5. ダン地方(ポルトガル)
− 壇 一雄の愛したポルトガルの銘醸地 −
ドウロ地方の南、スペイン国境と大西洋の中間に位置する内陸のワイン産地、ダンは、古くからポルトガルのスティルワインの銘醸地でした。16世紀、マヌエル一世からジョアン三世のポルトガル王国の黄金期にこの地域の保護を命じたといわれることからも、日本に初めて上陸したワインは、ダン産のものだったのかもしれないと想像できます。ですが、20世紀中ごろには栽培農家間での競争意識の低下から、手間のかかる高品質種であるトゥーリガ・ナショナルの栽培が減り、量産種の栽培が主流となる時期があり、ワインの品質は著しく低下しました。
そういった傾向に危機感を抱いた優良なワイン生産者は、ブドウ畑を購入し高品質種を独自で栽培したり、契約栽培農家に指示して造らせた良質のブドウに市場よりも高い価格で買い取ったりするようになりました。こうした動向に中小のワイン生産者も追随し、畑の改善や醸造設備の革新が起こったのが、やはりEUに加盟した時期と重なってきます。
以前は複数品種のブレンドが主流でしたが、下の「キンタ・ドス・ロケス」は単一品種でのワインを試行錯誤し「トゥーリガ・ナショナル1996年」が2000年版ワイン&スピリッツでポルトガルワインの最高得点を獲得するに至ります。ポルトガルで大作「火宅の人」を書きあげた作家、壇一雄氏は、自分と同じ名前のダン・ワインにほれ込み、愛飲したといわれていますが、その頃のダン・ワインよりも現在のダン・ワインの方が間違いなく美味しいのです。
Quinta dos Roques(キンタ・ドス・ロケス)
「DOP Dàn Touriga Nacional2016(DOP ダン トゥリガ・ナショナル2016)」
4000円
輸入元=木下インターナショナル
Profile
ソムリエ / 宮地英典(みやじえいすけ)
カウンターイタリアンの名店shibuya-bedの立ち上げからシェフソムリエを務め、退職後にワイン専門の販売会社、ワインコミュニケイトを設立。2019年にイタリアンレストランenoteca miyajiを開店。
https://enoteca.wine-communicate.com/
https://www.facebook.com/enotecamiyaji/
撮影=真名子