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若い世代も油断は禁物!20代から知っておきたい
「胃腸炎」のこと

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仕事や学業に追われ、不規則な生活習慣に陥りがちな若者世代。そのライフスタイルは、知らず知らずのうちに胃腸に負担をかけ、胃腸炎などの胃腸トラブルを引き起こす可能性があります。さらに、つらい症状を放置すると、思わぬ疾患を見逃してしまうことも。

消化器内科医の工藤あき先生に、胃腸炎の種類や正しい対処法を解説していただきました。

突然、お腹が痛み出して……
「胃腸炎」の基礎知識

胃腸炎は、胃や小腸、大腸の粘膜が何らかの原因で傷つくことにより発症する疾患。「胃炎と腸炎に分ける場合もありますが、総称して胃腸炎と呼ぶことのほうが多い」と工藤先生は言います。

「胃腸炎は急性と慢性に分けられます。特に若い方に多いとされるのが、突発的に発症する急性胃腸炎です。症状は軽い胃もたれや腹部の重みから始まり、悪化すると強い腹痛や下痢、嘔吐を伴います。重症化した場合、入院が必要になることもあるので、正しい対処が必要です」(消化器内科医・工藤あき先生、以下同)

【胃腸炎の主な症状】
・胃やみぞおちの痛み、むかつき
・吐き気・嘔吐
・食欲不振
・倦怠感
・発熱

「胃腸炎は多くの場合、数日間胃腸を休めれば改善します。そのため症状が一週間以上続く場合は、胃潰瘍(いかいよう)など、胃腸炎以外の疾患が隠れている可能性があります。症状が長く続くなら、市販薬で誤魔化すのではなく、早めに病院を受診しましょう」

冬は特に注意!
感染性胃腸炎の原因と対処法

急性胃腸炎の大半は、ウイルスや細菌などの病原体によって引き起こされる感染性胃腸炎です。感染性胃腸炎は、病原体が付着した手が口に触れることで感染する「接触感染」や、汚染された食品の摂取で感染する「経口感染」によって発症することが多いと言われています。

「ウイルス性胃腸炎は秋から冬、細菌性胃腸炎は夏場に多く見られます。特に気をつけたいのがノロウイルスです」

令和5年の食中毒発生状況を見ると、総患者数1万1803名のうち5502名(46.6%)と、食中毒患者の約半数がノロウイルスに感染しています。

ノロウイルスは乾燥した環境を好み、感染力が非常に強いので、秋頃に増えはじめ12月~翌年1月にピークを迎えます。若い方の場合、カキなどの二枚貝を食べて発症することが多いので、それらを食べる際は十分な注意が必要です」

主なウイルス性胃腸炎

主な細菌性胃腸炎

「感染性胃腸炎が疑われる場合、病院ではまず、病歴や周囲に同じ症状の人がいるかどうかを確認します。ノロウイルスの抗原検査は、あくまで診断の補助に用いるものなので、3歳未満または65歳以上の方、また医学的に必要と認められた場合のみ保険が適用され、若い方だと自費検査となるケースがほとんど。そのため検査をせず、急激な発症や発熱がある場合には感染性胃腸炎と診断されます」

ウイルスや細菌に対する特効薬はないため、感染性胃腸炎になった場合、基本的には対症療法で自然治癒を待つことになります。

「数日で症状が治まるため、無理に栄養を摂る必要はありません。とにかくこまめに水分補給をして脱水を防ぎ、安静にして過ごすことが大切です。特に飲食業に従事している方は、症状が完全に治まるまで職場復帰を控えましょう。
また、感染を広げないために手洗いや周囲の除菌を徹底してください。これは、自分ではなく一緒に暮らす家族が感染したときも同様です。漂白剤を薄めた溶液で除菌すると効果的ですよ」

胃腸炎は乳幼児や高齢者、持病のある人、免疫力の低い人が発症すると、重症化することもあるそう。予防のために、日頃から十分な衛生管理を行いましょう。

ストレスは胃腸の大敵!
胃腸炎の原因は意外なところにも

本来、胃腸炎は、年齢に関係なく発症する病気ですが、近年は胃腸の不調を訴える若者が増加しているそうです。工藤先生はその原因を「不規則な食生活とストレス」と分析します。

「現代社会では食べ物が手軽に手に入るため、過食や不規則な食生活に陥りやすく、それらが胃腸に負担をかけています。加えて社会に出たばかりの若い頃は、ストレスを抱えやすくもあります。コロナ禍にも、外出制限などのストレスが胃腸の不調を引き起こすという話がよく話題になりました」

