絶対的なこだわり、それは「畑」を見ること
「ラベルやワイナリー全体の雰囲気で大体のセンスは分かりますが、もちろんそのあとに真剣にテイスティングします。でももっとも大切なことは、畑を見ることなんです」
RMシャンパンの最大の特徴は、ブドウ畑を造り手自らが管理しているということ。農薬や化学肥料などに極力頼らず、しっかりと人の手で手入れされた畑はほどよく雑草が生え、土がふかふか。土の中の微生物も活性化していると言います。大手メーカーに毎年大量に買い付けられるブドウ、その広大な畑のすべてがこのように手入れをされることは、物理的にも不可能です。RMシャンパンの最大の魅力は、毎年丁寧に育てられたブドウでその土地の個性が味わいに表現されるということなのです。
「ただ、すべてのRMの造り手がそのように手入れしているとは限りません。RMシャンパンだからすべて良質、ではない。だからこそ、畑を見るのです」
そこで肝心なことを聞いてみました。採用に至る味わいのポイントとは?
「味わいに気品があるもの、奥行きと深みがあるものですね。そして何より”個性“のあるもの。すべて品質が高くても、似ている味ばかりならそんなに種類はいらない。せっかくこれだけ選べる時代になったので、違いが楽しめるということを大切にしています」
ヌーヴェル・セレクションのRMシャンパンは、飲めばその畑の風景が目に浮かび、現地の空気感の違いを感じる。そんな風に楽しみたいと思わされます。
造り手とインポーターは“仲間”という意識
「上田さんが12年前に最初のRMシャンパンを輸入する際、どんなポイントが決め手だったのですか? まずは日本市場に受け入れられやすい味わい、とか?」そんな質問に、第一線で活躍するインポーターならではの熱い思いが返ってきました。
「市場ウケ、とかじゃないですね。実は、単純に仲良しだったところから(笑)。もちろん品質が伴うことは言うまでもありませんが。今では約40軒の造り手と取引がありますが、彼らは”取引先“ではなく、”仲間“です。ときどき彼らが来日して1週間程度日本全国を一緒にプロモーションして回るのですが、無事に終わったあとは、うちのスタッフもみんなで抱き合って泣いちゃったりするほどなんですよ(笑)。」
ヌーヴェル・セレクションは現在、スタッフ10名。毎年何人かの社員が上田さんの現地訪問に同行し、造り手と交流を持つことに心がけているそう。上田さんだけでなく、スタッフの皆さん全員が造り手の熱意を肌で感じています。
「誠実に、真面目に働いている造り手と仕事したいですよね。シャンパンは華やかな飲み物ですが、決して彼らは自分たちが主役だと思っていない。どういうお料理に合わせて欲しいとかそういった視点よりもむしろ、幸せを感じる場面に花を添える、そういう瞬間を演出するものとして飲んで欲しい。真面目な造り手は、みなそう思っています。」
シャンパンをはじめワインはまだまだ格式の高いお酒というイメージがあります。でもどういう料理と、どういう形状のグラスで……、そういったマナーの類からはちょっと解放されて、もっと気軽に、ただ幸せを感じながら楽しむだけでもいいのではないでしょうか。「造り手さん本人もそれを望んでいる」ということを、上田さんのおかげで私たち消費者は知ることができたのですから。
インポーターが得た信頼のおかげで“素敵なワイン”を選べる
現在ヌーヴェル・セレクションは、シャンパンのみならずスペインのスパークリングワイン ”カバ“、イタリアの”プロセッコ“も同じ視点で輸入をしています。その他、ブルゴーニュワインも得意とし、最近ではオーストリアワインの種類も豊富です。
上田さんの買い付けるワインの中には、現地でも入手困難と言われるものが少なくありません。「ヌーヴェル・セレクションだから、日本での販売を任せる」。そう思っている造り手も多いことでしょう。上田さんの熱意と人柄なくしては、実は私たち日本の消費者は口に運ぶことすらできないワインがたくさんある。インポーターとは、そういう存在なのです。
取材・文=山田マミ 撮影=田口陽介