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観光客や移住者に“媚び”ずに地域資源を生かす「TURNS」が目指す、
これからの地方創生

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これからのキーワードは「well-being」

元木:移住者の思いがあっても、それだけでは何もできませんよね。まずはそこに住む人たちのニーズを、行政側がうまく汲み取ってから進めないとですね。実は、東京生まれ東京育ちの私も「移住」に少し興味があるんです。最近「田んぼ」と関わる機会が多くあり、普段何気なく口にしているお米は、農家さんが常に自然と向き合い、ご苦労を重ねて作られていることを知ることで、何も気づかず食べていた自分を恥じることがあります。まずは、自分でできることからチャレンジをしてみたいと思って、移住した人たちをチェックしています!

堀口:地方にいる人は大工じゃなくても家を建てちゃったり、なんでもできちゃう人多いんですよね。そういう人に惹かれて自分も移住するっていう方もいますよ。最近では、移住しなくても、何拠点か自分の住まいを持って、そこで繋がりを持って暮らす人も増えてきました。定住という選択だけじゃなくて、複数拠点の中のひとつに選ばれる地域になる努力っていうのも行政には求められていると思いますね。

元木:農業を軸に移住しようという方も多いと思うんですが、中には助成金だけを目的に始めちゃう人や、地域で真面目に第一次産業をしている生産者からお金を吸い取っている人がいたりと、正しいことをしている人たちが不利になることも聞くことがあります。本当に胸が痛くなりますね。でも、国からの助成金だけを頼りにしたお金の儲け方ではなくて、年間で400〜600万円の稼ぎが生み出せる農業を、地方でも必ずできる方法があると思っています。日本はもう少し第一次産業の仕事をリスペクトする時だ、とも感じます。

堀口:正しく使えば、助成金は本当に素晴らしい制度なんだけど、助成金がなくなったら職を失ってしまう人がゴマンといるのが現状なんですよね。これは地方創生の悪しき影だと思っています。お金って生きていく中では大切だけど、それだけを追求するのは違う。かといって、幸福だけを追求して、お金なんていらないというのも違う。
僕も会社の役員をやりながら数字と睨めっこして、でも一方で畑で野菜を育てたり、週末には地方にツアーに出かけたりお金だけではない価値にも触れ合っている。ある程度は自由にやらせてもらいながら、でも株式会社なのでやはり利益も追求していかなければいけないけど、それだけでは今後の社会において企業は難しいと思っています。「well-being」(ウェルビーイング)って言葉も最近よく聞きますが、それが今の自分に重要だと感じているんです。

元木:実は、私も「well-being」はここ数年、注目している言葉なんです。実は私の名刺にも「well-being」を入れているんですよ(笑)

堀口:そうでしたか。これも取材を通して地域を盛り上げているキーパーソンに教えてもらったのですが、今、「コミット」って言葉よりも「エンゲージメント」の方が多く使われていますよね。それも結局、「well-being」のための仲間づくりだと感じるんです。うまくやっている人たちは、いろんなことに折り合いをつけているんですよね。
例えば、年収が思いっきり下がっても「幸せだ」という人もいれば、お金が大好きで東京も大好きだからここでバリバリ稼ぐぞ! という僕みたいな人もいる(笑)。答えはひとつじゃないから難しいけれど、自分で折り合いを付けられることが大事だと思います。

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ライフステージに合わせて関わる地域を変えていける仕組みづくりを

元木:最後に堀口さんの考える、理想の地方の姿をぜひ教えていただけますか?

