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“ロスフラワー”の提唱者が提案。最後まで花を楽しみきる
ミニブーケの扱い方

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春になると街やお店のいたるところに花があふれ、自宅でも玄関やリビングに花を飾りたくなります。ただし、自分で花を選んでコーディネートするとなると、センスに自信がない……そんなニーズから、あらかじめミニブーケに仕立てて店頭で販売されるのが、いまでは当たり前になりました。1000円前後の手ごろな価格で販売されているミニブーケは、季節の花が取り入れられ、彩りもバランスよくまとまっているので、花やカラーコーディネートに詳しくなくても手軽に取り入れられるアイテム。

では、このミニブーケをどう選び、家でどう飾ればいい? さらに長持ちさせるには? 「ロスフラワー」を提唱する株式会社RIN代表取締役の河島春佳さんに教えていただきました。

花も“サステナブル”がトレンドの時代

サステナブルを重視する考え方が広がり、花を扱うお店やオンラインストアでも「いまある花を、ある分だけ」売り切るスタイルがトレンド。買う側が一本ずつ選ぶのではなく、生花店が仕入れ状況によって売りたい花をアレンジし、ミニブーケにして販売するなど、サステナブルにつながる販売方法も注目されています。

「ほかにも、最近は売れ残った花をドライフラワーにして販売するお花屋さんを見かけるようになりました。また従来、花は生産者から農協、仲卸を通してお花屋さんで販売するのが一般的でしたが、コロナ禍で一時的に花の流通が少なくなる問題が起こったことを発端に、生産者自らがインターネットを通して販売する形態も最近目立っています」(株式会社RIN代表取締役 河島春佳さん、以下同)

生産者がインターネットで販売することで産地直送のフレッシュな花が届くので、消費者としてもうれしい変化です。一方、消費者側の変化については、サステナブルに意識を向ける人が増えたそう。これにより、「ロスフラワー」についての認知度も上がっているようです。

「ロスフラワーとは、さまざまな事情で捨てられてしまう花のことです。以前は花好きの人たちにしか知られていない言葉でしたが、コロナ禍を経た2023年に日本人1000人にアンケート調査を行ったところ、認知度は50%に上ったという調査結果もあります」

ロスフラワーについて語る河島さん。

河島さんたちは、ロスフラワーを回収し、「フラワーサイクルマルシェ」という名前で、オフラインとECサイトを通してロスフラワーを販売する取り組みをされています。

「茎が曲がってしまうなど生産段階で流通できない花や、仲卸で売れ残ってしまった花、イベントで1度しか使われずに捨てられてしまう花などを回収し、ロスフラワーとして販売しています。
実は身近なところでロスフラワーは手に入るんです。例えば、スーパーに売られている見切り品になってしまった花など、売れ残りの花を見かけることがあると思います。また、閉店間際のお花屋さんにもロスフラワーに近い、入荷から時間が経った廃棄間際の花があります。お花屋さんで見切り品を販売していたり、店舗の片隅でひっそりと置かれた花を見つけたりした時は、その背景を聞き、花の状態を理解した上で購入することも一つの方法ですね。お店のブランディングなどで見切り品を売りづらいお花屋さんも多いと思うので、すごく喜んでくれるはずです」

長く楽しむための、
花選びのポイントとは?

長く花を楽しむために、選ぶ時点からポイントはあるのでしょうか? 2段階で教えていただきました。

1.素直に“飾りたい”花を選ぶ

「まずは率直に、ご自身が好きな花やピンときた花、かわいいなと思った花を選んでみてください。花は本当に“癒し”だと思うので、自分が癒されるものやときめくものを選ぶことが大切です」

2.長持ちする種類を選ぶ

「さらに『長く楽しむ』という観点で加えるのであれば、花の種類に着目してみてください。春の花なら、カーネーションは比較的長持ちします。ドライフラワーにする場合も、カーネーションであれば花が開ききるまで楽しんで、それから吊るして乾燥させることで、美しいドライフラワーに仕上がりますよ」

カーネーションのほかに、長く楽しめる春の花は?

