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私の人生、本当にこれでいいの…?アラサーが陥る
「クォーターライフクライシス」への処方箋

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20代後半から30代にかけて、自分の人生や将来に対して漠然とした不安や悩みを抱えがちな時期を「クォーターライフクライシス(QLC)」と呼びます。キャリアや結婚出産など、人生に関する重大な選択を迫られる機会が増え、悩みが尽きないアラサー世代。

この停滞感を乗り越えるためにはどうすればいい? SNSを中心に圧倒的な支持を集める人気コラムニスト・ジェラシーくるみさんに、アラサーだからこそ感じる“モヤモヤ”を解消するためのヒントを伺いました。

モヤモヤが止まらない!
アラサー世代につきまとう憂鬱の正体

人生の4分の1(クォーター)が過ぎようとする20~30代が将来に思い悩み、陥るとされるクォーターライフクライシス。2001年に発行された書籍で提唱されたことをきっかけに、欧米で広く浸透したこの概念は、近年日本でもさまざまなメディアで取り上げられるようになり、若年層を中心に注目され始めています。

そんなクォーターライフクライシスについて、ジェラシーくるみさんは「25~30歳くらいの頃に陥る、アイデンティティの揺らぎ」であると表現します。

「20代後半を迎えると、自分が思い描いていた将来像と現実にギャップを感じるようになります。そんなときにふと周りの同世代を見てみると、結婚出産を経験した人、キャリアアップや転職をしている人など、人生の次のフェーズに進んでいる人がたくさんいる。キラキラした周囲と比較して、自分だけが取り残されているように感じることで、悩みを抱えてしまうのが、クォーターライフクライシスの原因です」(ジェラシーくるみさん、以下同)

社会に出て数年が経過し、ようやく一息ついた頃に「自分の人生はこれでよかったのだろうか」と考えることが多くなるアラサー世代。理想と現実のギャップに思い悩み、他人と比較することで幸福感を得られにくくなってしまうクォーターライフクライシスは、「人生の低迷期」とも呼ばれています。

海外での調査によると、25~33歳の約75%がクォーターライフクライシスを経験しているそう。とくに現代を生きる女性は、結婚や出産などのライフイベントや、自身のキャリアを天秤にかけることも多く、悩みがより深刻化してしまうと言われています。

停滞しているのは自分だけ?
周りと比較してしまう原因

私たちが他人と比較してしまうのには、大きな理由が2つあります。

「ひとつ目は、SNSの普及により、他人の情報が密に入ってくるようになってきたこと。私たちよりも上の世代は年に1回、年賀状で知人の近況を知るというパターンが多かったそうですが、この情報化社会に生きる私たちは、SNS上で常に年賀状のやり取りをしているようなもの。毎日のように誰かのニュースを目にする分、周囲と比較する頻度も増えてしまいます。

ふたつ目は、人生の選択肢が一気に多様化したこと。幸せや成功の形はひとつじゃない、という理解が広まり、今度は『自分らしさを見つけよう』と言われるようになりました。ですが、その選択の自由さが逆にプレッシャーになってしまうのです。例えば、せっかく頑張って大企業に入っても、転職や独立をして成功した人が賞賛されて、『本当にこのままでいいんだっけ?』と考えてしまったり、人と違うキャリアを歩んで自己実現を果たす願望はあっても、キャリア以外のライフコースで友達に後れを取ることに焦ってしまったり……。自分の想像を超えた、多種多様な選択肢が示されることによって『自分の行く道はベストな正解ではないのかもしれない』と気持ちが揺らいでしまうのは、人生の選択肢が多様化してきたからこその功罪のように思います」

30歳を目前に立ちはだかった見えない壁
アラサーの悩みに切り込む一冊

ジェラシーくるみ『そろそろいい歳というけれど』(主婦の友社)
そろそろ人生の進捗がほしくなってきたアラサーのための一冊。恋愛、婚活、キャリア、子ども、不妊治療、転職、お金、美容など31の「決断」と「選択」についてまとめた生々しいエッセイ。

