南青山のブックカフェ「brisa libreria(ブリッサ・リブレリア)」のオーナーであり、“ブックセラピスト”として活動する元木 忍さん。いつもは“話を聞く”側の彼女がインタビュアーとなり、“気になる人”を訪ねる対談企画第二弾です。今回ご登場いただいたのは、「国境なき料理団」の理事であり、レシピブック「週末ビーガン野菜レシピ」を出版された“和ビーガン”シェフ・本道佳子さん。食に関するトレンドもいち早くキャッチしている元木さんが、発売前のレシピブックを片手に、時代が求める“和ビーガン”という考え方に迫りました。
ビーガンをタイトルにした本が
書店に並ぶのは画期的なこと
元木:この度は出版おめでとうございます。レシピブック「週末ビーガン野菜レシピ」を出版することになった経緯から教えていただけますか?
本道:2008年から約9年間、企業広報誌の連載でお料理を作らせていただいていました。その連載が終わることになり、たくさん溜まったレシピがこのまま埋もれてしまうのはもったいない、何とか本にしたいと思っていたところ、新潮社さんからお声かけいただいたのが経緯ですね。
元木:まず私は、“週末ビーガン”というタイトルが気になりました。
本道:私は10年以上前からビーガン料理を作り続けてきましたし、湯島食堂(※2014年に閉店)も野菜料理だけのレストランでした。今まで何度もビーガンという言葉をタイトルに掲げた本を作ろうと思いましたが、その度に「日本ではまだ伝わりにくい」と言われまして…。でもようやく、時代が追いついてきましたよね。ビーガンをタイトルにした本が書店に並ぶのは、本当に画期的なことだと思います。
元木:ビーガンという言葉を紐解くと、地球環境をどう考えるかという話になってきますよね。食肉用の動物を大量に育てるためには大量の穀物が必要になりますが、人間がお肉を食べなくなればその穀物も必要なくなる、そうすればどれだけの飢えが防げるか、という…。本質を知ることはとても大切なことですが、ビーガンに対してちょっとストイック過ぎると感じている人が多いのも事実だと思うんです。その辺はどうお考えですか?
本道:もともと日本人は野菜を多く食べてきた民族ですし、私としては昔の日本の食生活に少し戻っていただければという考え方ですね。
週末は野菜だけを食べて
胃腸もゆっくり休ませる
元木:本のタイトルには“週末ビーガン”とあります。つまり、月曜日から金曜日までは動物性の食品を食べてもいいということでしょうか?
本道:現代社会で生活していますと、外食すれば必ずと言っていいほどお肉やお魚が入っていますよね。そこで「私は動物性の食品は食べません」となると、いろんな方とお付き合いするのが難しくなってしまうじゃないですか。なので、ご自分のお休みの日、週末だけは野菜だけを食べる生活をしていただけたら、胃腸もゆっくり休ますことができると思うんです。お肉よりも野菜のほうが消化酵素は少なく済みますし、ビーガンとは休んでいただくための野菜料理でもあるんです。
元木:その発想はどこから来たのでしょうか?
本道:週に1度はお酒を飲まない休肝日を設けている方もいらっしゃいますよね。あの発想です。
元木:週末ビーガンな生活を続けていけば、健康になれますか?
本道:なれると思っています。私は末期がんの患者さんなど、ご病気の方々にお料理をさせていただく機会も多いんですが、野菜だけのお料理だと安心して召し上がっていただけるんです。胃がもたれないのはもちろん、症状が改善されるケースも目の当たりにしてきました。身体は、今まで食べてきたもので作られているわけですよね。その結果、何らかの病気にかかってしまっているのであれば、野菜だけの生活を3週間くらい続けてみるといいと思います。病気に傾きかけている現代人は、せめて週末だけでもビーガンにしてもらえると身体は喜ぶと思いますよ。
元木:本書のレシピを拝見しましたが、すごくシンプルで簡単に作れそうな料理ばかりですよね。レシピを考案するときは、やはり試行錯誤するものなのでしょうか?
