春の風物詩となっている花粉症。毎年、くしゃみや鼻水、鼻づまりに悩む人も多いのではないでしょうか。そんな症状の軽減に効果的なのが「鼻うがい」。鼻粘膜に付着した花粉や細菌、ウイルスを洗い流すことで、花粉症の症状緩和が期待されます。
しかし鼻に水が入ることへの不安から、実践をためらっている人もいるでしょう。そこで今回は、鼻うがい初心者に向けて鼻うがいの正しい知識や、安心して始められる方法、気をつけるべきポイントを、「池袋ながとも耳鼻咽喉科」院長の耳鼻咽喉科専門医、長友孝文先生に教えていただきました。
CONTENTS
花粉症の観点から見る
「鼻うがい」の効果とは?

花粉症とは植物の花粉により、アレルギー症状が引き起こされる病気のこと。マスクを着用することで花粉を避ける、手洗いや洗顔などで家の中に花粉を持ち込まないようにするなどの予防策とともに、この時季に注目が高まるのが「鼻うがい」です。どのようなメリットがあるのでしょうか。
「『鼻うがい』をすることで、鼻の中に入った花粉を洗い流すことができます。花粉症はそのまま放置しておくと、花粉に対するアレルギー反応が積み重なって、くしゃみや鼻みず、鼻づまりなどの症状が悪化してしまいます。
『鼻うがい』はそうしたアレルギー反応を少しでも抑えられたり、緩和できたりするところにメリットがあるように思います」(池袋ながとも耳鼻咽喉科 院長・長友孝文先生、以下同)

さらに長友先生は、花粉症が原因で起こる二次的な病気も予防できるといいます。
「花粉症によって鼻がぐずぐずと詰まると、鼻の中で細菌やウイルスが増殖しやすくなります。花粉症が原因で、鼻風邪や副鼻腔炎(蓄膿症)を発症することもあるんです。
『鼻うがい』をおこなうことで花粉だけでなく、粘り気のある鼻水や細菌、ウイルスまで洗い流せるため、そういった二次的な病気も予防できると思います」
洗う場所が異なる!
「口うがい」と「鼻うがい」の違い
「うがい」と聞くと、一般的な「口うがい」を思い浮かべる人も多いでしょう。「口うがい」と「鼻うがい」には、どのような違いがあるのでしょうか。
「それぞれ洗う場所がまったく異なります。『口うがい』では、口の中と口の奥である中咽頭を洗っています。一方、『鼻うがい』で洗えるのは、鼻腔と上咽頭です。
花粉や細菌、ウイルスは上咽頭に付着しやすいこともあり、花粉症予防に『鼻うがい』は効果的だと思います」

最近は、子どもから高齢者まで、さまざまな年代の方が花粉症に悩んでいます。「鼻うがい」に対象年齢はあるのでしょうか。
「厳密にいうと対象年齢はないのですが、現実的には小学2、3年生くらいからだと思います。というのも、『鼻うがい』は水を用いるため、終了後は鼻の中に少し水がたまります。その水を勢いよくすすると、水が耳まで届いて中耳炎を引き起こしやすくなるんですね。
そういったことを反射的にやらない年齢、注意事項をよく理解できる年齢から始めるのがおすすめです」
声を出しながらおこなうのがコツ!
医師が教える正しい「鼻うがい」の方法
では、長友先生に正しい「鼻うがい」の方法を教えていただきましょう。まったく初めての人でも、お湯の温度や塩分濃度、ボトルを押す力などに気をつければ問題なくできます。なお中耳炎のときは、症状が悪化する可能性もあるためやめておきましょう。
【用意するもの】

・鼻うがい器具
「市販の鼻うがい器具を使うと簡単にできます。大人が鼻の中をしっかりと洗い流すのであれば、ボトルの容量は、200mlはほしいところ。ボトルの押し具合によりますが、片鼻につき1~2押し程度で終わります。さまざまな器具が発売されていますが、鼻に当てるノズルに大きな違いはありません。使い終わった器具は洗って乾かしましょう。食器用洗剤で洗うこともできます」
・人肌程度のお湯
「鼻への刺激を少なくするために、36~37℃程度のお湯を使いましょう。水道水を電子レンジで加熱して使ってもいいでしょう。日本にいる場合、もし鼻に痛みを感じないのであれば、きれいな水道水をそのまま使っても問題ありません」
・生理用食塩水の素、または塩
「鼻うがい器具に付属している生理用食塩水の素か、精製された塩(食塩、食卓塩)を使ってください。1回使い切りタイプの生理用食塩水の素は、なくなればまとめて購入することもできます」
[生理用食塩水の素を使う場合]
鼻うがい器具に、人肌程度のお湯を入れてから生理用食塩水の素を入れ、よく器具を振って溶かします。
[塩を使う場合]
人間の体液の塩分濃度は約0.9%。これと同じ濃度の生理食塩水を使うことで、鼻への刺激を軽減できます。
1.清潔な容器と、煮沸したお湯(37~40℃程度)500mlを準備します
2.食塩4.5g(小さじ1杯弱)をお湯に溶かして混ぜます
3.出来上がった生理用食塩水を、器具に注ぎます
生理食塩水の詳しい作り方は、長友先生が院長を務めるながとも耳鼻咽喉科の公式Webサイトにも掲載されています。
【鼻うがいの方法】
鼻うがい器具の準備が整ったら、いざ実践。あらかじめ鼻をかいでからおこないましょう。

