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その常識、間違っているかも!?『不老長寿メソッド』著者に聞く
健康的な暮らしの新常識

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日常生活の中でラクに若返る方法

元木:食事でも体に適度な苦痛を与えることのできる「AMPK⾷事法」というのがありますね。

鈴木:「AMPK」とは燃料センサーのような役割をもつ酵素のひとつです。体に必要なエネルギーが不足すると活性化し、効率よく代謝を促す働きを持っています。AMPK食事法はこの燃料センサーを刺激するための食事法です。プログレス・エクササイズが体を動かすことで、外部から刺激を与えるのに対し、こちらは内側から刺激してホルミシスを起動させます。

元木:先ほどのポリフェノールも、薄い毒としてAMPKを刺激してホルミシスを活性させるのですか?

鈴木:AMPK⾷事法の大きなポイントのひとつです。もう一つがファスティング(断食)ですね。

元木:ファスティングは良いと⾔われていますが、どんな効果があるのでしょうか?

鈴木:体重を減らすだけではなく、体内の炎症をやわらげる作用や、アレルギー性の喘息、関節炎の改善、脳の情報処理スピードアップなどの効果があります。ファスティングには、食事の時間を前後に90分ずらすもの、特定の時間に食事を限定するものなどいくつか方法がありますから、自分の生活スタイルで続きそうなものを選んで実践してみるといいですね。

元木:鈴木さんも、どれか実践されていますか?

鈴木:朝食を抜いて約16~18時間の空腹時間をつくる方法を続けています。苦にならないので、自分には合っているようです。

元木:本書には「快眠の基礎がわかるスリープ・チェックリスト」がありますね。私はとても寝つきが悪く、ぐっすり眠れないことが多いんです。お酒を飲んでから寝ることも……。

鈴木:お酒を飲まないと眠れない入眠は、睡眠の質を下げるだけなので習慣化しない方がいいですね。本書では、「寝室の温度は18~19度にする」、「寝室には時計を置かない」などデータに基づく快眠の方法もいくつか紹介していますから、ぜひ片っ端から実践してみてください。ハードな運動をして寝落ちするとか、睡眠を最優先する考え方にもっていくというのも有効です。しっかり寝ると翌日のパフォーマンスがまったく違いますし、アンチエイジングメソッドとしてもとても重要です。有名な事例にアメリカのユニバーシティ・ホスピタルズが行った試験があります。60人の女性に紫外線をあてて意図的に肌バリアを破壊したところ、睡眠の質の低い人は30%も肌の回復力が遅く、3日経っても肌が元に戻らなかったといいます。

睡眠の質を判断する「スリープ・チェックリスト」。睡眠不足の改善で日常生活も驚くほど変わるといいます。

元木:美肌を保つスキンケアについても書かれていますね。

鈴木:結論からいうと、美肌の保持にとにかく重要なのは保湿です。とはいってもあまりやるべきことはありません。面倒なことを考えたくなければワセリンを使えばいい。高級化粧品などを使わず、毎日、少量のワセリンを肌に塗っておけば、問題はありませんよ。

楽観的な人ほど、元気で長生き

元木:“脱洗脳”の章にある「幸福な⼈ほど、⻑⽣きする」という、アンチエイジング科学の金言は大好きです(笑)。

鈴木:楽観的な人ほど寿命が長いということは、いろいろな調査で認められています。楽観的な人は悲観的な人より50~70%長生きだという報告もあります。幸福な人ほど若々しく寿命が長い理由は実ははっきりしませんが、楽観思考がライフスタイルを整え、日々のストレスも癒してくれることで生物学的機能にまで良い影響が出るのだと考えています。

元木:私は楽観的なので、毎日を楽しく生きていますけど、ネガティブ思考の人はつらいところですね。

鈴木:現代社会では「エイジズム」も問題にあがっています。エイジズムとは老化に対するネガティブな印象を意味する言葉で、世間が高齢者を社会的弱者と見なしたり、高齢者自身が「自分は老いぼれだ」と卑下したり、逆に周囲が高齢者に過保護になるといったこともエイジズムの一種です。それが侮れないのは、「老化に対してポジティブな人の方が、認知症リスクが低い」というイエール大学の調査データもあるからです。エイジズムに立ち向かえる人が健康寿命も長くなります。

元木:脳をエイジズムから解放する方法も解説されていますね。外見のチェック回数を減らすというのもおもしろい。

鈴木:鏡を見ないことですね。自分の理想と現実のギャップに落ち込み、見た目の若さを他人と比べて無限に落ち込んでいきます。人のSNSにアップされた画像を見るのも落ち込みやすいので健康によくありません。

鈴木さんは次回作の「才能をみつける本」を執筆中。今夏には刊行予定だそう。

科学の視点でアンチエイジングの要点を一冊に

元木:「不老」のメソッドがたっぷりつまっています。なぜこの本を出版しようと考えたのですか?

鈴木:100歳以上の人口が世界で一番多いイタリアのサルデーニャ島や、心臓病の人が皆無に近い南米ボリビアのチマネ族のように、常識を超えた若さを保ち続ける人々の肉体にはどんな秘密があるのか。科学の視点でアンチエイジングの要点をまとめてみようと思ったのがきっかけです。

元木:アンチエイジングに関する情報は数多く出回っていますよね。

鈴木:この本では、1970年代から現在までに発表されたアンチエイジングの文献から、エビデンスの確実性が高いGRADEシステムなどにもとづいて質が高いものを抽出し、3000超えのデータを参考にしました。つまり信頼できる手法だけを集めた不老長寿メソッドの“ベスト盤”といえます。

元木:データの裏付けのあるものだけを集めたということですね。

鈴木:その方が、実践するうえでもモチベーションが上がりますから。

元木:その通りですね。私自身も日常的に参考にさせていただきます!

Profile

サイエンスジャーナリスト / 鈴木 祐

1976年生まれ、慶應義塾大学SFC卒業後、出版社勤務を経て独立。10万本の科学論文の読破と600人を超える海外の学者や専門医へのインタビューを重ねながら、現在はヘルスケアや生産性向上をテーマとした書籍や雑誌の執筆を手がける。自身のブログ「パレオな男」で心理、健康、科学に関する最新の知見を紹介し続け、月間250万PVを達成。近年はヘルスケア企業などを中心に、科学的なエビデンスの見分け方などを伝える講演なども行っている。

ブックセラピスト / 元木 忍

学研ホールディングス、楽天ブックス、カルチュア・コンビニエンス・クラブに在籍し、常に本と向き合ってきたが、2011年3月11日の東日本大震災を契機に「ココロとカラダを整えることが今の自分がやりたいことだ」と一念発起。退社してLIBRERIA(リブレリア)代表となり、企業コンサルティングやブックセラピストとしてのほか、食やマインドに関するアドバイスなども届けている。本の選書は主に、ココロに訊く本や知の基盤になる本がモットー。

文=安藤政弘 撮影=鈴木謙介