芽するまでは日陰に、発芽したら日光が当たる窓際などの場所に置き、日々観察してみましょう。「芽が出るまで、スプリットされたものなら5日ほどかかります。植物を育てはじめたときは、うれしくてつい水をたくさんあげてしまうのですが、表面を触ってみて湿っていたら水は控えます。完全に表土が乾いていると感じたら、最初にあげたときのようにたっぷり水を入れ、下から滴り落ちる水をしっかり切って、受け皿に戻します」
「ベビーリーフでも、このくらい大きなプランターで育てると、植物はより快適に根をのばすことができるので、場所があるならぜひ、大きい土地で育ててあげてください。このくらいの大きさだと、サラダとしてしっかり満足できる量を育てることができます。ハーブを一株しっかり育てたいなら、直径30cmほどで深さ20cmくらいのプランターで栽培するのがいいでしょう」
もっと手軽にキッチン栽培を楽しむなら「スプラウト」がおすすめ
一方、葉物を育てるのはなんだか難しそう、土を家の中に持ち込みたくない……という人におすすめなのは、スプラウトの種を撒くこと。
・スプラウトとは……
種や豆種を食用に発芽させた新芽。撒いて2日ほどで芽が出はじめ、1週間〜10日で食べられるくらいのサイズに成長します。
「スプラウトは水耕栽培でも育てられ、とても簡単な上、栄養価の高い野菜としても知られています。土に触りたくない方や、家に土を持ち込みたくない方にもおすすめです。季節を問わずに育てられますが、夏場の高温多湿期は腐りやすいので、秋冬には特におすすめです。こちらは赤ラディッシュの種ですが、スプラウトにもいろんな種類があって、お料理の香りや味づけにもってこいのものもあるんですよ」
【有機種子・固定種】赤ラディッシュ(スプラウト)
314円+税(15g)
もうひとつ見せていただいたのは、ガーリックチャイブのスプラウト。一般には、「ロックチャイブ」という名前で売られています。ヒョロヒョロとした容姿なのですが、1本食べただけでガーリックの強い香りが口中に広がるくらい、しっかりとした味と香りがあります。
【有機種子・固定種】ガーリックチャイブ(スプラウト)
314円+税(3.5g)
水耕栽培の専用ポットも販売されています。これさえあれば、あとは種を変えていくだけでさまざまな種類・味のスプラウトを楽しめます。
おうちでベジ~スプラウト栽培専用容器~
361円+税
※写真右の種は付属しない
「バジルやディル、コリアンダー(パクチー)などもスプラウトで育てられるので、料理の仕上げに飾ると本当においしいですよ。なかでもいちばんよく売れているのは、ブロッコリースプラウトです。栄養価が高いという認知もされていて、サラダに混ぜたり料理に和えたりして使っていただいています。ほかにも、胡椒草やルッコラ、ケール、チアシードなどもスプラウトで育てられます。秋冬なら、一日一度か二度水を変えればいいだけなので、本当に手軽です」
料理のアクセントに、豆のスプラウトにもチャレンジ!
こちらはハーブではありませんが、“栽培”というほどの日数もかからず、2〜3日ですぐ収穫し食べられる豆の栽培キットも。青えんどう豆やレンズ豆に水をあげて栽培し、発芽した豆をいただきます。
「何か育てて食べるという経験をしてみたい方や、小さいお子さんにも楽しんでいただけます。発芽させることでギャバが格段に増え栄養が豊富なので、日々の食生活に栄養不足を感じている方にもおすすめですよ。こちらは初日に豆を浸水させるだけで、あとは毎日豆を水で洗って置いておくだけ。発芽したら食べられます」
左:発芽豆栽培キット~選べる5タイプ(緑豆、フェヌグリーク、レンズ豆、ひよこ豆、青えんどう豆)
1226円+税(専用ジャーと豆1種がセット)
右:クリムゾンレッドレンズ豆(スプラウト)【有機種子】
663円+税(120g)
種から選び、自分で育てていただく楽しさを、ぜひ体験してみてください。
Profile
グリーンフィールドプロジェクト 代表 / 松崎 英
アメリカの大学で経済学を学び、卒業後は外資系金融機関に勤務。メキシコ駐在時代にフェアトレードや有機農産物などに関心を持ち、2009年には農業分野への転身を決意。友人が経営する熊本県天草市の種苗店で働きはじめる。ヨーロッパの有機種子の情報を入手したことが大きな転機となり、2012年に有機種子販売会社を設立。日本初で唯一のヨーロッパ有機認証を取得した有機種子の輸入・販売会社となる。持続可能な農業の実現のために有機種子の販売に注力しているほか、日本の在来種を継承することを目的とした「SAVE THE SEEDプロジェクト」を立ち上げた。
取材・文=吉川愛歩 撮影=安藤佐也加 矢部ひとみ[トップのイメージ写真] 構成=Neem Tree