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「発酵」がおいしさの決め手。次世代の創作日本料理店「Kabi」で
日本の酒文化をボーダーレスに楽しむ

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普段よく飲むお酒はなんですか? あなたはワイン派か日本酒派か、はたまたビール派、カクテル派でしょうか。

「日本は“お酒天国”です。世界中のたいていの銘醸ワインが手に入るばかりか、“國酒”として日本酒の文化を持ちます。ウイスキーも世界トップクラスの品質ですし、巷のバーに行けば世界タイトルを持つバーテンダーもいる。さらに、クラフトビールの種類も豊富。ジャンルに関わらず、お酒文化全体がここまで世界トップレベルに達している国はそうそうなく、“合わせること”にこだわって、ワインだけ、日本酒だけを飲むなんて、もったいないと思います」

そう語るのは、東京・目黒に2017年12月にオープンして以来、その独創的な料理と世界観が話題のレストラン「Kabi(カビ)」のオーナーソムリエ、江本賢太郎さんです。

「最年長の僕が今年30歳になったので、“全員20代の店”とはもう言えなくなってしまったんですけどね(笑)」(江本さん)

「Kabi」のオーナーであり、ソムリエを務める江本賢太郎さん。
「Kabi」のオーナーであり、ソムリエを務める江本賢太郎さん。

江本さんは自身を除く、シェフも含めた12名が全員20代という若手スタッフたちを束ねる若き経営者ながら、豊富な海外経験から得た、日本の魅力を発信する視点は明確。それがKabiという空間に表現されています。

Kabiの料理は、コース仕立てで全16品。毎晩1コースのみで、アラカルトはありません。フランス料理? いえいえ、洗練された家具とインテリア、音楽、また若手スタッフによる活気溢れるオープンキッチンが迎えてくれますが、店の扉を開けるとまず“出汁”の香りに心躍る、ここは日本料理店なのです。

16品に合わせるドリンクは7〜8種。ということは、ときに料理とドリンクが2:1、3:1の組み合わせとなり、王道の“マリアージュ”や“ペアリング”のレストランとも少々異なるスタイル。ドリンクコースはバラエティー豊かに、ワインをはじめ日本酒、ビール、シードル、カクテルなどが順不同で提供されます。

Kabiに用意されるお酒は、ワインや日本酒のほか、ビールやシードルなど、バラエティに富む。
Kabiに用意されるお酒は、ワインや日本酒のほか、ビールやシードルなど、バラエティに富む。

日本料理だから日本酒、欧米料理だからワインという、既存のジャンルと組み合わせや順序にとらわれない。そんな次世代の感性から、あらためてお酒の楽しさを学びに、Kabiを訪れました。

 

「合う」より「おいしい」「楽しい」

江本さんは、大阪の調理師学校在籍中にフランス校で料理を学んだ後、アメリカ留学。1年間のワイナリー滞在を経て、オーストラリアのメルボルン、デンマークのコペンハーゲンでソムリエとして研鑽を積み、27歳で帰国。偶然にも同じ調理師学校の1学年後輩という経歴で、デンマークのミシュラン2つ星レストランでの修行経験をもつ安田翔平さんと東京で出会い、意気投合してともにKabiをオープンしました。

江本さんとともにKabiをオープンさせた、オーナーシェフの安田翔平さん(左)。
江本さんとともにKabiをオープンさせた、オーナーシェフの安田翔平さん(左)。

「Kabi」という店名からも思い当たる通り、提供されるのは、主に発酵を取り入れた創作和食。江本さん、安田シェフがともにノルディックスタイルの料理に精通していることも関係しています。

人肌の温もりが伝わるような陶器の皿には、数ミリ、数センチ単位のさまざまな食材が折り重なり、それがときにはピンセットを使って美しく盛り付けられています。そのすべての食材を繋ぐのは、出汁。

