5. ケープ・サウス・コースト、ウォーカー・ベイ
− 南アフリカのピノ・ノワールの源流は1970年代に生まれた −
1975年、広告業界を引退したティム・ハミルトン・ラッセルは、ウォーカー・ベイ地区の海辺の街、ヘルマナスの高台ヘメル・アン・アード・ヴァレーで、高品質なピノ・ノワールとシャルドネのワインへの挑戦を始めました。当時、国際的に孤立状況にあった南アフリカでは、満足のいく苗木のクローンさえ手に入らなかったという話を聞いたことがありますが、現在南アフリカ屈指のピノ・ノワールの銘醸地であるウォーカー・ベイでブルゴーニュ品種の栽培に成功したワイナリーは、そんな時代にスタートを切っていました。
南アフリカというと温暖なイメージがあるかもしれませんが、アフリカ大陸の最南端であり海に近いブドウ畑は、海風の影響で、涼しい気候に向いた品種の栽培に向いています。1990年代後半になり、さまざまな南アフリカのワインが輸出されるようになると、ブルゴーニュとカリフォルニアの中間的な味わいというスタイルのピノ・ノワールやシャルドネはすぐに日本でも注目され、ハミルトン・ラッセルのワインはブルゴーニュ愛好家の間でもよく知られる存在になりました。それから約20年の時間が経ち、追随する多くの若手生産者が優れたブルゴーニュ・スタイルのワインを世に送り出すようになりました。黎明期を経て、着実に第2世代に引き継がれているのが、現在の南アフリカワインなのです。
今回紹介する「テッセラールスダル」は、南アフリカではまだまだ珍しい黒人の血を引く女性醸造家ベリーヌ・サウルスさんが2015年に初リリースを迎えた、新しいワイナリーです。ハミルトン・ラッセルで事務職として働き始めた彼女は、自然とワイン造りの奥深さに魅せられていきました。やがて醸造にも携わるようになり、醸造拠点をハミルトン・ラッセルに置きながら、自身のワインをリリースするに至ったのです。長らく少数の白人が独占してきた南アフリカのワインは世代交代のまっただ中にあり、期待される社会の変化に向けて少しずつ歩みを進めているところなのです。
Tesselaarsdal(テッセラールスダル)
「Pinot Noir2020(ピノ・ノワール2020)」
6500円
輸入元=ラフィネ
Profile
ソムリエ / 宮地英典(みやじえいすけ)
カウンターイタリアンの名店shibuya-bedの立ち上げからシェフソムリエを務め、退職後にワイン専門の販売会社、ワインコミュニケイトを設立。2019年にイタリアンレストランenoteca miyajiを開店。
https://enoteca.wine-communicate.com/
https://www.facebook.com/enotecamiyaji/
撮影=真名子