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地方移住したいけれど、ためらっている人へ。里山ライフ雑誌『Soil mag.』編集長に聞く、
都市の近くで叶える“背伸びしない移住”

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パンデミックに起因するテレワークの普及によって、いま若者や子育て世代における地方移住の動きが加速しているといわれます。なかでも@Livingが注目しているのは、都心部から電車で1〜2時間圏内で実現する、“背伸びしない移住”という選択肢。都市の利便性も田舎暮らしの良さも手放さず、その両方を自分に合った形で享受する。そんな昨今の移住トレンドについて、移住と里山ライフをテーマに2021年10月に創刊した雑誌『Soil mag.』編集長の曽田夕紀子さんにうかがいました。

 

テレワークの普及を機に、地方移住へのハードルが下がった

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ここ10年くらいの間によく目にするようになった「地方移住」というキーワード。テレワークの普及をきっかけに、地方へ移住を決める若い世代がさらに増えているといわれています。

「もちろんコロナ禍も理由のひとつだと思いますが、大きなきっかけは2011年の東日本大震災だったと思います。既存の社会システムが、実は絶対的なものではなかったことに気づかされたあのとき、多くの人々が人生における大切なものは何かを見直したと思うんですよね。その結果、いざというときに自分の力で生きていけること、たとえば地方の里山で土を耕し、自力で作物を作れるような生活に価値を見出す人が増えてきた。それが移住者の増加を促した根本的な理由だと思っています」

そう語るのは、移住と里山ライフのカルチャーマガジン『Soil mag.』編集長の曽田夕紀子さん。

「もっと以前の地方移住というと、リタイア後の高齢者や、本格派のナチュラリストなど、限られた人だけの選択肢というイメージが強かったと思います。それが今は、人生をより豊かにする当たり前の選択として移住があるという感覚です。中高年や子育て世代はもちろん、単身の若者でも地方移住しやすい環境が整ってきたと思います。

各地方自治体が実施している支援制度も年々手厚くなっていますし、テレワークの普及もそれを後押しした形。特に国が支給している地方創生推進交付金は、2021年度から移住先でのテレワークも支援の対象になりました。

これはどういうことかというと、移住先で起業や就職をせずとも、今の仕事を続けたままで移住支援金が支給されるようになったんです。週に何回かは東京のオフィスへ出社しなければいけないとか、都市から離れすぎないところで移住したい人にとってみれば、引っ越しするだけで最大100万円の支給を受けられるようなもの。これは大きいと思いますね」(『Soil mag.』編集長・曽田夕紀子さん、以下同)

 

浅草から奥多摩へ移住。都心まで2時間の田舎暮らし

曽田さんのご自宅はすぐ下に清流が流れる。
曽田さんのご自宅はすぐ下に清流が流れる。

実は曽田さん自身も、2015年に東京・浅草から同じく東京の奥多摩町に夫婦で移住しています。釣りやキャンプでも人気の緑豊かな奥多摩町は、都心から電車で約2時間とアクセスも良好。

「以前は浅草の自宅兼事務所を拠点に、夫とふたりで雑誌や本を作る仕事をしていました。当初、田舎暮らしに興味があったのは私だけで、夫は反対だったんですね。たしかに編集者は人と会う機会が多いから、いきなり遠い田舎に移住するのは現実的ではない。でも奥多摩だったら今の仕事を続けながら移住できるんじゃないかと考えました。それから夫婦でちょくちょく遊びに通うようになり、夫もだんだんその気になってきた……(笑)、といういきさつです」

普段は自然豊かな奥多摩町に拠点を置き、2時間で都心に出ることも可能。まさにいいとこ取りの移住生活

「当初は都心部のマンションに事務所を借りていましたが、いざ引っ越してみたら全然使わない(笑)。むしろその後のパンデミックで都心に出かける用事も減り、2年前に解約しました。ただ、私の場合は都会が嫌いなわけではないんです。行きたいときに気軽に都心へ出て都会の文化に触れられるというのも、精神的な安心感につながっているかもしれません」

自宅には憧れの薪ストーブも。
自宅には憧れの薪ストーブも。

 

いま地方移住を目指す人々が本当に求めている情報とは?

