ふたを開けると温かな湯気がふわっと広がり、食卓に幸せを運んでくれるせいろ料理。油を使わずに野菜をたっぷり摂れるヘルシーな調理法として人気を集め、レシピ投稿サービス「クックパッド」では検索頻度が前年比214.9%に。同じくクックパッドの「食トレンド大賞2024年 調理器具部門」に入賞するなどいま、「せいろブーム」が起きています。
今回は、「せいろ蒸し」に特化したInstagramの投稿が話題となり、9月にレシピ本『すべてを蒸したい せいろレシピ』(Gakken)を出版された料理クリエイターのりよ子さんに、せいろ蒸しの魅力から“こんな食材まで蒸せちゃうの?”と驚く意外なレシピまで、紹介いただきました。
CONTENTS
簡単・ヘルシー・癒される!
せいろ蒸しの魅力
昔ながらの調理器具にも関わらず、一見導入のハードルが高そうに見える「せいろ」。ところが、りよ子さんによると「食材を切って、詰め込んで蒸すだけ」で、実はとても簡単に扱えるのだとか。
「火にかけたら、ほぼほったらかしでOK。汚れがひどくなければお手入れも水洗いで完了するので、非常に扱いやすいアイテムなんです。初心者でも失敗しにくく、できた料理のおいしさ、ヘルシーさ、そしてせいろから立ちのぼる湯気から得られる癒し効果など、蒸し料理はいいことずくめだと思います」(料理クリエイター・りよ子さん、以下同)
・簡単
「塩だけ、しょうゆだけなどのシンプルな味付けでも、素材の味が引き立ちおいしく仕上がります。冷凍食品も温められますし、数品一緒に同時に調理できるので時短にも。火の通り具合が異なる食材や料理でも、自然といい具合に火が通ります。蒸し時間や順番などをあれこれ考えずになんでも蒸せるので、料理が苦手な人にもおすすめ。お皿に移し替えずにそのまま食卓に出せて、洗い物が減るのもポイントです」
・おいしい
「焼く、ゆでる、蒸すなどさまざまな加熱方法があるなかで、蒸し料理は蒸気で水分を補いながら加熱するので、しっとりとした食感を楽しめます。また、ゆで料理のようにうまみや栄養がお湯に流れ出てしまう心配もありません。野菜は甘く、お肉やお魚もうまみが閉じ込められてジューシーに仕上がります」
・ヘルシー
「今回はせいろを活用したアレンジレシピをご紹介するので油を使う料理もありますが、基本のせいろ料理は、油を使わずに食材をただ蒸すだけなのでヘルシーです。また、食材の余分な脂も落としてくれます。さらに蒸すことでかさが減るので、野菜をたくさん食べる機会も増えます。私自身、せいろ蒸しを取り入れるようになってからは、料理に使う食材の約8割が野菜になり、ニキビができにくくなりました。体調もよくなった気がしますね」
・癒される
「ふたを開けた瞬間に広がる湯気を見ると幸せな気持ちになれます。温かな湯気とせいろの木の香りが広がると、ほっと癒されること間違いなし。せいろ自体のたたずまいもぬくもりがあって愛らしい。毎日の食事が楽しみになりますよ」
使う道具は3つだけ
せいろの選び方とお手入れ方法
せいろ蒸しを行うには、せいろ(蒸し器)、鍋、たわしの3点を揃えればOKとのこと。それぞれの選び方も教えていただきました。
【道具1】せいろ
「せいろにはさまざまなサイズがありますが、私は21cmのものをおすすめしています。せいろ蒸しをはじめた頃は18cmのものを使っていましたが、食材から出る汁ごといただくために食材をのせたお皿を入れたときに、少し小さいと感じたのでサイズアップさせました。21cmであれば、お皿やクッキングシートなどを使い分けながら同時調理も進められますよ」
【道具2】鍋
「お湯を沸かす鍋は、せいろとセットで販売されている場合もありますが、手持ちの鍋でも問題ありません。サイズは、せいろと同じぐらいのものが使い勝手がいいですね。お手持ちの鍋がせいろよりも大きい場合は、下の写真のように『蒸し板』を使うといいでしょう。お湯をたっぷり沸かせるように、鍋は深めがベターです」
【道具3】たわし
「私は、しゅろ製のたわしを使って洗浄しています。使われている木の皮の繊維にコシがあり、木目に詰まった汚れをしっかりかき出せるので、せいろを洗うのに適しています。もちろん、食器用のスポンジを使っていただいても構いません。洗剤を使うのは汚れがひどいときだけで、大抵の場合は水洗いでOK。
洗い終わったら、風通しのいい場所で乾燥させてください。私はレンジフードのくぼみの上に立てかけて乾かしています。ドア付きの棚の中など閉め切った場所に置くと、カビが発生するので気をつけてくださいね」
細かな技術は不要!