本道:私はまったく考えて作らないですね(笑)。冷蔵庫の中にあるものを見て、これとこれで作ろうという感じです。よく私の料理を見て「それだけですか?」と言われるので、「だけ料理」と呼んでいる人もいるくらいです。
元木:動物性の食材を入れないお料理だと、味気ない、素気ないという錯覚に陥る方って多いと思うんです。本書を読めば、決してそうではないことがわかりますよね?
本道:はい。例えば本書に「不思議なつかし豆腐オーブン焼き」というレシピが掲載されていますが、高野豆腐を使うとけっこうお肉っぽくなるんですよ。油を多めに入れて炒めるだけなんですけど、満腹感もありますしね。野菜だけでも、しっかりメイン料理になりますよ。
世界中の人たちと友達になれる料理
それが“和ビーガン”という考え方
元木:常に各地を飛び回っているイメージの本道さんですが、今後はどんな活動を考えていますか?
本道:今まではプロの料理人の方々に野菜料理の可能性をお話しても、「野菜料理だけでお客さんが来るはずがない」とか「コースで高いお金がとれない」とか、ネガティブな反応ばかりでした。でも今は、フレンチ・イタリアン・中華・和食と並んで、ビーガンというセクションが世界中に存在しますよね。日本もそう変わっていくと思っていましたし、変わってきたと思っています。そこで私が取り組んでいるのが、“和ビーガン”という活動です。和は、和食の和、平和の和、調和の和。ビーガンという言葉自体は海外から来たものですが、日本は海草もあるし野菜もたくさんある国。もともと精進料理を食べていた文化もあるので、そのエッセンスを海外に向けて発信していきたいと想い、“和ビーガン”という言葉を考えました。
元木:“和ビーガン”が世界に広まることで、どんな未来をイメージしていますか?
本道:“和ビーガン”は、世界中の人たちと友達になれる料理です。世界には様々な宗教や民族の方がいて、戒律などで食に対する縛りもありますよね。でも、野菜だけのお料理でテーブルを囲めば、どんな宗教、民族の人とでも一緒に食事を楽しむことができます。一緒に食事をすると、必ずそこには会話が生まれますし、笑顔も生まれます。相手のことを理解しようともしますよね。そうすれば、必ず世界は平和になっていくはず。そんな和のある食卓が世界中に広がっていくことを願って、“和ビーガン”の活動を続けていきたいと思っています。
『疲れた胃腸を元気にする 週末ビーガン野菜レシピ』
定価:本体1300円(税別)新潮社
ISBN 978-4-10-350921-9 C0077
Profile
本道佳子(左)
NPO法人「国境なき料理弾」理事、和ビーガン シェフ。高校卒業後、フードコーディネーターの道に進み、25歳で単身ニューヨークへ。高級レストラン「Hudson River Club」で修行後、現地のVIPが集う「野村エグゼクティブダイニング」でスーシェフに抜擢。その後、ロサンジェルスへ移り、ケータリングなどを手がけながらオーガニックやマクロビに触れる。2000年に帰国し、フリーの料理人として映画の撮影現場やコンサートツアーの帯同シェフを務める。2010年、「国境なき料理団」を立ち上げ、その本拠地として野菜レストラン「湯島食堂」をオープン(2014年に閉店)。東日本大震災や熊本地震など自然災害被災地への炊き出し、医療施設などでの出張料理人としても活躍している。
元木忍(右)
brisa libreria 代表取締役。大学卒業後、学研ホールディングスで書店営業やマーケティング、楽天ブックスではECサイト運営や物流、CCCでは電子書籍ビジネスの立ち上げと、一貫して書籍にかかわる仕事を担当。東日本大震災を機に人生を見直し、2013年、サロンを併設したブックカフェ brisa libreria を南青山に開業。オーガニックスパサロン spa madera も経営している。
取材・文=馬渕信彦 撮影=三木匡宏