ラングドック 〜21世紀が楽しみなワイン産地〜
南フランス、ラングドック(ルーションまでを含む)は、世界最大といえる広大なワインの一大産地であり、長らく安価なテーブルワインの産地でもありました。イギリスとパリとの物理的な距離が、この南の産地の可能性を埋没させていた要因のひとつとして考えられますが、世界中でフランスワインの人気が高まるにつれ、生産者の意欲向上、醸造技術の高まり、資本の流入による近代化を迎えるのは、20世紀の後半のことでした。近年では、グランクリュ的な原産地呼称がナルボンヌの周辺で産まれ、モンペリエ周辺ではさまざまな個性的なラングドックワインが産まれています。
もっとも多く栽培されている品種はカリニャンですが、グルナッシュやシラー、ムールヴェードルといった、ローヌと似た品種構成の赤ワインも、またボルドー品種とのブレンド、在来種によって、スパークリング、白、ロゼ、甘口まで幅広く変化に富んだワインが楽しめる産地として注目を集めています。
おすすめしたいのは、その幅広いラングドックワインのなかでも、エチケットにAC(原産地呼称)表記のあるワイン。原産地呼称が、品質保証であると同時にワインを難しくしている一因ではありますが、この遅れてきた銘醸地ラングドックでは、今現在もっともACが活きています(その他はIGP=地理的な表記です)。
上級ワインとして、グランクリュ的位置づけは、「コルビエール・ブートナック」「ミネルヴォワ・ラ・ヴィニエール」「フォジェール」「サンシニアン・ベルロー」「サンシニアン・ロックブリュンヌ」の6つ。そして、いくつかの地域名ワインとACラングドックと原産地呼称ワインだけで、全生産量の2割に満たないと考えると、裏を返せばハズレの少ない原産地呼称でもあるのです。
大半は赤ワインですが、モンペリエ南の沿岸部のACピクプール・ド・ピネは、柑橘の爽やかなすっきり系、魚介料理に合わせやすい地中海白ワインです。そして、もう少し内陸で造られる写真の「クレレット・デュ・ラングドック」も数少ない白ワインのACワイン、フレッシュで優しい甘みをわずかに残す白ワインです。生産者のジェラール・ベルトランによる他のラングドックワインは、日本でも見つけやすいと思いますが(“居酒屋”で見つけたこともあります)、どのワインも価格以上の味わいを提供してくれる優良生産者です。
今後、ラングドックのワインは、年を追うごとに良さを増してくると確信していますので、これからワインを楽しもうという方にはうってつけです。いつか、コルビエール・ブートナックやミネルヴォワ・ラ・ヴィニエールも手に取って、味わってみてください。
Gerard Bertrand(ジェラール・ベルトラン)
「Clairette du Languedoc Adissan 2018(クレレット・デュ・ラングドック2018)」
3900円
輸入元=ピーロート・ジャパン
議論を呼ぶことも、フランスワインの魅力のひとつ
世界中に広まったこれまでのワイン地図の規範、オリジナルを、フランスのワインは現代においても体現しています。もちろん、これからのワイン世界は、それぞれのオリジナルを獲得していく時代に突入していく、過渡期にいると考えられます。それでは、一体何が、フランスワインを特別なものにしているのでしょうか? イギリスという一大消費国との地理的関係、宗教的価値観、地層年代の複雑さ、それらを考えても、これという答えに行きつくことはなかなか困難ですが、そういった難解な思索や議論を呼び起こすことにこそフランスワインの魅力があり、そういった人との、ワインとのコミュニケーションそのものが、ワインの最大の魅力のひとつなのだと思います。
今回は、フランスの代表的な産地をいくつかご紹介させていただきました。もちろんワインにこれから興味を持っていただく方向けにご説明していますが、言葉の足りないところや、範囲を限定しているところがあるのは否定できません。ただワインを職業にしている人間にとっても、ワインはやはり世界中で造られ、日進月歩変化している世界でもあります。こうしたささやかなワイン紹介が、どこかの誰かの広いワインの世界へ旅立つきっかけの一助になりましたら幸いです。
※ワインの価格はすべて希望小売価格です
Profile
ソムリエ / 宮地英典(みやじえいすけ)
カウンターイタリアンの名店shibuya-bedの立ち上げからシェフソムリエを務め、退職後にワイン専門の販売会社、ワインコミュニケイトを設立。2019年にイタリアンレストランenoteca miyajiを開店。
https://enoteca.wine-communicate.com/
https://www.facebook.com/enotecamiyaji/
撮影=真名子 [ワイン、人物]