堀口:それぞれの地域によって理想は異なりますが、近年、移住者とか観光客に媚びるような施策を行ったことで本来の地方の良さが消えてしまった地域もあるんですよ。だからこれから期待したいこととしては「本来ある地域資源を生かした媚びない施策」をやってほしい。あと、「移住者を離さない施策」に力を入れてほしいとも考えています。
愛媛県西条市では、平成27年度の移住者が3名だったんですが、平成30年度には289名まで増加したんです。これは、移住施策を担当する部署を他業務を兼務する体制から“専属”とし、徹底的に移住者を囲い込む施策をできたことがポイントだったんですが、本気を出した担当者に地域住民は協力してくれるし、移住希望者とも1対1で面談ができるから本気度もわかる。「本当に移住する意思」がある人には全額旅費を負担して移住ツアーに参加してもらっても、高い確率で移住してくれているから、市にとってはプラスになるくらい結果がついてきたんです。

元木:素晴らしいですね。あとは企業ももっと地方に目を向けてほしいという気持ちもあるんですよ。

堀口:「well-being」にもつながりますが、働き方改革が進んでいく中で、地方と大企業の関わり方もすごく大事だと思っています。工場の誘致とかそんなもんじゃなくて、会社に属しながら、地方で暮らしてその地域とつながっていくという仕組みは作れると思うんです。老後とか退職後に田舎暮らしをって考えている人もいるかもしれないけど、若いうちからいろんな地域と関わりが持てる、ライフステージに合わせて住む先・関わる場所を変えていけるっていうことを企業が率先して取り組んでいくと、もっと地方創生や本来の意味での働き方改革が進んでいくと思うんですよね。結局、今の会社を辞めて収入をゼロにして地方に住むなんてことはあまりにもリスクがありますから。会社側が「週2~3日出社してくれて、あとはテレビ会議と仕事をしてもらって、空き時間はお好きにどうぞ」って言えば、モチベーション上がった社員が増えて、さらには地域貢献もできるわけですから。

元木:これまでの日本は、経済発展することを第一目標に進んできたけど、これからはその発展の中で失ったものを取り戻す時代になのかもしれませんね。ほんのちょっとでもいいから、社員の気持ちに寄り添ったり、首都圏主義をなくしたり、今までの常識に固執しない考え方ができれば、最新技術も使いながらよい社会にできると思っています。PCあればどこでも仕事できちゃうんだもん!

堀口:本当ですよね。過疎化の進んだ小学校では、近隣の小学校と遠隔授業をやっていたりするんですが、大きなスクリーンにたくさんの生徒が映し出されて、教室に入った瞬間その場に他の学校の生徒も一緒にいるような感覚になるんですよ。その子たちが中学生になって、ひとつに統合されると、画面越しでコミュニケーションをとっていたから「やっと会えたね」ってすぐに仲良くなれるんですって。ICTの進化が目に見えて効果を表してきているなと実感するし、技術の進化が地方を変えるかも? と希望にもなりますよね。

元木:少しでも『TURNS』を意識する人が増えるといいですね。ずっとお話をお伺いしたいのですが、今日はこのあたりで。続きはまたお話しさせてください、ありがとうございました。

堀口:ありがとうございました。

 

Profile

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『TURNS』プロデューサー / 堀口正裕

北海道生まれ。早稲田大学卒。株式会社第一プログレス取締役。国土交通省、農林水産省、文部科学省の地方創生に関連した各委員、BBT×JTBコミュニケーションデザイン「ツーリズム・リーダーズ・スクール」講師、社会起業大学講師、丸の内朝大学講師、その他、全国各自治体の移住施策に関わる。東日本大震災後、豊かな生き方の選択肢を多くの若者に知って欲しいとの思いから、2012年6月「TURNS」を企画、創刊。地方の魅力は勿論、地方で働く、暮らす、関わり続ける為のヒントを発信している。毎週木曜日18時25分からは『スカロケ移住推進部』という東京FMのラジオ番組にも出演中。
https://www.tfm.co.jp/sky/iju/

ブックセラピスト / 元木 忍

学研ホールディングス、楽天ブックス、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)に在籍し、常に本と向き合ってきたが、2011年3月11日の東日本大震災を契機に「ココロとカラダを整えることが今の自分がやりたいことだ」と一念発起。退社してLIBRERIA(リブレリア)代表となり、企業コンサルティングやブックセラピストとしてのほか、食やマインドに関するアドバイスなども届けている。本の選書は主に、ココロに訊く本や知の基盤になる本がモットー。

取材・文=つるたちかこ 撮影=中田 悟