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日本の農業を守る!女性ハンターが語る、
ジビエと害獣駆除に関する3つの現実

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高たんぱく低カロリーで、女性の間でも人気が高まっているジビエ。野生の鳥獣を精肉にして食べるおしゃれなグルメ……というイメージですが、なかには駆除対象の肉を使ったジビエもあることを知っていますか? 現在、日本各地で自然環境や農家を守るために、イノシシやシカを狩る害獣駆除が実施されています。しかし、食べ手不足でそのまま廃棄されてしまうことも。

消費者にできることは一体何なのか? 狩猟を通じてのSDGsや地域活性化、女性や若手ハンターの活躍の場を提供している「一般社団法人Japan Hunter Girls(以下、JHG)」代表の高野恵理子さんに教えていただきました。

美容成分豊富でヘルシー。
“グルメ”としてのジビエの魅力

ジビエ(gibier)とはフランス語で「狩猟により手に入れた野生鳥獣の肉」の意味。最近では、フレンチやイタリアンレストランを中心に取り扱いが増え、専門店も生まれています。テレビや雑誌、SNSでもおしゃれなジビエ料理が紹介され、女性たちの関心も高まっています。

何と言っても、野山を駆けまわったシカやイノシシの肉は、ヘルシーで女性にうれしい成分が豊富。シカ肉は、牛肉と比べると脂質が1/6でカロリーが半分以下。イノシシ肉は豚肉と比べると鉄分が約4倍、ビタミンB12が約3倍もあるといわれています(100gあたり)。

「ジビエの一番の魅力は、お肉の味が濃くて、野生の力強さを感じられるところです。私たちが普段食べている牛や豚、鳥といった畜産食品は、品質管理が徹底されているはずなので、十分なエサを与えられています。場合によっては病気にならないようにワクチンを摂取するかもしれません。一方、野生で生きるシカやイノシシは、手厚い管理は受けられない過酷な環境で生きています。そんななかで生き延びた個体がもつ“生きる力”は強いものです。この力が、お肉の味にしっかり出ていると感じます」(一般社団法人Japan Hunter Girls 代表・高野恵理子さん、以下同)

ジビエを楽しむなら知っておきたい3つの現実

1. ジビエ=狩猟肉ではない!?駆除肉を使ったジビエが存在している

グルメ食材としてジビエが知られていく一方で、SDGsの観点でジビエを普及させようという取り組みも行われています。

「ジビエとなる肉には、大きく分けると2種類のルートがあります。一つは、最初からジビエ料理の食材として狩られるルート。もう一つは、野山に増えすぎてしまったシカやイノシシの生息頭数を管理するために狩られるルートで、いわゆる“害獣”と呼ばれる鳥獣たちを対象にした駆除肉です」

そもそも野生鳥獣が駆除されるのはなぜなのでしょうか? その背景には、自然や農業への深刻な被害があるといいます。

「増えすぎたシカやイノシシによって、生態系や生物多様性の破壊が進み、農家への被害が発生しているのです。
豊かな自然に恵まれた地域は、それだけ野生鳥獣も住みやすい場所です。また、農家の担い手不足、農業従事者の高齢化にともない耕作放棄地も増え、生息頭数の増加に拍車をかけているという側面もあります。そんな中で、農家の人が育てた作物を食い荒らす被害が多発。
農林水産省によれば、令和3年度の野生鳥獣による全国の農作物被害は約155億円と前年度に比べると約5.9憶円減ったものの、いまだ多い状況です。なかでも、シカの被害は4.6億円分増加しています。多くのシカが樹皮をエサにすることで樹木が枯れ、さらに樹木の生育を助ける下草を食べつくすことで、山のバランスが失われている地域もあります」

2. 有効に消費される駆除肉はたった17%

地域の問題を解決するべく駆除された動物は、ジビエ肉としてどのように消費者の元へ届くのか、気になるところ。高野さんは、流通にのるまでには、さまざまな課題や手間が発生していると語ります。

