痛みや感情の落ち込みに、毎月憂鬱な思いで迎えることが多い「生理」。その痛みを引き起こす仕組みや病気、少しでも快適に乗り切るための「生理用品」につづき、生理にまつわる事柄として「基礎体温」を取り上げます。
基礎体温と聞くと、妊活するときに必要なものという印象がありますが、実は女性なら誰でも一度は測ってみるべきものだそう。仕組みや測り方、その意味について、今回も産婦人科医の宋美玄先生に教えていただきました。
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「基礎体温」とはいったい何?
基礎体温とは、普段測る体温と異なり、“安静にしているときの体温”のことをいいます。
「体温は運動することで上下します。眠っているとき、人の体温はもっとも低く、そこから目が覚めて起き上がり、活動すると体温は高くなっていきます。基礎体温は、朝目覚めて体を起こさないうちに測るのですが、そうすることで、もっとも低い深部体温を正確に計測できます。また、毎日同じ条件下で測るので、日々の変化をきちんと比較できるのです」(産婦人科医・宋美玄先生)
基礎体温の測り方
基礎体温は、下記3つのポイントを守って測りましょう。
「基礎体温を測るときは通常の体温計ではなく、小数点第2位まで計測できる基礎体温専用の体温計を使います。体温を測り終えるまでに4分ほど時間がかかるものもありますが、今は予測体温計といって10秒くらいで計測できるものもたくさん販売されています。こちらもかなり正確ですし、早いので便利ですよ。また、体温計とアプリが連動していて、アプリが自動的に体温を取り込み、表にしてくれるものもあります。いちいち書くのが面倒だったり忘れてしまいそうだったりしたら、そういうものを使うのがいいでしょう」(宋美玄先生)
【測り方のポイント】
・枕元または枕の下に、小数点第2位まで測れる基礎体温計を置いて寝る
・朝、目が覚めたらそっと手を伸ばして体温計を取って口の中で測る
・基礎体温表やアプリに記録する
【注意点】
・毎日同じ時間に測ること
・起きたら体をなるべく動かさずに測ること
基礎体温表は3か月分管理すること
基礎体温は、一度つけると決めたら3か月は測ってみましょう。
「体温の変化がしっかり見て取れる、サンプルのようなグラフになることは稀です。たいていはガタガタで、ぼんやり“ここが高温期かなあ……?”という感じのグラフになるんですね。ですから1か月だけつけても読むのが難しいので、3か月はつけてみてください。その3か月の表を比べながら判断していきましょう。また、妊活中であればずっと測り続ける必要がありますが、そうでなければ3か月を1クールとして、それ以降長く続ける必要はありません。なんとなく生理不順だなとかPMSや排卵痛に悩まされることがあるなと感じたら、まずは3か月測ってみましょう」(宋美玄先生)
基礎体温でわかること
基礎体温をつけてみると、自分の体に起きているさまざまな変化を知ることができます。妊娠を望む場合だけでなく、不調の理由や病気のサインにも気づけるかもしれません。
「基礎体温は、比較的体温が低い低温期と、そこから0.3度程度高くなる高温期に分かれます。低温期は、生理1日目から排卵が起こるまで、高温期は排卵日から次の生理が来るまでです。低温期と高温期がきちんと二層に分かれるようなきれいなグラフにはならないかもしれませんが、婦人科系の病気が疑われるときは、基礎体温表があるととても重要な参考資料になります。受診する際は必ず持っていきましょう」(宋美玄先生)
1「排卵の可能性がわかる」
測っていた体温がぐっと上がったら、そこが排卵日であることがわかります。排卵日付近に性交すると妊娠の可能性が高まりますから、妊活中はこの体温の上下を見逃さないようにします。
「低温期と高温期に分かれていれば、排卵が起きている可能性が高いでしょう。まだ10代であっても、これから妊娠したいと思っている方は、一度基礎体温を測ってみて低温期と高温期に分かれているか知っておくとよいでしょう。ただし気をつけなくてはならないのは、低温期と高温期に分かれたからといって、確実に排卵したわけではないという点です。厳密に言えば、排卵したはずだという予測でしかないので、本当に排卵しているかどうかは受診して調べます」(宋美玄先生)
2「不調の原因がわかる」
排卵痛やPMS、頭痛などのトラブルは、なんとなくそうかなと思っていても、そのままやりすごしてしまうことが多いもの。その原因を知るためにも基礎体温が役立ちます。
「排卵痛で……と言って受診される方もいるのですが、本当に排卵が起こる時期だけに痛みがあるのでしょうか。月に何度も痛みがあるにもかかわらず、なんとなく排卵痛だと思っている方も多いので、基礎体温をつけることで原因が排卵にあるのか知ることができます。イライラしたり頭痛があったりする方も、それが生理前に必ず起こっているのか、あるいは生理周期に関係なく起こっているのかが、基礎体温からわかります」(宋美玄先生)
