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災害が激甚化する時代へ。地震、台風・豪雨……
もしも被災者になったら?

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自然災害では日本最大の被害を出した関東大震災から、100年が経ちました。その後も日本列島は大きな震災に幾度も見舞われています。また近年は地震だけでなく、夏は台風や線状降水帯による被害も大きくなっており、誰もが明日にでも“被災者”になる可能性があります。

災害時にもし備えがなかったら、身の回りでいったいどのようなことが起こるのか? 被災した場合、どのような行動をとればいいのか? 防災士であり、防災教育に取り組むゲンサイデイズ代表の細谷真紀子さんに解説していただきました。

関東大震災は近代化した首都圏を襲った唯一の巨大地震。1923年9月1日に発生し、南関東から東海地域に及ぶ地域に広範な被害を及ぼした。死者は10万5385人、全潰全焼流出家屋は29万3387戸に上る。(内閣府サイトより)

大地震が発生したら何が起こるのか?

大地震発生時には、どのようなことが起こるのでしょうか?

「首都直下地震や南海トラフ地震が想定される中、地震は予測が難しく、突然起きる災害です。地震が起きると身の回りでは『落ちる・飛ぶ・動く・倒れる・割れる』という5つの事象が起きることを想像してみましょう」(防災士・細谷真紀子さん、以下同)

■ 自宅で地震が起こった場合

「建物については、作られた年代や構造によっては倒壊の危険が想定されます。また、耐震・免振性能がある場合でも、室内の固定していない家具は大小・重量にかかわらず、倒れたり動いたりします。本や小物、植物やペット用品など、室内のあらゆるものが足の踏み場もないほどに散乱し、避難が困難になるかもしれません」

・リビング
「家族や来客で人が集まる場所でもあり、物が多くなりがちな空間です。テレビが落ちたり倒れたり、キャスター付きの家具やソファやローテーブルなどの家具は不規則に動き、背の高い家具は倒れてきます。最近では、被災時のためにとウォーターサーバーを導入する家庭も増えていますが、上部に水を設置するタイプのサーバーは、重心が上がることで、転倒する危険性が高まります。花瓶やインテリア雑貨など、小さなものは飛んできたり、割れたりするでしょう。ペンダント型の照明は大きく揺れ、割れる素材のランプシェードや電球などは、天井や壁に当たり割れて破片が飛び散ることもあります」

・キッチン
「調理中の熱した調理器具や油や刃物、調理家電など、さまざまな危険が存在する空間です。冷蔵庫は倒れてきますし、電子レンジやオーブンなどの家電はコンセントが差してあっても勢いよく飛んできます。調味料や小さな調理器具・包丁、食器類も調理台や棚から飛ぶように落ちたり割れたりして、破片や粉塵が飛び散る危険性があります」

・浴室、脱衣所
「風呂場や脱衣場は、無防備な状態でいるため、怪我をしやすい場所です。吊り戸棚などから、洗剤などの重い液体の入ったボトルが落ちてくることがあります。また、ガラスや陶器などの割れやすいものが洗面台の上にあった場合、それらが飛ぶように落ち、割れ、破片が飛び散る危険性があります」

・トイレ
「ドアが外開き扉の場合、出入口の外側にある物が倒れたり移動して閉じ込められる危険性があります。また、清掃用の薬品などが高所に置いてあると落ちて飛び散る危険性があるほか、タンクの蓋がずれ落ちる可能性もあります。またトイレ問題(用を足せないことや災害時のトイレの使用方法を間違えて理解し、無理やり流して逆流や施設内での漏水が起きるなどの問題)は災害発生30分後には起こり始める可能性があります」

・寝室
「就寝中の無防備な状態の中、棚が倒れてきたり、エアコンや照明器具が落下したり、棚にある本やアロマキャンドルなどの雑貨も飛ぶように落ち、割れたりすることがあります。夜間に過ごすことが多い場所ですので、周りが暗く状況が確認しにくいことも考えられます」

■ オフィスで地震が起こった場合

「オフィスの建物も、作られた年代や構造によっては倒壊の危険が想定され、耐震・免振性能がある場合でも室内の備品などが倒れたり、落ちたりする被害も。高層ビルなどでは長周期振動での立っていられない長い揺れによる被害が想定されます。一般的な事務所を想定すると、次のようなことが起こります」

・デスク周り
「キャスターがついているコピー機や椅子、デスク下の引き出しなどは大きく動き、デスク上にあった書類が散乱し、パソコンなども飛ぶように落ちてしまいます。天井まである背の高い棚も扉が開いてしまい、中にあるファイルや書類が飛び出し、固定されていない棚は倒れてしまいます。天井のエアコンや蛍光灯なども落ちたり、割れた破片が飛び散ることも」

