人生100年時代といわれますが、先行きが不透明なこの時代。「万が一に備え、可能な限り資産は増やしておきたい」そう考える人は増えています。とはいえ、一般的に投資は原資がかかり、手を出しづらいというのが現実。そこで開発された投資商品が、2017年に始まった「不動産クラウドファンディング」です。
メリット、そしてデメリットは? 始めるコツは? 不動産を選ぶ基準は? など、疑問はさまざま。事業を通して社会課題解決を行う株式会社LIFULL(ライフル)が運営するLIFULL不動産クラウドファンディングの事業責任者を務める、松坂維大(つなひろ)さんに回答いただきました。
「不動産クラウドファンディング」とは?
“不動産投資”とはよく耳にしますが、「不動産クラウドファンディング」とはどういうものでしょうか?
「通常の不動産投資であれば、ひとつの不動産に対して投資家はひとりですよね。一方、不動産クラウドファンディングは、ひとつの不動産に対して複数人で投資をするというもの。
1000万円の物件があれば、複数人でお金を出し合ってその物件を買うというわけです。
出し合ったお金で運営会社が不動産を購入し運用、いずれ売却しお金は出資者に戻すのですが、運用期間中に家賃などから得た収益を出資者に分配する、という仕組みです」(LIFULL・松坂維大さん、以下同)
現在、不動産小口化商品やREIT(不動産投資信託)など、少額不動産商品もさまざまあります。不動産クラウドファンディングとはどういった違いがあるのでしょうか?
「従来の不動産小口化商品は基本、対面での募集でしたが、不動産クラウドファンディングは、すべてがインターネットで完結するというのが大きな違いです。また、REITは証券会社で買えるもので、不動産投資というより、イメージとしては投資信託に近いもの。投資対象として複数の不動産が組み合わされているので、“この物件に投資している”という実感は得られづらいかもしれません」
もちろんそれぞれにメリット・デメリットはあるため、自分の資産や環境、投資経験に合わせて選ぶ必要があるでしょう。ではそのメリット・デメリットとは?
「不動産クラウドファンディング」3つのメリット
世の中には数々の投資がある中で、ひとつの選択肢となった不動産クラウドファンディング。一体どんなメリットがあるのでしょうか?
1.投資へのハードルの低さ
「通常、不動産を買う場合には多額のお金が必要となり、場合によってはローンを組むため、『ちょっとチャレンジしてみよう』という気持ちでは手が出しづらいのが現状。しかし不動産クラウドファンディングなら、インターネットで投資先を選び、1万円~という少額から投資が可能なので、投資に対してのハードルがぐんと下がります」
2.細かな管理はしなくてOK
「基本的には運営会社が運営するので、投資家が、その部屋に入居者がずっと入居してくれるよう努める必要もなければ、クレーム対応をする必要もありません。もちろん固定資産税の支払いや、リフォームや補修代金の心配もないので、お金さえ出せばあとは放っておいていいという部分でも、投資へのハードルは低くなります」
3.少額分散投資が可能。リスクも最小限
「少額からの投資が可能ということで、リスクヘッジのための分散投資ができるのもメリットです。不動産投資には天災など予測不能なリスクなどもつきもの。分散して不動産を持つことで、リスクを最小限におさえることを実現するのが不動産クラウドファンディングです」
デメリットは?
投資初心者にはチャレンジしやすそうではありますが、一方でデメリットはあるのでしょうか?
