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“仕事中心”から“暮らし中心”の生き方へ「移住」を考えたときに
知っておくべきこと

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コロナ禍にともなってリモートワークの整備が進み、オフィスを手放す企業も増えてきました。そういった流れを受けていま、人の多い都市部を避けて地方で暮らす「地方移住」があらためて注目されています。高齢化や少子化などで人口減が問題となっている地方を活性化させたい政府が、地方移住した住宅購入者に対して、最大100万円分の家電などと交換できるポイントを付与することを閣議決定したのも、記憶に新しいでしょう。

今回は、認定NPO法人ふるさと回帰支援センターに伺って、実際に地方移住した“先輩”たちの声を聞きながら、いま注目を集めている移住先や、移住に際しての注意点などをまとめました。

 

コロナ禍で変わった暮らしのスタイル

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2014年に内閣官房に「まち・ひと・しごと創生本部」事務局が発足して以来、国を挙げて、地方の人口減少問題と地域活性化という課題解決に取り組んでいます。2002年に設立された認定NPO法人ふるさと回帰支援センターでも、上記の理由から、2014年を境に相談件数が大きく増えているといいます。

「2020年は緊急事態宣言を受けて事務所を臨時休館していた期間もありましたが、それでも地方暮らしを真剣に考える方は多く、例年よりも増えました。ひとつには、リモートワークの環境整備が進み、“住まいを地方に変えても仕事が成り立つようになった”という方が多くなったことでしょう。また、この国では4割の方が派遣で働いていたにもかかわらず、コロナ禍で“派遣切り”に遭うなど働き方や暮らし方を考え直さざるを得なかったこともあると思います。

もうひとつは、コロナ禍での心境の変化とでもいいましょうか。これまで、“仕事のある場所に暮らす”という選択が現実的でしたよね。でも、おうち時間が増えたり、生き方を見つめ直すタイミングが生まれたりしたことで、“仕事ではなく暮らし方から住む場所を決める”と考えを変える方が出てきたのです。

これは私見ですが、新型ウイルスが落ち着いても、こうした新しい価値観はおそらく変わらないのだと思います。そんな中でこれからの長い人生をどこでどう過ごすか、暮らし方にウエイトを置いていく時代にきているのではないでしょうか」(認定NPO法人ふるさと回帰支援センター・理事長 高橋公さん)

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注目の移住先第1位は長野県

まず、移住の現状を整理してみましょう。2009年からの10年間で、認定NPO法人ふるさと回帰支援センターで移住相談をした人のアンケートによると、常に移住希望地として上位にランクインしているのは、長野県でした。東京から近く、旅行やハイキングなどで出かけたことがある人も多いことから、“土地のイメージがつきやすい”のも、長野が人気の理由のひとつだそうです。

「まったく土地感のない場所への移住は、なかなか考えにくいですよね。そういえば昔旅行で行ったことがある、という土地や、名産が思いつくようなところ、友だちが住んでいる、友だちの実家があるなど、自分と関わりのある土地の方がより移住先として検討しやすいものです。同じような理由で上位に挙がってくるのが、山梨や静岡です」(認定NPO法人ふるさと回帰支援センター・理事長 高橋公さん、以下同)

 

1. 移住者コミュニティーが確立している長野県

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「長野県は先に移住した方々のコミュニティーがあり、移住者が地域に馴染みやすくなる支えになっています。移住したあとの暮らし方や仕事について情報共有ができ、同じような家庭環境の方を見つけやすいんですよね。自分たちがここに住んだら、というイメージもつきやすいので、移住者が移住者を呼ぶ良い循環が生まれている自治体もあります。

長野県は広いので、松本や長野市、軽井沢などの都心部から、小谷村や白馬など、静かで自然が満喫できる土地などさまざまです。釣りやトレッキング、スキーなどのアクティビティも多いですよね。また、最近では教育移住という言葉をよく耳にしますが、子どもの主体性を重んじるオルタナティブ教育や、自由を尊重する学校ができるなどで、子育て世代からの注目も集めています」

 