カスミソウは長持ちしてくれます。あとは、バラシャクヤクも花が開ききるまで生花として飾り、そのあとドライフラワーにすることで長く楽しめますね」

河島さんがパリのマルシェを訪れた時の一枚。

種類によって差はあるものの、大体の花は日持ちが1週間程度だそう。この1週間のサイクルを活用して、ヨーロッパでは毎週末に花を買う習慣が根付いているそうです。

「ヨーロッパでは、毎週末マルシェに行き、チーズとパン、肉、野菜を買うついでに花を買う文化があります。買い物リストの中に花がある、という感じですね。自宅に持ち帰ると、部屋ごとに花を飾ります。『リビングには季節感のある花を飾って、寝室には落ち着いた色の花、子ども部屋には明るい色の花を飾ろう』という具合です。ヨーロッパだけでなく、アメリカでも花を飾る家は多いですね。違いは、マルシェではなくスーパーで花を買う点でしょうか。アメリカは車社会の国なので、車で大型スーパーに行って食材といっしょに花も買う、というイメージです。アメリカを訪れた際、スーパーの入り口に比較的広いスペースで花が売られているのを見て、アメリカでも花を飾ることが日常なのだなと実感しました」

花を長持ちさせるためには心がけたい
日々のお手入れ

買った花を長く大切にするために、こまめにお世話することもロスフラワーへの取り組みの一つです。河島さんに、花を長持ちさせるポイントをうかがいました。

・毎日水替えをする

「毎日水を変えてあげるだけで、日持ちがとてもよくなります。これだけで全然違いますよ。あとは、水換えをする時に茎も一緒に洗ってあげてください。花を水につけていると、茎にぬめりが出てきてしまうことがありますが、これはバクテリアが付着しているからなんです。長ねぎを洗う要領で、ぬめりがなくなるまでしっかりと洗うことがポイントです。洗った後に、茎の先を1~2cm切る『切り戻し』を行うことで、再び水を吸い上げてくれます

・水替えの際に花瓶も洗う

花を挿す花瓶も清潔に保つことが大切だそう。

「花瓶にもバクテリアが付いてしまうので、水換えの時に花瓶も洗うとさらによいですね。ポイントとしては、食器用洗剤で泡立てながらゴシゴシと洗うこと。洗剤が殺菌してくれるのできれいな状態が保てるんです。一輪挿しなど口が細いものは、水筒を洗うようなブラシを使うとよいと思います」

・部屋の涼しい場所に置く

「花は野菜と一緒で、涼しい方が喜びます。ですが、冷蔵庫に入れるわけにはいかないので、部屋のなるべく涼しい場所に置いてあげてください。暖房の下に置いたり、暖房の風を当てたりしないように気を付けましょう。あとは、直射日光が当たらない、明るい場所に置いてみてください。光の加減で花びらが透き通って見え、花の美しさがよりわかって楽しめますよ」

・枯れ始めてきたらお手入れする

「たとえばバラのような花びらが層になっている花であれば、茶色くなってしまった外側の花びらを1枚取り除いてあげることで、きれいな見た目に戻ります。これを私たちは『お掃除する』と呼んでいるんです。葉っぱも茶色い部分だけハサミで切ってきれいにしてあげるといいですね。花1本1本を大切にしてあげることで、思っていた以上に美しい状態が長く続きますよ」

小さなブーケを
もっと楽しむための飾り方

ミニブーケはそのまま花瓶に飾るだけでも美しいですが、いつもと違った飾り方で楽しみたい時のアレンジ方法をうかがいました。

・空き瓶を活用してみる

「花の色や形に合わせて花瓶を変えるのも、花の楽しみ方の一つです。アンティークショップで販売している空き瓶は、ミニブーケの花の背丈にぴったりのものが多くておすすめです」

