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4年に1度の野球の祭典、いよいよ開幕!野球初心者が
「WBC」観戦を楽しむ方法

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2023年3月8日からワールド・ベースボール・クラシック(WBC)が開催されます。大谷翔平選手やダルビッシュ有選手など多くのメジャーリーガーが参戦する今大会は特に盛り上がりを見せており、大会直前の宮崎キャンプには9日間で18万人以上のファンが訪れました。なぜこんなにも多くのメジャーリーガーが集まったのか? 侍ジャパンの注目選手は? など今大会のポイントについて、3大会連続でWBCを取材しているスポーツジャーナリストの氏原英明さんに教えてもらいました。

野球人口を広めるためにはじまった世界一決定戦

WBCはメジャーリーグ(MLB)とMLB選手会が主催する野球の世界一決定戦。世界的に見るとまだまだ野球人口は少ないため、競技の魅力を広める目的で始まりました。2006年の第一回大会を機に4年に1度のペースで続いていましたが、第五回大会となる今回はコロナ禍で延期となり約6年ぶりの開催です。

今大会は2017年大会で本戦に出場していた16カ国と、2022年に行われた予選の勝者4カ国の計20カ国で争います。1次ラウンドでは20カ国がプールA~Dの4組に分かれてリーグ戦形式で戦い、上位2カ国が準々決勝ラウンドに進出。準々決勝ラウンド以降は負けたら終わりのトーナメント形式です。

1次ラウンドB組と準々決勝は東京ドームで行われます

メジャーリーガーが集結する2023年大会は、過去最高の盛り上がりに

正直、FIFAサッカーワールドカップに比べるとWBCの注目度はやや劣るイメージがありませんか? それもそのはず、サッカーよりも競技人口が少ないうえ、メジャーで活躍する野球選手は国際大会ではなくリーグ戦に本腰を入れる風潮があったので、これまでWBCにはメジャーリーガーがあまり参戦していなかったんです。

ところが今大会は各国のメジャーリーガーたちがこぞって参戦! アメリカや日本をはじめ多くの国が過去1番と言っていいほど強力なチームになっており、ファンの熱量もぐっと高まっています。

「前回大会ではじめて観客動員数が100万人を突破しました。その盛り上がりを受けてロサンゼルス・エンゼルスのマイク・トラウト選手が『出たい』と言い、彼に続くようにほかのメジャーリーガーたちも次々と出場の意向を示しはじめたのです。

ダルビッシュ有選手もチームメイトとの会話でWBCの話題が出るようになったと話していて、韓国代表の金河成(キム・ハソン)選手からは『出ないでくださいよ、ダルさん』なんて冗談を言われたとか。

昔のWBCはどこかお祭りのような位置づけで全野球選手が目指す先とは言い難かったですが、最近はメジャーリーガーたちにも『出てみたい』と思われる大会へと変化してきたみたいですね」(氏原英明さん、以下同)

ロサンゼルス・エンゼルスのマイク・トラウト選手

今年の侍ジャパンはひと味違う! 世界を意識したチーム編成

今大会の侍ジャパンは2021年まで北海道日本ハムファイターズを率いた栗山英樹さんが監督を務めます。チームの特徴について氏原さんに教えてもらいました。

「前回大会まではテクニック重視の良くも悪くも日本らしいチームでしたが、今大会は力強さを武器にした、より世界基準に近いチームという印象があります。

例えば、これまではヒットで着実に塁に出て次の人にバトンを渡す『つなぎのバッティング』をしていたのに対し、今回は村上宗隆選手や山川穂高選手、岡本和真選手など、常にホームラン狙いの豪快なバッターが集まっています。

また、今までは速い、曲がる、落ちるなどさまざまな特徴のピッチャーを揃えていたのに対し、今回は速くて落ちる球を投げられる選手が多く選ばれています。メジャーで活躍しているピッチャーの特徴と重なることから、かなり世界を意識していることが伺えます。バッティング、ピッチングともに力強くて、豪快なプレーが期待できそうです」

「宮崎キャンプ中、ダルビッシュ有選手は若手選手によく話しかけ、コミュニケーションをとっていました。取材対応にも積極的に応じてほかの選手の負担を軽くする動きをしていたのが印象的です」と氏原さん

野球界の三苫に⁉ 侍ジャパンの注目選手3名

大谷翔平選手やダルビッシュ有選手といった現役メジャーリーガーに注目が集まる今大会ですが、日本のプロ野球で活躍する選手の中にも将来が期待される逸材がたくさんいます。“野球界の三苫”になり得る期待の星は一体だれなのでしょうか。

山本由伸選手(背番号18、投手、1998年8月17日生まれ)
「これからメジャー挑戦が期待できる選手です。高校時代やドラフトでの注目度はさほど高くはなかったのですが、信念をもって野球に打ち込み、日本トップクラスのピッチャーになりました。178cmと決して身長が高いわけではないのですが、速い球と変化級でメジャークラスの選手に立ち向かう力があると思います」

佐々木朗希選手(背番号14、投手、2001年11月3日生まれ)
「去年、完全試合を達成しノリに乗っている佐々木選手。190cmの長身を生かしたスケールの大きなピッチングは圧巻です。この歳で164キロの球を投げられる選手はそうそういません」

村上宗隆選手(背番号55、内野手、2000年2月2日生まれ)
「2022年に計56本のホームランを打ち、シーズン最多本塁打記録を更新しました。最近メジャーで活躍している日本人選手はピッチャーがほとんどのため、イチロー、松井秀喜に続いて世界で活躍するバッターになれるのか、期待が高まる選手です」

注目の選手は、まだまだいます。

「ほかにも、もしコロナの影響を受けずに甲子園を開催できていたらきっと有名になっていた髙橋宏斗選手や、初の日系人選手であるラーズ・ヌートバー選手も近い将来メジャーで大活躍するであろう逸材です。ぜひ注目してみてください」

氏原さんが「これだけは見るべき」と話す試合とは?