基本のせいろの使い方
道具が揃ったところでいざ調理へ。まずは素材の味を存分に楽しめる「基本のせいろ蒸し」の手順を教えていただきました。
「調理はとっても簡単。せいろ全体を水で濡らし、食べやすいサイズに切った食材を詰めましょう。そして、鍋に深さの半分以上まで水を注ぎ火にかけ、沸騰したら上にせいろを置くだけ。
蒸し時間の目安は葉物野菜で5分、根菜やお肉などで10分ほどです。とはいえ、ふたを開け様子を見ながら調理を進められるので、そこまで時間を気にする必要はありません」
これまで冷凍ごはんや缶詰、レトルトカレーなど、あらゆるものを蒸してきたというりよ子さん。そのなかでも、予想以上においしく仕上がった食材は?
「おもちです。蒸すと、まるでつきたてのようなおいしさに。水分がほどよく含まれ、きな粉などもしっかり絡みます。ただし、長時間蒸すと水分量が増えゆるくなりすぎてしまうので注意が必要です。目安は角餅なら3〜5分。時々ふたを開けてチェックしましょう」
短時間でできてうまみたっぷり!
おすすめせいろレシピ3選
せいろの基本的な扱い方を学んだところで、りよ子さんのおすすめレシピを3つご紹介します。なかでも一度に複数の料理を同時調理し、簡単にプレート料理が完成するレシピは必見です。
・「ゆず×鶏×白菜のミルフィーユ蒸し」
・「ゆで卵付きの明太フランスプレート」
・「なめことオクラのネバネバ冷凍うどん」
おもてなしにぴったり!「ゆず×鶏×白菜のミルフィーユ蒸し」
「火を通しすぎると固くなりがちな鶏肉も、せいろならぷりぷりジューシーに。白菜の間に鶏肉を挟むことで白菜が鶏肉のうまみを吸い、より味わい深く。ふたを開けた瞬間、柚子の香りが広がるのもうれしいポイントです。塩だけでも十分おいしく仕上がりますが、お好みでぽん酢やごまだれをかけるのもおすすめですよ」
【材料(2人分)】
・白菜……5〜6枚
・鶏肉……1枚
・ゆずの皮……適量
・塩……適量
【作り方】
1.白菜はざく切りに、ゆずの皮は千切りにする。
「白菜はせいろに立てて詰めるので、せいろの高さに合わせた幅で切ります。ふたがちゃんと閉めまるかどうかも確認しましょう」
2.鶏肉は白菜よりも少し小さめの幅に細長く切り、塩をふる。
「鶏肉は4〜5個の棒状に切り分けるイメージです」
3. 白菜と鶏肉を交互に、ミルフィーユ状に詰め、全体に塩をふる。
「白菜も鶏肉も火が通るとくたっとなりかさが減るので、ぎゅっと詰めて問題ありません。立てて詰めることで、蒸気がまんべんなく行き渡ります」
4.最後にゆずを散らしふたを閉め、沸騰した鍋の上にせいろを置き、中火で10分ほど蒸す。
「10分ほどで、鶏肉に火が通り、白菜も色よく仕上がります。葉物野菜は、加熱しすぎると色がくすんでしまうので、もし多めに蒸してつくりおきしたい場合は、蒸し終わったらすぐに保存容器に移し替え、余熱で温まるのを防ぐと色よい状態をキープできます」
朝食やランチに!「ゆで卵付きの明太フランスプレート」
「忙しい朝やのんびりしたい休日のブランチなどにおすすめのプレートです。せいろでパンを蒸すと、しっとりふわふわの食感に。硬くなったパンを柔らかくしたいときにもおすすめです。
ついでに卵も入れれば、蒸し卵もできてしまいます。ゆで卵だと、ぐつぐつとゆでている間に殻が割れて、白身が飛び出したり、そもそもゆで卵のためにわざわざお湯を沸かすのが手間だったりしますが、蒸し卵であればそういった心配も手間も無用。野菜を蒸すついでに火を通せば、ビタミンもたんぱく質も摂れる立派な食事になります」
【材料(1人分)】
・フランスパン……1食分
・明太子……1本
・ブロッコリー……1/4房
・しめじ……1/2パック
・ミニトマト……4個
・卵……1個
・カットバター……1かけ(約10g)
・塩……少々
・こしょう……少々
・オリーブオイル……大さじ1
