ここ数年、都市部から地方に移り住む人が増え、都市圏に住む20代の4人に1人が地方移住に強い興味があると答えています(平成29年度国土交通白書より)。また、移住はしなくても、ふるさと納税を通して故郷以外の地域ともかかわりを持ったり、ご当地キャラクターやB級グルメの流行があったりと、地方への関心は高まりつつあるようです。
そんななか、全国各地で製造されている“地方発信のコスメ”は、地方創生の一端を担い、いま少しずつ注目を集めはじめています。そのコスメに「社会派化粧品」と名づけ取材してきたジャーナリストの萩原健太郎さんに、地方発コスメの魅力と、地方が抱える社会問題について聞きました。
その地域ならではのものづくり
萩原さんが『社会派化粧品』という本を出版したのは、2019年5月のこと。北海道から沖縄まで17社のコスメメーカーを取材し、各メーカーのブランドヒストリーをまとめました。
「その土地の特産品や有機栽培のもの、環境に配慮した素材などを厳選して作り、社会貢献につながっている化粧品を、“社会派化粧品”と名づけました。作り手の思いが詰まった、顔が見えるコスメは、エンドユーザーのことを考えるだけでなく、地方が抱える社会問題にも立ち向かうソーシャルプロダクツといえます」(ジャーナリスト・萩原健太郎さん、以下同)
「社会派化粧品 social cosmetics」
萩原健太郎/キラジェンヌ
地域ごとの問題は社会全体が抱える問題につながっている
社会派化粧品の魅力は、国産であることや素材のよさはもちろんのこと、いま日本が抱えている社会問題への意識を持てることです。
「いずれの場合も、もともと化粧品工場やメーカーがあったわけではありません。移住者の手によって、あるいは農家の後継者やその土地に住んでいた人たちが、農業のあり方や人口減少といったその地域が抱える課題や、福祉や障がい者雇用などについて危機感を感じて立ち上げたプロジェクトです。そして実は、その土地それぞれの問題のように見えますが、それは社会全体の問題でもあります。
今回の書籍や、それぞれメーカーのホームページでも、そのブランドが生まれるまでにどのようなことがあったのか、どんなふうにして生産されるようになったのか紹介しているので、まずは知っていただきたいです。知れば、ただ商品を買うだけでなく、買うことで社会問題に取り組める、意味のある買い物になる。“社会派化粧品”には、そういう人と人とのつながりを感じられる魅力があります」
さまざまな社会派化粧品
それでは実際に、萩原さんが取材した社会派化粧品をつくるコスメメーカーが、どのようなストーリーではじまったのか、4社の例を見ていきましょう。
【愛媛県西予市】有機栽培の「無茶々園」発のブランド
無農薬食品に関心のある人には聞き馴染みのある、みかん農家の無茶々園は、40年前、愛媛県西予市の農家で育った後継者3人が立ち上げた有機栽培ブランドです。柑橘を使ったジュースやジャムなどの加工品を製造しながらふと、捨ててしまう柑橘の皮で何かつくれないか考えたところから、化粧品の開発がはじまります。
「エッセンシャルオイルの製造からはじまり、今では基礎化粧品のほかにバスソルトやハンドクリーム、バームなどもあり、都心の雑貨店でもよく見かけるようになりました。環境に配慮し、石油由来の添加物を使わないことや、きれいな黄色と男の子のイラストが目をひくパッケージデザインで、瞬く間に人気となりました」
有機農業は手間がかかり、効率化を図ることが難しいため、新しい雇用をつくったり福祉事業を広げたりする余力を生むのには難しさがあります。
「そのぶん、加工品やコスメなどの商品で事業を拡大し、地域の活性化につながるような企業努力を重ねた結果、県外からの移住者も増えたそうです。現在yaetocoを担当する岩下さんも県外からの移住者ですから、雇用場所をつくることが、地方の企業にとって重要な役割であることがわかります」
yaetoco http://yaetoco.jp/
続いて紹介するのは、北海道の“林業の町”で生まれた社会派化粧品など3ブランドです。