気温の変化が激しい季節の変わり目は、自律神経の乱れによって体調不良を起こしがち。疲れがとれない、気分が落ち着かない、肌荒れが治らない……。そんなときは、心とカラダにやさしく働きかけてくれるハーブティーを取り入れてみませんか? ゆっくりとお茶を淹れる時間は、忙しい日々に余白ももたらしてくれるでしょう。
今回は、初心者でも使いやすいハーブやお悩み別のブレンドレシピについて、ティーデザイナーのしばたみかさんにお話をうかがいました。
CONTENTS
「ハーブ」と呼ばれる植物の特徴は?
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そもそもハーブとは、どのような植物を意味するのでしょうか。
「ハーブは、『生活に役立つ、香りのある植物』を指します。香りがあるということは、有用な成分を持つということも意味し、ハーブに含まれるポリフェノールやカロテノイドなどの機能性成分『フィトケミカル』が、心身にさまざまなうれしい効果をもたらします。
ハーブは、植物療法(フィトセラピー)の一種であり、副作用の心配をすることなく、調子を整えられるのが魅力です」(ティーデザイナー・しばたみかさん、以下同)
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「さらに、植物の成分をお湯で抽出したハーブティーは、体に良いものを効率よく摂取できるだけでなく、色、香り、味、そして淹れるときの音や感触によって、五感を刺激し、リラックスすることもできます」
飲む前に知っておきたい
ハーブティーの基礎知識
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ハーブには人間と同じくらい長い歴史があり、日本でも古くから身近な植物として取り入れられてきました。コーヒーや紅茶とは異なる、ハーブティー独自の魅力とはいったい何なのでしょうか。その歴史とともに解説します。
人々を癒し続けるハーブの歴史
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「元々ハーブは治療目的で使われはじめ、エジプトや中国では紀元前から活用されていました。明確なエビデンスはなかったものの、クレオパトラの時代にはすでに美容目的でも飲まれていたようです。
中世では、キリスト教が一部の修道院を除きすべての『癒し』を禁止していました。しかし、対象外の修道院では薬草園を作り薬草酒を製造するなどして、ハーブによる病気やケガ治療が行われており、ハーブの持つ力が認められていたことがうかがえます。
日本でも、古くからハーブは治療薬として使われていました。緑茶が貴族の嗜好品だった時代、ハーブティーとも言える『ドクダミ茶』などは、庶民を中心に飲まれていたといわれています」
コーヒーや紅茶との違い
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「植物から作られているコーヒーや紅茶も、広義ではハーブティーの仲間」ではありますが、その成分や製法には明確な違いがあります。
「基本的に、ハーブティーはカフェインを含みません。植物ごとに禁忌がある場合もありますが、年齢やシーンを問わず、多くの方に飲んでいただけます。また、使うのはフレッシュハーブまたはドライハーブで、それ以外の加工は施されていません。そのため、植物本来の自然な味わいを楽しみながら、植物が持つ成分をそのまま抽出することができます。
コーヒーや紅茶はかつて、これらを巡って戦争が起きるほど貴重なものでした。そのため、品質を安定させて輸出量を増やすべく、独自の加工技術が発展していきました。元をたどると、カフェインを含む植物はコーヒー、カメリア・シネンシス、マテの3種類しかないんです。このうちのカメリア・シネンシスを原料として、紅茶や緑茶、ウーロン茶など様々なお茶に加工されています」
フレッシュハーブとドライハーブのメリット・デメリット
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前述の通り、ハーブティーに使われるハーブは、フレッシュとドライの2タイプに分けられます。それぞれのメリットとデメリットを教えてもらいました。
・フレッシュハーブ
「フレッシュハーブは、みずみずしい味わいとポットに入れたときの見た目の美しさが魅力。スーパーで、料理にも使われるペパーミントやレモングラス、ローズマリーなどを見かけたことがあるでしょう。
しかし消費期限が数日と短く、使用部位だけカットするなど処理の手間が必要になることも。たとえばペパーミントの場合、ハーブティーには葉しか使いません。これは、茎を入れるとえぐみが出てしまうからです」
・ドライハーブ
「ドライハーブは保存がきき、旬のあるハーブでも1年中使うことができます。保管する際に遮光したり湿気を避けたりと注意が必要ですが、比較的扱いやすいので、初心者の方はドライハーブから始めるとよいでしょう」
ハーブティーを常飲する際の注意点
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歴史からもわかるように、薬代わりに使われてきたハーブティー。副作用はないものの、常飲するうえで押さえておきたい注意点があります。
「1日の摂取量に決まりはありませんが、一般的なお茶と同じように適量を意識しましょう。一度に何杯も飲むよりも、時間の間隔を空けて1杯ずつ飲むほうが、有用成分を効率的に取り入れることができます。新しいハーブを飲み始めるときは少量から始め、何か異常が起きた際はすぐに使用をやめてください」
また、ハーブのなかには一部禁忌事項を持つものもあるそうです。以下のような人は特に注意し、通院中の場合はかかりつけ医に相談のうえ、使用するようにしましょう。
●子ども、お年寄り
●妊娠中・授乳中の方
●持病があり、通院している方
●薬を服用している方
●アレルギーがある方(特にキク科アレルギーの方)
「自分以外の方にハーブティーを振る舞うときも、上記に該当する可能性を十分に考慮する必要があります。ハーブの特性が気になったときにすぐに調べられるよう、ハーブティーの専門書を1冊持っておくのもおすすめです」
プロがセレクト!
