さまざまな注目を集めている“地方”ですが、20年以上この地方と向き合い、「土のにおいがするメディア」として情報を発信し続けてきたのが、雑誌『TURNS』とそれを中心としたプロジェクト。雑誌のほか、宿泊付きの移住体験ツアーや、地方で活躍する人を東京に招いてのイベントや講演を通じ、ローカルに暮らす魅力を発信し続けています。
今回はプロデューサーの堀口正裕さんに、これまでとこれからの地方について、ノウハウを踏まえながらお話いただきました。聞き手となるのは、『TURNS』に惚れた! と語る“ブックセラピスト”の元木 忍さんです。
『TURNS』
880円/株式会社第一プログレス
農業や子育て、仕事といった地方に地に足をつけて暮らす人のリアルな声や、最近ではパラレルワークや他拠点居住による暮らし方、働き方のヒントが詰まった雑誌『TURNS』。最新刊のテーマは「地域資源×人 でつくる新しい仕事」で、これまでに38号刊行されている。
経験ゼロからのスタート!
広告代理店がつくる地方雑誌『TURNS』
元木 忍(以下、元木):今回は私も大好きな『TURNS』についてお話を伺えるということで、とても楽しみにしていたんです。この本に“出逢った”のは今年の2月でしたが、これからの生き方を導いてくれるような内容で、気がつけば何度も読み返していて、すっかり愛読書になっていました。
堀口正裕(以下、堀口):うれしいですね、ありがとうございます。『TURNS』を立ち上げたのは2012年です。私たちは2001年から『LiVES』という雑誌を発行してきて、『TURNS』の前身でもある『自休自足』という雑誌もそれと同時期に発売を始めました。
本業は広告代理店なので、雑誌の編集経験者もいませんでした。でも全員が営業的スタンスを持って「原価計算もできる編集者」になろう! とスタートさせ、自分たちの“思い”を大切にしながら「世の中のにニーズにマッチ」するメディアを運営しています。『TURNS』という名前には「Uターン、Iターン、Jターンのターン」と「折り返し地点としてのターン」と「次に行動を起こすのはあなたの番(your TURN)」、この3つの意味を込めています。
元木:そうだったのですね。20年近く、地方としっかり向き合ってこられたからこその説得力があるから、私もハマってしまったのでしょうね。
堀口:タイトルを『TURNS』と変え、ターゲットを中高年から20代〜40代を中心にした若者世代に変更したのは2012年6月からなのですが、東日本大震災を機に「この国のために何かできないか? 日本を元気にしたい!」という思いで創刊しました。今はいろいろな企業が「ローカルだ!」「地方創生だ!」と活気付いてますが、我々としては20年地方と向き合っており、ライフスタイルデザインカンパニーとして、現地の土のにおいとリアルな現状を紙面を通じてお伝えしてきたという自負があります。
また『TURNS』は、多くの方から“雑誌”というカテゴリで認識いただいていると思うのですが、雑誌というのはひとつのパーツにすぎません。毎週のようにイベントを行ったり、移住希望者と一緒に現地ツアーに出かけたり、企業と地域を繋いだ商品開発なんかも行っています。
元木:広告代理店という立場で雑誌を作っていると、少し宣伝っぽく感じてしまいそうですが、その“TURNSする”場所のイベントも含めて運営をしているんですね。
堀口:この前は、TURNSのターゲットと親和性の高いユーザーをもつ小売の大手企業と、「曲げわっぱ」の後継者を探すことを裏テーマに、30名規模のイベントを行ったんですが、なんと800名のキャンセル待ちが出たんです。ちゃんと集客して、注目を集めるという部分には、広告代理店のノウハウを活かしていますね。
でもそれだけではなく「なるべく現地に行く」ということを心がけていて、“観光”ではなく、移住先として暮らし方を検討できるような宿泊型ツアーも、定期的に開催しているんですよ。
元木:ビジネスとしてはもちろんですが、しっかりと地域の土のにおいも感じられるメディアにしているのはとても素晴らしいですね。堀口さんはたしか、自家菜園もおもちなんですよね? 畑仕事もやりながら、イベントで地方に行きながら、雑誌も作って……ととてもお忙しそうですが。
堀口:畑では、じゃがいもや里芋を育てたり、キウイやブドウなんかも。私と親戚の2名に加えて、我が家には合気道の道場があるんですが、教室の生徒さんやそのご家族といっしょに作業することもあります。
元木:畑や教えること・教わることを通じて、まずは小さな地域から関わることが、とても大切ですよね。
堀口:そうですね、地域といい意味で“しがらみ”を持つっていうのは大切だと感じています。
移住希望者と自治体とをつなぐ取り組みを進めながら、ご自身も“地域とのつながり”を体感しているという堀口さん。なんと地方からの人生相談まで、自分のことのように熱心に対応するのだといいます。