ジェラシーくるみさんがクォーターライフクライシスを知ったきっかけは、アラサー真っ盛りの頃。著書『そろそろいい歳というけれど』の執筆を開始したときのことでした。

「数年前まで、SNS上で同年代のフォロワーから寄せられる相談は、恋愛に関するものが大半でした。ですが、ここ最近でその様子が一変したのです。今の居心地の良い職場を飛び出して年収アップのために転職しようか迷っている人、彼氏の駐在が決まって自分のキャリアを諦めざるを得なかった人、恋愛や結婚には興味はないけど、子どもが欲しくなったときのために卵子凍結を検討している人など、キャリアや健康、実家問題などの様々な事情が絡み合った悩みが出てくるようになりました。つまり、私もフォロワーも同じだけ年を重ねていて、悩みの質も徐々に変わってきているんです」

ジェラシーくるみさんも、当時は“自分らしさ”が何なのかがわからず、キャリアに悩んだり、周りと比較して苦しくなったりしたそう。

「でも、いろいろな人の話を聞くうちに、こうした悩みの数々は、もうすぐ30代に差し掛かる私たちだからこそ直面する問題なのだと気づきました。同年代がほぼ集中的に抱えているこの現象について、もう少し深掘りしてまとめてみたいと思い、この本を書き始めました」

本書は、クォーターライフクライシスの渦中にいるアラサー女性のリアルな悩みに、鋭い視点で切り込んだエッセイ。発表後は、やはり同年代の読者からの反響が大きかったといいます。

「モヤモヤが言語化されてすっきりした、悩みを一つひとつ分解して考えられるようになった、という声を多くいただきました。意外だったのは、『あまり友達に言えないような話も書いてくれてありがとう』という感想です。本の中で取り上げた話題は、私の中ではどれも普段から友達と気軽に話すようなネタだったのですが、こうした悩みや焦りが相手にどう思われるかが不安で友達に言えない、という人も多いようですね。お互いのデリケートな部分に触れることにもなりますし。悩みを抱えて一人で咀嚼している段階の人たちが、女子会で話している感覚でこの本を読み、自分の悩みを整理してもやもやの解消の糸口を見つけられるようになればいいなと思っています」

クォーターライフクライシスから脱却するための3箇条

クォーターライフクライシスは、同年代のほとんどが一度は通る道。しかしそうは言っても、なかなか悩みは尽きません。クォーターライフクライシスに向き合い、抜け出すための考え方やセルフケアについて、引き続き、ジェラシーくるみさんに伺います。

1.まずは自分の気持ちや願望を客観的に見て整理してみる

「周りのライフコースの変化を横目に見ていると、焦りが先行するあまり、自分の現在地や望む将来が見えなくなってしまいます。そんなときは、まずは一旦気負いせずに頭を柔らかくして、思考の整理を行いましょう。人と話してみるのも良いと思います。
その後、自分の中でやりたいことをひとつだけ定めてみて、期間を決めて行動に移してみましょう。『この半年はキャリアのことだけ考えて仕事に集中しよう』『何歳まで婚活して、駄目だったらそのときまた考えよう』というように、“自分、これ頑張りますキャンペーン”の期間を設けて、自分が自分のプロジェクトマネージャーになったような感覚で進めてみてください」

2.願望に優先順位をつけて取捨選択してみる

「20代も半ばになると自己理解が深まり、自分の好きなこと、やりたいこと、欲しいものは大体わかってきます。ただ、その中で優先順位をつけたり、不要なものを切り捨てて手放したりすることはすごく難しいはずです。趣味もキャリアも大事、でも早く結婚も出産もしないと……というように、『全部欲しいマン』になってしまうと、手に入らないものがあったときに苦しくなってしまいます。
ですので、本当に欲しいものを見極めるのではなく、『手放していいもの』を決めていきましょう。一度周りのノイズをシャットアウトして、これは本当に欲しいものなのか、なぜ欲しいのか、理由を考えてみると、『これを失くしたら自分が自分じゃいられなくなるけど、後の全部はマストではない』と、取捨選択ができるようになります。そうして何かを手放すことを決められたら、自分の中でも踏ん切りがついて、クォーターライフクライシスから解放されるはずです」