初心者におすすめのハーブ5選
ハーブにはたくさんの種類があり、何から購入すればよいか迷ってしまうかもしれません。そこで、ハーブティー初心者でも飲みやすく、ブレンドにも使いやすい5種類のハーブを教えてもらいました。
1.体と心、両方の不調に役立つ万能ハーブ「ジャーマンカモミール」
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使用部位:花
作用:消炎、鎮静、鎮痙、駆風
※キク科植物アレルギーの方は使用を避けましょう
「ジャーマンカモミールは、痛みや炎症の緩和など『体の不調』から、興奮や落ち込みなどの『心の不調』にまで、やさしく働きかけてくれる万能ハーブ。青りんごのような香りと甘酸っぱい風味が特徴で、飲みやすくブレンドハーブティーのベースにも使いやすいです」
2.元気を取り戻す鮮やかな赤色「ハイビスカス」
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使用部位:ガク
作用:代謝促進、消化機能亢進、緩下(かんげ)、利尿、疲労回復、眼精疲労の回復
「ハイビスカスは、ルビーのように鮮やかな赤色と、パッと目の覚めるような酸味が特徴。クエン酸を豊富に含み、疲労回復を助ける働きがあります。また、アントシアニンが含まれるので、PCやスマホによる眼精疲労の軽減にも役立ちます」
3.アンチエイジングの強い味方「ルイボス」
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使用部位:葉
作用:代謝促進、抗酸化、抗アレルギー
「抗酸化成分を多く含むルイボスは、古くから『不老長寿のお茶』とされてきました。美容面でのアンチエイジングだけでなく、花粉症対策に役立つ抗アレルギー作用や、様々な病気の原因となる活性酵素を取り除く作用もあります。風味が強いので、量を調整しながら飲むとよいでしょう」
4.心を穏やかにするリラックス系ハーブ「レモンバーベナ」
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使用部位:葉部
作用:興奮抑制、リラックス、消化促進
「レモンバーベナは、口当たりがまろやかで、爽やかな香りとほのかな甘みが特徴。気持ちを落ち着かせ、消化器の働きを助けるので、食後や寝る前の1杯にもぴったりです」
5.美肌に導くビタミンCの爆弾「ローズヒップ」
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使用部位:偽果
作用:ビタミンC補給、抗酸化、便秘解消、抗炎症
「ローズヒップはレモンの約20倍ものビタミンCを含み、『ビタミンCの爆弾』とも言われています。便秘を解消して腸内環境を整える働きもあるので、美肌効果を求める方に最適なハーブです。淹れたあとに残った実を食べると、お湯に溶け出しにくい成分も摂取できますよ」
おいしくてヘルシー!
お悩み別ブレンドレシピ4
複数のハーブをブレンドしたハーブティーは、有用成分を効率よく摂取でき、より深みのある味わいが楽しめます。ここでは代表的な4つのお悩みをピックアップ。
前出の5種類のハーブを中心に、おいしさにもこだわった、しばたさん流のブレンドレシピを教えてもらいました。
ブレンドレシピ1.肉体疲労や眼精疲労を感じたときに……「疲労回復ブレンド」
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【材料(2杯分)】
ローズヒップ……ティースプーン1杯
ハイビスカス……ティースプーン1/2杯
レモングラス……ティースプーン1/2杯
「ローズヒップのビタミンCにハイビスカスのクエン酸が合わさることで、どちらもよりカラダに吸収されやすくなります。ハイビスカスの酸味を生かし、レモングラスやレモンバーベナのようなレモン風味のハーブと合わせると、リフレッシュ効果がアップします」
ブレンドレシピ2.手足の冷えが気になるときに……「代謝促進ブレンド」
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【材料(2杯分)】
ルイボス……ティースプーン1杯
ジャーマンカモミール……ティースプーン1杯
ジンジャー……ティースプーン1/4杯
「ルイボス単体ではやや味が強いので、ジャーマンカモミールをプラス。ほんのり甘味を感じるマイルドな味わいになります。代謝促進作用をアップさせるなら、ジンジャーやシナモン、カルダモンなどのスパイス系のハーブをブレンドするのがおすすめです」
ブレンドレシピ3.イライラや落ち込みが続くときに……「リラックスブレンド」
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【材料(2杯分)】
レモンバーベナ……ティースプーン1杯
リンデン……ティースプーン1杯
オレンジピール……少々
「興奮を抑制するレモンバーベナに、鎮静作用を持つリンデンとオレンジピールを加えました。リンデン特有の甘い香りと柑橘の爽やかな香りが心地よく、安眠もサポートします。オレンジピールは入れすぎると苦味が強くなるので、少量に抑えるのがポイントです」
ブレンドレシピ4.肌荒れや便秘を改善したいときに……「美肌ブレンド」