・地下階や地下室など
「停電になれば周りが見えにくくなり避難が難しくなります。地震によって起きた津波など、水が流れ込んでくるリスクがあります」

・エレベーター
「揺れの感知や停電に伴い、非常停止したり、自動的に最寄り階に停まったりすることがあります。内部に閉じ込められた場合、真っ暗の中、救出には長時間かかる場合や乗っていることに気付かれないことも想定されます」

・エントランス
「建物の構造や会社の規模にもよりますが、多くの人が限られた場所(例えば狭い通路・出入口など)から一斉に外に出ようとする人の流れで、群衆雪崩が起こるリスクがあります。また、上階の窓ガラスや外壁・看板などが落下してくる危険性があります」

■ 通勤中に地震が起こった場合

「通勤途中など屋外にいる場合には、近くの建物の倒壊や外壁の落下などの危険性が。また、不特定多数の人といる場合、パニック状態になったり、自分には何も起きないだろう・みんなについていけば大丈夫などと間違った判断をしてしまったりすることも考えられます」

・通勤路
「周囲の建物の耐震性によっては倒壊する建物があったり、外壁や室外機・看板が落ちてきたり、窓ガラスが降り注いできたり、瓦屋根や煉瓦が剥がれ落ちたりすることも。古いブロック塀や、固定されていない自動販売機・電柱が倒れてきたり、電線が切れてぶら下がったりする危険性もあるでしょう。ひどい場合には歩道橋が落ちる、橋や高速道路に亀裂が入るなどして通行できなくなる、鉄道・バス・タクシーなどの交通機関が運行されないことも想定されます」

・埋め立て地や昔の海・河川跡など
「地面が液状化しやすく、マンホールなど地中の構造物は地面に突出します。ひどい場合には道路が陥没したり、建物が埋もれ、破損・倒壊したりする場合も。海底を震源とする地震の場合、沿岸部では津波が起こる危険性もあります」

・電車の中
「揺れを感知し、緊急停止されます。安全が確認されるまでは長時間運行が停止される可能性があります。また、耐震整備が進んでいない場所では脱線する危険性もあります」

大地震発生! とるべき行動は?

いざ大地震が起こったとき、パニック状態になることで自らの命を危険にさらすことも考えられます。どう行動するべきでしょうか?

1.自分の身の安全を第一優先に確保する

「実際に何の準備もないままに大地震の揺れが起きた場合は、自分でも動きを制御することができません。大切なことは、普段から危ない場所を作らずに工夫しながら生活することです。物が落ちないように滑り止めを敷いたり、普段過ごす場所に家具が倒れてこないように家具を配置したり固定したり、ガラスが飛び散らないように飛散防止シートを貼ったりすることで、家庭内の危ない場所は激減します。また、地震のときは『頭を守る』と言われてきましたが、頭だけでなく、大切な血管や神経などが通っている首も手で覆い、守ることが大事です。日頃から落ち着いて判断できる環境を作り、落ち着ける心を備えましょう。自らの命を守れない環境・心では、大切なものを守ることはできません」

2.周囲の状況を情報収集する

「大きな揺れが収まったあと、次にすることは、周囲の状況確認です。津波や火災など、命の危険が迫っている場合にはすぐに避難しなければなりません。建物内で火災が発生した場合は初期消火を行うことが必要となります。建物の外に出るべきか否かも、状況によって変わってきます。近年はさまざまな地震対策や備えが施されたオフィスビルなどでは帰宅困難者対策として、帰らないことを選択し、建物の中で過ごすことが推奨されています。このため、家族やパートナーと予め避難場所を決めている場合でも、安全に落ち合う方法を再度検討することが必要となります。無理をして大勢の人が家に帰ろうと移動すると、余震時に被害に遭ったり、群衆雪崩のような二次災害を引き起こしたりすることも。人が多く向かっているからと根拠のないまま先に進むのはとても危険です。帰宅困難者に対する民間の一時滞在施設などの支援も整備されつつあります。日常から防災に対するアンテナを立て、さまざまな取り組みを知っておきましょう」

大雨が降ったときに起こる災害とは?

近年増え続けている、強風や大雨によって発生する“風水害”についてもうかがいました。

「これまでに起きた風水害では、台風や線状降水帯、前線の停滞などの大雨が要因となった河川氾濫や内水氾濫・土砂災害や、台風による高潮・暴風被害があります。ほかにも発達した積乱雲による局地的な大雨、落雷や竜巻、突風被害など、その土地の特性や気象条件によってさまざまな災害が起きています」

風水害の中でも「豪雨災害」と呼ばれるような大雨被害ではどのようなことが起きるのでしょうか?