【作り方】
1.フランスパンは斜め半分、明太子は縦半分、ブロッコリーは1口大、カットバターは4等分に切る。しめじは手で小房に分ける。
「フランスパンは、上に明太子とバターをのせるので、切り口の面積が大きくなるように斜めに切ります」
2.鍋の半分より多く水を入れて火にかける。クッキングシートを適当な大きさに切り、くしゃっと丸めてせいろにのせ、フランスパン、バター、明太子の順にのせる。
「クッキングシートをくしゃっと丸めてでこぼこをつくると、食材がずれにくくなるので、詰めやすいですよ」
3.クッキングシートを手で丸めて深めの器を作り、パンの横に置く。その中にブロッコリー、しめじ、ミニトマトを入れ、塩、こしょうをふりオリーブオイルをかける。空いた隙間に卵を入れてふたをし、中火で7~10分蒸す。
「クッキングシートを器型にするのは、野菜から出た水分がこぼれるのを防ぐため。盛り付けるときは、クッキングシートのままお皿にのせると洗い物がラクです。もちろんせいろのまま食卓に並べるのもアリ。ちなみに蒸し卵は、半熟で7〜8分、固蒸しで10分ほどが目安です」
野菜が不足しがちなひとり暮らしに!
「なめことオクラのネバネバ冷凍うどん」
「ストックに便利な冷凍うどんを活用したレシピです。うどんは、蒸すともちもち感がアップ。野菜からうまみが出るので、出汁なしでおいしいうどんが完成します。ねばっとした野菜を蒸すというと驚かれるかもしれませんが、クッキングシートを敷けばせいろのベタつきを防げるので問題なし。野菜をたっぷり摂れるので、野菜が不足しがちなひとり暮らしの方におすすめです」
【材料(1人分)】
・冷凍うどん……1玉
・長ねぎ……15cm
・オクラ……2本
・なめこ……1/2袋(約40g)
・すりおろししょうが……少々
・ごま……適量
・しょうゆ……大さじ1
・ごま油……大さじ1
【作り方】
1. クッキングシートをせいろのサイズに合わせて丸く器状に成形し、せいろに敷く。長ねぎは輪切り、オクラは縦に半分に切る。冷凍うどんをせいろにいれ、残りの材料をすべてのせる。
「クッキングペーパーは、汁がこぼれないように少しふちを立ち上がらせます。蒸気がせいろ内を循環するので、野菜を入れる順番を気にする必要はありません。冷凍のオクラや長ねぎを使ってもいいですね」
2.沸騰した鍋の上にせいろをのせ、時々ふたを開けて様子を見ながら8~10分蒸す。冷凍うどんがしっかりあたたまったら完成。
「素材から出た水分とうまみ、調味料がほどよく絡み、窯玉うどんのような仕上がりに。なめこと長ねぎはほどよくくたくたに、オクラは少しシャキシャキ感が残り、食感のコントラストも楽しめます。乾燥わかめやかつおぶしを入れるのもおすすめですよ」
「せいろ蒸しを日々の食卓に取り入れるようになってから、たとえ仕事が忙しくても野菜を食べる機会が増え、健康になった気がします」と話すりよ子さん。
料理の経験があまりなくても、生活が不規則であっても、簡単で失敗せずに食卓を充実させられたことが、蒸し料理を楽しみ続けてこれた理由でもあるそう。みなさんも寒い冬に、蒸し料理で体と心を温めてみませんか。
Profile
料理クリエイター / りよ子
せいろの魅力にとりつかれたOL。2023年4月に始めたInstagramで、すべてを蒸したい気持ちを投稿。冷蔵庫にあるものだけでパパッと作れるレシピが共感を呼び、開始1年半でフォロワー数10万人超えと大人気に。野菜を蒸すだけのシンプルレシピから、一度に主菜と副菜が完成する同時調理レシピ、ごはんもの、スイーツまで、100品以上のレシピを投稿している。9月に刊行した初のレシピ本『すべてを蒸したい せいろごはん』(Gakken)は早くも10万部を突破。
Instagram
取材・文=加賀美明子(Neem Tree) 撮影=鈴木謙介