想像力が豊かすぎるがゆえに、コミュニケーションエラーを起こしてしまう日本人
日本に住んでいると、健常者と障がい者の間には何か見えない壁があるような気がしてきます。この壁とは一体何なのでしょうか?
海外経験もある山本さんにその見えない壁について伺ってみると、「日本と海外では、困っていそうな相手に手を差し伸べるスピードが全然違う」という実情を教えてくれました。
「さっきの階段でもそうですけど、海外だと車を降りた時点で近くにいた人が『この階は階段だよ~』とか、階段前で困っていたら『どうしたの?』って向こうから声かけてくれるんです。日本だと、誰かに声をかけたくてもスマホを見ていたり、下を向いていたり、なんだか話しかけにくいムードが漂いますよね(笑)。
この見えない壁を作り出しているのは、日本人の気遣い文化だと思うんです。『逆に迷惑になっちゃうな~』『失礼があったら悪いから』と、コミュニケーションする前に“できない”を想像して、勝手にバイアスかけちゃっているんですよね。実際にコミュニケーションしてみて、できないなら、できないで全然いいんです。これは障がい者も健常者も関係なく、困っていそうな人がいたら余計なことを考えずにまず行動しちゃう、それが大事だと思います」
取材陣も、山本さんを取材するにあたって「車いすだから、失礼な質問をしてはいけない」と余計なバイアスをかけて、取材準備していたことに気がつきました。そんな思いを山本さんにお伝えすると、こんな答えが返ってきました。
「ご挨拶した後、『失礼な質問しちゃうかもしれませんが……』っておっしゃいましたよね? それも障がい者がよく言われるフレーズなんですよ。障がい者でも健常者でも、言っちゃいけないことは同じです。もし、失礼なことを言ったら訂正すればいいし、わからないことは聞いてください。相手を思いやることは素敵なことだし、この日本らしさは私も大好きです。その一方で、気遣いによるバイアスで、困っている人を増やしちゃう場合もあるので、日本のいいところを残しながら、壁をなくせるといいですよね」
山本さんに気遣いしすぎた結果、無意識に出ていた言葉でした。う~ん、なんとかこのバイアスを取る方法を知りたい! 心理学も学ばれていた山本さん、ヒントをください!
「一番簡単な方法は、車いすの飲み友達を作ることですね。身近に障がい者がいないっていうのがこの社会の課題でもあります。障がい者がもっと社会に出てくれば、今のようなバイアスは取れてくるのではないでしょうか? でも『よ~し! 車いすの友達作るぞ!』っていうのはちょっと違っていて(笑)、ここに行けば必ず出会えるって場所はないので、職場とかサークル活動とか、自分の暮らしの延長線上に車いすの友達が作れる社会になれるようになって欲しいですよね」
誰もが「違いがある人」で、自分だけが普通と思うことから変えていきたいですね。私自身にも、いつどんなタイミングで、自分の体に変化が起きるかは分かりません。変化が起こったとしても、山本さんのように笑顔で楽しい暮らしをしたい、そんなことを感じました。
講演なども積極的に行なっている山本さんですが、今後はプレシニア世代に向けて「老後に車いすで生活することになっても、こんなに自由で楽しいよ!」と伝えていきたいと教えてくれました。企業や教育機関に向けて、オンラインでも講演を実施されているので、気になる人はこちらをご覧ください。
また、アスリートとしての山本さんも、2024年にパリで開催される次のパラリンピックに向けて、さまざまな大会に出場予定。1月29日には、YouTubeでも生配信される第22回全日本パラ・パワーリフティング選手権大会に登場します。日本新記録である63kgを超え自己ベスト更新なるか、画面越しからたくさん応援したいと思います。がんばれ! 山本さん!!
Profile
パラパワーリフティング選手 / 山本恵理
1983年5月17日兵庫県生まれ。先天性の二分脊椎症により生まれつき足が不自由に。女子55Kg級日本記録保持者。講演活動も積極的に行っている。
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