「私たちJHGの活動は、有害駆除や管理捕獲で得た動物の利活用を目的としています。無機質に聞こえるかもしれませんが、有害駆除で捕獲された命を山の恵みとして、流通させたいというメンバーの思いがあってこその取り組みです。
捕獲後、食品の安全基準を満たしたお肉は、食肉処理場で生肉に変えてスーパーやレストランなどに卸しています。一方で、駆除の過程で鉄砲で撃たれたり猟犬に噛まれたりしているうちに、基準が満たないお肉になる場合も。そういったお肉はメンバー同士で自家消費したり、JHGのジビエイベントで試食として振る舞ったりして活用中です」

こう聞くと、上手く利活用できているように感じますが、ジビエ利活用は全体のおよそ17%程度といわれており、課題は山ほどあるのだとか。

「まず、スーパーやレストランへ卸す場合。消費者へ安定的に供給するためには、同じ品質と同じ部位であることが要求されます。しかし、有害駆除はグルメ肉を調達するための狩りではないため、個体を選ぶことはできません。同じハンターが撃つとも限らないので、銃弾の当たり方もまちまちです。そんな事情を分かったうえで発注するレストランやスーパーは多くはありません。そうなると、流通ルートも限られ、結果的に消費者の元に届きにくい状況になっています。

また、生肉になるまでのコストがかかりすぎて、販売価格が高額になってしまう問題もあります。捕獲した個体を肉にする過程で出た皮や骨、内蔵などの部位は、利活用しなければ産業廃棄物として費用をかけて処理しなければなりません。これでは、生肉を一生懸命売っても、売り上げがマイナスになってしまいます。肉以外の部分も余すことなく活用するのが課題です。

次に、基準が満たないお肉は、食べ手不足で廃棄されてしまうことも。駆除肉の認知を高めていく必要があります。

最後に、ハンターの高齢化が進んでいることも無視できません。平均年齢が60歳越えの地域も多く、有害駆除をした後の個体を運び出せずに野山に埋めざるを得ない場合もあります。JHGでは、獲った命を生かすためにも、若手ハンターの育成に力を入れています。狩猟者が増えれば、里山の保全にも繋がり、豊かな森林を未来へ残すことも可能でしょう」

3. 駆除肉を食べることで、環境保護に貢献できる

ジビエには、魅力的なグルメとしての側面がある一方、駆除肉を活用することで、地域の課題を解決するコンテンツとしての役割もあることが分かりました。では、わたしたちが駆除肉の利活用に協力したいと思ったら、どのような手段があるのでしょうか?

「一番簡単な方法は、駆除肉を活用したレストランに食べに行くことです。駆除肉を扱っているレストランを探し出すには、ネットの力を借りるのが有効。「駆除肉 ジビエ レストラン」などの検索ワードで調べてみてください。

次に、駆除肉を使ったジビエを振る舞ってくれるイベントに参加すること。JHGでも、一般の方が参加できるジビエバーベキューなどのイベントを定期的に開催しています。

最後に、駆除肉を使った加工品を購入すること。道の駅や農協で販売されていることも。私たちもシカの水煮缶を神奈川県の足柄市内の温泉施設や飲食店に卸しています。加工品なら、調理も簡単で取り入れやすいはずなのでおすすめです。駆除肉を購入して、自宅でジビエを楽しむのもいいでしょう。駆除肉はインターネットで購入が可能です。

駆除肉を選んで消費するということは、命の再利用だけでなく、生物の多様性の損失を阻止しつつ、鳥獣被害から農家を守ることにも貢献します。SDGsでいうところの目標15『陸の豊かさも守ろう』に当たります」

駆除肉を手に入れられたら、自身で調理してみましょう。最後におすすめのレシピを紹介します。

現役ハンターがおすすめする
自宅で作れるジビエレシピ

JHGでは「ジビエをもっと日常の食卓へ」をモットーに、女性ならではの視点で考えられた簡単でおいしいジビエレシピを提案。どれも肉としての臭みは抑えながら野生味と旨みを生かしたレシピです。

