SUSTAINABLE 私たちを取り巻くSDGs

シェア

ペットの殺処分という人間の身勝手を失くすために。人も動物も幸せに暮らせる社会を目指し、
私たちが「動物愛護」についてできること

TAG

コロナ禍で、日本のみならず世界的にペットを飼う人が急増しました。長引く自粛生活において、ペットは癒しの存在。ところが、「ロックダウンが解除されるなり、捨てられてしまう犬猫が増えた」という悲しいニュースも各国から聞こえてきます。

その一方で、動物の殺処分に対する批判や関心は急速に高まり、人々の動物愛護に対する意識も変わり始めています。では、実際にここ日本では、動物を取り巻く環境は改善されているのでしょうか? 日本動物愛護協会 常任理事・事務局長の廣瀬章宏さんにお話を伺い、現状について正しく理解しながら、私たち一人ひとりができることについて考えていきます。

 

数字の上では改善傾向。犬や猫が置かれている現実とは?

2021年11月、動物好きの方にとっては驚くようなニュースが、フランスから届きました。ペットショップでの犬や猫の販売が、2024年から禁止されるというのです。フランスでは毎年10万頭にもおよぶ動物が遺棄されていることが、この法案成立の背景にあるようですが、日本の現状はどうなのでしょうか?

10年前には20万頭以上が殺処分されていましたが、今は3万頭近くにまで減っています。2021年末に発表された最新(2020年度)のデータでは、犬猫合わせて2万3764頭が殺処分されており、その内訳は犬が4059頭、猫は1万9705頭です。年々減少していますが、1日におよそ65頭が殺処分されている計算ですので、けっして少ないとは言えません」(日本動物愛護協会・廣瀬章宏さん、以下同)

 

改善の一因は、法改正と動物愛護への関心の高まり

20220109_atLiving_petprotect_001

まだまだ、多くの犬猫が殺処分されている状況ですが、数字の上では6分の1にまで減少しています。この10年でどんな変化があったのでしょうか?

「動物愛護管理法の法改正により、動物取扱業者から引き取りを求められた場合、犬・猫の飼い主から引き取りを繰り返し求められた場合、繁殖制限の助言に従わずに子犬や子猫を何度も産ませた場合、そして犬・猫の病気や高齢を理由に終生飼養の原則に反している場合は、引き取りの申し出を行政が拒否できるようになりました。また、遺棄や虐待などに対する罰則も強化されました。
それらにより引き取る数が減り、殺処分をする施設というイメージがあった保健所や動物愛護センターなどの行政施設は、“犬や猫を殺す施設”から“生かす施設”へと変化しています」

環境省が発表するデータによれば、行政の引き取り数はここ10年で3分の1ほどに減り、2020年度の引き取り数7万2433頭のうち、4万9584頭は返還または譲渡されています。民間の保護団体が直接ペットを引き取るケースも増え、「動物愛護団体やボランティアの努力は大きい」と廣瀬さん。さまざまなメディアで、著名人が動物愛護に関する発言をしてくれている点も、いい影響をもたらしていると言います。

 

それでも、動物を取り巻く問題がなくなったわけではない

20220109_atLiving_petprotect_002

「殺処分数というのは、行政が発表する単なる数字にすぎません。保護団体やボランティアが行政から引き取って、必死に殺処分を回避しているだけです。それによって、今度は引き取り過多になり、過剰な多頭飼育も増えてきています。行政施設が殺処分を行っていないというだけで、根本的な解決にはなっていません

さらに昨今は、コロナ禍の影響で、譲渡会が開催できないことも悪循環を招いていると言います。殺さないけれど譲渡もできず、多頭飼育に拍車がかかり、民間の保護団体やボランティアの活動がひっ迫してしまうのです。

「劣悪な環境で飼育される犬や猫は果たして幸せなのでしょうか? 殺処分をしなければいいのでしょうか? さらに、殺処分の数には表れなくても交通事故や虐待により命を落とす場合も多いのです。それが本当の意味で、“殺処分ゼロ”と言えるのかということは考えてしまいます」

殺処分の数は8割以上を猫が占めていますが、状況をより詳細に見ていくと、その6割が目も開かないような子猫です。

「子猫は、数時間おきにミルクをあげないといけません。世話が大変なので、一般の行政が対応するのはなかなか難しい。そのためミルクボランティアと呼ばれる方々が引き取って、元気になってから譲渡しています」

ボランティアの方々の努力がなければ、その数はもっと増えていることでしょう。

 

状況改善に向けた新たな取り組みも始まっている

2022年6月からペットショップなどの販売業者に対して、犬猫へのマイクロチップ装着が義務付けられることになりました。これにより所有者名や連絡先がデータベース化され、チップから読み取り可能になります。

「マイクロチップの装着は、欧米では1986年頃から始まっている取り組みです。その利点は、迷子になっても、保護されたときに身元がわかりやすいこと。東日本大震災でも問題になりましたが、災害時に飼い主とはぐれても見つけやすいですし、盗難にあった際も身元の証明になるので、現在はマイクロチップの装着が推奨されています」

ペットを遺棄した場合にも飼い主がわかるので、勝手な行動に対する抑止力となることも期待できるというマイクロチップ。努力義務ではありますが譲渡会においても、マイクロチップを装着した上での受け渡しが推奨されるそうです。また、コロナ禍で、オンライン会議ツールによる譲渡会も広まりました。災害やパンデミックなどを契機に、動物愛護の状況も改善されつつあります。

 

動物たちを守る活動をする団体のひとつで、廣瀬さんが常任理事・事務局長を務める日本動物愛護協会を例に取り、どういった活動をしているのか見てみましょう。その活動方針や内容に、私たちの行動の参考となることがありそうです。