ベストセラーの著者として知られ、著作やブログを通じて健康や科学などの最新の知見を発信しているサイエンスジャーナリスト、鈴木祐さん。著書『不老長寿メソッド -死ぬまで若いは武器になる-』では、肉体、メンタルから快眠、美容など、科学的エビデンスに基づいた多角的な“不老長寿”術を紹介しています。
そこで、私たちがすぐに始められるアンチエイジングや健康術について、鈴木さんにかいつまんで教えていただきました。聞き手は、ブックセラピストの元木忍さんです。
『不老長寿メソッド -死ぬまで若いは武器になる-』(かんき出版)
人類が抱える史上最大の難題ともいえる「不老」をテーマに、世界中から集めた、すぐに実践できる、科学的効果が証明されたメソッドだけを厳選して紹介。老いを感じやすい肌・髪・体・心のアンチエイジングをカバーするだけではなく、老化を乗り越えていくための思考法やライフプランのヒントも教えてくれる。
薄い毒による苦痛が人を若返らせる
元木忍さん(以下、元木):日本人の寿命が伸びて、今後は“人生100年時代”のライフプランが重要になってきました。「いつまでも元気で若々しくありたい」と考えはじめた矢先にこの本と出会い、ひとつひとつのメソッドを自分ゴトとしてとらえながら読ませていただきました。
アンチエイジングにとって、とても有意義な考え方として、“適度な苦痛が肉体的にもメンタルでも人間の能力を高める”という「ホルミシス」をメインに取り上げていますが、わかりやすくいうとホルミシスとはどんなものなのでしょうか?
鈴木祐さん(以下、鈴木):世の中に存在する物質は、⼤量に使うと有害であっても、微量に⽤いれば逆に有益な作⽤を果たします。この現象がホルミシス(ギリシャ語の「刺激」に由来)です。
元木:例として、「毒性の弱い病原体や抗原を体内に送り、人間の防御システムを活性化させることで、同じ病原体に襲われても病気にならない体を作り上げる」、ワクチンの仕組みを上げていましたが、わかりやすかったですね。
鈴木:簡単にいえば「薄い毒は役に立つ」ということです。ところで、元木さんは「体を動かすとなぜ健康になれるか」、わかりますか?
元木:ひと言で説明するのはむずかしいですね……。とにかく、スポーツをして爽快感や達成感を得られた時に「なんか健康になったな」という気分になりますよね。
鈴木:そうだと思います。ただ仮説は大量にあっても、明確な答えはいまだ解明されていないんです。そのなかでもっとも有効的な謎解きのヒントが、このホルミシスです。
元木:スポーツが好きな人は大勢いますが、運動も“苦痛”だということですか?
鈴木:原始の時代から、人は食糧を得るために、いやいや体を動かしていて、食欲が満たされれば、それ以外に体を動かす意味はなかったわけです。その結果、人間の脳には「運動を嫌う仕組み」ができあがってしまい、体を動かすことが苦痛になりました。
元木:著書によれば、サウナもホルミシスのひとつなんですね。
鈴木:そうです。70℃以上の高温に身を置くことで、心拍数も一気に上がりますから、ある種の苦痛をともなっています。一方で、サウナは軽いジョギングに近い運動効果を疑似的に再現してくれるので、心臓や血管の改善に役立ちます。これはフィンランドのデータですが、週に4~7回サウナを利用するグループは、サウナを利用しないグループに比べ死亡リスクが50%下がり、認知症やアルツハイマー病の発症リスクが65%も減ることがわかっています。
元木:認知症にも!? さらに著書にあった、ふだん健康にいいと思って食べている野菜さえ苦痛を与えているのということも驚きです。
鈴木:野菜に含まれているポリフェノールには酸化ストレスを与え、肉体に軽度の炎症を起こし、人体の抑制システムを起動する役割があり、肉体のダメージを修復しています。植物から苦痛を取り込むことで間接的に肉体を若返らせているといえます。ただ、この炎症が長引くと感染症や成人病の原因となり老化の一因ともなりますから、その本質は毒物ということになります。
元木:まさに「薄い毒は役に立つ」。ホルミシスがアンチエイジングや健康のキーポイントですね。
鈴木:人がもつ機能は、使わないと衰えます。使い続けるには薄い刺激を与えないと使ったことにならないのです。ただし、あまりに負荷が大きいと潰れてしまうので、そこは注意が必要ですね。
