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家でワインを楽しむための蘊蓄講座ワインの世界を旅する 第10回
―スペインとポルトガル、5つの産地―

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自宅でワインを楽しみたい、できれば産地や銘柄にもこだわりたい、ワインを開けて注ぎ、グラスを傾ける仕草もスマートにしたい……。そう思っても、基本はなかなか他人には聞きにくいもの。この連載では、そういったノウハウや、知っておくとグラスを交わす誰かと話が弾むかもしれない知識を、ソムリエを招いて教えていただきます。

「ワインの世界を旅する」と題し、世界各国の産地についてキーワード盛りだくさんで詳しく掘り下げていく当連載は、フランスをはじめとする古くから“ワイン大国”として名を馳せる国から、アメリカなどの“ワイン新興国”まで、さまざまな国と産地を取り上げてきました。今回は「スペインワイン」「ポルトガルワイン」。寄稿していただくのは引き続き、渋谷にワインレストランを構えるソムリエ、宮地英典さんです。

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第1回 :フランス 第2回:イタリア 第3回:ドイツ 第4回:オーストラリア 第5回:アメリカ
 第6回:ニュージーランド 第7回:日本 第8回:チリ 第9回:スイス

 

スペイン&ポルトガルワインを旅する

「スペインワイン」や「ポルトガルワイン」というと、日本人にとって馴染みがあるのは、スペイン産では瓶内二次発酵のスパークリングワイン「カヴァ」や、安くて果実味豊かな赤ワイン、ポルトガル産では酒精強化ワイン「ポート」や、輸入ワインが初めてブームを巻き起こした際に注目されたヴィーニョ・ヴェルデの「マテウス・ロゼ」あたりでしょうか。

“スペインバル”が流行したこともあり、以前よりもスペインワインに親しむ機会は増えたのかもしれませんが、スペインやポルトガルのワインが好きという人は、まだまだ少数派のように思えます。

地理的に言えば、ユーラシア大陸の最東端に位置する日本にとって、イベリア半島は最西と遠いですが、日本に初めてワインが持ち込まれたのは室町時代。珍陀(チンタ)と呼ばれたそれは、ポルトガルワインでした。日本ワイン黎明期に大流行した「赤玉ポートワイン」もまた、ポートのイミテーションとして造り出されたワイン。イベリア半島は距離的には遠いのですが、文化的には日本が大きな影響を受けた地域であり、タバコや金平糖、天ぷらなどポルトガル由来で日本語化したものも多く、特にポルトガルは“遠くて近い国”と言えるでしょう。

日本ではほとんど見かけないポルトガルワインと、世界第1位のブドウ栽培国であるスペインワイン(日本の国別輸入では第4位)をひとくくりにして紹介するのも、いささか乱暴な気もするのですが、この二国はどちらも紀元前から続く長いワイン生産の歴史がありながら、20世紀中は1980年代のEU加盟まで、さまざまな社会情勢も相まってヨーロッパワインの主流からは追いやられたという共通点があります。どちらの国も今までにない大きな変化のただ中で、革新的ともいえる進歩を遂げているにもかかわらず、日本のマーケットではなかなか主役になりえていない現状もまた共通しています。また広大なイベリア半島のなかで、この二つの国は伝統的な品種から近代的なワインを産み出し始めているという点も、他の国にない魅力的なポイントです。

  1. リベラ・デル・デュエロ(スペイン)
  2. アンダルシア(スペイン)
  3. ミーニョ地方(ポルトガル)
  4. ドウロ地方(ポルトガル)
  5. ダン地方(ポルトガル)

 

1. リベラ・デル・デュエロ(スペイン)
イベリア半島でもっとも重要な河川デュエロ河の河岸 −

かつてカスティーリャ王国の宮廷が置かれていた歴史ある街、バリャドリードの東に位置し、東西に流れるドゥエロ河の両端に120kmに渡って広がるワイン産地が、リベラ・デル・デュエロです。

スペインはワイン生産量ではフランス、イタリアに首位を譲るもののブドウの栽培面積では世界1位、ヨーロッパのなかでも屈指のワイン大国に数えられるはずですが、大戦後国際的に孤立する社会情勢から長らくワイン産業は停滞してしまっていました。ワインは生産されていたものの輸出は大幅に落ち込み、他のヨーロッパ諸国がワインの近代化を推し進めるのに遅れをとりましたが、1985年に晴れてEUへの加盟を果たしたことから、スペインワインは新たな歩みを始めました。

そんなスペインワインの進化をもっとも体現している産地がリベラ・デル・デュエロです。元々スペインを代表するワイナリーであるベガ・シシリアがこの産地で優れたワインが産まれることを証明したのは1929年のことでした。バルセロナで開催された万国博覧会で金賞を受賞したことにより名声を獲得します。

ところが、リベラ・デル・デュエロにDO(スペインの原産地呼称法)が施行された1982年の時点で、ワイナリーはわずか24軒。1990年代にアレハンドロ・フェルナンデスの造るティント・フィノ(リベラ・デル・デュエロで改良されたテンプラニーリョ)、「ペスケラ」が世界中で高評価を獲得したため、国内外からの投資が増え、現代では300軒を超えるほどに急拡大を果たしました。スペインワインの新時代という意味ではリオハやプリオラートといった銘醸地よりもリベラ・デル・デュエロはこれからの可能性豊かな産地といえるのではないでしょうか。


Torres(トーレス)
「DO Ribera Del Duero Celeste Crianza2017(DO リベラ・デル・デュエロ セレステ・クリアンサ2017)」
3000
輸入元=エノテカ