「たとえば王道のフランス料理は、ソースがその皿の味の一体感を出すことが多く、この皿に合うのはこのワイン、という1:1のペアリングが提案しやすいと思います。ですが、僕たちの料理は出汁がベースで、一皿に盛るひとつひとつの食材の、味のパーツの存在感を大切にしています。そうなると『このワインが合う』という完璧なマッチングより、全体をみて少なくとも違和感がないもの、そして、料理と合わせておいしいより、単体で飲んでも絶対的においしいと思えるドリンクを選んでいます。僕の好みに偏っているかもしれませんが(笑)」(江本さん)

これまで、料理とワインの相性は“マリアージュ”という言葉が主流でした。いかにも1:1の運命の相手を思わせるような言葉から、最近では相性の組み合わせはひとつではなく選択肢は複数あるというニュアンスの“ペアリング”という言葉の方がよく聞かれます。

そしてその先、Kabiが創り出す次世代の料理とお酒の関係性は、「合う」よりも「おいしい」「楽しい」だとすれば、最先端でありながら食事の本質、原点回帰の意識を感じることができます。和食との組み合わせならなおさら、ドンピシャな相性にとらわれすぎてはいけないのかもしれません。

食材を盛り付けるシェフの安田さん。あたたかみを感じる陶器の食器に、すべての食材がそれぞれに映えるよう、ピンセットまで駆使しながら盛り付けていく。
食材を盛り付けるシェフの安田さん。あたたかみを感じる陶器の食器に、すべての食材がそれぞれに映えるよう、ピンセットまで駆使しながら盛り付けていく。

 

発酵調味料とワイン

それでは、いま多くの美食家を魅了している「Kabi」の料理の一部を紹介しましょう。16品のコースのなかから、主にワインに合わせているという3皿を作っていただきました。(※現在のコースとは内容が異なります)

日本料理の味の決め手となる、重要な調味料の代表といえば醤油ですが、安田シェフは醤油をほとんど使わないと言います。代わりに使うのは、マッシュルームを発酵させて煮詰めた、自家製のマッシュルームジュース。Kabiの味のベースには欠かせない調味料です。

さらにワインに合わせる味に寄せるなら、ベースとなる出汁やソースにバター、クリームを入れることもあると言います。樽香や乳酸のニュアンスが強いワインに合わせるなら、マッシュルームではなく白菜の発酵ジュースや漬物とバターを合わせるそう。この発酵調味料こそが、ワインをはじめジャンルを問わないお酒との相性をボーダレスに楽しむための、万能調味料なのでしょう。

ターメリックやタンポポ、ピクルス、豆板醤など、棚には自家製の発酵調味料が所狭しと並ぶ。
ターメリックやタンポポ、ピクルス、豆板醤など、棚には自家製の発酵調味料が所狭しと並ぶ。

 

1皿目 / かぼちゃの炊きもの×スロベニア産オレンジワイン

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二番出汁と、発酵させたマッシュルームのジュースとみりんでかぼちゃを炊き、グランチャーレという豚の頬肉の塩漬けを薄くスライスしてのせたもの。その下に敷かれたかぼちゃの種のローストが食感を添えます。さらに上から、鹿の心臓を塩漬け・乾燥・燻製にした“鹿節”を削って。出汁はかぼちゃの炊き汁と焦がしバター、和牛の脂。

この小さなひと皿に、豚、鹿、牛と3種の肉類の旨味が凝縮されています。そのオイリーさとねっとりとしたかぼちゃの食感を切らさぬよう、酸味系のワインは避け、タンニンの若干の存在感を旨味とともに残すオレンジワインを合わせています。

スロべニア産のオレンジワイン「ヴァルテル ムレチニック アナ」(ブドウ品種:シャルドネ、フリウラーノ、マルヴァジア、ピネーラ、リボッラ)
スロべニア産のオレンジワイン「ヴァルテル ムレチニック アナ」(ブドウ品種:シャルドネ、フリウラーノ、マルヴァジア、ピネーラ、リボッラ)

 