ただボーっとしていても“休息”にはならない
元木:ストレスも老化の原因といわれていますよね。ストレスをどう解消したら良いか、さまざまな本が出版されています。ダラーッとソファに寝転んでいることでストレス解消をしている人も多いと思うのですが、鈴木さんの本を読んだら、これは間違った休息法だったのですね。
鈴木:私も、部屋にこもってネットをしながら「これは楽だな」と思い、ストレスが薄らいでいくと思っていた時期もありました。でも、そんな日常を続けていると次第にしんどくなるのです。そこには主体性がなく、人から与えられたものを消費する受け身の姿勢なので、前向きな気持ちが生まれにくくなります。自分で目的を決め、それを少しずつ達成していかないと前に進んだ気が起きず、モチベーションがわかないのです。ダラーっとしているだけでは、いわば“休まされている”だけで、メンタルを病ますことにもつながります。
休憩の3ステップ
1.休憩の目的を明確にする
2.目的の達成に必要な休憩法を決める
3.必ず決めたとおりに休む
元木:“攻めの姿勢”こそ、効果的な休息なんですね。これは個人的な疑問なんですが……例えば「ハワイに行くぞ!」を自分の目標にして仕事をバリバリしても、いざ行ってしまうと3日で飽きてしまうのはなぜですか?(笑)
鈴木:ハワイに行くことに主体性はあっても、現地ですることを明確に決めてないからではないですか?(笑) やるべきことも決めたうえで、それをこなしていくと飽きることもなく達成感も得られると思います。それはメンタルだけではなく肉体的にもいえることで ちょっと歩くだけでも血流があがって回復のための栄養が体にいきわたるので、ホテルでダラーッと過ごすより、アクティブに過ごした方が本当の意味で休息になります。
元木:そこが「休み方を間違えない」ポイントですね。
鈴木:ボーっとするのが悪いわけではなく、あくまで主体性が大事なんです。最初から「ひたすらボーっとする」と決めてボーっとすれば、休息になり、ストレスの回復につながると思います。
運動以外の活動も自覚すれば役に立つ
元木:効果的な運動法では「プログレス・エクササイズ」を取り上げていました。
鈴木:プログレス・エクササイズは段階的に負荷を上げていく運動法のことです。少しずつ苦痛のレベルを高めてホルミシス効果を狙います。
元木:プログレス・エクササイズはひとつではなく、何種類も紹介されていますが、一番ラクにできそうだなと思ったのは「プラセボ・トレーニング」ですね。プラセボって、有効成分の入っていない「偽薬」のことですよね。効くはずがないのに、薬を飲んだという思い込みで症状が改善するとか。
鈴木:まさに思い込みの持つパワーを応用したテクニックです。例えば、散歩や、掃除、洗濯など運動以外でも体を動かすことってありますよね。日常のささいな活動を意識して「今日は駅まで10分歩いた」とか、「駅の階段を20段のぼった」とかを、思い返していくのがプラセボ・トレーニングです。「自分は体を動かしている」と自覚するのが要点で、ハーバード大学が行った実験では、調査に参加した女性に、ふだん仕事で消費するカロリー数を教えただけで、4週間後にはみな一様に体重と体脂肪が減り、血圧まで改善したという報告があります。
元木:それは興味深いデータですね。どれだけ体を動かしているかを自覚するだけで効果があるということですよね。しかも、今日からでも簡単にスタートできそう!
鈴木: プラセボ・トレーニングを含め、スポーツのような運動ではなく、日常的な活動で消費されるエネルギーはNEAT(非運動性熱産生)といわれます。肥満の人ほどこのNEATが低いので、エクササイズを始める前に日常的な活動量を増やすことを考えた方が賢明です。どこまでNEATを増やせばいいか。その目安として役立つのが診断テスト「NEATスコアリング」です。チェックリストを使って点数をだしてみてください。NEATの達成レベルが判断できますよ。
また、食事や睡眠にも、若返りのコツがあるといいます。次のページでも引き続き、鈴木祐さんに科学の視点を取り入れたアンチエイジングのメソッドを教えていただきます。