3「生理日の予測ができる」
大切な予定を立てるときは、自分の体調が万全な日を選びたいものですよね。基礎体温をつけていると、ある程度周期から体調を予想することができます。
「プレゼンや旅行など、ちょっと気合いを入れたい予定は、いちばん体調がよい生理後から排卵までの時期に入れるのがよいでしょう。反対にストレスを感じやすい高温期はゆっくり過ごせるよう計画を立てるなど、日々の過ごし方を決めるのにも役立ちます」(宋美玄先生)
低温期と高温期の過ごし方
生理周期の影響を受けにくい体質の人もいますが、周期によってイライラしたり腹痛があったりする人も。ここでは低温期と高温期のおすすめの過ごし方を伺いました。
・低温期は楽しく元気に
「低温期には生理中も含まれるので、生理痛がつらい人は無理なくゆっくり過ごしたいもの。でも生理が終わってしまえば、高温期に入る排卵日までは比較的穏やかでストレスを感じにくい、元気な毎日を過ごすことができます。心身ともに調子がよい時期なので、何かにチャレンジしたり活発な運動にチャレンジしたりするのもいいでしょう」(宋美玄先生)
・高温期はストレス緩和を
「高温期は低温期とは反対に、涙もろくなったり精神的に追い詰められてしまったり、落ち込んだりしがちな周期です。肌荒れや便秘、腹痛なども起こりやすいので、好きなことをしたり、ゆっくり寝起きしたり、とにかくストレスのかからない過ごし方を選んでみましょう。妊活中の方は、低温期から高温期に変わる排卵日前後でできるだけたくさんの性交をすることをおすすめします」(宋美玄先生)
妊活中以外でも基礎体温は大切なデータ
基礎体温は妊活中には大切なデータですが、実は体調管理にも役立つのです。
「中高生や独身女性も、自分の基礎体温が二層に分かれているのかは将来のためにも知っておいた方がいいでしょう。先に説明した通り、PMSや排卵痛だと思っていたものが本当に毎月同じような時期に起きているのか知ることができます。また、40代・50代と閉経が視野に入ってくると、少しずつ生理不順になっていきます。いつ生理が来るのか来ないのかがよくわからず過ごすことになるので、基礎体温をつけておくと、生理日の予想に役立ちます。もちろん中高年だけでなく、若い方でも生理不順に悩んでいる方は、基礎体温があるとスケジュール管理に便利です」(宋美玄先生)
生理の悩みがあるなら「低容量ピル」や「子宮内避妊器具」の検討を
女性の一生に生理は欠かせないものですが、それによってストレスフルになったり、痛みをこらえなくてはならなかったりと、日常生活が大変な人もいるでしょう。仕事や遊びの予定に差し支えたり、生理痛がひどい人はその度に学校や仕事を休まなくてはならなくなってしまいます。
「生理に悩まされている方には、低容量ピルや子宮内避妊器具をぜひ検討していただきたいです。初潮が来ていればいずれも使用することができるので、10代の方にも処方することができます。低容量ピルは、卵胞ホルモンと黄体ホルモンが含まれている飲み薬です。毎日飲むことで排卵を抑制してくれます。受精卵を着床しにくくし、精子の進入を防いでくれるので避妊薬として知られていますが、月経困難症やPMSの軽減の治療薬としても使われています。飲んでいる間は生理が来ず排卵がないので、生理痛などから開放されます。一方、子宮内避妊器具は子宮内に装着する、黄体ホルモンが付加された避妊器具です。こちらは一度装着してしまえば最長で5年はそのまま使用できるので、飲み薬と違って面倒はありません。こちらも生理が来づらくなるので、生理痛の治療薬として有効です。昔は、生理痛は我慢して過ごすのが当たり前とされてきましたが、毎月痛みやイライラを我慢して過ごすのは大変なことです。痛みに耐える選択をせず、産婦人科を受診してより日常生活が楽になる方法を検討してください(宋美玄先生)」
女性の体は、月の満ち欠けのように日々バランスが変わっていくもの。自分の体に起きていることを知るのが、まずは体調を整える第一歩となります。これまでに基礎体温を測ったことがない人は、ぜひこれを機に計測してみてください。
Profile
「丸の内の森レディースクリニック」院長 / 宋 美玄(ソン・ミヒョン)
産婦人科医、医学博士、FMF認定超音波医。大阪大学医学部医学科卒業後、大阪大学医学部付属病院、りんくう総合医療センターなどを経て川崎医科大学講師に就任。2009年、ロンドンのThe Fetal Medicine Foundationへ留学。胎児超音波の研鑽を積み、2015年川崎医科大学医学研究科博士課程を卒業。2017年、東京・丸の内に「丸の内の森レディースクリニック」を開業。テレビ出演や雑誌・書籍での情報発信にも力を注ぎ、著書多数あり。
HP=https://www.moricli.jp/
取材・文=吉川愛歩 編集協力=Neem Tree