移住をしたら生き方も目標も変わった! 移住者の声を聞く
慣れ親しんだ土地を離れて別の場所で暮らすことにハードルの高さを感じる一方で、メリットもたくさんあります。
「大きく変わるのは、自分のこだわりを大切にした生活ができる、という点でしょう。もっと広い家に住みたい、通勤で満員電車に乗りたくない、おいしいものが食べられる土地がいい、など、自分の趣味に合った場所を探して住むことができる点です。たとえば、家族一人ひとりに部屋がほしいとしたら、家賃の安い地方に行けば実現できますよね。自然やおいしい空気に囲まれて、人間らしい暮らしを楽しめる方もいらっしゃいます」(高橋さん)
それでは、実際に移住の夢を実現した3名の移住体験談を紹介しましょう。
1. 岡山県総社市から北海道・上士幌町に移住したわたなべまさみさんの場合
・職業の変化
助産師・講師業 → 役場・オンライン講師業・開業助産師
「母子手帳の交付や健康診断などの保健業務にパートで勤務しながら、上士幌町のママ達がほっとひと息つける場所『ママのHOTステーション』に助産師として携わっています。また、全国のママとコミュニティを作りオンラインサロンも運営しています。夏には上士幌町に産前産後ケア専門の助産院を開業する予定です」
・移住を考えはじめた時期
2019年9月
・実際に移住した時期
2020年3月
・家族構成
4人(パートナーと、移住時2歳と3歳だったお子さん)
・移住の理由
以前から子どもを育てる環境はどんなところがいいのか、夫婦で相談していたというわたなべさん。北海道のきれいな空気の中で、広い大地を走り回れる環境で子どもを育てたいと思い、移住を決めたそうです。
「大変だったのは、住む場所と夫の仕事がなかなか決まらなかったことです。現在、夫は地域おこし協力隊として働いているのですが、採用されると住居を町が準備してくださることになっています。2月中旬ごろに引越しを考えていたのですが、協力隊の採用合否が出るまで家が決まらず、動けなかったのが大変でした。無事に協力隊として採用されたので、安心して移住できました」
・移住先を決めたポイント
大型スーパーが近い、病院が近い、少し車で走ると自然が身近にあるというポイントで探し、帯広市、音更町なども候補に挙がっていたそう。
「そんな中で『上士幌町のキセキ』という書籍を読んで、町長のお考えに共感したことが大きな決め手となりました。子育て世代に手厚いサポート(未就学児こども園無料、医療費高校生まで無料など)があり、小学校低学年は授業が少人数制で、学習への手厚いサポートも心強く感じています。また、夫も私も仕事が早く終わるので、平日の夜に息子たちと遊んだり話をしたりする時間も増えました。生活する上で自分や家族に欠かせないもの、身近になくてもいいものなどに優先順位をつけて、そこにぴったりとくる場所に移住すると、暮らした時のギャップが少ないかと思います。またその土地に実際に行って住んでいる人の声を聞いたり、生活環境を見たりするのも、とても大事だと思います」
2. 神奈川県川崎市から長野県宮田村に移住した関紀子さんの場合
・職業の変化
システムエンジニア(正社員)→不動産会社事務(パートタイム)
「以前から興味を持っていた不動産取引士の資格を取りました」
・移住を考えはじめた時期
2017年7月
・実際に移住した時期
2018年4月
・家族構成
3人(パートナーと、2021年4月から小学生になるお子さん)
・移住の理由
川崎市にいたころは、職場までの通勤時間が1時間20分かかっていたという関さん。移動時間がかかるため、子どものお迎えが遅くなり、帰宅後の家事をする余裕がなくなっていたといいます。
「もっと子どもと過ごせる時間を増やせたら……、と常々思っていました。子どもが3歳になると時短勤務できなくなることもあり、子育てしやすい土地を探すことに決めました。前職では残業や休日出勤も多かったのですが、今は仕事が終わるのが15時半。仕事を変えたことで、一日の中で生活に関わる時間がグッと増え、精神的な余裕ができました」
・移住先を決めたポイント
もともとパートナーが長野県南部の出身ということもあり、松本市にも興味があったそうです。しかし、ふるさと回帰支援センターの方から宮田村の移住セミナーを案内され、話を聞くにつれて、子育て支援に力を入れている宮田村に惹かれていったのだとか。
「ふるさと回帰支援センターでは、興味がある市町村の移住セミナーの案内をしてもらったり、就職先の相談にのっていただいたりしました。相談員の方はやりとりのレスポンスがよく、各市町村のことをよくご存じで本当に頼りになりました。パートナーの希望する業種(構築系システムエンジニア)の求人がなかなかなく、職探しにてこずっていましたが、ふるさと回帰支援センターの方に地元の企業とつないでもらって希望する職に就くことができました」