『Soil mag.』(ワン・パブリッシング刊)2021年10月創刊。1号目の特集は『“耕す暮らし”の創りかた。』。農的暮らしを実践する移住者へのインタビューから、自給菜園や新規就農のノウハウ、各地の地方自治体が実施している移住支援策など、すぐに使える具体的な情報がしっかりと網羅されている。
『Soil mag.』(ワン・パブリッシング刊)2021年10月創刊。1号目の特集は『“耕す暮らし”の創りかた。』。農的暮らしを実践する移住者へのインタビューから、自給菜園や新規就農のノウハウ、各地の地方自治体が実施している移住支援策など、すぐに使える具体的な情報がしっかりと網羅されている。

曽田さんはその後子どもも授かり、現在は築150年の古民家に暮らしています。そんな移住生活を送る中で生まれたのが、自身が編纂する雑誌『Soil mag.』でした。日本唯一のDIY専門誌『ドゥーパ!』から2021年10月に創刊されたこの新雑誌には、地方移住によって自分たちなりの豊かな暮らしを実現する人々のエピソードや、その具体的なノウハウがたっぷりと紹介されています。

「これは地方移住あるあるだと思うのですが、田舎で暮らしを営んでいると、野菜を自家栽培してみるとか、家の修繕をDIYするとか、自分たちの手で暮らしを作っていくことへどんどん興味が深まっていくんです。そんな中で、私も自然とそういうことをテーマに媒体を作ってみたいと考えるようになりました」

誌名に使った“Soil”という言葉には、ふたつの思いが込められているそう。

「ひとつは土。いま地方移住を考える人々が本質的に求めているものは何かを考えたとき、自分の手で作物を作るとか、やっぱり土のある暮らしなのではないかと思いました。もうひとつは、サステナブル、オーガニック、イノベーティブ、ローカルという4つの言葉で、この頭文字を合わせると“soil”になります。移住者の事例を紹介する媒体ってこれまでにもあったけれど、実際にその暮らしを実現するための具体的なノウハウまで落とし込めている媒体ってあまりなかったと思うんです。若い世代の移住者が増えている今こそ、その道標になるような情報とワクワクを一冊でしっかり見せられる雑誌にしたいと考えました」

自分たちで食べる分だけ栽培する自給菜園の作り方や、農業と他の仕事を両立する働き方の事例など、土のある暮らしを実践するさまざまなノウハウは、読んでいるだけでも面白く多くの気づきを与えてくれる。(『Soil mag.』より)
自分たちで食べる分だけ栽培する自給菜園の作り方や、農業と他の仕事を両立する働き方の事例など、土のある暮らしを実践するさまざまなノウハウは、読んでいるだけでも面白く多くの気づきを与えてくれる。(『Soil mag.』より)

 

住居から仕事まで何でもサポート。国や地方自治体の支援制度が充実

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移住者が増えている背景には、国や各地方自治体が実施している支援制度の充実もあります。

「たとえば私が暮らす奥多摩町では、住宅を購入する際に最大220万円まで補助してもらえます。内容は自治体によってさまざまですが、移住者へのサポートは年々手厚くなっているのが現状ですね」

生き方の選択肢が増えている昨今、支援を受けられる年齢層や条件も幅広くなっているそう。子育てと仕事を両立したいシングルマザーや、20代の単身者、新規就農を目指す中高年夫婦、地方で起業したいフリーランスまで、誰にとっても地方移住への道は開かれていると曽田さんはいいます。

「最近は、移住者が地域コミュニティにスムーズに入っていけるようなサポートも充実しています。自治体によっては移住相談の窓口に移住コンシェルジュという専門家を入れて、就職から住居探しまで親身にサポートしてくれるというケースもある。たとえば物件探しって移住における大きなハードルのひとつですよね。でもそういったシステムを活用すれば、賃貸情報サイトでは見つけられないような、地域に根ざした情報にもアクセスしやすくなったりするんです」

妊活や子育て、新規就農、住宅、起業と、地方自治体が設けているさまざまな移住支援制度を紹介しているページ。地方の特色に合わせた、個性豊かなサポートが充実している。(『Soil mag.』より)
妊活や子育て、新規就農、住宅、起業と、地方自治体が設けているさまざまな移住支援制度を紹介しているページ。地方の特色に合わせた、個性豊かなサポートが充実している。(『Soil mag.』より)

 

移住したい。自然に触れながら暮らしてみたい。そんな気持ちを後押ししてくれる制度も気運も高まっている今、“移住”は片道切符ではなくなっているのです。では、今こそ試してみたい移住って? 次のページで、曽田さんに解説していただきます。