2. 都会暮らしに慣れた人には住みやすい静岡県

「静岡県は、市が移住者を受け入れるための相談窓口を開いていることもあって、移住までの手続きがスムーズです。東京から近いのでちょっとした引越し感覚で移住できますし、新幹線通勤する方もいらっしゃいます。

『東海道五十三次』の宿場町として栄えてきたところですから、いわば“よそ者”になる移住者にもやさしく、受け入れがとても上手な県だと思います。自然いっぱいだけど田舎すぎず、都会暮らしに慣れている方にとっても住みやすい場所になりますよ。一昨年から、東京圏から静岡県に移住して就業・起業した方に最大100万円を支給する支援金制度も設けられています」

 

3. 海と山に囲まれアウトドアが楽しめる広島県

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「西日本でここ数年、急に人気が上がってきたのは広島県。こちらは県や市が積極的に移住者向けセミナーを開催したり、相談窓口を開いたりしているんです。その土地の魅力がしっかり伝わってくるので、希望する方が増えていくんですね。

広島は都会ですが、海も山もありマリンスポーツが好きな方にはもってこいの場所でしょう。もちろん魚介類がおいしい土地でもあります。また、街がコンパクトなのでどこに行くのも近く、アウトドアも日帰りで楽しめます。専業農家支援もしているので、農業を始めたい方には助成金や研修、空き家の斡旋(あっせん)などもしてくれます」

 

4. 第一次産業に携わりたい方に向いている北海道

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「移住先の注目株となっているのは北海道です。大自然や美食などについては言うことなしの土地ですが、雪深いことや、場所によっては車移動が多くなるなど、本当に暮らしていけるのか気にされる方もいるでしょう。オフィスワークから第一次産業に転身する方も多いですし、そうなると単に住む場所を移動するだけでなく、生き方、暮らし方もすべて変わっていきますよね。

北海道では、各自治体が空き家を活用して体験住宅をたくさん用意しています。実際に暮らしてみてどうか、仕事を経験してみてどうか、をしっかり実体験してから移住することができるんですよ」

 

移住を成功させるために知っておきたい2つのコツ

移住を考えている土地のパンフレットを見ていると、自然がいっぱいでのんびりしていて自由に生きられる……と、移住についての夢がつい膨らんでしまいますが、実は失敗しないためのコツがあるのだそう。

「移住してみたはいいけどうまくいかなかった……となってしまったら、それからの方向修正がとても大変です。希望の土地で気持ちよく暮らすためには、やはり抜かりなく情報収集し、準備することが大切です」

 

1. 家族で価値観をすり合わせる

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「家族で必ず価値観のすり合わせをしておくこと。なんとなく行ってみよう、住んでみたらわかるよね、という曖昧な気持ちで移住してしまうと、違ったときに大きなストレスを抱えることになります。家族間で同じイメージを持てるよう、相談窓口への来訪やセミナーなどにもご家族で参加するのがいいでしょう。暮らしをより良くしたくて移住するのですから、これからどんなふうに生きていきたいのか、その土地でどう暮らしたいのか、しっかり話し合っておくことも重要です」

 

2. 賃貸住宅などを利用しショートステイする

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「まずはその土地に行ってみることです。はじめは一泊旅行でも構いませんが、長期休暇などを利用して2週間くらいその土地で生活してみることも大切でしょう。それこそスーパーにはどんな食材が売っているのか、駅前はどんな雰囲気なのかなど、自分で体感しておくことで、自分が住む土地にふさわしいか、あらためて考えることができます。移住体験ができるツアーもありますから、お問い合わせください。それに伴って仕事はどうするか、住居はどうするかを詰めていきます。

はじめから土地や持ち家を購入するのではなく、まずは空き家バンクなどを利用して体験移住し、賃貸住宅へ移っていくのが得策です。たとえば同じ県内でも、もう少し駅に近い方が便利だったとか、○○市より○○市の方が住みやすそうなど、住んでみてから後々わかってくることも多いので、仮住まいを経て長く住める場所を探すのも、失敗しないコツです」

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次のページでは、実際に移住をした人たちに、それぞれの移住の理由と決め手を語っていただきました。