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家でワインを楽しむための蘊蓄講座ワインの世界を旅する 第6回
―ニュージーランドと5つの産地―

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自宅でワインを楽しみたい、できれば産地や銘柄にもこだわりたい、ワインを開けて注ぎ、グラスを傾ける仕草もスマートにしたい……。そう思っても、基本はなかなか他人には聞きにくいもの。この連載では、そういったノウハウや、知っておくとグラスを交わす誰かと話が弾むかもしれない知識を、ソムリエを招いて教えていただきます。

「ワインの世界を旅する」と題し、世界各国の産地についてキーワード盛りだくさんで詳しく掘り下げていく、このシリーズは、フランスをはじめとする古くから“ワイン大国”として名を馳せる国から、アメリカなどの“ワイン新興国”まで、さまざまな国と産地を取り上げてきました。今回は、ワイン新興生産国であるニュージーランド。寄稿していただくのは引き続き、渋谷にワインレストランを構えるソムリエ、宮地英典さんです。

【関連記事】
第1回 :フランスと5つの産地
第2回:イタリアと5つの産地
第3回:ドイツと5つの産地
第4回:オーストラリアと5つの産地
第5回:アメリカと5つの産地

 

ニュージーランドワインを旅する

ニュージーランドのワインというと、どのようなイメージを持っているでしょうか? ひと時脚光を浴びたのは、フレッシュで活き活きとしたソーヴィニヨン・ブラン。その他の産地では真似のできないような明快な味わいは、世界中のワインファンを驚かせ、現在ではオーストラリアと並んで、オセアニアをワイン地図の重要な一角に位置づけました。

それならさぞかし歴史のあるワイン大国だろう、と思えばそうでもなく、ワイン用ブドウのひとつ「ヴィティス・ヴィニフェラ」種がこの地に広く植えられるようになったのも、1970年代になってからとつい最近のこと。国土は日本の70%ほど、人口500万人という規模のニュージーランドは、世界のワイン生産量のシェアで見れば1%にも満たない小さな国なのです。

そんな小さな島国が、世界中のワインパーソンに注目されるきっかけとなったのは、何よりその独自の個性を表現したソーヴィニヨン・ブランの存在でした。1980年前後に発表された初期のマールボロ産のソーヴィニヨン・ブランは、すぐに注目と投資を集め、今日に至るまで重要な品種であり続けています。2018年にはブドウ畑の6割、輸出ワインの9割近くを占めるほどにまで成長し、“ニュージーランドワインの歩みはこの国のソーヴィニヨン・ブランの歩みとセミイコール”と言っていいほど、主役であり続けているのです。

たったひとつのブドウ品種が、一国のワインの歴史を運命付けたと思うと、とても興味深く思えませんか? もちろん「ニュージーランドワイン」はソーヴィニヨン・ブランだけではありません。脇を固めるワイン産地も、それぞれ独自の魅力を持っていますから、ひとつずつ順に紹介していきたいと思います。

1. マールボロ
2. ワイララパ地方マーティンボロー
3. ホークス・ベイ
4. セントラル・オタゴ
5. ノース・カンタベリー

 

1. マールボロ
小さな町ブレナムはワインにおいての中心都市

南島の北東端に位置するマールボロ地方の中心都市ブレナムは、人口3万人ほどの小さな街。日本でいえば、山梨県甲州市と同程度の人口と考えると、その規模がイメージしやすいかもしれません。今ではニュージーランドのワイン生産の中心となったマールボロに、ソーヴィニヨン・ブランが植えられたのは1975年のこと。それから4年後の1979年に初めて、マールボロ・ソーヴィニヨン・ブランが瓶詰めされました。

マールボロで造られたソーヴィニヨン・ブランには、当初から原産地であるフランス・ロワール地方のワインにはない、グレープフルーツやトロピカルフルーツのようなボリュームのある果実味に加え、その特徴であるキレのあるヴィヴィッドな酸も保たれた、特別な風味がありました。その特異性、優位性にいち早く気づいたのが、西オーストラリアの生産地、ケープ・メンテルのデヴィッド・ホーネン。ワイナリー「クラウディー・ベイ」を設立し、マールボロ・ソーヴィニヨン・ブランを代表するブランドとして、世界中で大流行を巻き起こします。

現在では、ニュージーランドのブドウ畑の約70%がこの地域に集中しており、そのうちの85%をソーヴィニヨン・ブランが占めています。つまり“ニュージーランドのソーヴィニヨン・ブラン”として、日本をはじめ世界中に輸出されるワインのほとんどは、この地域から産出されているのです。ワイン生産が今ほど活発になる前には、牧羊を中心とした畜産や織物が主な産業でしたが、小さな街ブレナムはそれからわずか30年ほどの間に、ニュージーランドのワイン生産とともにワインツーリズムの中心地としての役割を担うようになりました。

2018年には、ブレナムの鉄道駅舎だった建物が「ザ・ワインステーション」というテイスティング施設に生まれ変わり、有名ワイナリーからセラードアを持たない小さなワイナリーまで、地元のワインを幅広く紹介するようになりました。

マールボロほどその国のワインの入り口にふさわしい産地は世界を見渡しても珍しく、そのフルーティーさとフレッシュな酸、清々しい青さを併せ持った魅力的なニュージーランドワインを、ぜひ一度お楽しみいただければと思います。

20210625_atLiving_wine-newzealand_001
Totara(トタラ)
「Marlborough Sauvignon Blanc2019(マールボロ・ソーヴィニヨン・ブラン2019)」
2450円
輸入元=ヴィレッジ・セラーズ