3. 神奈川県横浜市から和歌山県田辺市に移住した矢野玲子さんの場合
・職業の変化
羊毛フェルトクラフトの作家兼インストラクターとして活動。
「現在は、移住先にてアトリエ兼泊まれる羊毛ワークショップ baroonworkshopを開いています」
・移住を考えはじめた時期
2018年夏
・実際に移住した時期
2019年1月
・家族構成
妹と猫
・移住の理由
ずっと田舎暮らしに興味を持ちつつ長い海外生活をしていた矢野さんは、日本への帰国をきっかけに緑豊かな地への移住を決意したそうです。
「龍神村に引っ越してきてから、せっかくなので地域の自然素材を使って、羊毛と龍神村の魅力を一緒に発信できるものづくりをはじめました。羊毛と龍神産の杉の樹皮を混ぜた羊毛アクセサリー、近所の川辺の流木を使ったタペストリー、和歌山の女性をフォーカスした『ワカヤマのお嫁さんシリーズ』の顔ブローチなどの作品販売、紀州の温泉水を使った羊毛ワークショップなどがあります。
移住当初は、特に虫や爬虫類が苦手だったので、大きな蜘蛛やムカデを見かけては泣き叫んだりしていました。今でも完全に克服したわけではないのですが、少しずつ慣れてきて、やっと田舎暮らしを楽しめる余裕ができてきました。
田舎に馴染めないんじゃないか、友だちはできないんじゃないか、セミリタイヤ生活を送るのは早すぎるんじゃないかと心配されました。田舎にはおじいちゃんやおばあちゃんが多い、退職後のセカンドライフを始める場所というイメージが強いからかもしれません。地域によってはそうかもしれませんが、私が住んでいる龍神村や田辺市の市街地は、街を盛り上げようと奮闘している熱い人たちがたくさんいます。多種多様な、世代やカテゴリーを超えた人たちとの繋がりや出会いがあるので、想像していた以上に充実した生活を送っています」
・移住先を決めたポイント
地域のことはまったく分からなければ知り合いもいないなかで、移住先を探しはじめた矢野さん。海の近くに住んでみたく、和歌山県有田市や串本町、すさみ町なども候補地のひとつでしたが、見学ついでに行政の方に見せてもらった田辺市の空き家から見える山景色に一目ぼれをし、直感で入居を決めたそう。
「先輩移住者を紹介していただいたり、田辺市役所の職員の方がわざわざ地域の方々に挨拶してくださったりしたおかげで、スムーズに引っ越しができました。今でも定期的に連絡をくださるので、ありがたいです。
龍神村の冬は肌が痛くなるくらい風が冷たくて、夜はとても静かです。春はホトトギスが鳴きはじめ、梅やお花の匂いがして、山菜がおいしいです。夏は早朝から草刈り機の音がして、払った後の緑いっぱいの匂いが庭中に広がっています。川遊びしたり、盆踊り大会があったり、梅雨明けに作る梅シロップや梅酒が飲めるのもこの頃からなので、夏は楽しみが沢山あります! そして紅葉を見ながら少しずつ夜が静かになって、灯油ストーブの匂いがするころにはまた冬到来、じっと春が来るのを待ちます」
移住したい! と思ったらまずやるべきこと
紹介したとおり、移住したいと思ったらまずやらなくてはならないことは、自治体やふるさと回帰支援センターなどに相談に行ってみることです。移住を希望する土地は実際どのようなところなのか、先に移住した方がどんな暮らしをしているのかをしっかり聞いて、自分に合った環境かを見極めましょう。
「自分だけで移住してしまわないこと。これがあまり浸透していないのですが、移住は各自治体や我々のようなセンターの相談員がいることで、前に移住した人とつないだり、移住希望者が興味をもてるプログラムや仕事がないか探したりしながら、気持ちよくその土地に入っていけるようお手伝いをしています。
実際すべての移住が歓迎されているわけではありませんし、よそ者扱いされてしまうケースもありますから、自治体に間に入ってもらい、その土地との関係をつないでもらうことこそが、移住をスムーズにするコツといえるでしょう。また、好奇心を持ち人との関わりを楽しむことも大切です。家にこもってばかりいると、いつまでたっても馴染めませんし、近隣との関わり合いもできず、都会で暮らしているのと結局同じ……ということになりかねません。何にでも挑戦してみる好奇心が持った方が、移住先でも楽しく暮らせますよ」
生き方や暮らし方を考えざるを得ない日々が続く中、取捨選択を上手にしていくことこそ、これからの時代に必要になっていくでしょう。移住という選択は、新しい自分と楽しみを見つける第一歩になるかもしれません。
Profile
認定NPO法人ふるさと回帰支援センター
所在地=東京都千代田区有楽町2-10-1東京交通会館8F
営業時間=10:00~18:00
定休日=月曜・祝日
問い合わせ先=info@furusatokaiki.net
https://www.furusatokaiki.net/
取材・文=吉川愛歩 構成=Neem Tree