ストレスが原因で発症する胃腸炎を総称して、「ストレス性胃腸炎」と呼ぶそうです。胃腸はちょっとした変化にも敏感で、ストレスの影響を受けやすい臓器。ストレスが引き金となって炎症が起きるのも無理はありません。

「ストレスがかかると、ストレスホルモンの影響で胃や腸の正常な動きが妨げられます。自律神経のバランスが乱れることで、胃酸が必要以上に分泌され、激しい腹痛や下痢が引き起こされることも
たとえば、テストや会議の直前にお腹を下してしまったことはありませんか? 自覚していないストレスであっても、体が無意識に反応して症状が現れることがあるのです」

少し休むことで症状が落ち着くならよいのですが、頻繁に強いストレスにさらされ、症状が繰り返し現れてしまう場合もあります。さらにそれが長期間続くと、慢性胃腸炎になる可能性も高まるので注意が必要です。生活習慣を整えるだけでなく、ストレスの軽減にも努めましょう。

さらに胃腸炎には、薬が原因で発症するものもあるそうです。

「『薬剤性胃腸炎』と呼びます。女性の場合、生理痛や頭痛を和らげるために、市販の痛み止めを頻繁に服用する方も多いでしょう。体質によっては、胃薬を併用しないと胃に不調が起きる可能性があります。どんな薬であっても、体質や使用頻度によっては胃を傷つけてしまう可能性があるので、胃薬を併用するか、必要に応じて医師に相談しましょう

胃の調子が悪いのに、原因がわからない…
もしかしたら「機能性ディスペプシア」かも

痛みや吐き気など、胃の不調が続いているのに、検査で異常を特定できないことがあります。その場合、「機能性ディスペプシア(機能性胃腸症)」と診断されるかもしれません。

「機能性ディスペプシアは、胃の粘膜などに明確な異常がないのに、胃痛や食後のもたれ感、早期の満腹感などの不快症状があり、それが6カ月以上続いている状態を指します。
かつては慢性胃腸炎やストレス性胃腸炎の一種と考えられていましたが、現在では機能性ディスペプシアという一つの疾患として細かく鑑別されるようになりました」

比較的若い世代や女性に多いとされるこの疾患。命に関わるものではありませんが、日常生活の質(QOL)を低下させる可能性は十分にあります。

「今のところ、機能性ディスペプシアの原因ははっきりとはわかっていません。ですが可能性として、胃の動きによって起きるという見立てがあり、感染性胃腸炎の治癒後に、何らかの原因で発症するケースがあります。
そしてストレスによる胃の運動機能の異常、胃酸過多などが、症状をさらに悪化させる可能性もあります。症状がつらいときはぜひ病院に相談してみてください」

生活習慣を整えて免疫力を上げ
胃腸の声に耳を傾ける

胃腸炎を防ぐために、日頃どのようなセルフケアをすればよいのでしょうか。工藤先生は「やはり自分の体を整えることが大切」と強調します。

「たんぱく質やビタミン、ミネラルなどの栄養素をバランスよく摂取し、食生活が乱れないよう心掛けましょう。月並みなことのように思えるかもしれませんが、免疫力を高めるためには、正しい食生活と十分な睡眠を取り入れ、生活習慣を整えることが大切です」

工藤先生はさらに、「健康だから、若いからと自分の身体を過信しないこと」と付け加えます。

「若い方は特に、胃腸炎にかかったとしても『自分は健康だから大丈夫』と軽く考えるかもしれません。しかし、それはとても危険です。実際に若い方で、胃腸炎だと思っていたら胃がんだったというケースもあります。
症状が続くのなら、必ず病院に行ってください。検査の結果、何も問題がなければ、安心できますし、『私は胃腸を崩しやすい体質なんだ』と、普段から気を付けられるようにもなります。放っておくと深刻な結果を招くこともあるので、検診や胃の検査を積極的に受け、自分の身体を大切にしてくださいね」

Profile

内科・消化器内科 / 工藤あき

一般内科医として地域医療に貢献する一方、消化器内科医として、腸内細菌・腸内フローラに精通。「腸活×菌活」を活かした美肌・エイジングケア治療にも力を注いでいる。日本消化器病学会専門医・日本消化器内視鏡学会専門医。その美肌から「むき卵肌ドクター」の愛称で親しまれている。著書に『老けない人が食べているもの』(アスコム)ほか多数。
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取材・文=粟屋芽衣(Playce)