ブーケから一輪取り、アンティークの空き瓶に入れるおしゃれなアレンジ。

「ほかにも、自宅にあるものを使って素敵に飾ることができます。たとえば、ラベルがかわいいワインボトルやビール瓶の空き瓶を取っておき、一輪挿しにするとおしゃれに見えます。ワインボトルの場合、ミニブーケの花だと背丈が足りないかもしれませんが、背の高い花を一輪購入した際に活用すると格好よく飾れます。シックなインテリアのお部屋にも合いますよ」

RINで取り扱っているロスフラワーのチューリップをワインボトルに。

・自宅にある“意外なもの”で生けてみる

「ちょっと変わったものですと、プラスチックのおろし器も活用できます。おろし器の穴の中に一輪ずつ挿して生けてみると、面白いアレンジに仕上がります」

水を入れたおろし器の穴の中に一輪ずつ挿していくと……。

おろし器を使っているとは思えない、素敵なアレンジに!

「ほかにもお子さんがいらっしゃるご家庭であれば、サイズアップしてしまった小さな長靴を花瓶にしてもかわいいと思います。長靴には生花だけでなく、ドライフラワーを飾っても素敵なインテリアになります」

・小さくなった花をお皿に入れてみる

「切り戻しをしていくことで、花もだんだん小さくなっていくと思います。そんな時に使えるのが小さめの器です。花瓶に挿せないほど小さくなってしまっても、捨てずに小皿に浮かべたりして、最後まで楽しんでみてください」

小さめの器に入れ替えた花。テーブルにちょこんと置いておくだけで癒されます。

フラワーサイクルアートで、
花を最後まで楽しみきる

花を最後まで楽しみ切る方法として河島さんが提唱されている「フラワーサイクルアート」についても教えていただきました。

「『フラワーサイクルアート』のコンセプトは、生花として楽しんだあと、ドライフラワーや押し花を作り、最後はアートにして楽しむこと。最後の最後まで花を楽しみ切るための方法です。ドライフラワーも、生花をそのまま乾燥させてドライにしてもよいですが、しばらくすると退色してしまいます。そこで、退色防止効果のある染色剤を使うのがおすすめです。
水の代わりに染色剤を花瓶に入れ、そのまま花を生けると、茎から染色剤を吸い上げて花びらが少しずつ着色されていきます。花を着色することでドライにした時の色抜けが遅くなるため、より長く楽しむことができるのです。染色剤には赤や青、黄色などさまざまな色があるので、自分好みの色のドライフラワーに仕上がります」

染色剤を切り花に吸わせることで、徐々に色が付いていきます。

小さなブーケを自宅に迎えたら大切にお手入れし、自分らしいアレンジを加えながら、花との暮らしを楽しんでみてください。

Profile

フラワーサイクリスト / 河島春佳

株式会社RIN代表取締役。生花店で短期アルバイトをしていた時、廃棄になる花の多さにショックを受けたことから、フラワーサイクリストとしての活動を始める。2019年に創業した株式会社RINでは、ロスフラワーを回収し、ECサイト及び出張販売を行う「フラワーサイクルマルシェ」で花を販売するほか、空間装飾、スクール事業などを展開。農林水産省との取り組み「花いっぱいプロジェクト」にも掲載され、生産者と消費者の架け橋にもなる。ロスフラワーを活用するとともに、ロスフラワーへの認知を広める活動を行っている。

※「フラワーサイクリスト」「ロスフラワー」は株式会社RINの登録商標です。

河島さんの著書『おうちでフラワーサイクルアート』(光文社)には、生花からドライフラワー、押し花まで、花を長く楽しむためのノウハウがぎっしり。ドライフラワーを作ってみたい人は、新著の『染色ドライフラワー図鑑』(X-Knowledge)を参考に。

取材・文=清水由香利(Playce) 撮影=真名子