1.片方の鼻腔に器具のノズルをしっかりと押し当て、うがいする鼻をやや下に向ける。口は軽く開けておく
2.「えー」と声を出しながらボトルを押す。片側の鼻腔からお湯が流れ出せばOK
3.同様に、反対側の鼻もおこなう
4.終わったら片鼻ずつ、やさしく鼻をかむ
「鼻うがい後に鼻をすすると耳が痛くなりやすいため、すすらないように注意してください」
【痛みを感じにくくするコツ】
・必ず声を出しながらおこないましょう
「声を出すと耳と鼻をつないでいる耳管が閉じるため、お湯が耳に届きにくくなります。また、声を出す場所である声帯も閉じるので、誤嚥の発生を抑制できます」
・ボトルを押す力に注意を払いましょう
「ボトルを勢いよく押してお湯を一気に鼻へ入れると痛くなりますが、押す力が弱すぎると入れたお湯が同じ鼻から出てきてしまいます」
失敗したくない方、必見!
初心者さんの「鼻うがい」Q&A

最後に、「鼻うがい」についてよくある疑問をQ&A形式でご紹介します。
Q. 1日のうち、どのタイミングで「鼻うがい」をするのがいいですか?
A. 外出から帰って来た後や、入浴時、就寝前などのタイミングがおすすめです
「“モーニングアタック”といって、花粉症の発作は朝の寝起きに生じやすいので、夜に『鼻うがい』をしておくのがおすすめです。症状がひどい場合は、帰宅後に1回、入浴時や就寝前に1~2回おこなうのはいかがでしょうか。
『鼻うがい』をおこなった後は、頭を傾けると鼻の中に残った水が出てくる場合があるので、出勤に向けて慌ただしくしている朝は、少しうっとうしく感じられるかもしれません。その点でも夜の方がおすすめです」
Q. 「鼻うがい」は、1日何回おこなうのがいいですか?
A. 1日2~3回がいいと思います
「たとえばオフィス勤務の方は、会社ではおこないにくいですよね。そう考えると1日2回が現実的な回数かと思います。症状がひどい方は、毎日『鼻うがい』をおこなってもいいでしょう。また花粉が飛び始めたばかりの頃は、とくに症状は感じないけど花粉を吸っている時期でもあります。医学的なエビデンスはありませんが、そのような時期から『鼻うがい』をおこなうのも効果があるように思います。
なお、『鼻うがい』は、手洗いや歯磨きのように必ずやらなければならないものではないと私は考えています。何も症状がないのであれば無理してやる必要はなく、毎日『鼻うがい』をおこなえば健康増進につながるというわけではありません」
Q. 「鼻うがい」を試したことのない方に、アドバイスをいただけますか?
A 適切な塩分濃度や温度を守り、ボトルを押す力に気をつけて、必ず声を出しながらおこないましょう
「一番の失敗は、『鼻うがい』のお湯が耳に入ることでしょう。そうならないためにも必ず『えー』と声を出しながらおこないましょう。
とはいえ、どのような方法でおこなっても、鼻の中に液体が入ってくる感覚は残り、人によってはツンとした痛みを覚えるかもしれません。特有の感覚を和らげるためにも、この記事に書かれた方法を守っておこなってみてください。
ただし、中耳炎のときは、症状が悪化する可能性もあるため、おこなわないでくださいね」
Profile
池袋ながとも耳鼻咽喉科 院長 / 長友孝文
主に大学病院での勤務を経て、2022年に池袋ながとも耳鼻咽喉科を開業。大学とほぼ同じレベルの電子内視鏡やCT、エコーなどを導入しており、患者さんに検査画像をご覧いただきながらわかりやすい説明をすることで、身体の状態を理解いただくように努めている。日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会耳鼻咽喉科専門医・補聴器相談医。
HP
取材・文=星野祐子(Playce) 撮影=鈴木謙介