・氾濫による被害

[河川氾濫]
「河川の近くでは河川の氾濫による浸水被害が想定されます。洪水ハザードマップが一つの浸水の目安にもなりますが、ハザードマップには雨量や流域などの条件があるということが注意点です。条件以上の雨が降った場合には、それ以上の被害が出るかもしれません。低地で水が集まりやすい場所や地下など、地形や建物の特性を知っていれば安全に避難することができます」

[内水氾濫]
「最近では、都市部の市街地などで排水能力が追いつかずに起こる内水氾濫があります。このため、内水氾濫ハザードマップを作成する行政も増えています。下水と雨水が合流して排水されるエリアでは、建物内の排水溝から汚水が逆流したり、マンホールから汚水が噴き出したりすることも。分流化の対策が進められていますが、室内で被害が発生する場合もあります」

・浸水による被害

1.浸水が浅い場合でも避難が困難となる

「氾濫で浸水が起きた場合、水の中を歩行するのはとても危険です。浸水というとお風呂のように動きのない水を想定するかもしれませんが、浸水の進行期では川と同じように流れがあることをイメージしてください。浸水が浅い場合でも、足をすくわれる危険性も。深水10cmだから安全ということは決してなく、浸水が始まっていたらすでに災害は発生している状況。避難ではなく、その場で命を守る行動が必要となります」

2.車で移動している場合にも危険がある

「一般的な自動車では浸水10cm程度でブレーキが効きにくくなり、交通事故などを引き起こすことがあります。また、30cm程度の浸水でエンジンが止まってしまうとも言われています。道路が冠水した状況では浸水した深さを正確に判断できずに「大丈夫だろう」という間違った判断で深みに入って動けなくなることも。特にアンダーパスなど水の溜まりやすい場所は要注意。浸水が始まっている場合は、車で進入することは絶対にしてはいけない行為です」

・土砂災害による被害

「土砂災害には土石流、地滑り、がけ崩れがありますが、これは山間部だけの災害ではありません。丘陵地の宅地開発では一見コンクリートで固められているため、崖と認識していない人工造成地も街の中に多くあります。これらが劣化することや、水分を多く含むことにより土砂災害のリスクが高まります」

・落雷やひょう、竜巻、突風による被害

「落雷により停電が発生した場合、エアコンが効かずに熱中症など体調が悪くなることも考えられます。また、ひょう、竜巻、暴風・突風によりガラスが割れてしまい、怪我をすることもあります。どちらの状況でも、外に出ることは大変危険です」

大雨で被害を出さないためにとるべき行動とは?

1.早めの情報収集と、避難への判断が運命の分かれ道!

「命に危険がおよぶ恐れがある大雨が想定される場合には、早期に注意情報や気象警報が発表されるため、事前にさまざまな対策を行い、避難を早めることによって最悪の事態を防ぐことが可能です。しかしながら、浸水エリアに住んでいるにもかかわらず、災害を楽観視して逃げ遅れてしまい、亡くなったケースもあります。近年ではハザードマップ以上に被害が出るような大雨も増えています。必ず早めの判断で安全に避難できるうちに、より安全な場所への避難を完了してください」

2.浸水してしまった場合は、速やかに命を守る最善の行動を!

「万が一、室内にいて浸水が始まった場合は避難するタイミングを逸してしまった状態です。その場で命を守るための最善の行動をとりましょう。例えば想定浸水深を超える高さの場所へ垂直避難する方法などが考えられます。浸水する水は、きれいな水が入ってくるわけではありません。汚水を含んでおり、汚泥や流されてきた物が室内に残ってしまう場合も。水が引いた後に被災した部屋に在宅避難することは困難が予想されます。疲労からくる免疫機能の低下や汚水に含まれる雑菌などが原因で感染症にかかってしまうこともあります。被災した家は汚泥を洗い落として消毒をして乾かす必要があるため、復興は長期戦になります」

二次災害で想定されるリスクとは?

災害後に安全が確保されたあとにも多くのリスクが潜んでいます。

「備えがない場合、災害後の避難生活にも大きなリスクが想定されます。避難生活での心労や体への負担が重なり、残念ながら未だに災害が起きる度に『災害関連死』で命を失くされる方が直接死よりも多く報告されています」

・車中泊などによるエコノミークラス症候群
「車避難で長時間体勢を変えられずにいると、血流が悪くなります。その結果、血栓ができやすい状況となり、心筋梗塞や脳梗塞など命にかかわる病気を引き起こします」

・避難所での感染症
「多くの人が集まる避難所などでは、さまざまな感染症の拡大の恐れがあります。トイレや手洗いなど、衛生状況の悪化も原因となります」

・避難所での熱中症
「避難所が体育館などであった場合、エアコン設備のあるところは極めて少なく、広い空間で冷暖房も十分に機能しないことも想定され、体調不良を引き起こし、命にかかわることも」

・避難所での犯罪被害
「プライバシーの確保できにくい避難所ではセクハラや性犯罪、暴力などの犯罪が起きる危険性があります」

二次災害に巻き込まれないためにできること

二次災害に巻き込まれないためにはどうしたらいいのでしょうか?

