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家でワインを楽しむための蘊蓄講座ワインの世界を旅する 第3回
―ドイツと5つの産地―

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自宅でワインを楽しみたい、できれば産地や銘柄にもこだわりたい、ワインを開けて注ぎ、グラスを傾ける仕草もスマートにしたい……。そう思っても、基本はなかなか他人には聞きにくいもの。この連載では、そういったノウハウや、知っておくとグラスを交わす誰かと話が弾むかもしれない知識を、ソムリエを招いて教えていただきます。

「ワインの世界を旅する」と題し、世界各国の産地についてキーワード盛りだくさんで詳しく掘り下げていく、このシリーズの「フランス」「イタリア」に続く今回は、「ドイツ」。寄稿していただくのは引き続き、渋谷にワインレストランを構えるソムリエ、宮地英典さんです。

【関連記事】
ワインの世界を旅する 第1回 ―フランスと5つの産地―
ワインの世界を旅する 第2回―イタリアと5つの産地―

 

ドイツワインを旅する

ドイツワインには、とかく“甘い”というイメージがつきまとっているようです。それは長い歴史のなかでは、20世紀後半のほんの短い時期に多く出回った「リープフラウミルヒ」などの量産ワインによる影響が大きいように思います。“ヨーロッパのワイン大国”といった印象もありますが、生産量でいえばフランス、イタリアの5分の1ほど。そして、そのただ甘いだけのワインのためか、日本のワインショップでは取り扱いも少なく、見かける機会も限られるワイン産地なのかもしれません。

ですが、現代、つまり21世紀のドイツワインは明らかに変化し、より良質なワインを多く産出しています。ただ甘いだけのワインが減少傾向なのはもちろん、辛口の比率は増え、他国のワインには見られない個性も見られるようになっています。そして赤ワインは、世界中の産地と比較しても引けを取らない出来栄えです。これを一部の好事家(こうずか)だけのものにしていていいのでしょうか? 愛好家にもワイン初心者にも、間口を広く、奥行きを持って親しめるワイン産地が、21世紀以降の現代ドイツワインなのです。

ドイツにおけるワインの歴史は、紀元前、古代ローマ時代にさかのぼると言われ、古代ローマ人が入植した際には、ライン川やモーゼル川にはリースリングの祖先である「ヴィティス・ヴィニフェラ」の野生種「ヴィティス・シルヴェストリス」が自生していたと言われています。リースリングは、ドイツにおける重要なブドウ品種で、現在でも全体の4分の1を占めており、世界中のリースリングはドイツをひとつの規範としています。リースリングに限らずドイツワインの7割ほどは辛口(トロッケン、ハルプトロッケン、ファインヘルプ)(※)に造り上げられていますが、最高級品に位置する極甘口の「トロッケンベーレンアウスレーゼ」もまた、前述のただ甘いワインとは一線を画す、ドイツワインの真骨頂といえる偉大なワインです。

※ドイツでの辛口の呼称
Trocken(トロッケン)=辛口
Feinherb(ファインヘルプ)=中辛口より辛口
Halbtrocken(ハルプトロッケン)=中辛口

 

[目次]
・ラインガウ
モーゼル
フランケン
バーデン
ファルツ

 

ラインガウ 〜父なるラインが東西に流れる銘醸地〜

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フランクフルト空港から、電車で約1時間の距離にあるリューデスハイムを中心としたラインガウは、ワインの街。リースリングが生まれた土地であり、ブルゴーニュの「クロ・ド・ヴージョ」のようにシトー派修道僧が植樹したといわれる歴史ある数々の銘醸畑が集まっています。街の南側を流れるライン川は、ヨーロッパの南北を縦断する大動脈であり、急勾配のブドウ畑や自然に囲まれた古城を眺めるクルーズ船が運航されています。その距離、リューデスハイムの対岸マインツからケルンまでおよそ180kmに及び、さまざまなコースが用意され、観光に訪れた際には外せない楽しみのひとつです。

ライン川は、基本的には南北を縦断する河川ですが、リューデスハイムからヴィースバーデンまでの約20kmに渡って東西を流れるかっこうになり、そのため、南側斜面の畑への照り返しが、晩熟のリースリングを完熟させるのに大きな役割を担っています。また、もっとも希少なワイン「トロッケンベーレンアウスレーゼ」は、天候に恵まれた年に川から立ち上る霧によってもたらされる貴腐菌によって生み出されます。ラインガウもまた、21世紀になってからより多くの生産者がその恵まれた栽培環境を活かして、今まで以上の高品質なワインが造られるようになった産地です。とくに生産量の大半を占める辛口のリースリングは、フレッシュで冷涼感のある果実、鮮烈と表現される酸、細く強いストラクチャーを持った良質なワインばかりになりました。

下写真の「ソヴァージュ=野生」と名付けられたリースリングは、言ってみれば広域ラインガウのワインですが、その味わいの水準の高さは他の銘醸地と比較しても目を見張るほどで、この地域の優れたテロワールを証明しています。ライン川に自生していたといわれる野生ブドウの末裔と思うと、ワインにいっそう奥行きを感じ、楽しめるかもしれません。

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Georg Breuer(ゲオルグ・ブロイヤー)
「“Sauvage”Riesling2018(ソヴァージュ・リースリング2018)」
2900
輸入元=ヘレンベルガー・ホーフ

 

次のページで取り上げるのは、川の両岸にブドウ畑が広がる、景観の美しいモーゼルです。