3.ときには自分と距離を置くことも大事

「もしそれでも悩みから抜け出せない場合は、『自分自身から強制的に距離を置く』ことを実践しましょう。一旦考えることを辞めて、1人で旅行に行ったり、普段読まない本を読んだり、昔の同級生に久しぶりに連絡して会ってみるなど、新しい刺激を受けて自分を無理やりにでも更新していく。一度自分をリセットして、過去の悩んでいた自分を別視点から見つめ直すきっかけを得てから、改めて将来について考えて行動しても遅くないはずです。
距離を置いてみた結果、『今は何も行動しない』という選択を取ることもありだと思います。ここまで必死に頑張ったから半年は何も考えずに怠けよう、好きなものを食べて、週末はネットフリックスを見てダラダラ過ごそう、というのも立派な選択のひとつです」

悩めるアラサー必見
幸せをつかむ行動のヒント

最後に、「恋愛・結婚」「キャリア」「将来設計」の3つについて、ジェラシーくるみさんからアドバイスをいただきました。

【恋愛・結婚編】相手にばかり期待せず、自分の意志を強く持とう

「私は常々、恋愛においてはいい子ちゃんにならない、気が強い女性が勝つと思っています。体感ですが、上手くいっているカップルの女性は、尊厳を傷つけられたり、自分の考えや願望を否定されたりしたときに、相手に対してしっかり「NO」を表明できるんです。それができない人は、いつまで経っても振り回されて、最終的には相手のために自分のライフプラン、キャリアプランを捻じ曲げることになってしまう。『本当はこうしたくなかったけど、彼のために』という姿勢でいても、幸せにはなれません。
また、相手に対して不満に思うことがあっても、『結婚したら変わるかもしれない』と楽観的に考えてしまいがち。ですが、人の考えや行動はそう簡単に変わりません。相手の変化に期待しないこと、相手をコントロールしようとしないことが大切です」

【キャリア編】いったん、目の前の仕事にコツコツ取り組んでみよう

「華やかなキャリアを歩んでいる人や転職・独立した人を羨ましく思って、気持ちが揺らいでしまうこともあるはず。ですが、少しでも今の仕事が好きだと思うのであれば、一度それにちゃんとフォーカスしてから考えるようにしましょう。
もちろん収入や人間関係、職場環境など、どうしても我慢できないことがあるなら、思い切って転職や独立を考えても良いと思います。でも、隣の芝生が青く見える程度だったら、まずは一旦雑念を捨てて、目の前にある仕事だけに集中して取り組んでみる。そうして頑張っていれば、異動だったり、転職のオファーだったり、必ず転機はやって来ます。自分の選択を信じて、プライドを持って目の前の仕事に取り組んできた人なら、後々成果を出せるはずです」

【将来設計編】一度自分の原点に立ち返って、納得できる選択をしてみよう

「何か重大な決断をしなくてはならないときは、後悔することを考えるより、自分が納得できる道を選択できるかどうかが大事だと思います。自分の根本に立ち返って考え出した結論なら、もし10年後に後悔したとしても『あのとき、頭から湯気が出るほど考えて結論を出したことだから』と納得できることが多いです。
それでも決断ができない場合は、今の自分が嫌悪感を抱かない方に進むのが良いかと思います。胸がざわざわするような違和感や、自分の心の声に耳を傾けて、何か嫌だな、と少しでも思うのだったら、その気持ちに正直になってみてください。
それから、人生のロールモデルを無理に見つけようとしないようにしましょう。年齢が10歳違うとその分考え方も変わりますし、人によって生活環境も異なるので、生き方を完全に真似することは難しいです。もしロールモデルが欲しいなら、仕事はあの人、趣味はあの人が理想的だな、と一部分だけ参考にする程度に留めるのが良いと思います」

Profile

コラムニスト/ジェラシーくるみ

“しがない”会社員コラムニスト。著書に『恋愛の方程式って東大入試よりムズい』『そろそろいい歳というけれど』(ともに主婦の友社)があり、その他多くのメディアで連載中。Twitterのフォロワー数は約6万人超。

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取材・文=粟屋芽衣(Playce)