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【材料(2杯分)】
ローズヒップ……ティースプーン1杯
ヒース……ティースプーン1杯
マロウブルー……ティースプーン1杯
「美肌に欠かせないビタミンCを豊富に含むローズヒップに、メラニン色素の合成を抑制するヒースと、皮膚や粘膜を保護するマロウブルーをプラス。マロウブルーは水出しにすることで鮮やかな紫やブルーが楽しめますが、成分を抽出する目的であれば熱湯で淹れるのがよいでしょう」
少ない道具で始められる
基本のハーブティーの淹れ方
これからハーブティーを始める人に向けて、準備する道具や、ドライハーブを使ったハーブティーの淹れ方を教えてもらいました。
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あると便利な道具は以下の4点です。
●ティーポット
●ティーカップ
●茶こし(茶こし付きティーポットの場合は不要)
●ティースプーン
「ポットやカップは視覚で楽しめるガラス製がおすすめですが、陶器などほかの材質でも問題はありません。ポットがなければ耐熱性のあるメジャーカップや小鍋で代用してもOKです。『専用の道具を揃えなきゃ』と気負わずに、まずは家にある道具で始めてみて、徐々にお気に入りの道具を揃えていくとよいでしょう」
ハーブティーを淹れるときは、それぞれのハーブの特性に合わせ、お湯の温度や蒸らし時間を調整します。
「ハーブには高い温度で抽出しやすい成分と、低い温度で抽出しやすい成分があります。熱湯を注ぐほうが、時間の経過によってより多くの成分を抽出できるでしょう」
ホットティーのおいしい淹れ方
1.ポットとカップを湯通しする
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「熱湯を注いだときに温度が下がらないよう、ポットとカップはあらかじめ湯通ししておきましょう。ポットの下にポットマットを敷くと、熱が逃げにくくなります」
2.熱湯を注いで蒸らす
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「ポットにドライハーブを入れ、沸騰した熱湯を注ぎます。お湯の量は1杯あたり約180ccが目安。使用部位によって蒸らし時間は異なり、目安は花=3分、葉=3~5分、根=5~7分、種子=5~7分となります。ブレンドの場合は、メインとなるハーブの使用部位に合わせて調整してください」
アイスティーのおいしい淹れ方
1.ホットで作るときの半量の熱湯を注いで蒸らし、氷の入ったグラスに注ぐ
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「途中までの手順はホットと同じですが、お湯は半量(1杯あたり約90cc)だけ注ぎましょう。蒸らし終わったら氷をたくさん入れたグラスに注ぎ、氷が溶けると飲みごろになります」
おいしくいただくコツ1.甘みが足りないときはハチミツやフルーツを加える
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しばたさんによると、「甘さがないとおいしく飲めない」という人は、甘味料をちょい足ししてもOKだそう。
「甘みを加えるときは、砂糖よりも糖質が少なく、血糖値の上昇が緩やかなハチミツがおすすめ。どんなハーブとも相性抜群で、お子さま(1歳以上)に与えたいときなどにも役立つはずです。
また、オレンジやイチゴ、リンゴなどフルーツを入れてもおいしく仕上がり、見た目も華やかになります。ハーブのなかにも、リコリスやステビアといった甘味成分を持つものがあるので、これらを試してみるのもいいですね」
おいしくいただくコツ2.ドライハーブは早めに使い切る
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風味を損なわないために、ドライハーブは新鮮なうちに使い切ることが大切です。
「使いかけのドライハーブは、保存瓶などで密閉して湿気を防ぎ、直射日光や紫外線が当たらない暗所で保管しましょう。冷蔵保存もNGではないですが、ほかの食材のニオイ移りや容器の結露が心配なので、常温保存がおすすめです」
「ハーブティーを飲むことがストレスになっては本末転倒。自分好みのブレンドやアレンジを加え、使うハーブに合わせた抽出方法で『おいしく楽しむ』ことが大切」と語るしばたさん。
今回はお悩み別に初心者向けのブレンドレシピを紹介しましたが、目的や好みに合わせてアレンジするのもよいでしょう。仕事の合間や寝る前などホッと一息つきたいときは、ぜひハーブティーを取り入れてみてはいかがでしょうか。
Profile
ティーデザイナー / しばたみか
ティーデザイナー、アランコーエン認定ホリスティックライフコーチ。17年間インテリアデザインの仕事に携わったのち、2011年に紅茶とハーブの教室を立ち上げる。数百種類ものオリジナルブレンド・ハーブティーを販売する「るなぼう」の運営も行う。著書に、『お悩み別こころとからだを癒すレシピ ハーブティーブレンド100』(山と溪谷社)、『カップ一杯の魔法』(山と溪谷社)。
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取材・文=ホウヤケイナ 撮影=鈴木謙介 撮影協力=UTUWA