「不動産クラウドファンディングの場合利回りは4%~、運用期間は長くても3年程度なので、大きな利益は望みづらいという部分はデメリットかもしれません。ここ10年ほど不動産の価格は上昇傾向。通常の不動産投資で持っている不動産の場合は、購入時の金額より売却時の金額のほうが高くなり、大きなキャピタルゲイン(保有している株式などの資産を売却することで得られる売買差益)が望めることもあります。
しかし不動産クラウドファンディングは、基本的にはインカムゲイン(資産保有中に得られる利益)。投資した不動産の価値が1.5倍になったからといって、分配金が1.5倍になるということがないのはデメリットともいえますね」
また投資商品なので、元本保証がないこともリスクとして押さえておかなければなりません(後述)。
いざ挑戦! 投資の手順とは
実際に、物件を決めるところから投資までの流れもおさえておきたいところ。どんな流れになるのか、確認してみましょう。
1.気になるファンドを見つける
不動産クラウドファンディングポータルサイトなどをチェック。複数のファンド・運用サービスが一覧で掲載されているため、ぴったりのファンドを見つけられます。
2.ファンドの契約詳細を見る
気になるファンドがあれば、各ファンドのページを見て契約の詳細をしっかり確認。
3.サービスの会員登録をする
各サービスのサイトで会員登録をします。
4.投資家登録をする
実際に投資を行うための、投資家登録をします。本人確認資料などを用意し、各サービスサイトの案内に従って登録を。募集開始後がすぐに締め切られるファンドもあるので、ギリギリに投資家登録するのではなく余裕を持って準備しておくと安心です。
5.ファンドに申し込む
投資家登録完了後、好きなファンドに申し込みを。申し込みのタイプは、先着順や抽選などさまざまあるので、希望のファンドがどのタイプかはしっかり確認して申し込みしてください。募集開始時間をうっかり忘れてしまわないよう、不動産クラウドファンディングポータルサイトのカレンダー機能やリマインド機能も活用できます。
6.入金
申し込みが完了したら、専用の振込口座に入金。この口座から、投資したいファンドに投資を行うことになります。分配配当金はそれぞれのファンドで決めている頻度、タイミングでもらえ、運用が終了すれば、預け入れたお金が償還されます。
「不動産クラウドファンディングは、申し込みから運用まですべてがインターネット上で完結します。この手軽さを魅力に感じたインターネットリテラシーに精通している20~40代の方々からの投資が増えています」
投資するファンドは何を基準に選べばいい?
気に入ったファンドがあって申し込む前に、知っておきたい元本保証のことなどを松坂さんにうかがいました。
「不動産クラウドファンディングには、元本保証(不動産価値が毀損した場合でも出資額が100%戻ること)はありません。投資なので、残念ながらリスクがまったくないとは申し上げることができません。
ただ、できる限り投資家が損をしないように『優先劣後方式』が取り入れられているファンドもあります。優先劣後方式とは、投資家の出資分を優先出資、事業者の出資分を劣後出資と呼び、万が一元本毀損が起こった場合にその元本毀損は劣後出資から先に負担されるというもの。劣後出資があるかどうかはもちろん、劣後出資の割合はクラウドファンディングによって違うので、投資する前にチェックしておいたほうがいいでしょう」
さらに初心者の場合、「優先劣後方式」以外にも注目すべき点があるのだそう。それはどこでしょうか?
松坂さんは、
・会社の信頼性
・不動産の将来性
・運用実績
の3点を確認するのがベストと話します。
「不動産投資初心者の場合、不動産自体の現在の価格、さらに将来的な価格などが適正かどうか判断することは難しいですよね。でも最低限確認しておきたいのは、まずは不動産クラウドファンディングを運営する会社の信頼性、そして不動産の将来性、最後は運用実績です。リスクとして、会社自体が倒産する可能性はゼロではありませんので、企業サイトに出ているIR情報やPLなどで確認をしてください。また、過去のファンドの運用実績も公開されていますので分配・償還の状況を見ておきましょう。
投資対象不動産についてはエリアの価格推移などがポータルサイトで公開されていますので継続的な価値向上が見込めるかどうかの判断材料になります。インターネットで集められる情報は可能な限り集めてから判断していただくのがベストです」
では、どの不動産に投資するか……と悩んだ場合は?
「『自分ならこの不動産を買うか?』という観点でいいと思います。不動産そのものはもちろん、建つ場所が人口流入しているエリアなのか流出エリアなのか、再開発されているエリアなのか、駅が近くて利便性が高いエリアなのか。自分が不動産を買うときにここを選ぶかという観点を大切に、選んでみてください。そういった気軽な観点で選んで、まずは運用しながら勉強していくのがおすすめです」
インフレ時代は“持っている資産”で稼いでいく
投資初心者のスモールスタートとしては挑戦しやすい不動産クラウドファンディング。最後に、松坂さんに挑戦する前の心構えを聞いてみました。
「現在日本ではインフレが起こっており、物価は上昇傾向にあります。株式投資などに比べれば値動きの幅は小さいのが不動産クラウドファンディングですが、給料もなかなか上がらないこの時代に、自分の資産の中から安定収益を上げていくにはいい投資です。少しずつでも、持っている資産自体が自分の代わりに稼いでくれる“不労所得”というイメージで、このインフレ時代を生き抜くために挑戦してみてはいかがでしょうか」
Profile
株式会社LIFULL / 松坂 維大(まつざか・つなひろ)
不動産ファンド推進事業部 ブロックチェーン推進グループ「LIFULL不動産クラウドファンディング」事業責任者として、「ブロックチェーン×不動産」をテーマに活動。グローバル不動産投資プラットフォーム構築の一環として、2020年に国内初の一般投資家向け不動産STOを実現。
取材・文=橋本裕子(Playce)