■ 鹿肉そぼろうどん

高タンパク、低脂肪の鹿肉ひき肉で。さっぱりとしてとってもおいしい和風レシピ。

「コツは特になしの簡単な調理工程で気軽に挑戦。ショウガが臭み消しになって、クセなく食べられます。夏バテ時の食欲増進メニューとしても!」

【材料(2人分)】

・鹿肉ひき肉……100g
・うどん……2束
・めんつゆ(つけつゆ)……120cc
・ショウガチューブ……2cm
・酒……小さじ1
・砂糖……小さじ1

・醤油……小さじ1
・青ネギ……1本
・サラダ油……適量

【作り方】

1.フライパンに油を入れてショウガを入れ、香りが出たら挽肉を炒める。

2.肉に火が通ったら調味料を加えて水分がなくなるまで炒める。

3.茹でた麺につゆを絡め、炒めたひき肉とネギを盛り付けて完成。

「混ぜてから召し上がってください」

■ プルド鹿肉サンド

アメリカでは、バーベキュー料理の定番といえばプルドポーク。豚の塊肉をホロホロになるまで火を通してから、細かくほぐした料理です。バーベキューソースを絡めていただきましょう。

「豚肉よりカロリー半分の鹿肉を代用することでヘルシーなサンドを目指します。通常、ホロホロにするまでに長時間かかりますが、当レシピでは鹿肉水煮缶を活用。時短でプルド肉を作れちゃいます。スパイスをたっぷり使った本格的な味わいです」

【材料(2人分)】

・鹿肉水煮缶……1缶
・サラダ油……大さじ1
・にんにくみじん……1かけ
・玉ねぎみじん……大さじ3/2

〈スパイス〉
・クミンパウダー……小さじ1\4
・ナツメグパウダー……小さじ1/4
・チリパウダー……小さじ1/4
・塩……小さじ1/2
・胡椒……少々

・お好みのBBQソース……スプーン1杯
・レタス……適量
・レッドオニオン……適量
・マスタード……大さじ1
・バター……少々
・バゲット……食べる分

【作り方】

1.フライパンに油、玉ねぎ、にんにくを入れて炒め、香りを出す。

2.鹿肉水煮缶の肉を加え、肉に味がつくようにスパイスすべてをまぶして炒める。

3.肉にスパイスを絡めるように炒める。

4.水煮缶の煮汁も加えて少し水分を飛ばすように煮詰める。

5.肉をほぐして、残った煮汁に絡める。

6.バゲットにバターとマスタードをぬり、レタスやオニオンなど好みの野菜とプルド鹿肉、BBQソースを挟む。

「BBQソースはケチャップとウスターソースを混ぜるだけでもOK。煮詰めた肉汁がおいしいソースになっているので、それだけでも十分味わい深いですよ」

北海道で66頭もの牛を襲い地域を震撼させてきたクマ「OSO18」がハンターによって駆除されたのち、東京都内のジビエ専門店で提供されたほかネット通販でも販売されたという一件が話題になったばかり。環境の保全と、私たちが普段口にしている野菜や果物、お肉の安定的な供給の背景にはときに駆除される存在があり、またそれを無駄にしないために、食肉として流通させるべく活動する人たちがいます。機会があればジビエで食することから、貢献してみませんか。

Profile

Japan Hunter Girls 代表理事 / 高野 恵理子

飼っていた犬の健康面で鹿肉が良いことを知り、愛する犬と共にできる狩猟の道を選び、その奥深さに惹かれ南足柄に移住。持ち前のバイタリティーと狩猟への意欲的な取り組みから、若くして猟隊の役員と、多数の猟犬を操り勢子を勤めている。狩猟の現状を見つめる中で、女性や若い世代の狩猟者の呼び込みと育成が必須だと感じ、2018年に神奈川県の女性狩猟者のグループを結成。2023年6月にジビエ処理加工施設KIWOSUKUの稼働を始める。2022年に設立した一般社団法人 木救(林業)と狩猟による一貫した森林保全を目指した取り組みを行いながら狩猟見学ツアーや林業体験などの活動も行っている。第一種銃猟免許、第一種狩猟免状所持。狩猟歴は2014年から。使用銃はミロクMS2000-D フィールド銃(スラッグ銃身)。

 

取材・文=染谷 遥