2皿目 / ユリ根とズワイ蟹ソース×フランス・ジュラ産シャルドネ

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蒸したユリ根にかかるソースは、ズワイ蟹と二番出汁、柚子、塩麹、発酵マッシュルームジュース、バター、クリーム。浮かんでいる緑のソースは、チャイブ(ネギ)とディルのオイル。その上に、ホタテの肝を塩漬け、乾燥したものを削って全体的に深い旨味を出しています。

 

3皿目 / 牡蠣の炭火焼×フランス・ジュラ産シャルドネ

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炭火焼した牡蠣に、コースの最後に提供されるお茶、天然玉露といわれる品種「あさつゆ」の氷出した後の茶殻と壬生菜を添えて。ソースは、発酵したマッシュルームジュースにみりんと安田シェフの故郷である岡山のすだちで作った自家製のポン酢。

2皿目と3皿目は同じワインで楽しみます。蟹と牡蠣という、どちらもコクたっぷりの魚介類を口内で心地よくまとめるような、キレのある酸味系の白ワイン。このフランス・ジュラ地方のシャルドネは、透明感があり柑橘の香りもあるものの、ボディーにもミドルにもふくよかさがある万能な味わい。主張しすぎず飲み飽きしないものを選んだそう。

フランス・ジュラ産の白ワイン「ドメーヌ・ラベ・コート・デュ・ジュラ・シャルドネ・フルール」(ブドウ品種:シャルドネ)
フランス・ジュラ産の白ワイン「ドメーヌ・ラベ・コート・デュ・ジュラ・シャルドネ・フルール」(ブドウ品種:シャルドネ)

 

即興演奏会のような楽しさ!

「料理もドリンクも、どちらも前日とガラッと変更することもあります。ワインは日によって味わいの表情を変えるので、他のドリンクに変えたり、お客さまを目の前にしてから、その会話の様子や食事のペースを見て変えることも。シェフの料理も、味付けの加減や提供する部位を、お客さまを見てから決めることもあります」(江本さん)

お店にとって、「合う」よりも「おいしい」「楽しい」を追求することは、けっして容易なサービスではありません。むしろひとつの正解である「合う」を見つけてしまえば、誰にでも同じサービスが可能で楽なのかもしれませんが、「おいしい」「楽しい」をお客さまに感じてもらうには、その場の空気を瞬時に感じ取り、それに対応できる豊富な知識と高いサービススキルが不可欠です。

それは譜面どおりに弾くピアニストと、即興で奏でるジャズピアニストのような違い。もちろんどちらも素晴らしいのですが、後者の予測不能な体験は、たとえば「普段、ワインは苦手なんだけど、なんだか今日はおいしい!」という自身の固定概念すら覆すような可能性に満ちています。

「食器からテーブルや椅子、照明まで、僕たちはこだわって選んでいます。音楽は天気次第で変えることも。ですが、その僕たちのこだわりは、できればお客さまに気づかれることなく、何気なく琴線に触れてくれさえしたらいい。たとえば、日本酒しか飲まなかった人がワインを飲むようになったり、その逆だったり。Kabiで出会ったアレ、すごく良かったよね! と思ってくれたら一番うれしいんです」(江本さん)

 

Kabiは、20代の若手集団がこだわり抜いた感性の塊でありながら、それらを押し付けることなく、私たちが体験したことのないような選択肢を与えてくれる場所。少子化が進み、若者のアルコール摂取量の減少が止まらない昨今、「あなたはワイン派? 日本酒派?」なんて派閥分けはナンセンスでしょう。

ボーダーレスにお酒の視野が広がる体験を提供するKabiは、日本の酒文化全体を再び活気づけるために、いま求められている場所ではないでしょうか。

Restaurant data

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Kabi(カビ)

所在地=東京都目黒区目黒4-10-8
Tel=03-6451-2413
営業時間=
・ランチ 12:00〜15:00(L.O 13:30)
・コース 18:00・18:30・19:00のいずれか(要予約)
定休日=不定休
http://kabi.tokyo/

 

取材・文=山田マミ 撮影=中田 悟