「避難所でさまざまな困難が想定される原因には、避難所の運営が人任せになっているという現状も。自分たちの備えを考える上で重要なことは、命を守る視点だけではなく、安心して暮らしていける視点を備えることでもあるかもしれません。二次災害に巻き込まれないためにも、普段から、モノの備え、心の備え、コミュニティーの備えを意識することが大切です。この3つの備えが自分たちの心身の復興の支えとなります」

・モノの備え
「感染症を防ぐための衛生用品は必須です。特にマスクや消毒薬、女性特有の衛生管理用品は見落としがち。マスクは新型コロナが落ち着いてきたこの先も備蓄しておきましょう。市販の避難リュックや備蓄品のセットがあればよしとするのではなく、自分にとって必要なものを考えてみましょう。ほかの人には不要なものでも、自分にとって大切なものは、ご自身の暮らしのライフラインとなるかもしれません」

・心の備え
「生活圏の災害想定をハザードマップなどで予め知っておくことは、心の備えにつながります。また知識が行動につながり、助かる命もあります。地域の過去の災害伝承や、避難する場所を調べておくなど、地域特性を知っておくことが心の安心につながることもあるかもしれません」

・コミュニティーの備え
「自分ひとりですべての備えを進めるのは難しいことです。情報を入手するにあたっても、コミュニティーの力は役立ちますし、何よりも知っている人がそばにいることは、いざというときに大変心強いものです。日頃のあいさつから少しずつ関わりを持てると、日常の防犯において役立つこともあるでしょう」

家族やパートナーと連絡を取るために備えておきたいこと

災害が起きたとき、大切な人と連絡を取るために備えておきたいことをうかがいました。

「実際に被災した方たちの多くが経験されているのが、本来であれば近しい家族の安否情報や暮らすための情報が何よりも欲しい中、遠方にいる人たちからの安否確認の連絡により、携帯電話のバッテリーが消耗して困ったということ。省エネで自分の安否情報を発信し、自分自身も相手の発信を受け取る術を準備しておいてください」

・災害伝言ダイヤル(171)と災害伝言板(web171)を使えるようにする

「災害伝言ダイヤルは災害の発生により被災地への通信が増加した場合に開設される声や文字の伝言板です。毎月1日と15日、防災週間・正月三が日・防災とボランティア週間などに体験ができる利用日があります。災害時に初めて使うのではなく、本当に必要なときに使えるよう、連絡を取りたい相手と連絡を取り合う電話番号を共有し、発信と受信どちらも体験しておきましょう」

・各SNSの災害時の伝言板を活用する

「FacebookやLINEでは災害時に開設されるツールを用意しています。自分は災害時にどのSNSを使って情報を出すのか、事前に家族やパートナーと話し合っておくことが大切です。一度に複数の人に安否情報を発信できるので、通信の負担が軽減します」

・避難場所や落ち合う場所を決めておく

「住まいの近くの避難所など、どこで家族やパートナーと落ち合うのか、あらかじめ相談しておきましょう。地図で確認しても、たくさんの人が集まる避難所で探すことが難しいことも。実際に家から避難場所まで歩いて行って避難経路を確認するとともに、避難所内の具体的なスポットを決め、待ち合わせる時間帯に実際の場所を確認しながら行っておくとすれ違いの心配が減るでしょう」

地震をはじめ自然災害は、いつ、どこで、どのようなタイミングで起きてもおかしくありません。備えが命を守るということを今一度理解しましょう。まずは、災害伝言ダイヤルのかけ方を練習してみるなど、できそうなことから少しずつ防災をスタートしましょう。

Profile

防災士・ゲンサイデイズ 代表 / 細谷真紀子

東北で感じた災害・減災への視点を元に、全国での防災教育を実施。安心していのちを委ね、ゆるやかに暮らしが繋がる。災害死が0になる社会を目指し“いのちを守った先の「未来の笑顔」のためにある減災教育を作り出す”をビジョンに、日常の課題にもアプローチし、防災・減災教育の視点で社会の変革に取り組んでいる。
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取材・文=癸生川美絵(Neem Tree)