侍ジャパンは1次ラウンドで4試合、準々決勝、準決勝、決勝と勝ち進めば最大で7試合行います。どれも見逃せないですが、氏原さんは「準々決勝は手に汗握る展開になりそう」と話します。

「1次ラウンドでぶつかる韓国を恐れる人が多いようなのですが、リーグ戦なのでたとえ負けても巻き返しのチャンスがあります。なので僕は負けたら終わりの準々決勝のほうが、より緊張感があると思っています。

準々決勝ではプールAの1位か2位と戦います。おそらくチャイニーズ・タイペイ、キューバ、オランダのどこかだと思うのですが、特にキューバは強敵です。国技として野球に取り組んでいて、野球がはじめて五輪正式種目となった1992年のバルセロナ大会から5大会連続で出場し、金メダルを3回獲得。2006年のWBC第一回大会では準優勝しています。

最近は金銭問題などで強い選手が次々と亡命しチームが弱小化していたのですが、今回のWBCでは亡命した選手もキューバ代表として出場可能に! さらに福岡ソフトバンクホークスのリバン・モイネロ選手、中日ドラゴンズのライデル・マルティネス選手など、いつも日本でプレーしているうえ日本人選手が打ちづらいピッチングをする選手も代表入りしています。もし準々決勝でキューバと当たることになれば、熱い戦いになりそうです」

優勝候補ドミニカ共和国の強さの秘密

最強チーム揃いの今大会。一体どこか栄冠を勝ち取るのでしょうか…! 氏原さんの優勝予想をお聞きしました。

「個人的にはドミニカ共和国が優勝するのではないかと思っています。アメリカに次いで多くのメジャーリーガーを輩出している国で、2022年の最優秀投手に選ばれたサンディ・アルカンタラ選手イチローさんの愛弟子で去年新人王を獲得したフリオ・ロドリゲス選手など、ドミニカ代表はメジャーのスーパースターばかりです。日本があたるのはおそらく決勝なので、ぜひ勝ち進んでもらって、メジャーリーガーたちと日本人選手の激闘を見てみたいですね」

シアトル・マリナーズのフリオ・ロドリゲス選手

WBCだからこそ見られる「フェアプレー」って何?

世界中の野球選手が集まるWBCは、試合の内容や結果以外にもたくさんの注目ポイントがあります。中でも日本のプロ野球ではなかなか見ることができないのがフェアプレーです。

「スポーツには正々堂々戦うことを意味する『フェアプレー』という考え方がありますが、海外の野球だとその考え方を行動にも示す風潮があります。例えば敵チームの選手が好プレーをしたら、帽子をとったり頭を下げたりして『ナイスプレー』と敬意を示すんです。僕はそのシーンを見る度に、なんだか感動してしまいます。アメリカ、オランダ、メキシコ、オーストラリアの選手がやることが多いので、ぜひチェックしてみてください。

また、スポーツ総合サイト『THE DIGEST』では、MLB専門誌『Slugger』との連動記事が配信されています。国内唯一のメジャーリーグ専門誌がお届けする記事なので、メジャーリーガーが多数参戦するWBCについてもコアな情報がゲットできるはずです。試合とあわせてチェックすることで、WBCがもっと面白くなるかもしれません」

「野球ファンでない場合、おそらくニュースで大谷翔平選手やダルビッシュ有選手の話題を耳にするくらい。日本のプロ野球選手やほかのメジャーリーガーたちについてよく知らないという人も多いと思います。WBCをきっかけに、まずは日本のプロ野球選手やメジャーリーガーたちを覚えてもらえるとうれしいです」

Profile

スポーツジャーナリスト / 氏原英明

新聞社勤務を経て2003年フリージャーナリストとして活動開始。高校野球からプロ、メジャーリーグまでを取材している。甲子園大会は21年連続、日本シリーズは6年連続。WBCは3大会連続で取材。高校時代に見た選手をメジャーやWBCで見ることを大きな財産としている。『Number』(文藝春秋)『slugger』などの紙媒体のほかWEBでも連載を持つ。そのほか、Voicyやstand fmなど音声アプリのパーソナリティーを務めるほか、YouTubeチャンネルを開設。野球指導者のためのオンラインサロンを運営している。2018年8月に上梓した「甲子園という病」(新潮新書)が話題作。2019年には「メジャーをかなえた雄星ノート」(文藝春秋 著者 菊池雄星)の構成を担当。2021年には「甲子園は通過点です」(新潮新書)、ビジネスマン向けの著書として「baseballアスリートたちの限界突破〜野球で人生を学ぶ」がある。
Twitter https://twitter.com/daikon_no_ken

取材・文=横塚瑞貴(Playce)